欧州委、グリーン水素生産に補助金提供する欧州水素銀行の第1回競争入札の募集開始

(EU)

ブリュッセル発

2023年11月27日

欧州委員会は11月23日、EU域内でのグリーン水素生産のための財政支援策「欧州水素銀行」(2023年3月22日記事参照)の第1回競争入札の募集を開始したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

EUでは、脱炭素化が難しい産業・運輸部門を中心に、再生可能エネルギー電力に由来する水素(グリーン水素)の活用を積極的に推進しており、2030年までに年間1,000万トンのグリーン水素の域内生産を目標に掲げている(注1)。しかし、現時点では、グリーン水素は化石燃料由来の水素より生産コストが高く、採算性に課題があるとして、生産拡大に向けた投資が十分に進んでいない。そこで、欧州水素銀行はグリーン水素の生産事業者に固定プレミアム(奨励金)を提供し、グリーン水素生産の収益性を高めることで、グリーン水素への投資を後押しするものだ。当初の予算規模は8億ユーロで、支援先となる事業者は競争入札によって選定する。パイロット事業として実施する第1回入札は11月23日から2024年2月8日まで募集している。2024年には第2回の募集も予定している。

競争入札で応札する事業者は、グリーン水素生産の1キロ当たりの入札価格や、予定する年間平均生産量などを提出する。支援先となる事業者は入札価格に基づき、入札価格の低い順に各回予算上限に達するまで選定される。入札価格には、1キロ当たり4.5ユーロの上限価格が設定されている。上限価格はあくまで入札価格の上限で、支援先に選定された事業者はグリーン水素の販売価格を自由に設定できる。

支援対象となるのは、応札以降に新たに設置される電解槽で生産され、グリーン水素の定義に関する委任規則(2023年6月30日記事参照)に準拠するグリーン水素だ。支援先に選定された事業者は、支援合意の署名から5年以内に生産を開始しなければならない。生産拠点は欧州経済領域(EEA、注2)に立地していることが求められるが、事業者の国籍は問わない。電解槽の生産国に関する情報提供は求められるものの、現地調達率などの条件はない。固定プレミアムは、支援先に選定された事業者に対して、認証を受けたグリーン水素の生産量に応じ、最長10年間にわたって年2回支払われる。なお、入札価格は固定プレミアムの1キロ当たりの金額となる。競争入札の詳細については、欧州委が公表する入札要綱PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)よくある質問(FAQ)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を参照。

このほか、欧州委は欧州水素銀行の競争入札制度を、加盟国による補助金提供先の選定メカニズムとしても活用する方針だ。加盟国が欧州水素銀行の競争入札制度を利用する場合、当該加盟国は、欧州委が実施する競争入札の予算上限を超えたために支援先に選定されなかった当該加盟国内に生産拠点を置く事業者に対して、別途の競争入札を実施することなく、補助金を提供することができる。加盟国による欧州水素銀行の競争入札制度への参加は任意だ。

(注1)EUの水素政策の詳細は、2023年6月9日付地域・分析レポート「EU、グリーン水素の供給と活用に野心(1)供給目標と財政支援」を参照。

(注2)EUの全27加盟国とノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン。

(吉沼啓介)

(EU)

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