韓国で高まる健康志向、酒類では糖質の低いウイスキーに注目

2024年3月15日

近年、韓国では、コロナ禍での運動不足などにより、高齢者だけでなく若年層を含む幅広い世代において、運動や食事に気を遣う「健康志向」の意識が高まっている。食品分野では、従来と比べて健康を重視した商品が次々と登場し、消費者の関心を集めている。2023年11月下旬に、ソウル市のCOEXコンベンションセンターで開催された韓国最大級の食品展示会「フードウィーク2023」でも、世界中から数多くのバイヤーや消費者が訪れる中、健康志向型の食品が多数紹介された。本稿では、同展示会で見られた韓国の食トレンドを紹介するとともに、糖質の低さなどから健康志向が高まる中で注目されている「ウイスキー(ハイボール)」の輸出可能性を深掘りする。

注目高まる健康志向型の食品

2023年11月22~25日にかけて、ソウル特別市江南区のCOEXコンベンションセンターで、18回目となる「フードウィーク2023」が開催された。同展示会は、毎年5~6月に開催される食品総合展示会「ソウルフード」と並び、韓国の2大食品展示会に位置付けられており、今回は20カ国、約800社・団体が参加し、1,300を超えるブースが並んだ。主催者の発表によると、4日間を通して来場したバイヤーおよび一般消費者は約5万人で、バイヤーを含む来場者の約9割は韓国人だった。ほかにも、中国やインドを中心としたアジア諸国をはじめ、世界各国から来場者が殺到した。

フードウィークに出展した多くは現地事業者で、「トッポギ」や「キムチ」など、日本でも聞きなじみのある韓国を代表する食品が並ぶ中、従来の商品に比べてよりヘルシーな商品が来場者の注目を集めていた。例えば、餅を使わずコンニャクを使用した「こんにゃくトッポギ」や、小麦粉の代わりに米粉を使った「米粉チヂミ」、豆類や野菜のみで作られた「代替肉」などが消費者の関心を引き、長蛇の列ができた。現地では、こうした商品が脚光を浴びている理由として、「コロナ禍を通じて運動不足に陥る人が多かったことで、老若男女問わず健康に気を遣う人が以前より増えているから」「特に若い世代を中心に健康やフィットネスに関心を持つ人が増加し、食べるものも変化しているから」と考えられているようだ。


コンニャクを材料とした「こんにゃくトッポギ」
(ジェトロ撮影)

代替肉を紹介する企業ブース(ジェトロ撮影)

酒類ではウイスキー(ハイボール)がブーム

ジェトロは、「日本産食品サンプルショールーム事業」(注1)の一環として本展示会場内に専用ブースを設け、日本の事業者48社から事前に収集した全120商品のサンプルを展示し、卸売業者や小売店などの食品バイヤーを中心に試飲試食やサンプリングを通じて日本産食品を紹介した(2023年12月1日付ビジネス短信「フードウィーク2023」が開催、ジェトロブースに48社120品目を展示(韓国)参照)。その中でも、健康意識の高い商品に関心を寄せるバイヤーが多く見られた。加工食品類では、添加物不使用の菓子や低カロリーのこんにゃく麺が注目を集めたほか、酒類では、元々需要の高い日本酒だけでなく、糖質の低いウイスキーやハイボールに興味を持つバイヤーが多かった印象だ。現地のバイヤーによると、コロナ禍での運動不足や「一人飲み文化」の流行がアルコールの消費方法を多様化させ、韓国で長く親しまれているビールやソジュ(焼酎)から、ウイスキーやジンなどに趣向を変えて酒をたしなむ人が増加しているという。また、今後も続く見込みの韓国の「居酒屋ブーム」は、日本酒やウイスキーをはじめ、日本産酒類の需要拡大にとって追い風となりそうだ。

特にウイスキーは、(1)ビールと比較するとカロリーや糖質が抑えられる、(2)ハイボールにすると、日本酒や焼酎に比べアルコール度数が控えめで酒が苦手な人でも飲みやすい、(3)カクテルなどにして様々な飲み方を楽しめる、といった点から、MZ世代(1980年代初期~2000年代初期に生まれた世代)を中心に人気が拡大し、高価で手が届きにくいイメージから大衆的な酒へと変化しているという。実際に、韓国におけるウイスキーの輸入規模を見ると、コロナによる物流まひの影響もあり、2021年までは輸入量が減少傾向にあったが、2022年以降は急増していることがわかる(図1参照)。加えて、2022年には初めて完全韓国産のウイスキーが市場に登場したことや、希少性の高いウイスキーを「投資」の対象とする人が増えていることからも、今後、韓国でのウイスキーへの注目はさらに高まる見通しだ。

図1:韓国におけるウイスキーの輸入量と輸入額
韓国におけるウイスキーの輸入量と輸入額は、2014年19031トン・198283ドル、2015年20535トン・188153ドル、2016年21029トン・166123ドル、2017年20290トン・152575ドル、2018年19966トン・154987ドル、2019年19836トン・153933ドル、2020年15923トン・134263ドル、2021年15662トン・175344ドル、2022年27038トン・266842ドル、2023年30586トン・259571ドル。

出所:韓国貿易協会「貿易統計」を基にジェトロ作成

とりわけ、日本産ウイスキーは品質が高いとして韓国で人気があり、実際にバイヤーからも日本産ウイスキーを高く評価している声が多く聞かれた。日本から韓国へのウイスキーの輸出規模を見ると、2014年は輸出量が36キロリットル、輸出額は4,000万円だったが、2023年には1,296キロリットル、14億1,000万円と、ともに10年で30倍以上に増加している(図2参照)。特に2022年、2023年にかけての増加率は著しい。これはコロナ禍の制限が解除されたことで、ソウルをはじめとした都市部で日本食レストランの数が増加していることも後押ししていると考えられる。農林水産省の集計によると、韓国における2023年時点の日本食レストラン数は1万8,210店と、中国(7万8,760店)、米国(2万6,040店)に次いで世界で3番目に多い。「居酒屋ブーム」の継続や日本食人気の高まりによってウイスキーが身近な酒として定着すれば、日本産ウイスキーにとっても輸出拡大の大きなチャンスとなりそうだ。

図2:日本から韓国へのウイスキーの輸出量と輸出額
日本から韓国へのウイスキーの輸出量と輸出額は、2014年36キロリットル・0.4億円、2015年40キロリットル・0.6億円、2016年55キロリットル・0.4億円、2017年92キロリットル・0.8億円、2018年193キロリットル・1.3億円、2019年214キロリットル・2億円、2020年347キロリットル・2.8億円、2021年432キロリットル・3.5億円、2022年779キロリットル・6億円、2023年1296キロリットル・14.1億円。

出所:財務省「貿易統計」を基にジェトロ作成

韓国への輸出時における留意点(酒類)

前述したように、ウイスキーをはじめとした酒類のさらなる輸出拡大に期待ができる一方で、実際に輸出を行うにあたってはハードルとなる課題点も多い。ここでは、特に複雑な規制と税制に触れながら、韓国に酒類を輸出するにあたっての留意点を整理する。

(1)規制やルールを理解し、インポーターを見極めることがカギ

韓国への輸出を行う際、輸出を行う以前にいくつかの前提条件をクリアしておく必要がある。第1に、酒類を輸出するためには、日本で輸出酒類卸売業免許を取得しなければならないことが挙げられる。次に、韓国における食品の輸入者などは、韓国国外の事業所の情報を韓国食品医薬品安全処長に提出する必要があるため、取引先との事前の情報共有が欠かせない。また、通関にあたっては、放射性物質規制があることから、日付証明書、産地証明書、放射性物質検査証明書のいずれかの用意が必須となる。

 

前述のように、輸出に取り組む前にクリアしなければならない課題に加え、韓国国内においても、酒類の取り扱いに関して様々な規制がある。例えば、韓国国内でインポーターもしくはディストリビューターが酒類を運送する際には、酒類運搬許可を受けた車両での配送が義務付けられている。また、酒類の卸売りに関する決済は、酒類専用のカードで行うことがルールとなっていることが現状だ。さらに、アプリケーションなどを通じてオーダー(スマートオーダー)を受けた商品を直接購入者に引き渡す場合を除いて、オンライン上で一部伝統酒を除いた酒類を販売することができないため、販売方法にも注意が必要となる。このように、韓国国内においても多岐にわたる規制があることから、取引相手が規制を十分に理解し、円滑にビジネスを進められるかを見極めることが、韓国に酒類を輸出する上で大切な要素となる。

(2)複数の税がかかるため、価格設定は慎重に

酒類を韓国に輸出する際は、韓国側の輸入関税のほか、酒税、教育税(注2)、付加価値税が課税されるため、価格設定に注意を払う必要がある。例えば、ウイスキー(HSコード:2208.30)を輸出する場合、課税率は次の通りとなる(表参照)。

表:韓国へウイスキーを輸出する際の課税率と参考課税額(CIF価格が1,000円の場合)
名称 課税率 課税額
(CIF価格が1,000円の場合)
輸入関税 CIF価格の20% 200円
酒税 (CIF価格+関税額)の72% 864円
教育税 酒税額の30% 259円
付加価値税 (CIF価格+関税額+酒税額+教育税額)の10% 232円
合計 1,555円

出所:ジェトロ、国税庁「日本酒輸出ハンドブック―韓国編―」を基に作成

前述に加え、仲介業者へのマージン料や為替差を考慮すると、現地での販売価格は日本の販売価格の3倍以上となるケースが少なくない。このように、多くの諸税がかかる半面、韓国のバイヤーは商品を仕入れる際に価格を重要視するため、価格を最低限に抑えることがビジネス成立の上で欠かせない。実際に、商品のクオリティが高くても価格がネックとなり取引が成立しなかった事例が散見されたため、市場調査をしっかりと行った上で、現地での販売価格を想定して価格を慎重に設定することが重要となる。

ウイスキー(ハイボール)の輸出拡大に期待

前述したような規制をしっかりと理解した上で、課題を1つずつクリアすることが、韓国へのウイスキー輸出を成功させるにあたってのカギとなりそうだ。2019年に日本製品不買運動が起こったことから輸出を懸念する声もあるが、近年、日韓関係が改善に向かっていることを機に日本産食品へ関心を持つバイヤーも多く、コロナ禍が明けてからは日本食を目当てに日本を訪れる観光客も後を絶たない。また、日本からの食品輸出先としては長い間上位に名を連ね、2023年の日本からの農林水産物・食品の輸出額は国・地域別で中国、香港、米国、台湾に次いで5位と、日本の食品輸出にとっては引き続き重要な市場の1つになっている。食のトレンドとして注目の的であるウイスキーや健康志向型の商品を含め、日本産食品のさらなる輸出拡大に期待したい。


注1:
世界複数地域に日本産食品サンプルショールームを設置し、現地バイヤーを誘致して商品紹介や試飲・試食の提供を随時行うとともに、現地バイヤーとのオンライン会議システムを活用したオンライン商談を実施することで、日本産農水産物・食品の取り扱い事業者の新規参入・販路拡大を目指す事業。
注2:
韓国では教育税法第1条で、「教育の質的向上を図るために必要な教育財政の拡充にかかる財源を確保することを目的として」教育税が設けられている。他方、教育税法第3条4で、教育税の納付義務を負う者として「酒税法に基づく酒税納税義務者」が挙げられている。
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部戦略企画課
橋本 泰成(はしもと たいせい)
2022年、ジェトロ入構。同年から現職。