欧州産業連盟、秋季経済見通し発表、企業の景況感の大幅悪化などを危惧

(EU)

ブリュッセル発

2023年11月17日

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は11月8日、「秋季経済見通しPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表し、2023年のEUの実質GDP成長率は前回予測(2023年6月14日記事参照)から据え置きの0.7%、2024年は0.2ポイント減の1.4%と予測した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州経済は2023年上半期、金利上昇による需要の低下で低成長が続き、エネルギー集約型産業を中心に工業生産が落ち込んだ。2024年は、実質GDP成長率をやや下方修正したものの、家計消費や貿易が上向き、経済は緩やかに成長するとした。しかし、高金利政策により、グリーンとデジタルへの移行に必要な設備投資の減退は続くとした。

同連盟が懸念として挙げたのは、まず、EUの一部加盟国でインフレ率や労働生産性を上回る賃金の上昇がみられることだ。賃金・物価スパイラルのリスクを抑制するため、労働者側に賃金交渉における歩み寄りを求めた。次に、企業の景況感が著しく悪化していることだ。前回予測では、同連盟の会員団体のうち、工業部門における現状のビジネス環境について悲観的な見方を示したのは28%だったが、今回は75%に上昇。サービス部門について悲観的な見方を示した団体は58%で、前回予測の20%から増えた。その要因として、欧州は他の地域より規制に伴う企業負担が大きいことと、エネルギー価格が引き続き高水準である点を挙げ、ビジネス環境の改善を訴えた。特にEUに対して、2024年6月の欧州議会選挙前に、企業持続可能性報告指令(CSRD、2023年9月5日付地域・分析レポート参照)などで求められる企業の報告義務の25%削減の実現を、あらためて強調した。

2024年の欧州議会選挙を前に、各政党への政策提言書を発表

同連盟は同日、欧州の各政党への政策提言書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表し、2024年6月の選挙後の任期(5年間)では、欧州の競争力強化を前面に打ち出した経済政策に取り組むよう要請した。同連盟は優先課題として、(1)戦略的自律と市場開放の双方を実現する通商政策、(2)規制対応に伴う企業負担の軽減、(3)気候変動対策と両立する成長戦略、(4)単一市場の強化とデジタル化の推進、(5)雇用対策、(6)財政の健全化、(7)EU拡大、の7項目を挙げた。

このうち(1)では、さらに多くの国との貿易協定の締結を進め、サプライチェーンの多様化と強靭(きょうじん)化を図ると同時に、欧州企業の域外市場への参入および投資機会を増やすべきだとした。また多くの途上国からは、EUは持続可能性目標の名の下、保護主義的になっているとの声もあり、EUのこうした目標に対する域外国の理解の促進と、対応に向けた支援をすべきとした。

(3)については、EUの気候目標達成と企業の競争力強化を並行して実現するには、真なる産業戦略が必要だと強調。許認可プロセスの迅速化や、ネットゼロ産業法案(2023年3月20日記事参照)よりも強力な支援策、企業の資金調達環境の改善のほか、市場歪曲(わいきょく)を生まない公的支援の実施などが必要だとした。また、欧州議会が近くEU理事会(閣僚理事会)と政治合意に向けた交渉に入る、電力市場改革法案(2023年10月20日記事参照)にも触れ、EUは同法案の内容以上の市場改革が必要で、主要な競合国・地域とのエネルギー価格差の解消など構造的課題に対処すべきだとした。

(滝澤祥子)

(EU)

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