欧州委、電力価格の緊急介入策を提案へ、電力市場改革の意向もあらためて示す

(EU)

ブリュッセル発

2022年08月31日

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は829日、エネルギー価格の急激な高騰を背景に、緊急介入策と電力市場の構造改革を提案する意向を明らかにした。EU域内では、エネルギー価格の高騰が2021年の夏以降続いており、ロシアのウクライナ侵攻後にさらに高騰し、歴史的な水準に達している。こうした中で、フォン・デア・ライエン委員長はまず、短期的な緊急介入策を提案する予定だ。現在の高騰するガス価格は投機的な要素が大きいとの見方を示し、EUはこうした投機的取引を抑えるための明確なシグナルを出す必要があると述べた。緊急介入策の具体的な内容には言及しなかったものの、加盟国間の合意形成が速やかに進めば、早ければ数週間後には実施が可能との見通しを示した。

2022年下半期にEU理事会(閣僚理事会)の議長国を務めるチェコは、エネルギー担当相理事会の臨時会合を99日に開催することを発表しており、EUレベルでの短中期的な対応策が提案される予定だとしている。現地報道では、EU理事会で議論する対応策には、発電に使用するガス価格に上限を設定する案も含まれるとしている。これは、2021年夏以降、一部の加盟国が導入を求めてきたもので、既に欧州委は20226月、EU国家補助ルールの一環として、スペインとポルトガルの電力価格の引き下げを目的としたガス価格の上限の一時的な導入を承認している。

電力市場の構造改革に関しても、フォン・デア・ライエン委員長はあらためて提案の意欲を示した。EUでは、電力価格はガス価格に実質的に連動しているため、拡大する再生可能エネルギー由来の電力の発電コストは比較的低いものの、天然ガス価格の高騰によって電力価格は歴史的な高水準となっている。こうした中で、電力価格とガス価格を実質的に連動させる現行制度はもはや適切でないとして、電力価格とガス価格のデカップリング(切り離し)による構造改革を提案すると表明した。その時期については来年初頭になる見通しを示した。

また、フォン・デア・ライエン委員長は、エネルギー価格高騰の影響を特に受けている家計や中小企業に対する支援が必要なことから、エネルギー価格高騰で大幅な利益を得ている事業者に対する課税が必要との見解も示した。比較的安価な発電が可能な再生可能エネルギーを念頭に、安価なコストが最終消費者に対する電力価格に還元されるべきだとした。最安値の電力を提供する事業者が一定の利益を得ることを保障することは重要だが、事業者自身の最良の予測を大きく上回る予定外の超過利潤に対しては課税する必要があると述べた。欧州委はこれまでも加盟国が実施し得る措置の1つとして、超過利潤への課税を提案していたが(2022年3月11日記事参照)、電力価格の急激な高騰を受け、より積極的な立場に転じたとみられる。

(吉沼啓介)

(EU)

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