2023年版「ジェトロ世界貿易投資報告」発表、貿易・投資の秩序の揺らぎに焦点

(世界)

調査部国際経済課

2023年07月26日

ジェトロは7月26日、「ジェトロ世界貿易投資報告」の2023年版を発表した。国際貿易・投資の秩序の揺らぎと、それに伴って複雑に変化するビジネス環境に焦点を当てた。各章の要旨は次のとおり。

第I章 世界と日本の経済・貿易

2022年の世界貿易(注1)は前年に続き、20兆ドル超の過去最高額(24兆2,400億ドル)を更新したが、伸び率は11.1%増と前年(26.6%増)から鈍化した。2023年の世界貿易は、世界経済の先行きに対する不透明感の強まりや、資源高の継続、食料不安、金融市場の不安定化などが下振れリスクとなり、さらなる鈍化が見込まれる。また、主要国・地域間の貿易関係は、政治的な価値観を共有する同志国・地域間や、米国・EU間、中国・ASEAN間など近接国・地域を優先する傾向へ徐々にシフトが見られる。

2022年の日本の貿易収支(財務省統計、通関ベース)は過去最大の赤字(1,510億ドル)を記録。輸出数量、輸入数量ともに2年ぶりにマイナスとなった。

第II章 世界と日本の直接投資

2022年の世界の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比12.4%減と、再び下降局面に入り、クロスボーダーM&Aは14.8%減だった。一方、発表ベースのグリーンフィールド投資件数はソフトウエア・ITサービスやビジネスサービスなどの成長産業への投資が活発で、17.6%増と好調だった(注2)。

2022年の日本の対外直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比16.4%減。円安と金融引き締めの影響もあり、対外M&A(実行額)は前年比約7割減の241億ドルと、2009年(210億ドル)以来の低水準となった。また、2022年に発表された日本の対外グリーンフィールド投資件数は3年連続で過去最少件数を更新した(注3)。

第III章 世界の通商ルール形成の動向

経済安全保障やサプライチェーン強靭(きょうじん)化を動機とする各国独自の政策、規制が増加している。米国が2022年10月7日に施行した先端半導体や製造装置に関する輸出管理規制(2022年10月11日記事参照)を受け、日本企業の間でも、米国企業の中国拠点向けの関連部品出荷が止まるなどの影響を受けたり、中国向けの関連製品の輸出を控えたりする動きがみられる。地政学リスクに基づく調達・生産・販売網の見直しやレピュテーションリスク対応など、広範な課題への備えが企業に求められている。

第IV章 持続可能な社会を目指す政策とビジネス

2023年6月にOECD多国籍企業行動指針が12年ぶりに改定されるなど、人権・環境デューディリジェンスの法制化が進み、サプライチェーン全体を通じた適切な対応が企業に課せられている。また、EUの「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」が2023年5月に施行され、10月から暫定適用(移行期間)が開始される(2023年6月15日記事参照)。企業にとって温室効果ガス(GHG)排出量の算出が避けて通れない課題となりつつある。

他方、金利上昇や欧米金融当局による監視・規制強化などを受け、年々拡大してきた世界のESG債投資額は2022年に前年比21.9%減と減少に転じた(注4)。

同報告の概要はジェトロの記者発表ページを参照。本文は「ジェトロ世界貿易投資報告」ページで公開している。

(注1)財貿易、名目輸出金額ベース。Global Trade Atlasを基にジェトロ推計。

(注2)世界の対内直接投資額は国連貿易開発会議(UNCTAD)、クロスボーダーM&Aはワークスペース(リフィニティブ)、グリーンフィールド投資はfDi Markets(フィナンシャル・タイムズ)による。

(注3)日本の対外直接投資額は財務省統計を基にジェトロがドル換算。対外M&Aはワークスペース(リフィニティブ)、対外グリーンフィールド投資はfDi Markets(フィナンシャル・タイムズ)による。

(注4)気候債権イニシアチブの公開データ。

(宮島菫)

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