多民族国家マレーシアで東南アジア向けテストマーケティングを

2024年3月22日

多くの日本企業にとって、海外でのEC(電子商取引)販売のためには専門性や知見が必要であり、成功は容易ではない。ジェイノベーションはマレーシアを拠点とし、サプライヤーの東南アジアへの展開を様々な面からサポートしている。マレーシアの消費者の特性、海外ECで売り上げを伸ばすためのポイントなどについて、同社の代表取締役兼CEOダイレクターの宮城建司氏にインタビューを実施した(取材日:2024年1月18日)。

会社概要

社名:
(日本法人)株式会社ジェイノベーション(ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
(マレーシア現地法人)JINNOVATION (M) SDN.BHD.
設立年:
(日本法人)2017年5月
(マレーシア現地法人)2017年11月
事業内容:
オールインワン商社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます®」として、顧客(メーカー)の海外展開を通関、物流、プロモーション、営業代行、EC運用など様々な面から支援。顧客は日本の倉庫に商品を納品するだけでよく、海外消費者への直接販売(D2C)をサポート。本サービスはシンガポール、台湾、ベトナムにも展開。メーカーのD2C支援を得意とする。
食品、化粧品、サプリメント、美容機器など幅広い商品を取り扱っており、マレーシアでの実店舗での対面販売のほか、現地大手ドラッグストアなどへの卸売事業、ECプラットフォームなどでの自社旗艦店を通じた販売などを行っている。
主な販路:
卸販売店舗:大手ドラッグストア(Watsons/Sasa/Dondondonki/AINZ&TULPE/AEON Wellness)、 ECショップ(Shopee/Lazada/Tiktokshop/PG Mall)

ジェイノベーションの宮城 建司代表取締役兼CEOダイレクター(同社提供)

マレーシアは東南アジアのテストマーケティングに適した国

質問:
マレーシアを拠点とした理由は。
答え:
主に3つある。第1に、マレー系、中華系など人種の多様性に富んでいること。第2に土地価格が安く、倉庫の保管コストが安定しており、立地面で東南アジアのハブに適していること。第3に、英語や中国語など多様なビジネスニーズに対応できる人材が豊富であることだ。
マレー系が人口の大半を占め、中華系も2割を占めるという民族構成の特性から、東南アジア向けのテストマーケティングの場に適していると言える。マレーシアの中華系へのテスト結果は、同じく中華系の多いシンガポールで、マレー系へのテスト結果はムスリム(イスラム教徒)の多いインドネシアでも生かせるだろう。
質問:
マレーシアの消費者の人気商品は何か。また、マーケティング戦略のポイントは。
答え:
当社では、フレグランスや基礎化粧品の売り上げが毎月伸びている。人種・宗教が多様であるがゆえに、特に化粧品ではハラール認証(注1)の取得や、肌質、肌色の違いなどを踏まえたマーケティング戦略が重要である。ハラール認証に関しては、ムスリム向けに販売する際も、ハラールフレンドリーな商品であれば認証取得が必要不可欠ではないと感じる。むしろ、アニマルフリーやオーガニックであることをきちんと表示・説明することで、ムスリム消費者に正しい情報を伝え、安心感を与えることが効果的である。
また、中華系の消費者の間では、一般的に、台湾や香港で売り上げ実績のある商品が好まれる傾向にある。実際に、当社で人気のフレグランス商品も、もともと東南アジアで販売されていなかったが、台湾で販売数が伸びてきたことで、マレーシアで販売を開始し、人気商品となった。
質問:
成長性を感じる商品は。
答え:
アニメ関連の商品がより人気になると予測している。インターネットを通じたアニメ配信が世界中で増える中、マレーシアでもアニメイベントへの参加者が年々増加しており、熱狂的な反応が見られるためだ。
質問:
マレーシアの大手ECプラットフォームであるShopee と Lazadaに旗艦店(自社運営店)を出店する中で感じる、それぞれの特徴と違いは。
答え:
当社を設立した7年前はLazadaが優位だったが、現在はShopeeが優位になったと感じる。主な理由は、過去4年間でShopeeの利用者数が圧倒的に増加したためである。サプライヤーが利用登録をするハードルが低いのが、利用者数増加の要因といえる。ライブコマースやアフィリエイト機能(注2)など、購買促進のための多様なプロモーション手段を提供しているのも特徴的である。一方で、Lazadaは利用登録歴が長く、ECでの買い物に慣れているユーザーが多いため、高価格帯の商品も売れる傾向にある。 このようにそれぞれ特徴や違いがあるため、マレーシアでEC販売を行う場合は、両方のプラットフォームを利用するのがよい。片方利用するのと手間は大きく変わらない。

Shopeeにおける旗艦店「Nihon2u」(同社提供)

オフラインとオンラインを融合したPRが効果的

質問:
日本の事業者が海外 EC で売り上げを伸ばすために重視すべきことは。
答え:
ECで売り上げを伸ばすための重要なポイントは、主に2点ある。1点目は現地在庫の保有である。これは、消費者のニーズに応じて迅速に商品が配送できること、また、価格競争が激しいEC市場において、コスト削減を通じてより適正な価格で販売できる点で、大きな強みとなる。 2点目は、時流に合った現地プロモーションとマーケティングの実施である。日本製品は安心・安全・高品質であるという点で魅力的だが、プロモーションやブランディングに課題を感じる。海外のマーケティングトレンドは速いペースで変化している。例えばコロナ禍ではライブコマースが主流だったが、現在はTikTokショップなどSNS機能の活用が重要である。
質問:
現地で効果的なプロモーションとは具体的にどういったものか。
答え:
オフラインとオンラインを融合したプロモーションが効果的である。具体的には、現地の展示会や催事への出展、卸販売を通じて、様々な店舗に商品を展開することだ。同時に、ウェブ上のプロモーションを行い、ECでの売り上げを伸ばしながら認知度を高め、最終的には、リアルな店舗でも商品が売れる流れを作ることが強力な戦略だと考える。商品を店舗に並べることで、オンライン上で「この商品は有名化粧品店でも人気」といったプロモーションが可能となり、商品への信頼が向上する。オンラインのみで販売されている商品よりも、店舗でも販売されている商品の方が信頼されやすいためだ。実際にこの手法で、それまで無名だったブランドのフェイスパックの売り上げが大きく伸びた事例もある。
質問:
オンラインプロモーションで効果的な媒体と時期は。
答え:
まず、ECプラットフォーム内の広告を利用することが重要。インフルエンサーとのコラボレーション、FacebookやTikTokなどのSNSを使ったプロモーションが効果的。インフルエンサーに関しては、誰に依頼するかによって効果が大きく異なるため、慎重に選定する必要がある。
プロモーションの時期は、ハリラヤ(イスラム教徒の断食明け大祭)の前後および年末年始、旧正月が絶好のタイミング。11月11日などゾロ目の日も、縁起がよいとされており、プロモーション効果が高い。

注1:
ハラールとは、イスラーム法において「合法、許された」を意味するもの。ハラール認証は商品のハラール性を認証するもの。
注2:
キーオピニオンリーダーにSNSなどで商品を紹介してもらい、発生したオーダー数に対して成功報酬を払うこと。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
加峯 あゆみ(かぶ あゆみ)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部、ジェトロ大分を経て2023年10月から現職。