欧州委、鉄鋼セーフガード措置を延長、川上・川下業界の対立は激化

(EU)

ブリュッセル発

2021年07月05日

欧州委員会は6月25日、鉄鋼製品26品目について関税割当枠(クオータ)を設定し、割当枠を超過すると25%の関税を課すセーフガード措置を、2021年7月1日から2024年6月30日までの3年間、延長すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。この措置は2018年7月に暫定的に発動された後、2019年2月に正式発動され(2019年1月18日記事参照)、2021年6月末を期限としており、欧州委は2021年2月、措置延長に関する調査の開始を発表していた(2021年3月3日記事参照)。調査の結果、欧州委は「EUの鉄鋼業界への重大な損害を防止もしくは救済するためには、措置の延長は必要で、またEU産業界は輸入品の増加に伴うEU市場の状況変化に対する調整を行っている」と判断した。

一方で、欧州委はモニタリングを続け、セーフガード措置を、最低限必要な水準にとどめ、市場の変化に対応し、EUの全体的な利益に沿うものとするため、必要であれば見直しを行うとした。また、WTOルールに沿って、鉄鋼のゼロ関税の輸入割当を毎年3%ずつ増やすとした。さらに、米国の1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼への追加関税賦課について、大きな変更があれば見直しを行うとした。

鉄鋼業界とユーザー業界の対立は激化

セーフガード措置について、鉄鋼業界と鉄鋼ユーザー業界間の対立は激化している。ユーザー業界側では、欧州自動車工業会(ACEA)が6月11日、「延長はユーザー業界の利益を無視するものだ」と声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで反対していた。ACEAは、自動車業界は生産に必要な鉄鋼製品の9割以上をEU域内で調達しているが、「新型コロナ危機」で一時落ち込んだ生産が回復する中、供給不足や価格の上昇に苦しんでいる、と主張。批判の矛先を鉄鋼業界に向け、「EUのメーカーが価格を決定し、記録的な収益を上げている市場が、域外国からの輸入品によって脅威にさらされているとは信じがたい」として、輸入品によってサプライチェーンのギャップを埋める必要があると主張していた。

しかし、延長が決定し、欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は6月28日、「措置導入の契機となった世界的な供給過剰や米国の鉄鋼への追加関税賦課が継続している」として、「EU鉄鋼業界には長期間にわたってのセーフティネットが与えられた」と決定を歓迎外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。EUROFERは、セーフガード措置は域内市場の製品価格の固定化や域外からの通常の供給の制限を目的としたものではなく、ユーザー業界は通常の貿易によって域外国からの調達が引き続き可能で、また、この3年間、未使用のゼロ関税割当量も増えていると主張。現在、鉄鋼の需給バランスが崩れているのは「新型コロナ危機」に起因するものだとの見解を示した。

(滝澤祥子)

(EU)

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