トランプ氏起訴後も、共和党内の支持、期待高く(米国)
2024年米大統領選挙世論調査

2023年9月28日

ドナルド・トランプ前大統領は、2024年大統領選挙に立候補している。その当人が、2023年8月のうちに2度も起訴された。具体的には、(1) 8月1日と(2) 14日。(1)では、2020年大統領選挙の結果を確定する連邦議会の手続きを妨げた(2021年1月の議事堂襲撃)ことが取り上げられた。(2)は、ジョージア州での同選挙結果を覆そうと試みたとして、同州大陪審に持ち込まれたかたちだ。

もっとも、共和党予備選を想定した世論調査では、起訴後もトランプ氏が他の候補者をリードする状況が続いている(2023年9月4日付ビジネス短信参照)。とはいえ、今後の起訴・捜査の進展によっては、大統領選挙への影響が大きくなることも考えられる。

今後の展開について、最近の世論調査から読み解く。

議事堂襲撃事件の起訴に対してより深刻な見方

トランプ氏に対する起訴として1回目は3月、不倫の口止め料を巡ってビジネス記録を改ざんしたことなどが問われた。2回目は6月のことで、機密文書の持ち出しに関するもの、3回目は議事堂襲撃事件に関わるものである。 ABCニュースとイプソス(調査会社)が発表した上記3回を比較した世論調査(注1)によると、3回目の起訴を「深刻」と考える割合は65%。1回目(52%)や2回目(61%)より、やや高まった(2023年8月7日付ビジネス短信参照)。

一方、AP(通信社)とシカゴ大学全米世論調査センター(NORC)が8月に実施した世論調査(注2)では、トランプ氏がジョージア州で2020年大統領選挙の票計算に介入しようとしたことについて聞いた。この設問に、51%が「違法」と回答した。支持政党別では、民主党支持者で85%、無党派層で41%だった。一方、共和党支持者は16%と低い。その代わり、31%が「何も悪くない」、26%が「非倫理的だが、違法ではない」と回答した。

また、NBCニュースが9月に実施した世論調査(注3)によれば、4つの刑事・民事裁判に直面しているトランプ氏を大統領候補として「懸念する」という割合が62%に達した。しかし、同氏の年齢(77歳)を「懸念する」割合は47%と、80歳になるジョー・バイデン大統領に向けられる懸念(74%)ほど高くはない。

訴訟の進展によっては、共和党支持者に影響

ロイター(通信社)とイプソスが8月に実施した世論調査(注4)では、トランプ氏が今後有罪になり服役する場合に踏み込んで問いを設けた。2024年大統領選挙を想定し「トランプ氏が重犯罪で有罪になっても、同氏に投票するか」という設問に対しては、67%が「投票しない」と回答した。共和党支持者でも半数近い45%が投票しないとしている。さらに、「トランプ氏が服役中でも、同氏に投票するか」となると、72%が「投票しない」と回答。共和党支持者でも「投票しない」が52%と過半に達した。

既に見たように、共和党支持者からのトランプ氏支持は依然として高い。しかし、訴訟の進展によっては、トランプ氏に投票しない有権者が増える可能性がある。そうなってくると当然、本選での得票に影響する可能性が出てくるだろう。

トランプ氏の対応能力に期待感

CNN(報道機関)は、共和党候補者の第1回討論会後(注5、表1参照)、世論調査結果を発表した(注6)。この調査では、共和党予備選を想定して問いが設けられた。その結果、トランプ氏が52%と首位。ロン・デサンティス・フロリダ州知事(18%)、ニッキー・ヘイリー元国連大使(7%)、マイク・ペンス前副大統領(7%)、実業家のビベク・ラマスワミ氏(6%)を圧倒した。なお、この討論会にトランプ氏自身は参加しなかった。討論会の場では、ラマスワミ氏やヘイリー氏などの評価が高かったと言われる。ただし、実際の投票支持にはつながらなかったとみられる。

同世論調査では、主要な政策課題を取り上げた上で、どの共和党候補者が最もうまく対処できるかについても聞いた。特に「経済」「移民」「ウクライナ情勢」「行政機関が行き過ぎないようにする」などの各課題で、トランプ氏への支持が圧倒的に高い(期待が大きい)ことがわかった(表2参照)。

また、シンクタンクのピュー・リサーチ・センターの7月の世論調査(注7)では、共和党支持者を対象に「過去40年間で最高とみなす大統領」を聞いた。その結果、トランプ氏(37%)は、ロナルド・レーガン元大統領(41%)に次ぐ支持を得ている。

表1:2024年大統領選挙への主な正式候補者(-は、討論会への参加なし)
政党 立候補表明日 候補者 第1回共和党候補者討論会参加者
共和党 2022年11月15日 ドナルド・トランプ前大統領
2023年2月4日 ニッキー・ヘイリー元国連大使
2023年2月21日 ビベク・ラマスワミ氏(実業家)
2023年4月2日 エイサ・ハッチンソン前アーカンソー州知事
2023年4月20日 ラリー・エルダー氏(保守系トークラジオ番組ホスト)
2023年5月22日 ティム・スコット連邦上院議員(サウスカロライナ州)
2023年5月24日 ロン・デサンティス・フロリダ州知事
2023年6月6日 クリス・クリスティ前ニュージャージー州知事
2023年6月7日 マイク・ペンス前副大統領
2023年6月7日 ダグ・バーガム・サウスダコタ州知事
2023年6月22日 ウィリアム・ハード元連邦下院議員(テキサス州)
民主党 2023年2月23日 マリアンヌ・ウィリアムソン氏(作家)
2023年4月5日 ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(弁護士)
2023年4月25日 ジョー・バイデン大統領
緑の党 2023年6月5日 コーネル・ウェスト氏(進歩的活動家)

出所:各種報道から作成

表2:各政策課題に最も上手く対処できると思われる共和党候補者 (単位、%)
候補者 経済 移民 ウクライナ情勢 行政機関が行き過ぎないようにする 犯罪・安全 教育・学校制度 中絶 気候・エネルギー政策
ドナルド・トランプ前大統領 69 65 63 59 54 42 44 49
ロン・デサンティス・フロリダ州知事 9 13 7 13 17 22 14 13
ビベク・ラマスワミ氏(実業家) 5 3 3 7 3 6 3 7
マイク・ペンス前副大統領 4 4 7 5 5 5 6 6
ニッキー・ヘイリー元国連大使 3 4 8 3 3 8 13 6
クリス・クリスティ前ニュージャージー州知事 2 3 1 2 4 2 1 2
ティム・スコット連邦上院議員 2 1 1 2 2 2 1 2

注:上位者のみ記載。
出所:CNN

トランプ氏公判の選挙前実施を求める声も

政治誌「ポリティコ」とイプソスが8月に実施した世論調査(注8)では、公判日程について設問が設けられた。3回目の起訴(トランプ氏が2020年の大統領選挙結果を覆そうとした事件)公判が行われる時期は「2024年早々から始まる共和党予備選の前」にすべきに対して、「はい」とする回答は59%、「大統領選挙(2024年11月)の前」は61%と、いずれも過半だった。

なお、トランプ氏の弁護団は公判実施の延期を求めている。弁護の準備に時間を要するというのが、その理由だ。市民視点からはそれとは裏腹の期待感が示されたかたちだ。

片や民主党ではバイデン大統領の高齢に対する懸念が高まっている(2023年9月8日付ビジネス短信参照)。加えて、9月には次男ハンター・バイデン氏が起訴され、(2023年9月15日付ビジネス短信参照)、バイデン大統領への弾劾調査が開始された。こうしてみると、2024年大統領選挙に向けて、共和・民主両党ともに大きな不安定要素を抱えていると言えそうだ。今後の展開に、注目していく必要があるだろう。


注1:
実施時期は2023年8月2~3日。対象者は全米の成人1,076人。
注2:
実施時期は2023年8月10~14日。対象者は全米の成人1,165人。
注3:
実施時期は2023年9月15~19日。対象者は全米の登録有権者1,000人。
注4:
実施時期は2023年8月2~3日。対象者は全米の成人1,005人。
注5:
2023年8月23日実施。第1回共和党討論会の参加条件は、(1)全米共和党委員会が認めた複数の全国世論調査で少なくとも1%の支持を集めること、(2)20の州から少なくとも200人、かつ全米で最低4万人の寄付者を集めること、(3)候補者が最終候補者への支持を誓約すること。
注6:
調査会社SSRSが実施。実施時期は2023年8月25~31日。対象者は全米の成人1,503人。うち共和党支持者898人含む。
注7:
実施時期は2023年7月10~16日。対象者は全米の成人8,480人。
注8:
実施時期は2023年8月18~21日。対象者は全米の成人1,032人。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。