IPEFによるサプライチェーン強化と人材育成に期待

(マレーシア)

クアラルンプール発

2022年09月15日

9月8、9日に米国ロサンゼルスで開催されたインド太平洋経済枠組み(IPEF)の閣僚級会合(2022年9月12日記事参照)に参加したマレーシアのアズミン・アリ国際貿易産業相は、IPEFが競争力向上や経済の強靭(きょうじん)性構築、環境・社会・ガバナンス(ESG)アジェンダの共同実現に向け、米国を含めた参加国との経済外交を強めることへの期待を示した。閣僚声明でまとめられた貿易とサプライチェーン、クリーン経済、公正な経済の4つの柱がIPEFの土台としつつ、特に労働者の権利に関する基本原則にマレーシアがコミットすることは、腐敗防止や経済成長を加速する上でカギになると強調した(9月10日「ビジネス・トゥデー」)。

女性の人材育成とサプライチェーン強靭化に強く関与

労働者への利益という点で、マレーシアはIPEF域内の700万人の女性にIT技能の習得機会を提供する「IPEFスキル向上イニシアチブ」への参画を発表(9月10日ベルナマ通信)。アズミン氏によると、このイニシアチブは、IPEFが技術支援やキャパシティービルディングを通じて国民に利益をもたらすべきというマレーシア側の提案もあって実現したという。また、IPEFにとって実現可能な最初の分野だろうということも強調した。

電子部品に輸出競争力を持つマレーシアとして、サプライチェーン強化に向けたルール形成に関わることも重要だ。閣僚級会合でマレーシアは、サプライチェーンの安全性を確保するための解決策として、各国が比較優位を有する重要な産品を国家備蓄する地域イニシアチブを提案。米国と締結した半導体サプライチェーン強靭化に関する覚書(2022年5月12日記事参照)は、IPEFのような地域間連携に拡大する余地があるとも示唆した。国内半導体産業もIPEFによるルール形成を歓迎している(2022年6月1日記事参照)。

先進国の投資や支援も追求

一方で、IPEFには、関税削減に代表する実利が少ないとも指摘されている。マレーシア戦略国際問題研究所のチェン上席アナリストは、IPEFでは市場アクセスの改善が見込めず、メリットが見えづらいと指摘する(2022年9月6日付地域・分析レポート参照)。マレーシアとしては、IPEFを通じて投資や支援を呼び込みたい思惑があり、アズミン氏も「途上国がIPEFのコミットメントを達成するに当たり、米国のような経済大国の支援は不可欠」 と訴えた。

米国との関係では、IPEFは米国当局が強制労働の疑いでマレーシアに課す違反商品保留命令(WRO)を協議する場となり得ると、アズミン氏は期待もにじませた(9月9日「マレーシア・ナウ」)。米国がIPEFの成果を2023年にも見込んでいることに対しては、野心的過ぎる目標だと評し、各国はまずデジタル経済に関する交渉を始めることが肝要と指摘した。「(新型コロナウイルスの)パンデミックはデジタル化を加速させた。雇用を創出し成長を続けるには、デジタル経済へのさらなる投資が求められる。目標達成には相応の時間と作業が必要だ」と見通した。

(吾郷伊都子)

(マレーシア)

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