バルニエ首席交渉官、2020年末までの英国との包括合意を疑問視

(EU、英国)

ブリュッセル発

2020年01月10日

欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は1月9日、ストックホルムでの講演において、今後本格化する英国のEU離脱(ブレグジット)後のEU・英国関係構築に関わる協議について見通しを示した。2020年末までの11カ月間に、英国との包括的な合意を実現することは日程的に相当厳しいと指摘。2021年1月1日には、EU・英国の新たな関係について何ら合意のない状況で移行期間が終了するリスクがある、と危機感を示した。

今回のバルニエ首席交渉官の発言は、この前日に欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が、英国のボリス・ジョンソン首相との首脳会談(2020年1月9日記事参照)で明らかにした問題意識(2020年1月9日記事参照)を再確認するもの。2020年末以降の移行期間延長の必要性を否定するジョンソン首相の協議姿勢を牽制する狙いがあるものとみられる。

バルニエ首席交渉官はこの演説で、「英国が1月末にEUを離脱することは今や明らか」と発言。今後の数日で英国議会が離脱協定案を承認し、欧州議会も1月29日には同案を承認することになると具体的な日程を示している。また、離脱協定(に定められた移行期間)によって、2020年末までの11カ月間はEU・英国間のヒト・モノ・サービス・資本の自由移動の保障など、これまでのEU単一市場下での関係が維持される点も認めている。ただし、EU・英国の将来関係に関しては、移行期間終了までの11カ月間でできる最大限の合意形成のため、EUとして最善を尽くす用意はあるとしたが、「政治宣言」の全項目を合意するには11カ月以上の期間が必要として、2020年末以降の移行期間延長を認めない英国政府に翻意を促す構えだ。

世界的な課題や安全保障面の協議を経済関係に優先させる姿勢

また、バルニエ首席交渉官は、欧州委として2月1日までに包括的な交渉指令案を欧州理事会、閣僚理事会および欧州議会に対し提出する用意があるとする一方、2020年内にできることについて優先順位を検討しなければならないとの認識を表明。EUは経済同盟の前に政治同盟であるとの基本認識に立ち、第三国となる英国との関係についても、世界的な課題対策や安全保障での協力・協調を優先的に協議、これらが担保された段階で、経済関係の協議に入るべきとの立場を示した。この前提に立ち、同首席交渉官は、今後の協議を次の3つの段階で進める姿勢を明らかにした。

  1. EU・英国の協働を可能にする、新たな協力基盤の構築:EUとして、英国との2国間、あるいは国際機関などを通じて積極的に協力を継続する枠組みを模索する。特に気候変動対策や(自国優先主義に対抗する)多国間主義の推進、欧州の利益保全、中東和平など世界的な課題の解決に向けた協調の追求。
  2. EU・英国間の緊密な安全保障体制の構築:特にテロ、越境犯罪、サイバー犯罪に対する集団的対策、そのための協力体制の整備。
  3. EU・英国間の公平な競争環境を前提とする経済関係の構築:労働者の権利保護、消費者保護、環境基準の整合を図るとともに、EU27カ国の貿易の9%を占める英国との自由貿易関係構築を追求する。

同首席交渉官は、交渉指令の採択後、3月初旬までに交渉を立ち上げ、首脳間で交渉の進捗を確認する6月までに最大限の進捗を目指す、としている。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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