モロッコのインテリア・デザイン市場の今

2024年3月28日

安定した経済成長の続くモロッコでは、商都カサブランカなど都市部を中心に、富裕層向けのインテリア・デザイン雑貨ショップが集まる。消費者の関心は有名欧米ブランドにあり、日本製にはなじみがない。メード・イン・ジャパン参入の可能性のヒントについて、複数のショップオーナーに聞いた(取材時期:2024年1~2月)。


カサブランカのデザイン雑貨ショップの店内(ジェトロ撮影)

高級品市場の特徴

IMFによると、モロッコの2023年の1人当たりGDPは3,980ドルで、23年前の2000年(1,490ドル)と比べ、2.7倍に増加した。王族や財閥幹部を頂点とする富裕層が高級品のメインの購買層で、消費をリードしている。職種では特に金融・保険業界が高給取りとされ、可処分所得が高いという。直近の2023年の失業率は13.0%、また、貧富の差も大きい。フランスのメディアでは、モロッコが国家規模で毎年得られる収入の半分以上を全人口の5分の1に当たる富裕層が独占していると報じている。

富裕層は、商都カサブランカや行政都市ラバト、観光都市マラケシュや国際港タンジェなどの都市部に集中している。

2000年代以前は、高級ブランド品を購入できるのはごく一部の富裕層のみで、ブランド品はフランスなど国外で調達していたが、2000年代に入って、国内にも高級ブランドを扱うブティックやモールが誕生し、一般消費者も手の届く環境となっている。王族「御用達」のアイテムは、自身のステータスを誇示できる憧れのアイテムとされる。

インテリア・デザイン雑貨市場の消費者嗜好(しこう)性

モロッコ市場では、欧米地域のブランドが好まれる傾向にある。主な顧客の富裕層が、富を象徴し、他者と差別化できる個性的なデザインを欧米のブランドに求めているためだ。顧客は日常生活や特別な機会に花を添える商品を求める。また、一般庶民も、真がんは不明ながら、ブランドロゴ付き衣料品やバックなどを身に着けており、ブランド好きは社会全体の傾向といえよう。

モロッコの富裕層はパリなど欧米文化の発信地と頻繁に往来しており、また、欧米のテレビやネット、世界に広がる人的ネットワークを通じて、最新のトレンド情報を入手しているため、ブランドや品質、機能に関する知識は豊富だ。

主なセレクトショップの売れ筋と関心アイテム

欧米ブランド雑貨の低・中価格帯は、イケアやバージンメガストア、イングリッシュ・ホーム(ENGLISH HOME)などの外国系大手販売店にもあるが、高級品は主に主要都市にあるセレクトショップで扱われている。これらショップの顧客は、富裕層の個人客やホテル・飲食サービス業界、室内調度品コーディネーターが中心だが、あるショップオーナーは、クリスマス時期などにはミドルクラスの消費者もこれまでと違うプレゼント探しにやってくるようなったと話す。トゥ・コンセプト(To Concept)、ルージュ・イヴォアール(Rouge Ivoire)、ニュアンス・メゾン(Nuances Maisons)、ボチク(Bochik)、テンダンス・インサイド(Tendance Inside)など、人気の欧米ブランドのセレクトショップはカサブランカが最多の20店舗以上ある。特に店舗が集まる地域は、高級テーブルウエアや雑貨店が集まるマーリフ(Maarif)地区やブルゴーニュ(Bourgogne)地区だ。

店舗ではテーブルウエアや衣類、ジュエリー装飾品、家具や椅子、照明、音響類といったインテリア関連品を幅広く扱っており、ユニークさ、高品質、高級、モダン、機能性、ブランド力などをキーワードに、商品を取りそろえている。また、店頭販売とオンライン販売を併用するのが主流だ。

一方、モロッコは陶器やカフタンなどの伝統衣装・装飾品、革製品、寄木細工、じゅうたん・ラグなど伝統的な軽工業が盛んで、ハンドクラフト品は消費者の身の回りにいつもあるものとしてなじみ深く、ハンドメードをリスペクトしている消費者も多い。実は、こうした製品が欧米人などに好評で観光産業推進の大きな要素となっている。例えば、陶器ではフェズやサフィなど有力な集積地が複数国内にあり、モザイクなど独特の色合いや形、デザインが人気になっている。


カフタンドレス(ジェトロ撮影)

伝統的モザイク装飾(ジェトロ撮影)

日本製雑貨の浸透可能性

今回の市場調査の取材で訪問したショップのほとんどは日本製品を扱っていなかった。彼らも毎年、メゾンエオブジェ(フランス)やアンビエンテ(ドイツ)、ミラノサローネ(イタリア)など世界的デザイン見本市に足を運び、新商品を発掘しているが、メード・イン・ジャパンはこれまで視野に入っていなかったようだ。

陶芸など日本の工芸品に関心を持つオーナーもいたが、取引の実績や経験がないため、先払いといった信用取引は難しいと話す。さらに、消費者も日本商品の知識がないため、パリのル・ボンマルシェやギャラリーラファイエットなどの有名店で扱っていたり、世界的デザイン賞を受賞したりしているといった、客観的に価値を示す情報がないと、高額な日本製品に消費者が関心を持つことはないとのことだった。

新型コロナウイルス禍を経て、モロッコの消費者は自宅内の装飾に関心を持つようになってきたと言われている。あるショップオーナーは、伝統的な職人技とモダンなデザインを融合させた製品は関心を引くだろうが、地元のデザインの嗜好(しこう)性を理解することが重要と話す。認知度の低い日本製品の普及には、広報も含め、現地バイヤーとの連携が不可欠となる。

所得の高低を問わず、モロッコには日本のアニメや漫画、すしなどの日本食、ゲームなど日本文化に親しみを持つ層が一定数いる。家族で訪日し、訪問先でよい印象を持って日本のファンになった富裕層もいるものの、残念ながら、現時点では日本製インテリア・デザイン雑貨の認知度はゼロに等しい。しかし、生活に差別化を求める消費者の存在する市場であり、メード・イン・ジャパン製品の新たな進出先として、秘めた可能性は感じられる。

【参考】ジェトロ・海外発トレンドレポート「モロッコにおけるギフト用品・デザイン小物市場調査」PDFファイル(4.47MB)

執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所長
本田 雅英 (ほんだ まさひで)
1988年、ジェトロ入構。総務部、企画部、ジェトロ福井、ジェトロ静岡などで勤務。海外はハンガリーに3度赴任。ジェトロ鳥取を経て2021年7月から現職。