欧州委の研究機関、気候中立電力システムには需給調整の柔軟性確保が課題と分析

(EU)

ブリュッセル発

2023年07月11日

欧州委員会の共同研究センター(JRC)は6月26日、EU域内の将来的な電力システムにおける需給調整の柔軟性と電力貯蔵の役割に関する報告書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。2030年と2050年に必要な電力システムの柔軟性を日、週、月ごとの3つの時間スケールで算出。柔軟性確保に貢献する電力貯蔵技術を示した。

EUでは2050年までに気候中立〔温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ〕を実現するため、エネルギーミックスで2030年の再生可能エネルギー比率の目標を42.5%としている(2023年4月3日記事参照)。一方、再エネ発電は天候に左右され、貯蔵量が限られる上、消費者の需要は変動するため、調整が必要だ。電力システムに負荷がかかり、価格が大きく変動する可能性がある。

分析によると、日ごとに必要とされる柔軟性と太陽光発電の生産シェアには強い相関関係がある一方、週、月ごとに必要な柔軟性は風力発電(陸上、洋上)の生産シェアと関連する。太陽光発電は日ごと、風力発電は月ごとの季節性に左右されるためだ。両方を効率的に電力システムに組み込むために、短期的または長期的に必要となる柔軟性を適切に評価し、確保する必要があるとした。

2021年の電力需給の必要柔軟性はEUの総電力需要の11%だったが、2030年に24%、2050年には30%に拡大し、2030年までに現在の2倍以上、2050年までに7倍必要となる。

柔軟性確保は全ての加盟国で大きな課題となる。特にオランダは風力発電のシェアが相対的に高いため、全ての時間スケールで2030年の総電力需要に対する柔軟性確保の必要性が他の加盟国より高い。2050年にはアイルランドやバルト3国でも高い柔軟性の確保が求められる。

電力需給の調整を可能とする技術としては、特に長期的な時間スケールで相互接続が重要な役割を果たすという。新たな解決策としてバッテリーと電解槽は短期的、揚水発電は長期的な手段として期待を示した。一般家庭や産業界の需要対応(デマンドレスポンス)も大きく貢献すると指摘。電力生産量を細かく調節できる従来型の火力発電は引き続き調整弁としての役割がある。特定された電力需給の調整を行うには、技術と電力貯蔵の解決策の両方が必要とした。

(大中登紀子)

(EU)

ビジネス短信 bf9a0011228496d0