2022年の新規登録台数は不調(イタリア)
官民一体の取り組みに期待

2023年9月14日

2022年のイタリアの乗用車の新規登録台数は、前年比9.7%減となった。政府によるエコカーに対する補助金政策の影響もあり、2023年上半期の新規登録台数は順調で、バッテリー式電気自動車(BEV)の売り上げも堅調に伸びている。イタリアは、2035年までに全ての新車をゼロエミッション化するというEUの決定により、大きな産業転換が迫られており、官民一体となった取り組みが期待される。

2022年の新規登録台数は軒並み落ち込み

イタリアの外国自動車代理店組合(UNRAE)が2023年1月18日に発表した報告書「UNRAE Pocket 2022(イタリア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、2022年の乗用車の新規登録台数は131万6,726台で、前年比9.7%減となった。世界的な半導体や原材料の不足、物流の混乱に、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響によるエネルギー問題も重なり、上半期(1~6月)に特に落ち込み前年同期比22.7%減となった。第4四半期(10~12月)には持ち直し2桁台の成長が続き、12月には前年同月比21.0%増を記録したが、上半期のマイナスを埋め合わせるまでには至らなかった。

新規登録台数を自動車メーカー・ブランド別にみると、前年に引き続きフィアットが首位を守ったが、17万6,981台で、前年の22万420台と比べると、19.7%減となった。シェアも前年の15.1%から縮小し、13.4%となった(表1参照)。次いで、フォルクスワーゲン(VW)が10万5,060台で前年比16.7%減、シェア8.0%となった。一方、前年同様3位につけたトヨタは9万2,155台と、前年の8万4,845台から8.6%増、シェアも前年の5.8%から7.0%に伸ばした。アジア勢では、現代自動車グループの起亜が14位、現代が15位、次いで日産が17位、スズキが19位となった。また、マツダが前年の23位から26位、ホンダが前年同様の28位のほか、レクサス(36位)、三菱自動車(38位)、スバル(41位)がいずれも順位を下げた。

表1:2022年メーカー・ブランド別乗用車新規登録台数とシェア(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 台数 前年比 シェア
1(-) フィアット 176,981 △ 19.7 13.4
2(-) フォルクスワーゲン 105,060 △ 16.7 8.0
3(-) トヨタ 92,155 8.6 7.0
4(↑) フォード 74,135 △ 8.5 5.6
5(↓) プジョー 69,312 △ 17.8 5.3
6(↑) ダチア 67,383 9.2 5.1
7(↓) ルノー 59,730 △ 19.9 4.5
8(↓) シトロエン 55,880 △ 13.9 4.2
9(↑) アウディ 55,793 0.2 4.2
10(↓) ジープ 51,492 △ 19.0 3.9
17(↑) 日産 25,515 △ 6.2 1.9
19(↓) スズキ 21,555 △ 45.2 1.6
26(↓) マツダ 9,207 △ 25.7 0.7
28(-) ホンダ 7,515 17.4 0.6
36(↓) レクサス 3,246 △ 30.9 0.2
38(↓) 三菱自動車 2,234 △ 43.1 0.2
41(↓) スバル 1,747 △ 27.4 0.1
合計(その他の自動車メーカー・ブランドを含む) 1,316,726 △ 9.7 100.0

注:上位10位および日系メーカー・ブランド。
注2:(↑)は前年比で順位が上昇、(↓)は低下、(-)は同順となったメーカー・ブランド。
出所:UNRAE資料からジェトロ作成

モデル別にみると、フィアットの「パンダ」が前年比6.1%減となるも首位、次いでランチアの「イプシロン」が6.3%減で2位となった(表2参照)。前年の2位から3位に順位を落としたフィアットの「チンクエチェント(500)」は24.1%減だった。上位モデルが軒並み台数減となるなか、4位はダチアの「サンデロ」で16.6%増、5位はシトロエンの「C3」で2.8%増といずれも伸びた。トヨタの「ヤリス」は前年の5位から8位に順位を落としたが、2021年7月に発表されたトヨタの「ヤリス クロス」は9位につけ、前年の7,537台から約3.5倍の2万6,023台へと大きく伸びた。

表2:2022年のモデル別新規登録台数トップ10 (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 モデル メーカー・ブランド 台数 前年比
1 パンダ フィアット 105,384 △ 6.1
2 イプシロン ランチア 40,970 △ 6.3
3 500 フィアット 33,996 △ 24.1
4 サンデロ ダチア 33,922 16.6
5 C3 シトロエン 31,879 2.8
6 レネガーデ ジープ 29,954 △ 15.3
7 プーマ フォード 29,479 3.2
8 ヤリス トヨタ 27,813 △ 14.8
9 ヤリス クロス トヨタ 26,023 245.3
10 208 プジョー 25,827 9.5

出所:UNRAE資料からジェトロ作成

動力源別では、ガソリン車が全体の27.5%、ディーゼル車が20.0%と、それぞれ前年比2.2ポイント減、2.6ポイント減となり、シェアを縮小させた(表3参照)。台数でみても、ガソリン車は2019年の85万2,006台で頭打ちとなり、2022年には36万5,387台まで減少、ディーゼル車は2017年の111万2,741台で頭打ちに、2022年には25万7,863台まで大幅に減少している。

一方で、環境負荷がより小さいハイブリッド車のシェアは34.0%と、前年の29.0%から拡大した。プラグインハイブリッド車(PHEV)は、台数は前年の6万9,529台から6万7,331台に減ったものの、シェアは前年の4.8%から5.1%と伸びた。

表3:乗用車新規登録台数の動力源別シェアの推移(単位:%)
燃料別 2020年 2021年 2022年
ハイブリッド(注) 16.0 29.0 34.0
ガソリン 37.5 29.7 27.5
ディーゼル 33.1 22.6 20.0
液化石油ガス(LPG) 6.8 7.3 8.9
プラグインハイブリッド(PHEV) 2.0 4.8 5.1
バッテリー式電気自動車(BEV) 2.3 4.6 3.7
メタンガス 2.3 2.1 0.8

注:ハイブリッドには、プラグインハイブリッド(PHEV)を含まない。
出所:UNRAE資料からジェトロ作成

一方で、BEVは2019年の1万671台から2021年には6万7,267台と伸び続けていたが、2022年は4万9,165台と振るわず(図参照)、シェアも前年の4.6%から3.7%に減少した。

図:バッテリー式電気自動車(BEV)新規登録台数の推移
2015年は1,452台、2016年は1,377台、2017年は2,020台、2018年は4,998台、2019年は1万671台、2020年は3万2,491台、2021年は6万7,267台、2022年は49,165台。

出所:UNRAE資料からジェトロ作成

2023年は好調な滑り出し、補助金も奏功

イタリアの乗用車の新規登録台数は、2021年7月から2022年7月まで13カ月連続して前年同月比で減少した。政府は、低排出車などエコカーに対する補助金政策「エコボーナス」を2022年5月、同年11月に再始動し、11月には対象にレンタル事業者を拡充した。その効果もあり、乗用車の新規登録台数は2022年第4四半期(10~12月)に前年同月比で2桁成長が続いた。また、2023年1月に再び「エコボーナス」が導入された。それを受け、2023年上半期は前年同期比23.0%増と持ち直したが、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年比では19%減となっており、回復への道のりはまだ遠い[イタリア自動車工業会(ANFIA)の2023年7月3日付発表]。今後の成長に向け、計画的な補助金の導入や、価格上限の撤廃など、より効果的なインセンティブが求められる。

2023年1月10日に導入された補助金は、合計6億3,000万ユーロに達する。主な内訳としては、以下のとおり。

  • 単価3万5,000ユーロ(税抜き)以内のカテゴリM1(注1)の電気自動車[走行1キロ当たりの二酸化炭素(CO2)排出量0~20g / km]購入に対し、1億9,000万ユーロ
  • 4万5,000ユーロ(税抜き)以内のカテゴリM1のプラグインハイブリッド(走行1キロ当たりのCO2排出量21~60g/km)を購入に対し、2億3,500 万ユーロ
  • 3万5,000ユーロ(税抜き)以内のカテゴリM1の低排出車(走行1キロ当たりのCO2排出量61~135g/km)に対し、1億5,000万ユーロ

EUの方針に一時反発も活路探る

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会が2022年10月27日に暫定合意した、2035年以降の内燃機関搭載車の生産の実質禁止(2022年10月31日付ビジネス短信参照)について、イタリア国内では産業界から大きな反発が起こった。すでにイタリアの自動車業界は新型コロナ感染拡大からウクライナ戦争に続く原材料不足や物価上昇によって販売が低迷しているなかで、電気自動車モデルの開発という課題にも直面しており、電動化のデッドラインが引かれたことに不安が広がった。

同暫定合意後、イタリア自動車ディーラー連盟(Federauto)のアドルフォ・デ・ステファニ・コセンティーノ会長は「イタリアだけでなく欧州企業の競争力と雇用を脅かし、中国に代表されるような競合国に有利になる決定だ」と批判。UNRAEのミケーレ・クリシ会長も「イタリアの産業転換にどう対処するかについてのタイムリーな計画が緊急に必要だ」と政府の対応を求めた。イタリア産業連盟のカルロ・ボノミ会長は「この決定には納得できない。EUは技術的中立性という当初の精神から逸脱している」と厳しく批判した。

政府は、電動化への流れ自体は容認するものの、国内の反発もありEUの方針に対しては反対の姿勢を示した。2023年3月のEU理事会(閣僚理事会)による採択の決議では、イタリアはブルガリア、ルーマニアとともに棄権(2023年3月30日付ビジネス短信参照)。決議後、ジルベルト・ピケット環境相は、EUの決定には賛意を示したものの、「今回の決定における合成燃料(e-fuel)の解釈は限定的。炭素中立な燃料としてバイオ燃料も含まれるよう取り組む」と述べた。また同相は、同月の持続可能な複合輸送についてのフォーラムにおいても、バイオ燃料の推進を強調するとともに「すでに水素にはPNRR(復興・回復のための国家計画)で360万ユーロ投資している。イタリアは資源国であるアフリカ諸国に地理的にも近いこともあり、合成燃料でイニシアチブをとれる可能性もある」とコメントし、2035年を見据えた生き残り戦略を模索している。

2023年上半期にBEVは堅調に伸び、充電ポイントも大幅増

BEV市場については、前述したように新たに投入された補助金の影響もあり、2023年は堅調に伸びている。Motus-E(注2)の7月3日付の発表によると、2023年上半期(1~6月)で3万2,684台が登録され、前年同期比で31.9%増となった。販売チャンネルの内訳は、個人向けが48.3%で前年同期比58.9%増。長期リースが25.9%、販売代理店が12.7%、企業向けが8.7%となった。短期レンタルは4.5%とシェアは低いが、前年同期比で2倍以上になった。

2023年の6月のモデル別登録数では、テスラの「モデルY」が4,829台で首位、次にテスラの「モデル3」、フィアットの「500E」、スマートの「フォーツー」と続く。地域別にみると、2023年上半期はミラノを抱えるロンバルディア州が6,110台で首位。前年同期比45%増となった。次いで、トレンティーノ・アルト・アディジェ州が5,733台で前年同期比24.5%増。さらに、ローマを抱えるラツィオ州、トスカーナ州と続く。ただし、ダイナミックな成長が続くドイツやフランスなど欧州主要国に比べると、イタリアの市場はまだ小さく、伸び悩んでいるのが現状だ。

また、充電ポイントの設置については、同Motus-E の発表によると、2023年上半期は公共スペースに新規に8,438カ所設置され、前年同期比で80.3%増。累計で4万5,210カ所設置された。私的スペースにおいては、40万基以上が設置されており、2021年比では700%増加している。そのうち、30万4,000基が建築物の省エネ化に対する補助金政策によるものとされている。

地域別では、ロンバルディア州が7,657カ所で首位、トリノのあるピエンモンテ州が4,514カ所、次いでベネチアのあるベネト州が4,420カ所、ラツィオ州が4,351カ所という結果だった。

官民一体で自動車産業の活性化へ

イタリアにおいて自動車は基幹産業であり、EUが進める電気自動車への移行には大きな産業転換を迫られる。2035年に備え、政府の適確なロードマップの策定が必須と言えるだろう。現状では、政府と産業界は、両者ともに「電動化は必須」と受け止めている側面もあり、対立だけが目立つという印象はない。

最近の動向では、政府がステランティスに対し、フランスとの生産台数の不均衡を是正し、イタリア国内での増産を要請するなど、官民一体で産業を守る姿勢も示している。2023年6月に、ロベルト・ババソーリ氏がANFIAの新会長に就任した際に、自動車産業の脱炭素化やデジタル化に向けたサプライチェーンの転換への、政府による協力を歓迎する旨を発言したことなどをみても、政府と産業界との信頼感は健在だ。

また、イタリアにおけるリサイクルの強みを生かし、蓄電池のリサイクルを新たな市場として推進する動きなどもある。難局をどう乗り越えるか、今後の動きもさらに注目される。


注1:
人の輸送を目的とし、少なくとも4つの車輪があり、座席は最大8席の車両。
注2:
電動モビリティに特化した調査、市場分析などを行うイタリア初の団体。
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
平川 容子(ひらかわ ようこ)
2021年からジェトロ・ミラノ事務所に勤務。