2023年の世界の直接投資は低調も、ASEAN、インドで投資計画が増加

(世界、ASEAN、インド、中国)

調査部国際経済課

2024年01月29日

国連貿易開発会議(UNCTAD)は1月17日に発表した報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で、2023年の世界の対内直接投資額を前年比3%増の1兆3,650億ドルと推計した。2023年初頭にUNCTADは同年の世界の対内直接投資が前年比で減少すると予想していた(2023年1月25日記事参照)が、年初の景気後退懸念が後退し、金融市場が想定よりも堅調に推移したため、推計額が上振れした。

他方、前年比増となったのは、ルクセンブルクとオランダなど主要な導管(conduit)国・地域(注1)の局地的な増加によるところが大きく、仮にこれらの国・地域を除くと、世界の対内直接投資は前年比18%減と推計される。欧州のほか、前年並みだった北米を除くと、ほとんどの国・地域で軒並み前年を下回った(添付資料表1参照)。世界経済の不確実性や金利の高止まりは世界の対内直接投資にマイナスの影響を及ぼした。

2023年の世界の対内直接投資を形態別にみると、国際プロジェクトファイナンス(IPF、注2)、クロスボーダーM&A(ネット)が資金調達コスト上昇の影響を最も大きく受けた。IPFは金額ベースで前年比25%減少、件数ベースでも21%減の2,207件だった。世界のクロスボーダーM&Aは、実行額が43%減、件数も16%減(6,488件)で、いずれも2年連続の減少となった(添付資料表2参照)。これまでM&Aを牽引してきた情報通信産業も21%減(1,423件)に縮小した。

一方、世界のグリーンフィールド投資件数(発表ベース)は、年間で6%減(1万6,944件)と小幅の減少にとどまった(添付資料表3参照)。前年に続いて大型投資案件が増加したことを受け、金額ベースでは6%増の1兆3,470億ドルへと増加した。長期的な低迷が続いた製造業のグリーンフィールド投資件数については、11%増と回復の兆しがみられ、電子部品(7%増)、自動車(25%増)、金属(24%増)でいずれも前年比プラスとなった。

国・地域別では、最大の直接投資受け入れ国の米国で、グリーンフィールド投資件数が2%減、IPF件数が5%減だった。中国の対内直接投資額は6%減と近年まれにみる減少を示したが、グリーンフィールド投資件数は8%増と上向いた。ASEANの対内直接投資額は16%減だったが、ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアなどでグリーンフィールド投資案件の発表が活発に行われ、同件数は37%増と急増した。インドも対内直接投資額は47%減だったが、グリーンフィールド投資件数は引き続き好調で、世界のグリーンフィールド投資受け入れ国・地域トップ5の座を維持している。

2024年の世界の対内直接投資額の見通しについて、UNCTADは2023年に比べて小幅な増加となると予測する。ただし、地政学リスクに加えて、多くの国・地域で増大する債務リスクや世界経済のさらなる分断など、深刻なリスクが依然と残っている点も指摘した。

(注1)多国籍企業が税負担の軽減などを目的として、海外直接投資を行う場合に、優遇税制を有するルクセンブルクなどを介在するケースで、これらの国・地域は導管(conduit)国・地域と呼ばれる。

(注2)資金調達方法にかかわらず、少なくとも1件の海外投資家が出資するプロジェクトを指す。グリーンフィールド投資やクロスボーダーM&Aともそれぞれ重複する部分がある。

(森詩織)

(世界、ASEAN、インド、中国)

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