米下院監視・説明責任委員会、USTRのデジタル貿易交渉プロセスを調査
(米国)
ニューヨーク発
2024年03月11日
米国連邦議会下院の監視・説明責任委員会のジェームズ・コマー委員長(共和党、ケンタッキー州)は3月4日、米国通商代表部(USTR)がWTOの共同声明イニシアチブ(JSI)会合やインド太平洋経済枠組み(IPEF)の交渉で、デジタル貿易ルールに対する支持を撤回した決断について調査すると発表した(注1)。コマー委員長は、決断に至るまでの議会との協議プロセスの透明性の欠如が、米国の競争力、イノベーション、雇用、インターネットの自由といった米国の利益をリスクにさらすUSTRの決断につながっている、と述べている。また、USTRが特定のイデオロギーを持つ団体と秘密裏に連絡を取り合っていると非難した。
コマー委員長がUSTRのキャサリン・タイ代表に宛てた書簡では、2024年1月に全米商工会議所が情報自由法(FOIA)に基づき公開した調査結果から(2024年2月6日記事参照)、USTRの高官と特定の団体で働く元USTR職員との癒着関係が明らかになった、と指摘している。その上で、USTRに働きかけたとされる団体とUSTRの高官との連絡記録のほか、USTRがデジタル貿易交渉に議会を巻き込むために行った取り組みなど、10の項目について、情報の提出を求めている。提出期限は3月18日に設定している。コマー委員長は調査結果次第では、USTRが交渉における立場を決定するにあたっての透明性要件を課す法案を制定するなど、改革の必要性を示唆している。
デジタル貿易に対しては、米国内で政権、議会、産業界で意見の一致がみられていない(2024年2月15日記事参照)。また、通商交渉において、政権は議会を軽視しているとの批判も続いており(注2)、今回の調査は、その2つが表面化した格好だ。
なお、USTRの広報担当者は、今回の調査に対して「不正行為や不適切さに関するいかなる指摘も根拠がない」と反論している(通商専門誌「インサイドUSトレード」3月5日)。
(注1)監視・説明責任委員会は、政府を監視する主たる下院の委員会として、経済性と効率性を判断する観点から、政府の活動におけるあらゆる課題を、いつでも調査する権限を有する。
(注2)合衆国憲法第8条第3項は、諸外国との通商を規制する権限を連邦議会に与えている。一方でバイデン政権は、IPEFなどの通商交渉を大統領が有する行政取り決めの範囲内で締結できるとの立場を取っている。この点について、議会は民主党、共和党ともに反対の立場を取り、政権は議会を軽視していると非難している(2024年2月20日付地域・分析レポート参照)。
(赤平大寿)
(米国)
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