特集:各国が描く水素サプライチェーンの未来 グリーン水素生産国を目指し水素戦略を発表(ナミビア)
水素発電所の建設、欧州との連携が進む

2023年6月9日

ナミビアはアフリカ大陸の南西部に位置する中所得国で、西は大西洋に面し、南アフリカ共和国(南ア)など4カ国と国境を接する。有名なナミブ砂漠があり、日本の約2.2倍の広い国土を有する。人口は253万人(2021年)で、1人当たりGDPは4,865.6ドル(2021年)だが、経済格差が大きくジニ係数は世界ワースト2位の国だ。豊富な地下資源を有し、天然ガスなどのエネルギー産業が強い。

ナミビア政府は、2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を91%削減する目標を掲げており、大規模かつ低コストの再生可能エネルギー(再エネ)開発を実現するための取り組みを進めている。さらには、ポテンシャルを生かした水素産業構築にも力を入れ始めており、2022年に初めて水素戦略が発表された。

ナミビアの水素戦略と優位性

ナミビア政府は2021年5月に、グリーン水素協議会(GHC)を設立した。その後、GHCは2022年11月、エジプトで開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)において「グリーン水素・誘導体戦略(Green Hydrogen and Derivatives Strategy)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(33.27MB)」を発表。同戦略は、ナミビアを世界の主要な水素生産国にするため、2025年3月までの政府の行動計画について定めたものだ。

ナミビアは次の理由で、水素生産において有利な立地だという。

  • ナミビアは日照時間が長く、太陽光発電に適する。風力発電など再エネ資源も豊富。
  • 電気分解による海水淡水化により、持続可能で低コストの水供給が可能。
  • 人口密度が低く、広大な土地資源を保有。

これらの優位性を生かし、低コストでのグリーン水素生産を目指す。グリーン水素のほか、アンモニアやメタノールなどの生産も計画に含まれており、生産された製品は、国内消費のみならず欧州、日本などへの輸出も想定されている。

同戦略によれば、2030年までにグリーン水素の生産コストは1.2~1.3ドル/キログラム(kg)、派生製品(アンモニアやメタノールなど)は1.5~1.6ドル/kgと推定され、これは、南ア、モロッコ、サウジアラビアのグリーン水素製造コストより低価格になる。

生産目標と水素バレーの構築

生産目標は、2030年までに100万~200万トン、2040年までに500万~700万トン、2050年までに1,000万~1,200万トンと設定されており、2050年には世界の取引量の約5~8%をナミビアで生産することを見込む。

生産の拠点になる水素バレーは、表の3地域がある。

表:ナミビアにおける主要プロジェクト一覧
地域 概要 関連プロジェクト
クネネ州北部地域 太陽光と陸上風力発電のハイブリッド再エネを利用、新しく建設予定の港湾施設付近の電解プラントとアンモニアの生産に供給 ナミビア企業のカオカ・グリーン エナジー・ソリューションズが水素ハブ建設ためのFS調査を2024年7月まで実施予定
中央部
(首都やウォルビスベイ)
太陽光発電を利用、電解プラント、アンモニア生産、合成燃料用のターミナルに供給、ウォルビスベイ港から輸出、国内向けも供給 アフリカ初の水素とディーゼルを燃料にした鉄道製造プロジェクト、アフリカ初の水素発電所を建設など(2022年10月5日付ビジネス短信参照
カラス州南部 太陽光と陸上風力発電のハイブリッド再エネを利用、電解・誘導体プラントは水素パイプラインで接続され、輸出予定 南部回廊開発構想水素プロジェクトが進行中(後述に詳細記載)

出所:各種プレスリリースや報道を基にジェトロ作成

発電所の建設計画が進む

ナミビア中央部の沿岸にあるウォルビスベイでは、クリーナジー・ソリューション・ナミビア(Cleanergy Solutions Namibia)が国内初のグリーン水素・アンモニア製造プラントを建設中だ。同社は、ベルギー海運大手CMBテックとナミビア大手企業のオウルセーバー&リスト(Ohlthaver & List)のジョイントベンチャーだ。投資額は1,800万ドルで、2023年末までに稼働を目指している。

そのほか、ナミビア南西部では、政府主導で南部回廊開発構想(SCDI)水素プロジェクトが進行中だ。SCDIは2021年に国の経済成長計画の一環として構想されたもので、グリーン水素生産目標は年間300万トンと設定された。その構想の中で、ドイツ系企業の合弁会社であるハイフン・ハイドロジェン・エナジー(Hyphen Hydrogen Energy)が、ナミビア初の垂直統合型大規模グリーン水素プロジェクト(ハイフンプロジェクト)を計画中だ。同社は、大規模なグリーン水素発電所の建設を予定しており、投資予定額は94億ドルに上る。2026年末には第1弾として12万5,000トン分の生産が始まる予定で、本格的に稼働すれば、10年以内に年間30万トンのグリーン水素の生産が可能と推定される。

ワンストップ窓口の設置

ナミビア政府は今後、投資誘致、プロジェクト推進のために、インプリメンテーション・オーソリティ・オフィス(以下「IAO」)を設置予定だ。IAOは、今後の水素プロジェクトに関わるワンストップ支援窓口として機能し、ポテンシャルの高い土地の特定、デューデリジェンスの実施、法律や規制の見直し、許認可申請およびプロジェクトファイナンス文書作成に関する支援、プロジェクト管理などを一手に担う。そのほか、経済特区(SEZ)の建設も検討中だ。

財政面での課題、政府は先進諸国との連携を推進

政府は、グリーン水素産業の開発には2040年までに推定1,900億ドルの投資が必要だとしている。ナミビア政府の財政だけでは、非常に厳しい額だ。インフラ設備で950億ドルが必要で、今後、政府機関や民間投資をどのように呼び込むかが実現性を高めるために重要になる。

ナミビア政府は、各国と協力関係を構築し始めている。元々、ナミビアと欧州は歴史的、地理的に関係が近く、最も早く動いたのがドイツだ。2022年2月に、ドイツ連邦教育・研究省(BMBF)はナミビア政府と共同意向表明書を発表し、4,000万ユーロの資金提供を決定した。同年3月には、ドイツ連邦経済・気候保護省(BMWK)がナミビア政府と水素経済分野での協力に関する協定を締結している。そのほか、ベルギーやオランダとも覚書(MoU)を締結済みだ。

日本に関しては、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が2022年8月に開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD8)で、ナミビア鉱山エネルギー省(MME)とMoUを締結。金属鉱物資源およびカーボンニュートラル(水素・アンモニア)分野での関係強化を目的としている。今後、日本企業にとってビジネスとしてのポテンシャルがどの程度あるか、ナミビアの水素の動向に関心が集まる。

執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
トラスト・ムブトゥンガイ
ジンバブエ出身。2011年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査に従事。

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