欧州科学諮問機関、EUの気候中立政策について初の報告書公表

(EU)

調査部欧州課

2024年01月22日

気候変動に関する欧州科学諮問機関は1月18日、温室効果ガス(GHG)排出を実質ゼロ(気候中立)とする2050年目標に向けたEUの政策について、進捗評価と提言をまとめた初の報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した(注)。諮問機関は全てのセクターで取り組みが不十分と分析し、「特に建物、輸送、農業、林業ではさらなる努力が必要」と強調した。

他方、米国の政治専門サイトのポリティコ(欧州版)は同じく18日、欧州議会の最大会派・欧州人民党(EPP)のマニフェスト草案を入手したとして、2035年までにEUで内燃機関搭載車を段階的に廃止する計画の中止など、一部の主要政策に反対する党の方針を報じた。EUでは2024年6月に欧州議会選挙が予定されており、選挙戦でも争点の1つになりそうだ。

13の主要提言を公表

EUでは欧州気候法に基づき、2050年までの気候中立や、2030年までに1990年比で少なくともGHG排出量を55%削減するという中間目標を設定している。近年は2030年目標に向けた政策パッケージ「Fit for 55」(2023年10月12日記事参照)を通じて気候政策の枠組みを見直すほか、モビリティー、農業、生物多様性などの各分野で取り組みを進めてきた。

諮問機関はEUの政策立案者に対し、現状と目標のギャップを指摘し、十分な科学的根拠がある場合には政策提言することを目的に報告書を作成した。多様なセクター〔エネルギー供給、産業、輸送、建物、農業、土地利用・土地利用変化と林業(LULUCF)〕、分野横断的な課題(排出量の価格設定と除去、公正な移行と市民参画、資金と投資、技術革新、ガバナンス、技能と能力開発)を網羅した初の全般的評価となった。

主要な提言は13項目(添付資料表参照)。3つの大きなポイントとして、(1)Fit for 55の完全かつ迅速な実施、(2)残りの欧州グリーン・ディール関連法案の速やかな成立、(3)化石燃料への補助金の段階的廃止を挙げた。

EU市民の環境政策の評価に注目

EUでは6月に5年に1度の欧州議会選挙があり、10月末には現在の欧州委員会が任期を終えて新体制となる。欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は2050年の気候中立を念頭に、欧州経済社会の構造転換を図る欧州グリーン・ディールを推進してきたが、EU政界や経済界の一部からは環境規制が厳し過ぎるとの批判も出ている。EU市民の選択が注目される。

(注)気候変動に関する欧州科学諮問機関(European Scientific Advisory Board on Climate Change)は、EUに専門知識や助言などを提供する独立機関で、欧州気候法に基づいて2021年に設立された。15人の専門家で構成。欧州環境局(EEA)に事務局を置く。

(江里口理子)

(EU)

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