失速する世界経済に警鐘、UNCTAD報告書2023

(世界)

調査部国際経済課

2023年10月10日

国連貿易開発会議(UNCTAD)は10月4日、「貿易開発報告書2023外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表し、2023年の世界経済の成長率が前年の3%から2.4%に失速すると予測した。また、2024年の成長率は2.5%とわずかな上昇にとどまるとの見通しを示した。

報告書では、「世界経済は岐路に立たされている」と警鐘を鳴らす。世界経済の見通しについては、多くの地域で著しい減速が見られるとしたが、国・地域によって成長軌道に乖離が生まれている、と指摘する。また、所得の格差と不平等の拡大、途上国・地域における債務の増大、政策の自律性の低下なども懸念点に挙げた。

主要国・地域では、米国は、緩やかな財政拡大と量的緩和措置が低い失業率と旺盛な個人消費を実現するとして、軟着陸となる見通しを示した。これに対して、欧州では、緊縮財政による実質賃金の低下、インフレ圧力から「リセッション(景気後退)」の淵に立っているとした。中国は、2023年にユーロ圏の10倍の速さで回復すると予測するが、ゼロコロナ政策終了直後の年としては予想を下回る成長となる見込み。国内消費と民間投資の低迷が足を引っ張るかたちだ。

このほか、今後の世界経済に対する懸案事項として、投資の不振、信用低下が進む昨今の情勢下における新たな成長の源泉を探し出す必要性の増大、エネルギー、食品、製薬などの重要分野における市場集中度(注)の高まりなどを指摘した。

UNCTADのレベッカ・グリンスパン事務局長は「世界経済全体に影響を及ぼすような危機を回避するために、過去の政策の失敗を繰り返さず、前向きな構造改革を受け入れる必要がある」と述べた。具体的には、金融の持続可能性を実現するために財政、金融、供給のバランスのとれたポリシーミックス、国際的な貿易および金融システムの改革の必要性を挙げた。

(注)市場集中度とは、1つの産業において、上位企業の生産・売上高が業界全体の生産・売上高に対してどの程度占めているのかを示す指標。市場集中度が高いほど、寡占化が進み、競争が失われていることを示す。

(田中麻理)

(世界)

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