新年度予算案でGIFTシティーに新たな優遇策(インド)
州政府のIT新政策も追い風

2022年3月22日

インド政府は2月1日、2022年度(2022年4月~2023年3月)の国家予算案を発表した(2022年2月9日付ビジネス短信参照)。ニルマラ・シタラマン財務相は同日の演説で、25年後に独立100周年を迎えるインドが目指す方向性を見据え、予算案では、(1)国家インフラ開発計画、(2)インクルーシブ開発(Inclusive Development)、(3)投資促進・気候変動対策など、(4)投資のための資金調達の4本柱を軸にしたと述べた。この予算案の中には、インド初の「国際金融サービスセンター」(International Finance Service Center :IFSC)が設置されているインド西部グジャラート(GJ)州のスマートシティープロジェクト「グジャラート国際金融テックシティー」(Gujarat International Finance Tec-City、通称:GIFTシティー)に関する新たな支援策が幾つか盛り込まれている。


GIFTシティー全景(ジェトロ撮影)

「GIFTシティー」振興のための新たな政策

2021年度予算案でも、特にGIFTシティーに対する振興策として「IFSCに拠点を設ける場合の優遇税制」や「IFSCにおける航空機リース事業への優遇措置」などを盛り込んでいた(2021年4月1日付地域・分析レポート参照)。次年度も「IFSCにおける船舶リース事業への優遇措置」をはじめ幾つかの優遇策を追加するなど、国内唯一のIFSCであるGIFTシティーの国際的なビジネス拠点としての発展を後押ししていく姿勢を明確に示した。

今回の新予算案に新たに導入した政策は、GIFT IFSC内での規制緩和やさまざまな税制優遇によるオフショア金融取引の活性化のみならず、仕事のしやすさの向上、金融ビジネスのイノベーションのための高度人材の育成といった中長期的な分野も視野に入れている。GIFTシティーに金融機関やIT関連企業のさらなる集積を呼び込み、世界的な金融ハブに成長することが期待される。

GIFTシティーのマネジングディレクター兼グループ最高経営責任者(CEO)のタパン・レイ氏は「所得税の免除措置は、GIFT IFSCでの船舶リースや融資、オフショア資金運用、オフショア銀行業務など、さまざまな事業活動を促進するだろう」と述べた。また「国家予算の発表は、GIFT IFSCの活性化に向けたインド財務省のコミットメントを再確認するものであり、これは国の経済成長に大きな乗数効果をもたらすだろう」とも発言している(「レディフ・ドットコム」紙、2月1日付)。

新予算案に盛られたGIFT IFSC向けの新たな政策の骨子は以下のとおり。

1. GIFTシティーにおける世界レベルの大学・教育機関の設置

金融関連サービスやテクノロジーに関する高度人材の育成・確保を目的として、GIFTシティーに世界トップクラスの外国の大学や教育機関の設置を認め、金融マネジメント、フィンテック、科学、技術、エンジニアリング、数学のコースが設置される。これらの教育機関には、IFSCによる規制のみが適用され、インド国内制度に基づく諸規制は受けない。

2. 国際仲裁センターの設置

国境を越えた紛争を迅速かつ円滑に解決するため、GIFTシティー内に国際仲裁センター(IAC)を設置する。シンガポールやロンドンにあるような国際仲裁センターが機能することで、外国人投資家がインドでの訴訟メカニズムに抱いている懸念や紛争解決にかかるタイムラインに関する不確実性を払拭(ふっしょく)することにつながると期待される。

3. 「グリーンファイナンス」の推進

GIFTシティーでは、気候変動に対する世界的な意識の高まりを受けて、国内のサステナブルファイナンスや、気候変動金融のためのグローバル資本サービスの提供がより容易になる。政府はGIFT IFSCの業務分野にこれら分野の金融商品を含めることで、GIFT IFSCの資本調達の幅を拡大し、「グリーンファイナンス」をさらに推し進める。

4. IFSCのための税制優遇措置

シタラマン財務相はIFSCを促進するために幾つかの税制免除を提案している。その内容は以下のとおり。

  1. IFSC内のオフショア金融機関(OBU)を介したオフショアデリバティブ商品、または店頭デリバティブの売却益について、非居住者に免税措置を適用する〔2021年度予算案では、ノンデリバラブル・フォワード(NDF)契約からの利益についても同様の免税措置を導入している〕。
  2. 非居住者がIFSCに所在するユニットに船舶をリースすることによって得られるロイヤリティーと利子による所得について、一定の条件を満たすことで免税措置を適用する。適用を受けるには、2024年3月31日までに操業を開始する必要がある。これらIFSC内のユニットにリースされた船舶を譲渡する際に生じる所得については、非課税措置(タックス・ホリデー)を適用する。
  3. IFSC内のOBUの口座で、特定のポートフォリオマネジャーが運用する資産運用管理サービス(証券・金融商品・ファンドを含む)から得られる所得に関して、インド国外から発生する所得に免税措置を適用する。
  4. IFSC 内の Category I と Category II の オルタナティブ投資ファンド〔AIF(注1)〕は、ベンチャーキャピタル事業から公正な市場価値を超える株式が発行された場合、贈与税の免税措置を受けることができる。

GIFTシティーの地下に張り巡らされたユーテリティーライン(ジェトロ撮影)

GJ州政府は新たなIT関連政策を発表

GIFTシティーは、そのユニークな機能として世界クラスの「フィンテックハブ」を育成する方針を発表している。フィンテック分野のハッカソン(注2)の開催やスタートアップ企業の育成プログラムなどを通じ、金融関連のスタートアップインキュベーターやイノベーション企業のより一層の集積を進めたい考えだ(2021年11月9日付ビジネス短信参照)。

一方、グジャラート州政府は2月8日、新たな「IT/ITeS(注3)政策(2022-27)」を発表した。ブペンドラ・パテル州首相は記者会見で「この政策の目的は、ハイテク産業のためのIT人材プールを作ることと、完全なエコシステムの構築に向けた近代的なITインフラを提供することだ」と述べた(「インディアン・エクスプレス」紙、2月8日付)。

新政策は、2027年3月31日までに、グジャラート州がIT/ITeS産業でインドのトップ5の州に入ることを目指し、世界クラスの IT インフラ、データセンター、先端技術のイノベーションセンターを拡充させ、同分野でインドのリーダー州となるとしている。また、同州からの IT/ITeS 分野の輸出額を2018年の 300 億ルピー(約450億円、1ルピー=約1.5円)から 2,500 億ルピーに増加させ、州内に新たに10万人のIT関連の雇用を創出するとしている。

今回発表した新政策は、ITインフラや人材育成の強化につながるため、「フィンテックハブ」を志向するGIFTシティーにとっても追い風となり、新たな投資の加速につながるとの声が上がっている。マネジングディレクター兼グループCEOのレイ氏は「新政策により、テクノロジー関連企業のプレゼンスはさらに加速するだろう。GIFTシティーは、州内の有力なIT/ITeS企業の拠点になりつつあり、フィンテックやスタートアップの活動も活発化し、質の高い雇用機会を生み出し、地域全体の繁栄につながるだろう」と述べている(「タイムズ・オブ・インディア」紙2月9日付)。

新政策のビジョン、目的、主な促進策などは以下のとおり。

1.新政策のビジョン

世界トップクラスのITインフラ、高度人材の確保、最新技術のイノベーションという面から、グジャラート州がインド有数のIT先進州となり、IT産業の展望を開く。

2.新政策の主な目的

  1. IT/ITeSエコシステムの成長の先駆けとなること
  2. 最先端のITインフラの構築
  3. 州内の高度IT人材の創出
  4. IT/ITeS分野の大規模プロジェクトへの大型投資を促進
  5. 先端技術のイノベーション拠点として、グジャラート州の地位の確立

3.新たな推進策の骨子

  1. 最先端ITインフラの整備
  2. 「徒歩通勤のカルチャー」を促進するためのIT都市・町づくり開発
  3. 先端技術の研究開発の推進
  4. AI(人工知能)SchoolまたはCenter of Excellence(先進的研究センター)の設置
  5. スキルアップコースを対象とした財政的支援により、州全体の人材のレベルアップ
  6. 州の草の根レベルからデジタルリテラシーの向上
  7. 設備投資経費(Capital Expenditure)や活動経費(Operational Expenditure)の支援
  8. インセンティブスキームの拡充
  9. 地域雇用を促進する雇用創出特別奨励金の創設
  10. 先進的なデータセンターとケーブル陸揚げ局(CLS)の設立支援によるクラウドの運用
  11. オンライン・インセンティブ・ポータルによる効率的かつ透明性の高い政策の実行

インド政府とグジャラート州政府はこれまでも、GIFTシティーに関する産業政策や企業誘致のために、さまざまな優遇措置を打ち出してきた。ボンベイ証券取引所(BSE)やインド国立証券取引所(NSE)が国際証券取引所を設立し、国内銀行12行と国際銀行5行が営業許可を既に取得している。また、100以上のブローカーサービス、預託決済業務、19社以上の損害再保険業務が開始されている。さらに、2021年度に振興策が発表された航空機リース分野では、航空機リース会社6社がGIFTシティーでの営業許可を取得し、さらに7社が許可申請中だ。

都市インフラ整備を進める一方で、インド初のIFSCを備えたスマートシティーとしての独自機能の強化、ビジネス環境の整備も着々と進んでいる。モディ首相肝いりのユニークなプロジェクトとして、今後もその発展の道筋から見えるビジネスチャンスに注視していく必要がある。


注1:
AIF(Alternative Investment Fund)とは、インドで設立または法人化されたファンドで、国内外を問わずに信用のある投資家から資金を集め、その投資家の利益のために定めた投資方針に従って投資する私募の金融商品。
注2:
ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を合わせた造語。エンジニアなどが集まってチームを作り、期間内で開発を行いその成果を競い合うイベント。
注3:
ITeS(IT enabled Services)とは 、IT製品の活用を通じて付加価値を生み出すあらゆるサービス形態
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。