EU、2030年までのGHG排出55%削減に向けたFit for 55関連法案がほぼ成立

(EU)

ブリュッセル発

2023年10月12日

欧州委員会は10月9日、2030年の温室効果ガス(GHG)排出削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」(注1)で提案した主要な法案の採択が完了したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EU理事会(閣僚理事会)が同日、Fit for 55第1弾のうち未成立となっていた、エネルギーミックスに占める再生可能エネルギー比率の目標を規定する再エネ指令改正案(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)と、持続可能な航空燃料の生産・利用を促進する規則案(ReFuelEU Aviation)を正式に採択(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これにより、Fit for 55第1弾で提案された主な法案の立法手続きが実質的に完了した。

欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は2019年12月の就任当初から、2050年までの気候中立の達成を目指す「欧州グリーン・ディール」(注2)を最優先課題に掲げ、関連法案を立て続けに提案してきた。2020年3月には、2050年までの気候中立の達成を法的拘束力のある目標として法制化する欧州気候法案を提案(2020年3月6日記事参照)。2021年4月にはEU理事会と欧州議会との間で政治合意が成立し(2021年4月22日記事参照)、同年7月に施行された。欧州気候法は2050年目標だけでなく、2030年までにGHG排出を1990年比で少なくとも55%削減するとした中間目標を設定。この実現に向け、欧州委が2020年7月に提案した政策パッケージがFit for 55第1弾だ(2021年7月15日記事参照)。Fit for 55第1弾には10を超える法案が含まれており、対象は産業、電力、航空・海運・陸運、建物、農林業など幅広い分野に及ぶ。関連法案の成立を経て、欧州グリーン・ディールは新たなステージに移行したとして、欧州委は今後、Fit for 55関連法の確実な実施に向けて注力する方針だ。また、欧州委はGHG排出削減に関する2040年目標の策定を進めており、2024年第1四半期(1~3月)にも提案するとみられる。2050年の気候中立の達成に向けて、2030年以降さらに大幅な削減が必要になるとみられており、引き続き注視する必要がある。

なお、Fit for 55第1弾の主な成立済みの法律は次のとおり。

欧州グリーン・ディール関連の重要法案の審議は依然続く、今後約半年間が山場

Fit for 55第1弾の法案はほぼ全て成立したものの、欧州グリーン・ディール関連法案が全て成立したわけではない。まず、Fit for 55第1弾をとってみても、唯一成立していないエネルギー課税指令改正案は、加盟国間の交渉が停滞しており、合意のめどはたっていない。Fit for 55第2弾として発表された法案(2021年12月16日記事参照)については、いずれもEU理事会と欧州議会による政治合意に向けた交渉には移っている。しかし、現地報道によると、最低限求められる建物のエネルギー性能の底上げを義務付ける建物エネルギー性能指令改正案(2021年12月17日記事参照)に関して、一部の加盟国が反発を強めており、大幅な妥協を迫られる可能性がある。このほか、循環型経済政策(注3)でのエコデザイン規則案(2022年4月4日記事参照)や包装・包装廃棄物規則案(2022年12月2日記事参照)、グリーン・ディール産業計画の一環のネットゼロ産業規則案(2023年3月20日記事参照)や重要原材料法案(2023年3月22日記事参照)など、重要法案の審議が続いている。2024年6月の欧州議会選挙までにどこまで成立させることができるか注目が集まる。

(注1)ジェトロ調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向」(2021年12月)を参照。

(注2)ジェトロ調査レポート「新型コロナ危機からの復興・成長戦略としての『欧州グリーン・ディール』の最新動向」(2021年3月)を参照。

(注3)ジェトロ調査レポート「EUの循環型経済政策」(2022年10月)を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 18cbf6da15579343