貿易のハブとして急成長を見せるキルギス経済

(キルギス、中央アジア、ロシア、中国、欧州、韓国、日本)

調査部欧州課

2023年12月12日

外務省の招聘(しょうへい)事業で訪日中のキルギス大統領府付属国立戦略研究所(NISS)のデニス・ベルダコフ顧問に、ロシアによるウクライナ侵攻のキルギス経済や対外経済戦略への影響について話を聞いた(12月6日)。概要は次のとおり。

(問)ロシアのウクライナ侵攻後のキルギスの経済情勢やビジネス環境の変化について。

(答)良い方向に変わった。中国、ロシア、欧州、韓国との貿易高が増えた。キルギスは長いこと対外債務の償還に悩まされていたが、(2023年は)国家予算が黒字になり、社会プログラムの充実に向ける資金ができた。

キルギスは中国、ロシア、欧州、中東をつなぐ貿易のハブになりつつある。多くの国と貿易協定を結んでいることが理由だ。ロシアとはユーラシア経済連合(EAEU)加盟国同士、中国とは「グリーン・コリドー」(注1)の設置が議論されている。欧州からはGSPプラス(注2)の適用を受け、約6,400品目の関税の優遇がある。2023年の9カ月間で航空貨物輸送量が1,200%の伸びを見せ、航空機の新規購入や空港の新規建設を計画している。外国資本による倉庫やドライポートの建設も盛んだ。

(問)貿易拡大要因として何が挙げられるか。

(答)まず、今までモスクワ経由でキルギス向けの事業を行ってきた外国の大企業がキルギスに事務所を開設し、ビジネスを直接行うようになった。それから、ロシアとウクライナから移住してきた富裕層やIT技術者による高級品への需要がある。また、仮想通貨がこの1年で大きく普及し、中国との決済が現金から仮想通貨に移行しつつある。

(問)国の対外政策や経済戦略の影響はあるか。また、国の方針は今後どうあるべきか、日本との関係も視野に入れて聞きたい。

(答)基本的に、国はビジネスに介入しないという方針だ。

この1年半で中央アジア諸国の統合が進んだ。1つの市場を形成することで対外的により魅力的になれるという共通認識ができた。中国からロシアや欧州を結ぶ新シルクロード構想(注3)が半年前に本格稼働し、中央アジアはその一部だ。今、中央アジア5カ国間の対話がかつてないほど高まっている。

エネルギー分野では、急激な経済発達によって電力不足が起き、対策として首脳レベルで中国からの投資と、ロシアからのガス供給を合意した。欧州、韓国、サウジアラビアからの水力、風力、太陽光発電への投資もある。数年のうちにキルギスは世界で一番安くエネルギーを生産できるようになり、日本をはじめとする外国企業にとって製造拠点として魅力的な国になるだろう。

キルギスの主要貿易相手国は中国、ロシア、トルコなどだが、地経学的なバランスという意味で日本への関心が高い。

(注1)キルギスと中国の農産物貿易と郵便分野で、迅速な国境通過の促進を目指す協力拡大が進んでいる。

(注2)EUの一般特恵関税(GSP)の優遇制度のGSPプラスは、持続可能な開発や人権保障などに関連する一連の国際条約を批准・準拠する後発開発途上国(LDC)・地域に対して、EUがさらなる特恵措置を付与する制度。キルギスには2016年に適用された。

(注3)中国がカザフスタン、キルギス、その他の国々と協力して推進するユーラシア大陸横断輸送システム構想で、中国から欧州諸国に物資や乗客を陸路で輸送する。ユーラシア・ランドブリッジとも呼ばれる。

(小林圭子)

(キルギス、中央アジア、ロシア、中国、欧州、韓国、日本)

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