特集:現地消費者のサステナブル消費の実情サステナビリティの波に乗るK-ビューティーブランド(韓国)

2024年5月8日

近年、世界各国では使い捨てプラスチックや資源のリサイクルに関する規制が強化されている。韓国では、1992年に「資源の節約とリサイクル促進に関する法律」(1993年施行)が制定され、今日まで様々な改正が行われている。対象製品は、食品、日用品、医薬品、電化製品の一部など多岐にわたり、「K-ビューティー(注1)」として世界的な人気を誇る化粧品類も含まれる。このような背景から、化粧品業界でも再生プラスチックの使用、包装資材の削減、リサイクルしやすい商品の開発など、サステナビリティに配慮した取り組みが加速している。小売店では「サステナブルブランド」や「ゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)製品」という売り場が設けられたり、資源回収の取り組みを始めたりと、消費者に対するサステナビリティへの意識の訴求が、トレンドの1つとなりつつある。

ジェトロが2024年3月に実施したサステナブル消費に関する消費者座談会においても、「過去1年間で購入経験のある環境に配慮した製品」として化粧品ブランドを挙げる消費者は多かった(2024年4月22日付地域・分析レポート参照)。本稿では、座談会で話題となった化粧品ブランドや韓国の化粧品小売り大手のサステナビリティに対する取り組みについて、消費者座談会(以下、座談会)、現地での市場調査を基にまとめた(座談会実施:2024年3月9日、現地市場調査:2024年3月8日)。

サステナブルな化粧品ブランド目指すAROMATICA

座談会において、女性の参加者に愛用者が多かった化粧品ブランドの1つが「AROMATICA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」だ。AROMATICAを愛用している理由として、「サステナビリティに配慮した原材料を使用している」や「持参した容器に詰め替えをしてくれる」などが挙げられた。AROMATICAは2004年にアロマテラピストが立ち上げた韓国の化粧品ブランド。2024年4月現在で、ソウル市内および近郊に専門店が2店舗あるほか、化粧品小売店やオンラインで販売している。

当初は「安心安全」をコンセプトに、天然の原材料を使用した化粧品を中心に販売。2011年ごろからは、さらにオーガニックの原材料やビーガン処方の要素を取り入れ、国際認証なども取得している。2019年にサステナブル・スマート・ファクトリー(注2)を設立、同年に国連グローバル・コンパクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注3)に署名した。2020年には、100%再生プラスチックの容器を採用した製品の販売を開始するなど、サステナビリティを意識したブランドコンセプトの醸成に注力している。

AROMATICAが2021年に発表したサステナビリティレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2020年以降もパッケージの素材変更が行われており、リサイクル素材を使用した容器、単一素材の容器、金属を使わないポンプ式容器などを使い、ボトルなどの色は無色を採用しているなど、リサイクルしやすいパッケージが採用されている。AROMATICAの製品ページをみると、多くの製品に100%リサイクルPET(注4)と90%リサイクルガラスが採用されている。また、すべての製品にパッケージの素材に関する説明が記載されており、使い終わった後の容器の解体方法、解体後の各部品の廃棄の仕方(リサイクルの可否)などを丁寧に解説している。また、2020年から空き瓶の回収を開始し、2021年からは「ジョイン・ザ・サークル」として活動を拡大し、廃棄物ゼロをコンセプトとした他店舗や自治体、学校と連携して使い終わった空き瓶やプラスチックボトルを回収し、回収した資源をリサイクルして自社製品の容器に利用している。空き瓶やプラスチックボトルをAROMATICAの店舗に持ち込みまたは郵送で送った消費者には、会員向けのポイントを還元することで資源回収に協力することへの動機付けを行っている。

AROMATICA専門店のスタッフによると、「過去には不織布製のフェイスマスクを販売していたが、廃棄物削減の観点から塗布するタイプの製品に切り換えた」といい、サステナビリティを軸に製品デザインから使用後の廃棄・資源回収までの一貫したものづくりへのこだわりがうかがえる(ヒアリング:2024年3月8日)。


AROMATICAの専門店(ジェトロ撮影)

ペットボトル・ガラス瓶の回収箱(ジェトロ撮影)

時代の流れに合わせサステナブル企業に成長したDonggubat

ビーガン原料のせっけんブランド「Donggubat(ドングバット)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」も 、複数の座談会参加者が購入していた。Donggubatでは、固形シャンプーや食器洗い用のせっけんなどを購入している参加者が多く、購入の理由として「ビーガン素材で肌に良い」「プラスチックの包装材を使っていない」点などが挙げられた。Donggubatは、障害のある人とない人が共に参加するソウル都心部の家庭菜園ボランティア「Donggubatプロジェクト」を母体に2015年に設立された。従業員の半数以上が発達障害者で、「障害のある人とない人が一緒に作る持続可能な日常」というスローガンの下、化粧品や生活用品の製造・販売を行っている。設立当初は、ボランティア活動で収穫した作物を原料として、せっけんを作るというアイディアから始まったが、時代の流れとともに、環境問題に関する社会の意識も高まり、サステナブルな製品を作ることもDonggubatが果たすべき役割だと認識し、製造を始めたという。こうして、2017年には食器洗い用のせっけん、2019年には固形シャンプーを発売し、同年には米国のUSDAオーガニック(注5)の認証を取得した。2024年4月現在で、ソウル市内の免税店で販売しているほか、化粧品小売店やオンラインで販売している。

Donggubatの製品ページをみると、製品は成分の選定から原料の配合まで念入りな検査をした上で、フランスのイブビーガン認証(注6)などの各種認証を受けた厳格な管理の下、生産されている。また、植物由来成分を使用し、動物性原料を使わず、動物実験を実施しないアニマルフレンドリーな製品づくりも意識している。また、製品にはプラスチックを一切使用せず、包装もリサイクル可能な素材で最小限にとどめており、同社製品を使用して排出される廃棄物は包装紙のみとなっている。自然由来の素材を好む消費者やプラスチックの削減に意識の高い消費者の支持を集めている。


免税店内にあるDonggubat売り場(ジェトロ撮影)

製品パッケージ(ジェトロ撮影)

化粧品小売店最大手のオリーブヤングの取り組み

新型コロナ禍以降、韓国における化粧品類の販売は、様々なブランドを取り扱うヘルス&ビューティーストアが主戦場となっている。中でも、「オリーブヤング外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」は、韓国国内に1,000店舗以上を展開する最大手だ。同社は化粧品業界を牽引する立場として、サステナビリティに対応したさまざまな取り組みを行っている。

(1)オリーブヤング・クリーンビューティー:地球、人、動物にやさしい化粧品を選定

オリーブヤングでは、「オリーブヤング・クリーンビューティー」というプロジェクトを2020年6月から開始した。本プロジェクトは、「地球にも、動物にも、自分自身にももう少し優しい生活」を消費者に提案し、その実現のためにクリーンビューティー(注7)を生活に取り入れることを促す取り組み。さらに本プロジェクトを通して、クリーンビューティーをK-ビューティーの新たな成長材料として積極的に育成することを目的としている。

クリーンビューティーの認知度を高めるために、オリーブヤング独自の3つのクリーンビューティー基準を策定し、その基準を満たした商品に選定マークを付与している。3つの基準とは、成分、動物福祉、サステナブルである。中でも、成分基準は「オリーブヤング・クリーンビューティー」選定ブランドの必須条件で、化粧品業界や専門資料などを基に選定した「人体に害を与えるとの疑いがある16種類の成分」が入っていないことが求められる(注8)。この成分基準を満たした製品には基本マーク(エンブレム)が付与され、さらに動物福祉(動物実験を実施しない、動物性原料を使用しないなど)、サステナブルな取り組みを実践しているブランドに対しては追加で、それぞれ「アニマルフレンドリー」「エコフレンドリー」マークが付与される(表参照)。

「オリーブヤング・クリーンビューティー」選定製品は、開始当初の12から2023年には40以上に増えている。なお、本マークが付与された製品はオリーブヤング公式サイトで確認することができる。

表:オリーブヤング・クリーンビューティー選定マーク(エンブレム)
名称 基本マーク 「アニマルフレンドリー」マーク 「エコフレンドリー」マーク
付与条件 人体に害を与えるとの疑いがある16種類の成分が入っていないこと 動物性原料が入っていないことおよび生産過程での動物虐待の最小化 リサイクルしやすい素材の使用、FSC(Forest Stewardship Council、森林管理協議会)認証取得、大豆インクの使用など
付与
エンブレム
基本マーク
「アニマルフレンドリー」マーク
「エコフレンドリー」マーク

出所:CJプレスリリース(2020年6月29日)を基にジェトロ作成

(2)ビューティーサイクル:化粧品の空容器リサイクルを促進

「ビューティーサイクル」は、「オリーブヤング・クリーンビューティー」に関連して2023年8月から実施している資源回収キャンペーン。化粧品容器の90%が通常の廃棄物処理ではリサイクルが難しいという点に着目し、オリーブヤングの主要20店舗に回収箱(リサイクルボックス)を設置し、使い終わった化粧品容器を回収することで、消費者にリサイクルの実践を促すことを目的としている。プラスチック容器であれば、オリーブヤングでの購入商品でなくても回収が可能。回収した容器は粉砕や洗浄、原料化などの処理工程を経て、化粧品容器として生まれ変わるだけでなく、家電製品や建設資材などのさまざまな製品の原料として再利用される。当初、本キャンペーンは2022年3月から2023年2月までの期間限定の実施だったが、コンシャスビューティー(注9)のさらなる啓発を目指し、全国の店舗を対象に2023年8月から常時運営となった。

このほかにも、2015年から紙の領収書を廃止し、同社のスマートフォンアプリで領収書をオンライン発行したり、即時宅配サービスである「オヌルドリーム」の包装材をリサイクル可能なクラフト紙へ変更したりするなど、環境に配慮した活動を積極的に行っている。これらのオリーブヤングによるサステナビリティへの取り組みは、2020年10月には国連SDGs支援協会が発表する「持続可能な開発目標ビジネス指数」で最優秀グループに選定され、世界的にも評価された(注10)。

このように、韓国の化粧品業界ではメーカーや小売店などがそれぞれの独自の方法で、消費者に対するサステナビリティ意識の向上を促す取り組みを実践している。消費者においても、化粧品を選ぶ際の1つの大きな基準となる「肌にやさしい」という価値に加え、環境、社会、動物などサステナビリティへの配慮が新たな価値として支持され始めている。


オリーブヤング店内に設置されているリサイクルボックス(ジェトロ撮影)

注1:
K-ビューティーのKはKoreaの頭文字で、K-POPのような韓国ならではの美容産業を意味する。
注2:
ソウル市の南に位置する京畿道烏山に所在。電力消費を最小にし、エネルギーリサイクル率を高めた工場(出所:AROMATICAサステナビリティレポート2021外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。
注3:
人権、労働、環境、腐敗防止の4分野・10原則を定め、国連グローバル・コンパクトに署名する会員は、10原則に賛同し、実現に向けた継続的な努力が求められる。会員数は世界で2万4,419社・団体(国連グローバル・コンパクトウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、2024年4月22日閲覧)。
注4:
ポリエチレンテレフタレート。
注5:
米国農務省(United States Department of Agriculture)によるオーガニック認証制度。
注6:
製品の生産過程で動物性成分を一切使用していないこと、また動物実験を実施していないことを証明する認証(出所:Donggubat公式ホームページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。
注7:
「人や環境に配慮した化粧品」を指す。
注8:
CJプレスリリース(2020年6月29日付)(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。オリーブヤングはCJグループ傘下。
注9:
化粧品類を購入する際に「自分の肌」だけでなく、環境や社会などに配慮し、ポジティブな影響をもたらすことを意識すること。
注10:
CJプレスリリース(2020年10月29日付)(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます国連経済社会局持続可能な開発部サイト(2024年4月19日閲覧)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
花輪 夏海(はなわ なつみ)
2021年、ジェトロ入構。農林水産食品部商流構築課を経て2023年8月から現職。