世界経済は軟着陸か、イスラエル情勢を懸念、IMF経済見通し

(世界、米国、中国、EU、イスラエル)

調査部国際経済課

2023年10月12日

IMFは10月10日、最新の「世界経済見通し」(英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。世界経済の成長率(実質GDP伸び率)について、2023年を3.0%、2024年を2.9%と推計(添付資料表参照)。前回の7月時点見通し(2023年7月26日記事参照)より、2023年は据え置き、2024年は0.1ポイントの下方修正となった。いずれも2000~2019年の年平均成長率3.8%と比べて、低調な成長を見込んでいる。

イスラエルでの武力衝突、今回試算には含まず

経済成長率が下降傾向にあることについて、IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は「ソフトランディング(軟着陸)シナリオ」に沿っていると指摘。同シナリオは、経済の急減速や混乱を招くことなく、加熱する物価上昇(インフレ)を緩やかに抑制して安定成長へ導くもの。世界のインフレ率は、2023年に6.9%、2024年に5.8%と軟化する見通しを示した。一方、IMFは今回インフレ率を上方修正し、2025年までは大半の国・地域で到達目標には戻らないとしている。

国・地域別では、米国(2023年の経済成長率:2.1%)が新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染拡大以前の水準を超える最も力強い回復を示した。堅調な民間投資や個人消費のほか、低失業率などと逼迫する労働市場を反映して、2024年も1.5%成長と、前回から0.5ポイントの上方修正となった。ユーロ圏(同0.7%)は、ロシアによるウクライナ侵攻による貿易上の悪影響や、エネルギー輸入価格の高騰などにより、新型コロナ感染拡大以前の水準までは回復していない。ゼロコロナ政策による国内経済の低迷と不動産危機が懸念される中国(同5.0%)は下方修正となった。

その他新興国・地域では、インドが2023年4~6月の消費の大幅な伸びを受け、2023年の成長率見通しがは6.3%と0.2ポイントの上方修正となった。ブラジル(同3.1%)は農業やサービス業が堅調さを示し、メキシコ(同3.2%)も米国需要の好影響を受けつつ、新型コロナ感染収束後の回復が建設・サービス業に広がるなど、それぞれ上方修正となった。

IMFが発表日に行った記者会見では、イスラエルとパレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの武力衝突の影響を問う質問が複数上がった。これに対して、グランシャ氏は、衝突後の数日間で石油価格が4%上昇した点を指摘。同価格が10%上昇した場合、世界の経済成長率が0.15%押し下がり、インフレ率は0.4%上昇するとのIMF試算を紹介しつつ、「影響の試算は時期尚早で、状況を注視していく」と述べた。(「ワシントン・ポスト」紙10月10日)

(藪恭兵)

(世界、米国、中国、EU、イスラエル)

ビジネス短信 76476912e52f0737