インド識者・メディア、IPEFによる国内法整備への影響注視

(インド)

ニューデリー発

2023年12月01日

インドのピユシュ・ゴヤル商工相は、11月14日に米国サンフランシスコで開催されたインド太平洋経済枠組み(IPEF)の閣僚級会合に出席し、インドが参画する分野の1つであるサプライチェーン協定に署名した。同相は会合で、クリーンな経済への移行に向けた資金調達や技術協力強化の重要性を指摘したほか、インドが提案したバイオ燃料における連携など、各種協力の早期実現を求めた。

インド国内の報道では、米国主導のIPEFについて、インド政府は是々非々で対応すべきとの論調が主流だ。「ミント」(11月23日)は、国際情勢が複雑化する中、インドは自国の国益を確保すべく「うまく立ち回っている」と評価する論説を掲載した。具体的な成功事例として、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻において中立の立場を取るインドが、ロシアから原油を安価で輸入しつつ、対ロシア経済制裁を主導した欧米諸国との関係も維持したことを紹介。IPEFにおいても、インドはサプライチェーン協定に署名する一方、インドとして市場アクセスの拡大につながらないと判断した貿易の枠組みへの参加見送りは、「国益にかなうかどうかを見極めた結果だ」と論じている。

「エコノミック・タイムズ」(11月18日)は、今後、IPEFのサプライチェーン協定に基づく国内法整備を進める上で、自国政策の自由度や徴税権限などが過度に狭められることのないよう留意する必要がある、とするインド地場シンクタンクのグローバル貿易研究イニシアチブ(GTRI)の共同創設者アジャイ・スリバスタバ氏による見解を報じた。GTRIは、環境対策や労働基準などの領域において、インドが先進国と同じ基準を導入することは難しいとの立場だ。また同氏は、国内の農家を保護するための輸入規制や補助金拠出といった各種政策に、諸外国から干渉を受けることのないように注視すべきとも述べている。

「インディアン・エクスプレス」(11月24日)は、駐ASEANインド大使などを歴任したグルジット・シン氏による論説を掲載した。同氏は、IPEFにおける貿易分野で参加国による暫定合意が形成されなかったことは、アジア大洋州地域での存在感を高めたい米国にとって痛手となったことを指摘。一方、インドが加盟していないものの、米国や中国が参画するAPEC首脳会議が11月17日に開かれたことに触れ、包摂的な貿易や投資環境の実現を目指すAPECの理念は、インドも共有できるものだとしている。同氏は、アジア大洋州地域の経済発展の恩恵をインドが享受するため、インドとAPECの連携を強化すべきとの見解を示した。

(広木拓)

(インド)

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