段階的に進む自動化、日系製造業の76%が関心(ベトナム)

2024年3月27日

米中摩擦や新型コロナ禍に伴う混乱を受け、サプライチェーン再編の動きが活発化する中、世界に向けた輸出拠点としてASEANでの生産需要が拡大している。一方、ASEAN域内でも人件費上昇や人材確保への懸念が高まるなど、生産拠点としての事業環境が変化してきている。

そのような状況下、生産ラインの自動化導入について関心が高まりつつある。ジェトロが2023年8~9月に実施した「2023年度海外進出日系企業実態調査」(以下、日系企業調査)では、アジア地域に進出している日系製造業に対して、生産ラインの自動化(ロボットやAIの導入など)の取り組み状況と関心度合いを聞いた。すでに自動化に取り組んでいる日系企業の割合は、ASEANで29.7%だった(図1参照)。そのうち、マレーシア(39.9%)は4割がすでに取り組んでいるものの、日系製造業が多く進出するベトナム(28.9%)やインドネシア(28.3%)、タイ(27.9%)は3割を下回っている。すでに自動化に取り組んでいる割合が45.2%の中国と比べると、ASEANでの自動化の浸透度合いはまだ低い水準にあるといえる。

図1:自動化の取り組み状況(国・地域別)
アジア地域に進出している日系製造業に対して、生産ラインの自動化(ロボットやAIの導入など)の取り組み状況と関心度合いを聞いた。すでに自動化に取り組んでいる日系企業の割合は、ASEANで29.7%だった。そのうち、マレーシア(39.9%)は4割がすでに取り組んでいるものの、日系製造業が多く進出するベトナム(28.9%)やインドネシア(28.3%)、タイ(27.9%)は3割を下回っている。すでに自動化に取り組んでいる割合が45.2%の中国と比べると、ASEANでの自動化の浸透度合いはまだ低い水準にあるといえる。

注:カッコ内は集計企業対象数。
出所:ジェトロ「2023年度海外進出日系企業実態調査」

一方、自動化への関心度合いをみると、関心がある(「非常に関心がある」と「まあ関心がある」の合計)と回答した企業の割合は、ASEANで73.5%だった(図2参照)。そのうち、すでに取り組みが進んでいるマレーシアが関心度合いも81.2%で最も高かったが、それにベトナムが75.9%で続いた。ベトナムはASEANの中でも比較的安価な賃金と豊富な労働力で注目されることが多いが、自動化への関心も高いことが分かった。

図2:自動化への関心度合い(国・地域別)
自動化への関心度合いをみると、  関心がある(「非常に関心がある」と「まあ関心がある」の合計)と回答した企業の割合は、ASEANで73.5%だった。そのうち、すでに取り組みが進んでいるマレーシアが関心度合いも81.2%で最も高かったが、それにベトナムが75.9%で続いた。  

注:カッコ内は集計企業対象数。
出所:ジェトロ「2023年度海外進出日系企業実態調査」

生産移管がもたらす自動化

その実態を探ると、まずはベトナムへの製造業の投資が続いていることが、結果的に生産ラインの自動化をもたらしていることが見えてきた。米中摩擦や事業継続計画(BCP)の観点から、中国や日本からの生産移管を含め、ベトナムでの生産を増強する動きが近年もみられる。生産増強の際には、マザー工場ですでに自動化されている生産ラインと同様のものが導入されることが多い。また、設備の導入時期が新しければ、技術も進歩している可能性が高く、最新技術を用いた自動化ラインの導入につながる。この傾向は、電気・電子産業で特に顕著だ。複数企業へのヒアリングによると、同産業の韓国や台湾、中国などの外資企業でも、ベトナムに生産移管する際には自動化が進んだ生産ラインが新設されているケースが多いようだ。

また、ベトナム拠点がグローバル生産の中核拠点になることで、自動化の取り組みが進む面もある。OA機器や縫製関連品など、ベトナムが世界の市場に向けた供給拠点となっている製品では、ベトナム拠点が生産ラインの設計や開発も担っており、率先して自動化を進める動きがみられる。

安定した生産のための自動化

既存の設備を自動化に切り替える動きも、徐々に進行している。日系企業調査によると、生産ラインの自動化に取り組む背景・理由としては、ASEANでは「生産ラインや生産技術の高度化」と「人件費の上昇」が上位に挙げられ、ベトナムでも同様の傾向となった(図3参照)。

図3:ASEANとベトナムの自動化に取り組む背景・理由(複数回答)
生産ラインの自動化に取り組む背景・理由としては、ASEANでは「生産ラインや生産技術の高度化」と「人件費の上昇」が上位に挙げられ、ベトナムでも同様の傾向となった。ベトナムでは、「生産ラインや生産技術の高度化」と回答した企業の割合が一番高く、79.9%だった。似たような項目として「生産品の高付加価値化」と回答した企業も27.9%あった。「ワーカー不足」と回答した在ベトナム日系企業の割合は37.0%だった。「人件費の上昇」と回答した在ベトナム日系企業の割合は74.0%で、無視できない  要素となっている。  

注:カッコ内は集計企業対象数。
出所:ジェトロ「2023年度海外進出日系企業実態調査」

ベトナムでは、自動化に取り組む背景・理由として「生産ラインや生産技術の高度化」と回答した企業の割合が最も高く、79.9%だった。似たような項目として「生産品の高付加価値化」と回答した企業も27.9%あった。ベトナム人の手先が器用な面を評価し、多品種少量生産など、ベトナムでは自動化よりも手作業を重視する企業も一定数あるが、自動化によって生産の高度化をはかる動きも出てきている。これまでは人の経験や能力に頼る作業が主流だった場合でも、補助的に自動化を取り入れることにより、スピードや品質の面で安定した生産を目指すというものだ。例えば、計量や包装、検査工程の自動化などが挙げられる。検査工程では、外観検査装置を導入することで、目視検査よりも安定性を高められる可能性がある。労働集約的な縫製の現場でも、外観検査装置のほか、裁断システムや自動ミシンなどの導入が進んでいる。日系企業からは、品質や納期に対する顧客の要望が高度化していることも、自動化を進める要因になっているとの声もある。

自動化に取り組む背景・理由として「ワーカー不足」と回答した在ベトナム日系企業の割合は37.0%だった。複数の日系企業へのヒアリングによると、外資企業の進出が相次ぐ地域では労働需給が芳しくない場合もあるが、全国的には必ずしも労働者が不足しているわけではなく、自動化を進めるきっかけにはあまりなっていない、との意見が多かった。一方、ベトナムは従業員のジョブホッピングが一般的で、離職率が高いことが経営上の課題として挙げられる。ワーカーの離職・交代に備え、人手に頼る工程の削減や熟練していない人でも対応できるようにするなど、生産体制の維持を目的とした自動化を進める企業もみられる。

また、労務環境改善の観点から、生産ラインを担う従業員の安全面の強化や負担の軽減を進める企業が増えている。重労働や危険な作業は、各種機械で代用するなど、対応が講じられている。その中で、搬送作業は自動運搬機(AGV)やコンベヤを導入するなど、自動化も進展している。

人件費上昇への対策は中長期的な課題

自動化に取り組む背景・理由として「人件費の上昇」と回答した在ベトナム日系企業の割合は74.0%で、無視できない要素となっている。ベトナムの賃金上昇は、2010年代よりも落ち着いてきているが、新型コロナ禍で経済が低迷した2020年と2021年でも、日系企業の賃金上昇率は年間5%を超えた。今後も継続的な人件費の上昇が見込まれ、中長期的には生産コストを抑える工夫が求められる。一方、現状の賃金水準は、相対的にまだ安価な位置にある。ベトナムの日系企業の平均月額基本給は2023年時点で、製造業のワーカークラスが273ドルと、中国(576ドル)の半分以下に相当し、マレーシア(451ドル)、タイ(410ドル)、インドネシア(377ドル)よりも低い。そのため、日系企業は自動化に関心を持ちながらも、現在の賃金水準を踏まえると、喫緊の課題という意識は必ずしも高いわけではないようだ。それぞれ自動化の設備導入による効果を踏まえ、投資コストを回収しやすいところから段階的に検討している企業が多い。実際に自動化を進める日系メーカーによると、中国工場では投資回収の観点から導入しやすかった設備も、人件費が安価なベトナム工場では時期尚早と判断されるケースもあるという。また、工作機械などを新たに導入した場合でも、生産ライン全体を自動化せず、最終工程の組み立てや検査は人が担うといった、半自動化を採用するケースもみられる。

エンジニアは自社での育成が必要

自動化の障壁については、「自動化技術を扱える人材確保が困難」なことが48.6%の在ベトナム日系企業から指摘された(図4参照)。複数の日系企業へのヒアリングによると、ソフトウェア開発の若手人材は続々と輩出されているものの、工業系のエンジニアは人数と技術力の両面で不足感が否めない、との声が多かった。ただし、向上心の高いベトナム人材は多いとの意見も多く、企業が自ら人材を育成していくことに活路を見いだしているケースもある。実際、ある日系メーカーでは、ベトナム人エンジニアが生産技術開発を担い、生産ラインの自動化を進めている。ジョブホッピングによる離職リスクもあるが、新しいことへの挑戦機会の提供や、昇給を伴うキャリアプランの提示などで、人材の定着につなげているとの声もある。他方、従業員がある程度は転職するという前提で、継続的な人材採用と育成で回している日系企業もある。

電力面については、ベトナムはASEAN平均と比べて、「電気代が高い」という指摘は少ない一方、「電力供給が不安定」という指摘が多かった。地域と季節によっては節電要請が生じるリスクが高まっているほか、不安定な電圧や瞬低・瞬停など、電気設備を使った生産では懸念材料になっている。無停電電源装置(UPS)や発電機の導入で、ある程度対策できる点もあるが、コスト面を含めて負担を強いられる状況だ。

図4:ASEANとベトナムの自動化の障壁(複数回答)
自動化の障壁については、「自動化技術を扱える人材確保が困難」なことが48.6%の在ベトナム日系企業から指摘された。電力面については、ベトナムはASEAN平均と比べて、「電気代が高い」という指摘は少ない一方、「電力供給が不安定」という指摘が多かった。

注:カッコ内は集計企業対象数。
出所:ジェトロ「2023年度海外進出日系企業実態調査」

グローバルサプライチェーンへの参入が自動化を推進へ

ベトナムにおける自動化は、サプライチェーン再編の潮流の中、電気・電子産業を中心に同国への生産移管が続くことで、今後も進展が見込まれる。一方、その他の産業では安価な人件費が依然として強みとなっている面があり、自動化のスピードは決して速いとはいえない。特に日系企業は初期の投資段階から、将来を見越して機械と人の配置を決めている傾向が強い。そのため、ベトナム拠点でも効果測定や分析をしながら段階的に自動化を進めていく動きは起きているが、急激な自動化の導入は考えにくい。設備導入に伴う投資コストとその回収期間をどのように捉えるかが、当面は自動化導入のポイントとなるだろう。

それでも、脱炭素化の潮流や電気料金の値上げが顕著になってきたことを受け、工場全体の電力消費量の見える化(電力計測のモニタリング)ニーズが高まるなど、新たな需要が生じている面もある。また、地場企業での自動化は、部品搬送など一部に限られることが多いが、グローバルサプライチェーンに参入するようなところでは設備への積極的な投資も生まれている。ベトナムでは急激な自動化ニーズを見込むことは難しいが、グローバルサプライチェーンに占めるベトナム拠点の位置付けが高まるに連れ、自動化の動きも徐々に加速するだろう。

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
庄 浩充(しょう ひろみつ)
2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)、広報課、ジェトロ・ハノイ事務所(ベトナム)を経て現職。