欧州委、水素分野のIPCEI国家補助第3弾を承認、インフラ整備を支援

(EU)

ブリュッセル発

2024年02月22日

欧州委員会は2月15日、7加盟国(注1)が共同申請した水素インフラ整備に関するプロジェクト群「Hy2Infra」を「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」として承認した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。加盟国は、対象となる33プロジェクトに参加する中小企業を含む32企業に対し、最大69億ユーロの国家補助が可能となる。プロジェクトには54億ユーロの民間投資も期待される。

水素に関するIPCEIの承認は、2022年の水素の技術開発に関する「Hy2Tech」(2022年7月19日記事参照)と、産業界での水素活用に関する「Hy2Use」の承認に続く第3弾。EUでは、加盟国間の競争環境を不当にゆがめる可能性があるとし、加盟国による企業への国家補助を原則禁止。一定の条件を満たす場合にのみ、欧州委の承認を受けた上で例外的に認めている。IPCEIは複数の加盟国にまたがり、EU目標に沿った高い公益性を有する事業に対する国家補助規制の特例措置だ。

EUは、電化が難しいエネルギー集約型産業や長距離輸送などにおける脱炭素化策としてグリーン水素(2023年6月30日記事参照)を推進。2030年までに年間2,000万トンのグリーン水素の域内供給を目指し(注2)、水素の統合された域内市場の創設に向けた法整備を進めている(2023年12月19日記事参照)。財政支援に関しては、「欧州水素銀行」(2023年11月27日参照)などを立ち上げているが、EU予算が限定的であることから加盟国による国家補助、特にその優遇策であるIPCEIの活用を重視している。

「Hy2Infra」には、(1)3.2ギガワット分のグリーン水素生産用大規模電解槽の整備、(2)約2,700キロメートル分の水素輸送・供給用パイプラインの新設および既存パイプラインの転用、(3)最低370ギガワット分の大規模水素貯蔵施設の整備、(4)年間6,000トンの液体有機水素キャリア(LOHC、注3)の取り扱いに対応できる港湾インフラの建設に関するプロジェクトが含まれる。プロジェクト対象施設・インフラの稼働時期は、(1)電解槽は2026~2028年を、(2)パイプラインは2027~2029年を予定。プロジェクト全体の完了時期は2029年を見込む。

(注1)フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア。

(注2)EUの水素政策の詳細は、2023年6月9日付地域・分析レポート「EU、グリーン水素の供給と活用に野心(1)供給目標と財政支援」を参照。

(注3)液体有機水素キャリア(Liquid organic hydrogen carriers)の略。化学反応によって、水素を吸収・放出できる有機化合物。

(吉沼啓介)

(EU)

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