EU首脳、2024年以降の政治的方向性を協議、EU拡大に向けた機構改革の議論が本格化へ

(EU)

ブリュッセル発

2023年10月10日

欧州理事会(EU首脳会合)の非公式会合が10月6日にスペインのグラナダで開催され、グラナダ宣言外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同宣言は、2024年6月に採択を目指す、2024年から2029年までの次期欧州委員会の任期中における、EUの政治的方向性や優先事項を規定する「戦略的アジェンダ」の策定に向けた第一歩となるものだ。

同宣言ではまず、気候中立の実現を優先課題に掲げる現行の戦略的アジェンダから一転、EUの長期的な競争力の強化をうたっており、持続可能な成長と世界における主導権の確保を目指すとしている。特に、エネルギーや資源の効率性、循環性、脱炭素化、気候変動への適応などの分野を、競争力強化という文脈において重視する方針だ。また、EUの単一市場に関しては、開放性を維持しつつ、公平な競争環境を確保し、中小企業を中心に事務手続きの負担軽減に努めるとした。さらに、安価なエネルギーの供給やエネルギーの自活強化のほか、持続可能な農業、デジタル、気候変動対策技術、医薬品、重要原材料の各分野におけるEU域外国への依存軽減も掲げる。このほか、防衛力の強化にも言及しており、ロシアによるウクライナ侵攻直後に採択されたベルサイユ宣言(2022年3月14日記事参照)の方針が継承されるとみられる。

EUの東方拡大にはEU自体の改革も必要、難民関連法改正ではハンガリーとポーランドの孤立が続く

今回の欧州理事会で最大の関心を集めたのは、EUの東方拡大と移民問題だ。EUの東方拡大について、グラナダ宣言は、欧州の安全保障や繁栄における地政学上の重要性を強調。一方で、加盟候補国の加盟に向けた取り組みだけでなく、東方拡大に備えたEU自体の改革の必要性にも言及している。背景にあるのは、EUの意思決定方法と予算の問題だ。現行のEU条約では、EU法の大部分は特定多数決で決定されるものの、外交や税制などの分野に関しては、加盟国の全会一致が必要となる。EUの加盟国数が現状の27カ国から最大35カ国程度まで増える場合、EUの外交面での機能不全を避けるべく、全会一致の修正が求められる。また、共通農業政策と域内経済格差の是正策である結束政策がEU予算の約3分の2を占める中で(2020年9月23日付地域・分析レポート参照)、加盟候補国がいずれもEUの所得水準の平均を大きく下回り、純受益国になるとみられることから、EU予算の財源や配分方法など解決すべき課題は多い。

ウクライナを含めた加盟候補国の加盟に関しては(2022年5月19日付地域・分析レポート参照)、同宣言は、法の支配の分野などの国内改革を引き続き実施する必要があると指摘。欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長の2030年を加盟実現の目標年度とする提案には言及せず、加盟には所定の条件を満たす必要があるとする従来の立場を明記するにとどめた。一方でウクライナに関して、欧州理事会は、異例の速さで加盟候補国認定を決定しており(2022年6月28日記事参照)、次回12月の欧州理事会で加盟交渉の開始が正式に決定されるかが注目される。

移民問題をめぐっては、ハンガリーとポーランドの孤立があらためて浮き彫りとなった。欧州理事会に先立ち、EU理事会(閣僚理事会)は10月4日、2016年以降協議が難航していた難民関連法改正案の立場を特定多数決で採択した。現地報道では、ハンガリーとポーランドは改正案に強行に反対しており、7月の欧州理事会(2023年7月4日記事参照)に続き、今回の宣言でも移民に関する文言は盛り込まれず、欧州理事会常任議長の宣言外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとして別途発表されるにとどまった。

(吉沼啓介)

(EU)

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