米国土安全保障省、AIの業務活用に向けたロードマップを発表

(米国)

ニューヨーク発

2024年03月26日

米国国土安全保障省(DHS)は3月18日、人工知能(AI)の業務活用に向けたロードマップおよび3つの試験プロジェクトを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

DHSは、主に米国の国土安全保障に関わるテロ・災害対策、国境警備、出入国管理や税関、サイバー空間や重要インフラのセキュリティーなどを所管し、26万人以上の職員を有する。DHSは2023年4月に、AIの業務活用に向けたタスクフォースの設立を発表し、フェンタニル(注1)や強制労働により生産された貨物(注2)の輸入防止のためのサプライチェーン分析や貨物検査などにAIを活用する取り組みを行っている(2023年4月27日記事参照)。また、ジョー・バイデン大統領は2023年10月に、AIの開発や利用に関する大統領令を発令し、DHSに対し、重要インフラにおけるAIの利用に関してセキュリティーの改善策などを勧告する諮問委員会の設置などを指示していた(2023年11月1日記事参照)。

ロードマップでは、今後DHSがAIを業務活用する上での次の3つの指針を示した。

  1. 個人のプライバシーを侵害したり、偏見や差別などの影響を生じさせたりしないよう厳格に検証され、サービスを受ける側にとって理解しやすいものであることを確かにすること。
  2. AIは米国民に多大な効率と利益をもたらすが、同時に新たなリスクをもたらす可能性もある。米国のサイバーネットワークと重要インフラを保護するため、AIを安全で信頼できるかたちで開発・利用するよう管理すること。
  3. AIに関するDHSのビジョンの透明性と可視性を確保しつつ、AIソリューションの開発と展開を加速するため、州・地方政府、民間企業、学術・研究機関などと強固な協力関係を構築すること。

また、AIの有効性を評価するため、次の3つの試験プロジェクトを実施するとした。

  1. 国土安全捜査局(HSI)は、フェンタニルや児童の性的搾取などの犯罪捜査の効率性と正確性を向上させるため、大規模言語モデル(LLM)を活用して捜査報告書内の関連情報の検索や要約の作成を行う。
  2. 連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、州政府など地域社会の災害対策計画策定の効率性を向上させるため、生成AIを活用して十分に研究された情報源を基に計画草案の作成支援を行う。
  3. 米国市民権・移民局(USCIS)は、職員の訓練方法を改善するために、生成AIを活用して職員の業務に関連する幅広い政策や法律の最新情報に関する対話型の訓練教材を開発する。

DHSの最高情報責任者(CIO)兼最高AI責任者のエリック・ハイセン氏は、政治専門紙「ポリティコ」(2月23日)の取材に対して、「DHSの最優先課題の1つは、フェンタニルの流入対策だ」と述べ、「毎日、何千何万という人・車・トラックが国境を越えて入国している。その1つ1つを厳密に検査する時間はない」と課題を指摘した。その上で、「AIを活用して車両の通過履歴のパターンを理解し、職員がどの車両を検査すべきかを判断する手助けをする」などと具体的な活用方法を説明している。

(注1)合成オピオイドの一種で、鎮痛剤として使用されるが、米国では過剰摂取による健康被害が社会問題になっている。

(注2)例えば、2022年6月から施行されている米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)は、中国の新疆ウイグル自治区で生産された製品や、UFLPAで特定された事業体が関与する製品を、強制労働により生産された製品と推定し、国際的な人権保護の観点から米国への輸入を禁止する。2022年6月にDHSが発表した同法執行戦略では、同法を確実に執行するために、先端技術を活用してサプライチェーンの可視性を高めるなどの方針が示されていた(ジェトロ調査レポート「UFLPA執行戦略暫定仮訳」も参照)。

(葛西泰介)

(米国)

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