EU、再生可能なガスと低炭素水素の普及を目的とした域内ガス市場規則案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月19日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は128日、グリーン水素やバイオメタンなどの再生可能なガスと低炭素水素の普及を目的とした「域内ガス市場規則」の改正案に関して、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同改正案は、既に政治合意済みの域内ガス市場の共通ルールに関する指令の改正案(2023年12月7日記事参照)とともに、水素の輸送ネットワークの規制枠組みとなるものだ。同改正案が政治合意したことで、EUの2030年の温室効果ガス削減目標である、1990年比で少なくとも55%削減を達成するために欧州委員会が提案した政策パッケージ「Fit for 55」第2弾(2021年12月16日記事参照)におけるガス関連法案(2021年12月16日記事参照)がすべて政治合意に達したことになる。同改正案は今後、両機関による正式な採択を経て、施行される見込み。なお、現時点で今回合意した法文案は公開されていない。

両機関はまず、水素の輸送ネットワークの整備に向け、水素のネットワーク事業者がEUレベルで協調を図るための機関となる「欧州水素ネットワーク事業者間ネットワーク(ENNOH)」を新設することで合意した。現地報道によると、ENNOHは当初は欧州ガス輸送事業者ネットワーク(ENTSOG)と協働するが、最終的には独立した機関となる。背景には、水素ネットワークの最適化を目指すENNOHと、将来的に天然ガス需要の減少が予想される中で既存の天然ガスパイプラインの水素用への転換を目指す天然ガスの輸送事業者のネットワークであるENTSOGの間に利益相反があることなどが問題視されたとみられる。

また今回の合意では、各加盟国の規制当局は水素の輸送ネットワークの利用料の決定権限を有する一方で、その決定方法に関しては近隣国の規制当局と協議した上で、EU機関であるエネルギー規制当局間協力庁(ACER)に決定方法を提出することを、各加盟国の規制当局に義務付ける。ACERは、近隣国の規制当局の要請に応じて、法的拘束力のない意見書を出すことができる。

さらに、EU理事会・欧州議会の両機関は、2022年のエネルギー危機の際に暫定的に導入した天然ガスの共同購入の仕組みであるEUエネルギープラットフォーム(2023年5月9日記事参照)の成功を受け、天然ガスの需要集約・共同購入メカニズムを恒久化することでも合意した。事業者のこのメカニズムへの参加は任意となる。水素については、グリーン水素生産のための財政支援策である欧州水素銀行(2023年11月27日記事参照)の枠組みにおいて、欧州委は水素の需要集約・共同購入メカニズムを、5年間の試験的事業として実施する方針だ。また合意には、同じくエネルギー危機時に導入された、緊急時に加盟国間でガス供給を融通する「結束メカニズム」強化策(2022年10月20日記事参照)を恒久化する規定など、域内のエネルギー安定供給の強化に向けた加盟国間の連携策も含まれる。

このほか、両機関は、天然ガスへの依存を避ける必要があるとして欧州委が提案した、契約期間が2049年末を超える、削減対策のされていない天然ガスの長期供給契約の締結禁止についても合意した。

(吉沼啓介)

(EU)

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