動き出す南部アフリカ大動脈構想
米中の資源開発が開発の推進力に

2024年3月22日

2023年9月30日~10月5日にコンゴ民主共和国(以下、DRC)南部のコルウェジで、南部アフリカの経済開発をテーマにしたインフラ関連の国際会議「エキスポ・べトン」が開催された。DRCは世界最大のコバルト生産国で、脱炭素化に欠かせないクリティカルミネラル(重要鉱物)の主要産地として、世界経済において存在感を高めつつある。そして、コバルトをめぐる米中の新たな競争により、これまで停滞してきた南部アフリカの大規模な開発構想が急速に進みつつある。本稿では、米中の資源競争の動向とDRCを中心とした南部アフリカの大動脈構想、そしてそれにかかる日本企業のビジネスの可能性について述べる。

世界のハイテク産業を支えるコバルトの生産地へ

DRC南部の中心都市であるルブンバシから、20人乗りのプロペラ機で約1時間。広大な森林地帯を抜けて、突如として現れる巨大な鉱山を見下ろしながら、コルウェジ空港に到着した。かつて、コルウェジはルブンバシと同じカタンガ州であったが分割され、現在、コルウェジはルアラバ州に属している。国内線であっても州をまたげば、空港で黄熱病の予防接種証明書やパスポートの提示が求められる。コルウェジは、周囲を広大な森林に囲まれた陸の孤島で、ルブンバシからは陸路で6時間以上かかるという。

コルウェジは、DRCがベルギー領だった1930年代に鉱山開発が始まり、入植が始まったとされる。国連の推計によると、1950年にはわずか人口3万人しかいなかった町は、1978年の「コルウェジの戦い」(注)など激しい戦闘の舞台となりつつも、2020年には約50万人と急速に拡大している。上空から見たコルウェジの町は、密度は濃くはないものの、広く住宅が続いていた。街中では中古車しか見かけなかったが、ホテルの駐車場には四輪駆動の新車が並び、レストランでは富裕層が談笑する姿がみられるなど、別世界の様相を呈している。


上空から見たコルウェジの町(ジェトロ撮影)

コルウェジは世界的な銅・コバルトの生産地で、近郊には中国が投資するテンケ・フングルメ鉱山や、カナダのイバンホーが投資するカモア・カクラ鉱山が存在する。町の端からすぐに鉱山地帯が始まっており、街の中心部を、鉱石を運ぶダンプカーやバイクがひっきりなしに通り過ぎる。はずれには鉱石を集めるデポと呼ばれる作業場が立ち並び、土埃にまみれた労働者が働いている。

エキスポ・べトン(べトンはフランス語でコンクリートの意味)は、コルウェジのはずれにある経済特区の特設会場で約1週間にわたり開催された。会場内では、コルウェジやルブンバシの地場大手企業のほか、DRC全土に支店を構える大手銀行、政府機関などがブース展示を行った。会議中には、地元ルアラバ州の知事や関係閣僚に加え、首都キンシャサからフェリックス・チセケディ大統領、ヴィタル・カーメル副首相、財務相、工業相、教育相などの中央政府の要人らも訪れ、DRCを含む南部アフリカの経済開発への期待について、熱のこもった演説を行った。直後にマイニング関連のイベントが予定されていたこともあってか、エキスポ・べトン自体への外国人の参加は少なく、地元の政府および企業関係者の来訪が大半だったが、それでも1,000人ほどの外国人が来場したとされる。


エキスポ・べトンの会場の様子(ジェトロ撮影)

圧倒的な中国のプレゼンス

化石燃料を中心としてきた世界のエネルギーシステムは、今、脱炭素化の実現に向けて大きな転換を迫られている。再生可能エネルギー(再エネ)や原子力などを中心としたクリーンエネルギーへの転換を実現するには、再エネや蓄電池などの新技術とそれらの製造に必須となるクリティカルミネラルの安定供給は死活問題だ。しかし、クリティカルミネラルの埋蔵・生産は中国やロシア、カナダなど特定の国に偏在しており、地政学リスクの影響を大きく受ける。

DRCは、世界の脱炭素化に必須とされるクリティカルミネラルのうち、コバルト(生産量:世界1位)、タンタル(同1位)、スズ(5位)の主要生産国だ。国土面積は世界11位と広大で、このほかにも銅(同3位)や工業用ダイヤモンド(同2位)、金、タングステン、鉛、亜鉛、銀などが生産されている。また、生産開始には至っていないが、リチウム埋蔵も確認されている。

米国地質研究所(USGS)によると、DRCは2023年時点で世界のコバルトの埋蔵量の54.5%、生産量の73.9%を占めている。コルウェジは、DRCのコバルト生産の大半を占める世界のクリティカルミネラルの主要産地の1つだ。DRCの輸出総額に占める銅およびその製品の割合は66.2%で、鉱石、スラグおよびコバルト中間生産物などを含めると92%をクリティカルミネラルが占めている(2023年、Global Trade Atlas)。輸出先は中国が輸出総額の66.5%を占め最大で、続いてEU(8.2%)、韓国(3.2%)、米国(1.3%)となっており、日本はわずか0.2%程度にとどまる。中国は世界のコバルト精錬の73%を握り、リチウムイオンバッテリー製造などコバルト消費でも世界の87%近くを占める。世界最大のコバルト生産国であるDRCと、世界最大の精練・消費国である中国は切っても切れない関係にある。

コルウェジにおける中国の存在感は圧倒的で、コバルト生産で最大手のテンケ・フングルメ、2番手のシコミン(Sicomines)ともに中国資本が大半を占める。筆者が乗ったプロペラ機の乗客も3分の1は中国人で、宿泊したホテルでも中国人が現地ビジネスパーソンと通訳を介して真剣な商談を行っている姿を頻繁に目にした。主要な幹線道路沿いには中国企業の工場が多数立ち並び、中国企業が運営する病院もコルウェジ市内に2つある。現地の鉱山関係者によると、以前は中国から個人の起業家や中小企業が多く来ていたが、近年は背後に中国政府のいる大企業がコルウェジまで足を運ぶようになった、と語る。現地の学生に聞けば、最近では大学で中国語を学び、中国への留学や、コルウェジにある中国企業に就職する学生も増えつつあるという。中国は国策として電気自動車(EV)シフトを進める中で、コバルトの確保が死活問題となっている。特に2018年以降、DRCにおける中国企業の活動は活発化している(2018年9月28日付地域・分析レポート参照)。


コルウェジの外れの銅鉱山(ジェトロ撮影)

巻き返しを図る米国

中国が着々とクリティカルミネラルの独占体制を築きあげる中、米国を中心とする西側諸国は危機感をにじませている。2023年5月に広島で開催されたG7では、首脳コミュニケPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.08MB)に「重要鉱物の重要性の高まり、および脆弱(ぜいじゃく)なサプライチェーンに起因する経済および安全保障上のリスクを管理する必要性を再確認する」という文言が加えられ、重要鉱物のサプライチェーン構築の必要性が強調された。

これを受け、同年9月に米国は、アンゴラ、DRC、ザンビアをつなぐロビト回廊(詳細は後述)の開発にEUと共同で取り組むことを発表した(国務省ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。2022年6月のG7で発表された、発展途上国へのインフラ整備支援の新たな枠組み「グローバルインフラ投資パートナーシップ(PGII)」(2022年6月28日付ビジネス短信参照)の一環として取り組んでいくことを明らかにした。その後、2022年10月に米政府の担当官がアンゴラ、ザンビア、DRC、ベルギーを訪問し、米国、EU、アフリカ開発銀行(AfDB)、アフリカ金融公社(AFC)と覚書(MOU)を締結した。加えて、当事国であるアンゴラ、DRC、ザンビアも3カ国で協力にかかるMOUを締結している。また、2022年11月にはジョー・バイデン大統領が訪米中のアンゴラのジョアン・ロウレンソ大統領と会談し、プロジェクトの実現を約束、2024年1月にはブリンケン国務長官がアンゴラを訪問した。その際に米国の鉄道コンサル会社オール・アメリカン・レール・グループがアンゴラ交通省とMOUを締結し、翌2月には「ロビト回廊民間セクター投資フォーラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」がザンビアで開催された。フォーラムでは、米国際開発金融公社(DFC)が2億5,000万ドルを、AFCを通じて融資することなどが発表された。米国政府は、目覚ましいスピードでプロジェクトを進めている。なお、ロビト回廊の開発計画にはサウジアラビアも参入するとの報道も出ている。

図:南部アフリカの鉄道網
DRC南部のコルウェジと大西洋に面するアンゴラのロビト港をつなぐ回廊がロビト回廊。ザンビアのカピリ・ンポシからインド洋に面するタンザニアのダルエスサラーム港をつなぐ鉄道がタザラ鉄道。

出所:DRC国営鉄道公社提供

ロビト回廊のベースとなるDRC南部とアンゴラのロビト港を結ぶベンゲラ鉄道は、もともとポルトガル統治時代に内陸の銅を輸送するために建設されたもので、1931年に開通した(図参照)。1973年にはアンゴラで最大1万3,000人の従業員を抱えるほどに成長し、旧ザイールの60%、ザンビアの45%の銅が同鉄道を通じて輸出されていたという。しかし、その後アンゴラは独立、長期にわたる内戦で国土は荒廃する。内戦終結後、中国が2006年から同鉄道の修復を開始し、2014年に完工したが、現在もあまり使われていないのが現状だ。

米国は、このロビト回廊プロジェクトにおいて、1,300キロにわたるロビト大西洋鉄道(旧ベンゲラ鉄道)のリハビリと、ザンビアへの延伸800キロの新規鉄道建設を行うとしている。加えて、ゲートウェイとなるアンゴラやザンビアでの大規模な太陽光発電プロジェクト実施や、5G(第5世代移動通信システム)通信網の整備と拡張などのデジタル協力も進めていく考えだ。2024年2月のフォーラムでは、ザンビアにおける農業・食料分野への投資も発表するなど、幅広い協力を進めている。

こうした協力の拡大に合わせ、米国による資源確保の動きも加速している。2023年12月にはイバンホーが開発する最大級の銅鉱山カモアから銅精鉱を初めてロビト大西洋鉄道を使い、ロビト港まで輸送し、輸出した。その成功を受け、2024年2月のフォーラムでは、今後6年間にわたり同鉄道を使う契約を締結したことが発表された。同社によると、これまでは陸路で南アフリカ共和国のダーバン港またはタンザニアのダルエスサラーム港に輸送していたが、距離的にはダーバンまでの半分となり大幅に輸送期間が短縮できる見込みだという。カモア鉱山は、イバンホーと中国の紫金鉱業が49.5%ずつ出資しているが、大西洋側から輸出できることで米国や欧州にとっても有利な条件となるだろう。

また、ビル・ゲイツ氏やジェフ・ベゾフ氏などが支援する米国のスタートアップ「コボルド・メタルズ」が、ザンビアのミンゴンボ鉱山で大規模な銅の埋蔵を確認したと発表した。ミンゴンボは北西部のチリランボンブエにあり、米国の鉄道の延伸計画上にも乗っている。資源メジャー出身者らが設立したコバロニ・エナジーが、ザンビアのチンゴラに、アフリカ初のEV用バッテリーで使えるグレードのコバルト精錬所を建設する計画も進んでいる。

なお、米国がロビト回廊のゲートウェイとして特に力を入れるアンゴラは、米国が指定する51種のクリティカルミネラルのうち36種の埋蔵が確認されているという。英国のレアアース探査会社ペンサナが開発を進めるアンゴラのロンゴンジョもロビト回廊上にある。

中国は東から一帯一路でアプローチ

米国がロビト回廊の開発計画を急速に進める一方で、中国もアフリカ内陸に存在するクリティカルミネラルへのアプローチをさらに強化している。報道によると、2024年2月に駐ザンビア中国大使がザンビアの交通相にタザラ鉄道の修復にかかる提案書を手交したとされる。10億ドル規模のプロジェクトで、PPPで実施される。

タザラ鉄道は、タンザニアのダルエスサラーム港とザンビアのカピリ・ンポシを結ぶ1,860キロにわたる鉄道で、アフリカにおける中国の大規模インフラ事業のさきがけともいうべきプロジェクトだ。1967年にタンザニア、ザンビアの両国政府の要請を受け建設に合意した。中国政府が無利子で9億8,800万元を融資し、1970年から1975年にかけて建設が行われた。1976年にフルオペレーションとなり、現在まで旅客、貨物ともに運行を継続している。しかし、運営開始から50年近くが経ち、老朽化による問題もあって、現在は内陸部からの銅などの資源の輸送は、ほぼ鉄道以外の陸路で行われているという。こうした状況を踏まえ、中国は米国のロビト回廊計画に対抗し、DRC、ザンビアからの資源輸送を押さえるべく、タザラ鉄道の大規模改修に乗り出した。

オーストラリアのグリフィス・アジア研究所の「一帯一路イニシアティブ投資レポート2023PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.74MB)」によると、中国の一帯一路に基づく公約の受け手として最大だったのはアフリカであり、中でもインフラ建設を国別に見ると、サウジアラビア、スリランカに続いてタンザニア(約31億ドル)が3番目に大きかった。一帯一路の投資約束額を分野別でみると、テクノロジー(11.5倍)に続いて金属・マイニング(2.6倍)となっており、バッテリーにかかる投資額は総額で80億ドルに及ぶという。中国のクリティカルミネラル獲得の動きは一層加速しているとみてよいだろう。なお、報道によると、2024年3月14~17日の日程で、アンゴラのロウレンソ大統領が訪中し、2国間協力を一層強化することで合意したとされており、中国はアンゴラも譲る気はない。

エキスポ・べトンでは、タンザニア港湾局(TPA)がブース出展し、タンザニアのダルエスサラーム港およびバガモヨ港の活用を呼び掛けていた。担当者によると、TPAはコルウェジ、ルブンバシにも事務所を構え、営業活動を行っているという。タンザニアは狭軌のタザラ鉄道に加えて、標準軌鉄道(SGR)を内陸に向けて建設しており、ザンビアやDRC市場へのゲートウェイとしての地位を着々と強化しつつある。

南部アフリカの経済回廊は東(タンザニア)と西(アンゴラ)だけではない。ザンビア政府は2024年1月に、ナミビアのウォルビスベイとザンビアのンドラ、そして、DRCのルブンバシを結ぶ回廊開発にかかるMOUを批准した。このMOUは2010年に3カ国が署名していたが、ようやく10年以上かけて動き出した。DRCが2015年、ナミビアが2021年に批准したものの、ザンビアの批准が遅れていた。ウォルビスベイ港は従来からアンゴラ南部への物流のハブとなっており、ロビト港とともに南部アフリカのハブとしての期待は大きい。また、東のモザンビークも、ベイラ港はジンバブエ、ザンビアからのアクセスもよく、内陸国からの物流のハブとしての潜在力は高い。

米中の資源獲得競争は、結果として、DRCを中心として周辺国を巻き込み、東と西の両方からの経済回廊の発展を促し、さらにモザンビーク、ナミビアに抜ける回廊の開発計画をも促進するなど、南部アフリカの大動脈構想は大きく動かす呼び水となっている。

成長のフロンティアは内陸へ

南部アフリカの大動脈構想は、クリティカルミネラルの輸送にかかる鉄道インフラ整備にとどまらない。アフリカでは、沿岸部で経済発展が進んでいるが、内陸部でも人口が著しく増加している。国連によると、DRCの総人口は現在の約1億人から2100年には4億3,000万人になると予測(2022年12月15日付地域・分析レポート参照)されている。都市別で見ると、2035年には2,600万人を超える首都キンシャサは別格としても、DRCには100万人を超える都市が11(日本は2035年時点で8都市のみ)誕生する。中部のムブジ=マイ(475万人)や南部のルブンバシ(460万人)など、内陸部の奥深い地域で人口が拡大していく。コルウェジで筆者の通訳をした学生に聞くと、9人兄弟で、このような数の家庭は珍しくないとのことだった。DRCの内陸部では、想像以上のペースで人口爆発が起こっており、あらゆるモノの需要が急激に増加しているとみて間違いないだろう。

しかしながら、国土面積で世界11位のDRCは、国土の大半を森林に覆われており、さらに流域面積がアマゾン川に次いで世界2位と言われるコンゴ川が流れている。物流インフラの整備は至難の業で、首都キンシャサと内陸の都市は分断され、中部や南部の都市はザンビアから、東部の都市はルワンダやウガンダからの物流に頼っている。それもあって、DRCは南部アフリカ開発共同体(SADC)、東アフリカ共同体(EAC)、中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)のすべてに加盟しているが、物流インフラの不足により、思うようにモノは流れていない。ロビト回廊やタザラ鉄道の強化は、内陸国、都市に大きな発展をもたらす可能性がある。

筆者がコルウェジ市内の大きなスーパーマーケットを訪問したところ、モノは豊富に並べられているものの、ビールと水以外のほぼすべてが海外からの輸入品で、価格もかなり高額だった(ちなみに、市内ではドル紙幣がそのまま使える)。極端にマイニングに依存した経済で、湖や河川も多く、土地も肥沃ながら、農業など食料生産はほとんど行われていない。食料の大半はザンビアから輸入されるという。アフリカでは庭先で野菜を育てるなどしている家庭が多いが、コルウェジでは見当たらなかった。スーパーでは冷凍サバも発見したが、空輸で運ばれたものだろう。スマートフォン好きなど、内陸部でもアフリカの消費者のプロファイルは大きくは変わらないが、DRCは特に男女ともにファッションと音楽にこだわりが強い。学生に聞いたところ、「たとえ野宿になっても、オシャレな服を買いたい」そうだ。また、ナルトなど日本のアニメ人気も変わらない。物流が変われば、旺盛な消費は一層活気づくだろう。

エキスポ・べトンでは、資源のサプライチェーン強化に加えて、農業など産業の多角化の重要性を訴える声が相次いだ。多くの鉱山は長くても100年で寿命を迎え、資源は枯渇する。ポスト・マイニングは重要な課題となっている。また、コルウェジの町の下には広く銅鉱脈があることが判明し、住民の立ち退きや環境破壊なども問題となっている。


市内最大のスーパーマーケット(ジェトロ撮影)

ビジネスチャンスと課題

DRCを中心とした南部アフリカ大動脈構想が活発に動き出す中で、日本企業にとってどのようなビジネスチャンスがあるのだろうか。

最初に考えうるのが、コバルトのサプライチェーンへの参画である。DRCは度重なる政情不安により、日本だけでなく欧米企業にとっても参入のハードルの高い国とされてきた。反政府武装勢力が活発に活動し、人権リスクもあるDRCでの鉱物資源開発への参画は、米国が制定したドット・フランク法により、国際的な紛争鉱物規制の枠組みが厳格化されると、不可能となった。しかしながら、米国がロビト回廊を主導することで、DRCにおける銅・コバルトのサプライチェーンへの参画が明確化され、潮目は変わりつつある。

エキスポ・べトンで講演したカモア鉱山の幹部は、環境負荷を低減するため、銅を露天ではなく地下採掘していることや、電力の大半を水力発電に依存するグリーン・カッパーであることを強調した。また、従業員や近隣住民への配慮などESG(環境・社会・ガバナンス)に力を入れている、と説明した。各鉱山に実際に足を運び、十分なデューデリジェンスを行うことにより、日本企業にとっても参画が可能となるかもしれない。日本政府も、2023年8月に西村経済産業相(当時)がアンゴラ、DRC、ザンビアを含む5カ国を訪問し、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が現地政府と探査協力のMOUを締結した。また、2024年2月にも石井経済産業大臣政務官がミッションを率いてカモア鉱山を訪問するなど、取り組みを強化している。現状では世界の精錬の73%を握る中国が市場を押さえているが、南部アフリカでも数多くの精錬所建設計画があり、いずれその流れも変わるかもしれない。

第2に、インフラ整備である。既述のとおり、米国のロビト回廊プロジェクトは、ゲートウェイとなるアンゴラから進んでおり、DRC側ではプロジェクトがあまり進んでいない。筆者がロビト大西洋鉄道の終着点となるコルウェジの駅を視察したところ、なんらかの工事が行われている気配はなく、アンゴラのロビト港周辺のインフラとは大きな開きがあった。安全が確保できる範囲に限られるだろうが、全長1,300キロの鉄道整備の一部を担うといったことも可能かもしれない。また、同地域の電力は豊富な水資源を活用した水力発電が中心だが、気候変動による干ばつリスクなどを踏まえれば、太陽光やその他の再エネ電源も併せて整備しなければならない。その他、港湾や通信など地域のインフラ需要は事欠かない。


閑散としたコルウェジの駅(ジェトロ撮影)

第3に、鉱物のサプライチェーンにおけるアフリカの付加価値の創出である。米国は2022年12月の米アフリカ首脳会議において、DRCおよびザンビアとEV用バッテリーバリューチェーンにかかるMOUを締結した。アフリカ諸国にとって、ただ資源を輸出するだけでなく、バリューチェーンの現地化を高め、付加価値を生む産業強化は悲願となっている。銅やコバルトの採掘から、バリューチェーンをさらに一歩でも進められるかがカギとなっている。精錬所でもバッテリー工場の建設でもよいが、米国のコボルド・メタルズのように最先端の技術を持った日本のスタートアップが活躍できる分野も少なからずあるかもしれない。

最後に、成長する地場企業とのパートナーシップである。既述のとおり、アフリカの内陸部では人口増加が加速しており、旺盛な需要があるにもかかわらず物資の大半は輸入に頼っているのが現状だ。この状況を変えようと、農業や食肉生産、消費財の生産に取り組もうという地場企業も出てきている。エキスポ・べトンであったコルウェジの地場企業ンドゥウズ(Nduw’s)は、中国企業の技術支援を受けつつ、ティッシュペーパーなどの紙製品の製造工場を建設した。また、ルブンバシのグループ・ナンバー・ワン(GNO)は、ルブンバシ郊外に大規模な農場を構え、農業や畜産業を大規模に展開している。肉屋やレストランも構え、鉱山などのキャンプ地にも肉を卸しているという。ルブンバシをベースとするマイニング・エンジニアリング・サービシズ(MES)は、もともと鉱山で使われる化学品を輸入販売していたが、マイニングにかかるワンストップソリューションを提供する企業として成長している。近年では、自社で工業団地を建設し、鉄工やポリエチレンパイプ製造、バッテリーのリサイクルなども行う複合企業となった。そのほか、同社はボッシュの電動工具やTATAのトラックの代理店、また、電力まわりでは送電・変電設備なども請け負っている。こうした地場企業による産業多角化の動きは黎明(れいめい)期にあり、現在は中国企業や南アフリカ共和国企業がパートナーというケースが多いものの、筆者が面談した地場企業の中には少なからず日本企業との協業に関心を持つ企業が存在していた。

なお、パートナーという意味では、特に資源開発やインフラ開発、バリューチェーン構築で頼りとなるのが南ア企業だろう。南アは、政治・外交的には「非同盟主義」を掲げ、欧米と距離を置いているものの、資源やインフラにかかる企業は、ほぼすべて多国籍企業化しており、政治的なポリシーに左右されない。アフリカ域内への進出意欲も高く、抜きんでた技術力と経験の豊富さは強い味方となる。実際、ルブンバシと南アを結ぶフライトは南アフリカ人ビジネスパーソンでいっぱいだった。

ただし、DRCやアンゴラでのビジネスは容易ではない。DRCはフランス語、アンゴラではポルトガル語が必須であり、内陸部はアクセスの悪さから出張するだけでも容易ではない。また、両国ともに、外務省の渡航情報では危険レベルの高い地域も多く、安全管理には細心の注意を要する。DRC東部では、M23と呼ばれる反政府武装勢力が活発に活動しており、渡航できない地域も存在する。政治的にも両国ともに安定しているとはいいがたく、法制度や汚職リスクもアフリカ域内では高い方に位置する。空港の賄賂要求も厳しい。また、ビジネス上必要な情報がなかなか得られないことも難しさを助長している。こうした要素が外国投資を遠ざけ、経済発展を困難にしている。DRCは、南アやケニアと比べれば明らかに別物だ。米中の投資が入ったところで、今後もそう順調に成長していくとは考えがたい。

しかし、それらを乗り越えて現地に踏み入れば、大きなビジネスの可能性に魅力を感じずにはいられない。米中の競争がこの地に新たなダイナミズムをもたらし、忘れ去られていた南部アフリカの大動脈に再び血が通うようになれば、陸の孤島も大きく変化していくかもしれない。「何もないことがビジネスの種」と言わんばかりに、中国人のこの地における進出は目覚ましいものがある。発展途上のアフリカとはどのようなものかを、この街で見たように思う。


注:
1978年に、反政府勢力であるコンゴ解放民族戦線(FNLC)が、アンゴラの支援を受けてコルウェジを占領。当時、居住していた数多くの欧米人が捕虜となり、フランスおよびベルギーなどが空挺部隊を派遣、軍事介入を行った。双方ともに多くの死傷者を出したとされる。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所長
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部、調査部中東アフリカ課を経て、2023年5月から現職。