米政府、インフレ削減法下のEV税額控除、FEOCから黒鉛を除外し最終規則を発表

(米国)

ニューヨーク発

2024年05月15日

米国の財務省と内国歳入庁(IRS)は5月6日、インフレ削減法(IRA)で定めている、消費者がクリーンビークル(注1)の新車および中古車を購入する際に受けられる税額控除(それぞれ内国歳入法セクション30D、25E)に関する最終規則を官報に掲載した外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。2024年7月5日から有効となる。

2022年8月のIRA成立後、両省庁は30Dと25Eの運用の指針として、2023年3月にバッテリーの調達価格要件を含む規則案を発表(2024年4月3日記事参照)。同年10月に販売店に対する控除資格の譲渡に関する規則案(2023年10月10日記事参照)、12月には特定の国が関与するバッテリー材や部品を含む車両を税額控除の対象外とする「懸念される外国の事業体(FEOC)」に関する規則案を発表した(2023年12月6日記事参照)。今回の最終規則は、これら規則案を基に、パブリックコメントなどを一部取り込んでまとめたもの。FEOCの定義に関しては、エネルギー省も2023年12月に発表したガイダンスを更新し、最終ガイダンスを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

今回の最終規則では、バッテリーの調達価格要件に関し、米国あるいは米国が有効な自由貿易協定(FTA)を締結した国で抽出、加工された、あるいは北米でリサイクルされた「適格な重要鉱物」の価格が、該当する重要鉱物に占める割合を特定するに当たり、各調達チェーンにおける付加価値を追跡するための「追跡適格値テスト」(注2)が採用された。両省庁は、同テストが(規則案で提案された)米国あるいは米国が有効なFTAを締結した国で発生した、重要鉱物の抽出あるいは加工における付加価値が、該当する重要鉱物の付加価値の50%以上を占める場合を「適格な重要鉱物」とみなす「50%付加価値テスト」よりも正確とした。一方で、追跡適格値テストによる要件の達成は、50%付加価値テストより厳しいことから、企業が調達先を移転させる期間などを考慮し、2024年5月6日から2026年12月31日までの申請分に関しては、「セーフハーバー」期間として「50%付加価値テスト」による対応を認めることとした。有効なFTA締結国として、規則案と同様、日本を含む21カ国が挙げられた(注3)。

また、FEOCに関しては、リチウムイオン電池の負極材の大半を占める黒鉛と、電解質塩、電解質バインダー、または電解質添加剤に含まれる重要鉱物が「追跡が不可能な電池材料」に特定され、FEOC要件の適用開始が2027年1月1日まで延期されることとなった。両省庁は、電池で利用される黒鉛には天然黒鉛と人工黒鉛が混在していること、また人工黒鉛を完全に上流まで追跡することが困難であることなどから、追跡が不可能だと判断した。黒鉛は、採掘と加工の双方で中国への依存度が高い。ゼネラルモーターズ(GM)やトヨタなど在米の主要自動車メーカーを代表する米国自動車イノベーション協会(AAI)のジョン・ボゼーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は「(最終)規則は、EVバッテリーの重要な鉱物の調達先に関して一時的な柔軟性を与えることで、世界のサプライチェーンの現実を認識しているようだ。自動車のサプライチェーンとバッテリーの生産を米国とその同盟国に集中させるにあたり、有益だ」と評価した。一方で、民主党のジョー・マンチン上院議員(ウエストバージニア州)は、最終規則は「常軌を逸脱しかつ違法」であり、政権は事実上「中国製」を支持している、との見方を強調した(政治専門誌ポリティコ5月3日)。

(注1)バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。

(注2)詳細は官報37734ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます および 37762ページ(viii) 「Traced qualifying value」を参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

(注3)オーストラリア、バーレーン、カナダ、チリ、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、イスラエル、日本、ヨルダン、韓国、メキシコ、 モロッコ、ニカラグア、オマーン、パナマ、ペルー、シンガポール。

(大原典子)

(米国)

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