欧州議会、CBAM設置とETS改正規則案の修正案を採択、EU3機関での協議へ

(EU)

ブリュッセル発

2022年06月27日

欧州議会は6月22日、欧州委員会が2021年7月に提案したEU排出量取引制度(EU ETS)改正案(2021年7月16日記事参照)と、炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関する規則案(2021年7月16日記事参照)について、欧州議会としての修正案となる「立場(Position)」を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。両規則案は成立へ向けて、欧州議会、EU理事会(閣僚理事会)、欧州委の間の協議の開催へと前進した(注1)。

両規則案はカーボンリーケージ(注2)対策の面で相関するもので、欧州委は現行策のETSの無償割り当てを2026年から段階的に廃止し、2035年までにCBAMに置き換えていくとしている。欧州議会の修正案では欧州委案より3年早い2032年にはCBAMを完全実施すべきだとした。また、CBAM規則の対象製品に有機化合物、プラスチック、水素、アンモニアを加え、間接排出量も考慮すべきなどとした(CBAMに関するプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

採択を受けて、欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は同日付声明で、欧州鉄鋼業界にとって修正案は受け入れがたく、CBAM導入に伴う影響への配慮が不十分だとした(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ステンレス・スチールの製造段階で使われる添加物の排出量やEUからの輸出品の扱いの再考や、排出量が多く輸入品に多く含有される合金鉄の添加物リストへの追加が必要だとした。EUの政策立案者に対しては、欧州鉄鋼業界が公正な条件の下でグリーン化を実現できるよう、開かれた、事実に基づく協議を行い、最終案をまとめることを求めた。

2029年まで運輸・建物対象の新ETSを商用部門のみに適用と提案

欧州議会はETS改正案については、現行規則の対象部門からの排出削減目標(2005年比)を欧州委案の61%から63%に引き上げ、最も効率よく削減した企業に無償割り当てを追加するが、取り組みが不十分な企業からは無償割り当てを削減・削除するというボーナス・マルス制度を設けて、企業の脱炭素化の取り組み加速を促すべきだとした。また、新たに適用対象となる海運部門についても、欧州委案では2023年から段階的に導入し、2026年から本格運用としていたが、欧州議会は、EU域内航路の運航便は2024年から総排出量を対象とするなど開始時期を総じて早め、二酸化炭素以外のメタン、亜酸化窒素といった温室効果ガスも含めるべきだとした。さらに、都市ごみ焼却も2026年からETSの対象とすべきだとした。欧州委が2025年から開始するとした道路輸送と建物部門を対象とする新ETSについては2024年から開始、ただし、2029年までは一般消費者の住宅や移動に係る排出は除外し、商用部門に限定して適用することなども提案した(ETSに関するプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

欧州自動車工業会(ACEA)は6月22日付声明で、商用部門に限定した適用は事業者の負担を増やし、実行不可能だと反発(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。一般消費者も含めた道路輸送全体を対象とすることで、燃料業界に対して炭素中立な代替燃料を適切な価格で市場に十分に供給すべきという強いシグナルを送ることになると訴えた。また、CBAMについても触れ、ETSで削減目標を引き上げるにはCBAMのような制度が必要だが、同時に欧州産業界の競争力維持にも注意を払うべきだと指摘。欧州議会の修正案で、CBAM対象製品の使用業界も含めたEU産業への影響評価を欧州委が行うとしたことを歓迎した。

(注1)EU理事会は、CBAM設置については3月15日に加盟国間で合意しており、ETS改正については6月28日開催予定の環境相理事会で合意に至るとみられている。

(注2)排出制限が緩やかな国への産業の流出。

(滝澤祥子)

(EU)

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