2021年は新車登録台数増、2022年には反動減も(イタリア)

2022年9月8日

2021年のイタリアの乗用車の新規登録台数は、新型コロナウイルスの影響を受けて大きく落ち込んだ2020年に比べて、改善した。一方で、その反動もあり、2022年上半期の新規登録台数の落ち込みが顕著になった。

そうした中、5月には新たな低排出車向け補助金が導入され、エコカーには追い風が吹く。一方、EUで検討されている、2035年までに全新車ゼロエミッション化に対しては、自動車産業界から反発も出ている。

2021年の新規登録台数5.5%増、フィアットが首位堅持

外国自動車代理店組合(UNRAE)は2022年1月18日、報告書「UNRAE Pocket 2021(イタリア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。この報告書によると、イタリアの2021年の乗用車の新規登録台数は前年比5.5%増の145万7,746台。ただし依然として、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年比では24.0%減となった。新規登録台数を半期ごとにみると、2020年上半期(1~6月)には、特に落ち込み、このことが影響して、2021年上半期は前年同期比51.5%増、下半期(7~12月)は同28.2%減だった。

自動車メーカー・ブランド別に見てみると、前年に引き続きフィアットが首位を守り、22万409台。シェアも、前年同様に15.1%を占めた(表1参照)。次いで、フォルクスワーゲン(VW)が12万6,074台で、シェア8.6%だった。

日系メーカー・ブランドでは、トヨタが8万4,840台。前年比19.2%増と好調だった。シェアも前年の5.2%から5.8%に伸ばし、3位になった。トヨタは、前年の6位から順位を3つ上げたかたちだ。スズキは、1つ順位を下げて17位となった。ただし、前年比17.5%増で、シェアも前年の2.4%から2.7%に伸ばした。また、マツダも順位を25位から23位に上げた。逆に、ホンダ(28位)、レクサス(33位)、三菱自動車(35位)、スバル(37位)は、順位を下げた。

表1:2021年メーカー・ブランド別乗用車新規登録台数とシェア(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 台数 前年比 シェア
1 フィアット 220,409 5.8 15.1
2 フォルクスワーゲン(VW) 126,074 △ 1.6 8.6
3 トヨタ 84,840 19.2 5.8
4 プジョー 84,260 3.2 5.8
5 フォード 80,986 △ 9.6 5.6
6 ルノー 74,530 △ 13.2 5.1
7 シトロエン 64,864 0.8 4.4
8 ジープ 63,601 6.7 4.4
9 ダチア 61,691 15.5 4.2
10 アウディ 55,697 11.8 3.8
17 スズキ 39,313 17.5 2.7
18 日産 27,212 △ 4.0 1.9
23 マツダ 12,397 22.8 0.9
28 ホンダ 6,401 △ 4.5 0.4
33 レクサス 4,699 16.2 0.3
35 三菱 3,929 △ 2.7 0.3
37 スバル 2,406 14.6 0.2
合計(その他の自動車メーカー・ブランドを含む) 1,457,746 5.5 100.0

注:上位10位および日系メーカー・ブランド。
出所:UNRAE資料からジェトロ作成

モデル別にみると、フィアットの「パンダ」が前年比1.6%増で首位、次いで同「チンクエチェント(500)」が、42.7%増と大幅に増加し2位となった(表2参照)。その他、ジープの「レネゲート」が13.5%増と健闘し4位。トヨタの「ヤリス」が10.2%増で、前年から2つ順位を上げて、5位になった。また、フォードの「プーマ」が18.3%増。前年の14位から10位に食い込んだ。

表2:2021年のモデル別新規登録台数トップ10(単位:台、%)
順位 モデル メーカー・ブランド 台数 前年比
1 パンダ フィアット 112,297 1.6
2 500 フィアット 44,819 42.7
3 イプシロン ランチア 43,735 1.6
4 レネゲード ジープ 35,337 13.5
5 ヤリス トヨタ 32,634 10.2
6 500X フィアット 31,982 0.4
7 C3 シトロエン 31,003 6.3
8 サンデロ ダチア 29,094 3.5
9 コンパス ジープ 28,572 6.2
10 プーマ フォード 28,555 18.3

出所:UNRAE資料からジェトロ作成

低排出車とガソリン・ディーゼル車に明暗

燃料別では全般に、ディーゼル車やガソリン車の存在感が薄れる一方、環境負荷の小さい乗用車が伸びる傾向が読み取れる。

まず、ガソリン車のシェアは全体の29.7%、ディーゼル車が22.6%。それぞれ前年比7.8ポイント減、10.5ポイント減だった(表3参照)。ガソリン車は2019年を頭打ちに85万2,010台から、2021年は43万6,611台に減少。ディーゼル車は2017年の111万2,744台が32万2,826台にまで、大幅に落ち込んだ。

一方で、環境負荷がより小さいハイブリッド車のシェア29.0%と、前年の16%から大きく伸ばした。

表3:乗用車新規登録台数の燃料別シェアの推移(単位:%)
燃料別 2019年 2020年 2021年
ガソリン 44.4 37.5 29.7
ハイブリッド(注) 5.7 16.0 29.0
ディーゼル 40.0 33.1 22.6
液化石油ガス(LPG) 7.1 6.8 7.3
バッテリー式電気自動車(BEV) 0.5 2.3 4.6
プラグインハイブリッド(PHEV) 0.3 2.0 4.7
メタンガス 2.0 2.3 2.1

注:ハイブリッドには、プラグインハイブリッド(PHEV)を含まない。
出所:UNRAE資料からジェトロ作成

プラグインハイブリッド車(PHEV)は、前年の2万7,000台から6万9,048台に増加した。全体に占めるシェアが依然小さいものの、前年の2.0%が4.7%に伸びた。

同様に、バッテリー式電気自動車(BEV)も2019年の1万671台が、2020年にはその約3倍の3万2,492台、2021年にはさらに大幅に増えて、6万7,263台となった(図参照)。シェアも前年の2.3%から4.6%に増加した。

図:バッテリー式電気自動車(BEV)新規登録台数の推移
2014年は1,100台、2015年は1,452台、2016年は1,377台、2017年は2,020台、2018年は4,998台、2019年は1万671台、2020年は3万2,492台、2021年は6万7,263台。

出所:UNRAE資料からジェトロ作成

BEVの普及に向けイタリアでは、充電ポイントの不足が課題となっている。EUの脱炭素化目標をBEVで達成するためには、2030年までにその台数を約600万台に増やす必要がある。それに伴い、急速充電ポイントは3万1,500カ所必要になるという。

EUの復興基金の執行にかかりイタリアが策定した国別復興計画(PNRR)では(2021年5月10日付ビジネス短信参照)、(1)急速充電ポイントを高速道路に7,500カ所、都市部に1万3,755カ所設置すること、(2) エネルギー貯蓄技術を備えた実証のための充電ステーションを100カ所設置すること、を目標として掲げた。そのために、7億4,000万ユーロの予算が割り当てられている。

エコカー購入補助制度が再始動

イタリアでは2022年5月、「エコボーナス」が再始動した(表4参照)。この制度は、低排出車などの購入を補助するために設けられたものだ。再始動するまでは、2019年予算法により成立した旧「エコボーナス」が継続的に実施されてきた。しかし、2021年は配分された予算が早期に終了し、制度自体が更新されていなかったため、自動車業界全体で再開が待ち望まれていた。

新制度では、2022~2024年に毎年6億5,000万ユーロ、3年間で総額約20億ユーロの予算が計上されている(2022年5月23日付ビジネス短信参照)。

表4:乗用車へのエコボーナス制度による補助額の例(注1)
走行1キロメートルあたりのCO2排出量 分類 廃車なし 廃車あり(注2) 2022年予算配分
0~20グラム バッテリー式電気自動車(BEV) 3,000ユーロ 2,000ユーロ 2億2000万ユーロ
~60グラム プラグインハイブリッド(PHEV) 2,000ユーロ 2,000ユーロ 2億2500万ユーロ
~135グラム 低排出車 ‐(注3) 2,000ユーロ 1億7000万ユーロ

注1:カテゴリM1(乗客の輸送を目的とし、座席は運転席の他に8席を越えない車両)の場合。
注2:(1)欧州自動車排ガス規制「Euro 0/1/2/3/4/5」に該当すること、(2) 2011年1月1日以前に新車登録された車両をスクラップ(廃車)すること、が条件。
注3:廃車することが補助を受ける条件。
出所:イタリア経済開発省公表資料を基にジェトロ作成

新制度は、2022年5月25日から運用が開始された。なお、5月の新規登録台数は12万1,299台で前年同月比15.1%減だった。ただし、4月には33.0%減を記録していた。そうしてみると、新制度が再始動した5月から早くもインセンティブが効果を発揮したとも解釈できる。続く6月も15.0%減だった。2022年上半期(1~6月)を通して見ると、68万4, 343台で前年同期比22.7%減と低調で、期待は下半期に持ち越されたかたちだ。

ここまで見てきたとおり、「エコボーナス」制度の後押しもあり、イタリアでは低排出車へのシフトが進んでいる。しかしこの動きに、自動車業界から反発もある。乗用車および小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準に関するEU規則の改正案(注)では「新車のCO2排出量を2021年比で2035年までに100%削減」するとの目標が掲げられている(2022年6月10日付ビジネス短信参照)。これ対し、イタリア自動車工業会(ANFIA)のパオロ・スクディエリ会長は「電気自動車への完全移行で7万人の雇用が危機にさらされる。しかし、新規雇用は6,000人しか創出されず大きな雇用ギャップがある」と表明。急激な産業構造の変化に対して、懸念を示した。また、「電気だけでなく、バイオ燃料や水素などの技術にも注目すべき」とした。UNRAEのミケーレ・クリッシ会長も「残された13年という期間が長いのか短いのか問う必要がある」と、慎重な姿勢を示している。

ゼロエミッション化への転換と、従来型自動車産業の雇用保護という板ばさみは避けられない。今後、政府の手腕がますます問われそうだ。


注:
欧州委員会が2021年7月に提案。欧州議会が2022年6月に支持する立場を表明していた。
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
平川 容子(ひらかわ ようこ)
2021年からジェトロ・ミラノ事務所に勤務。