ウズベキスタンの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は前年比6.0%増。サービス産業が成長、加工業も堅調。
  • 経常収支の赤字が大幅に拡大。貿易赤字も拡大、中国がロシアを抜いて貿易相手国の首位に。
  • エネルギー分野で中東企業の積極的な進出が継続。
  • 対日貿易は縮小。エネルギー分野で日系投資案件が着工開始、新分野の協力文書も締結。

公開日:2024年7月26日

シャーヒ・ズィンダ霊廟(サマルカンド、2023年3月ジェトロ撮影)

マクロ経済 
加工業が経済成長をけん引、インフレは若干減速の傾向

ウズベキスタン大統領府付属統計庁の発表によると、2023年の実質GDP成長率は前年比6.0%増だった。需要項目別でみると、総固定資本形成が22.1%増と前年に比べ大きく伸びた。実質GDP成長率は2022年の水準を維持したが、その原動力は家計支出、政府支出から、固定資本形成に移行した。インフレと海外からの個人送金の減少により、国民の実質所得、ひいては家計支出の伸びが鈍化した。一方で政府による電力・ガス部門への大規模投資が固定資本形成を押し上げ、民間の対内直接投資の増加もこれに寄与した。

2023年の産業別GDP成長率は農林水産業が4.1%(前年実績3.6%)、建設が6.4%(同6.6%)、鉱工業が6.0%(同5.3%)、サービスが6.8%(同8.7%)だった。

鉱工業生産額は655兆8,220億スムで、最大構成比84.4%を占める加工業の内訳は金属22.8%、次いで機械・設備・自動車22.4%、繊維・衣類・皮革17.4%だった。加工業の成長率は6.7%で、昨年に引き続き経済成長をけん引した。

サービス産業の売上高は前年比13.7%増の470兆2,900億スムで、構成比は商業23.5%、運輸23.1%、金融22.6%となっている。

2023年12月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.8%上昇した。2022年12月の伸び率と比べ3.5ポイント低下した。食品は9.7%、非食品は7.7%、サービスは8.7%だった。食品のうちフルーツとナッツ(37.1%)、穀物類(9.7%)、肉製品(9.1%)、砂糖・菓子・デザート(9.0%)、牛乳・乳製品・卵(11.2%)、魚介類(7.7%)などの価格上昇が目立った。

世界銀行は、ウズベキスタン政府が2023年にエネルギー部門の改革や国有企業の民営化で重要な措置を講じ、グリーンエネルギーへの投資を継続し、エネルギーと水資源の有効利用に努めてきた点を評価している。同国の高い出生率を考慮すると経済発展の鍵は雇用創出であり、そのためにさらなる市場の自由化と競争の強化を含む改革課題の継続が必要だとしている。

表1 ウズベキスタンの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 1~3月 1~6月 1~9月
実質GDP成長率 7.4 5.7 6.0 5.7 6.1 6.2
階層レベル2の項目 家計最終消費支出 11.7 11.1 6.1 6.5 5.3 4.9
階層レベル2の項目 政府最終消費支出 3.1 3.5 1.4 1.2 1.1 0.7
階層レベル2の項目 総固定資本形成 2.9 0.2 22.1 3.1 7.9 11.8
階層レベル2の項目 財貨・サービスの輸出 13.4 24.6 7.7 △ 6.0 10.5 8.1
階層レベル2の項目 財貨・サービスの輸入 23.4 13.5 11.5 3.5 10.8 8.1

〔注〕2023年の各期間の伸び率は前年同期比。四半期ごとの伸び率は公表されていない。
〔出所〕ウズベキスタン大統領府付属統計庁

経常収支の赤字が拡大、国際金融機関・中国向け債務も増加傾向

ウズベキスタン中央銀行によると、2023年の経常収支は77億8,800万ドルの赤字だった。前年の6億1,800万ドルの赤字から大幅に拡大した。貿易収支の赤字が150億5,700万ドルに対し、一次・二次所得の黒字は97億7,400万ドルで、記録的な貿易赤字を前年のように一次所得と二次所得でカバーすることができなかった。一次所得(主として国外で働くウズベキスタン国民に支払われる賃金・給与および直接・証券投資収入など)の収支は7億6,100万ドルの赤字(2022年は9億300万ドルの黒字)だった。二次所得(ウズベキスタン居住者と非居住者の間のコミットメントを伴わない経常的な送金)の黒字額は105億3,500万ドル(2022年は121億6,400万ドル)となった。中央銀行は、2022年に国際送金の異常な伸びがあったが、2023年には基本的な傾向に戻ったと指摘している。国境を越えた送金が減少した理由の1つとして、現地の金融アナリストは近隣諸国の通貨安を挙げている。

2023年12月31日時点のウズベキスタンの対外債務残高は2022年末比17.4%増の609億6,100万ドルで、このうち中央銀行を除く政府部門が247億6,000万ドル(同21.5%増)、民間非金融部門が198億6,600万ドル(同18.5%増)だった。財務省資料によると、2023年7月1日時点の大口の債権者はアジア開発銀行(債務残高:62億ドル)、世界銀行(56億ドル)、イスラム開発銀行(9億ドル)、中国の信用機関(国家開発銀行と中国輸出入銀行)(38億ドル)、日本(国際協力機構と国際協力銀行)(21億ドル)、韓国(9億ドル)、フランス(7億ドル)、ロシア(6億ドル)であった。対外債務の主な割り当て分野は、政府予算補填(87億6,400万ドル)、燃料・エネルギー産業(53億5,800万ドル)、農業(26億8,800万ドル)、輸送・物流インフラ(26億7,500万ドル)、住宅・公共サービス(23億5,300万ドル)となっている。

貿易 
輸出入とも大きく伸びたが貿易赤字が拡大、中国からの輸入急増

大統領府付属統計庁によると、2023年の貿易(通関ベース)は輸出が前年比23.8%増の244億2,600万ドル、輸入が24.0%増の381億4,100万ドルで、貿易赤字は前年の110億3,500万ドルから137億1,500万ドルに拡大した。主要貿易相手国は中国(構成比21.9%)、ロシア(15.8%)、カザフスタン(7.0%)、トルコ(5.0%)、韓国(3.7%)だった。中国が前年まで1位だったロシアを抜いて首位に立った。

表2-1 ウズベキスタンの主要国別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
ロシア 3,151 3,429 14.0 8.8
中国 2,632 2,462 10.1 △ 6.5
カザフスタン 1,408 1,372 5.6 △ 2.5
トルコ 1,643 1,249 5.1 △ 24.0
アフガニスタン 756 857 3.5 13.3
タジキスタン 522 605 2.5 15.9
キルギス 983 565 2.3 △ 42.5
フランス 73 392 1.6 439.9
パキスタン 185 269 1.1 45.3
アラブ首長国連邦 123 262 1.1 112.9
日本 15 11 0.04 △ 26.8
合計(その他含む) 19,733 24,426 100.0 23.8

〔注〕サービスを含む。
〔出所〕ウズベキスタン大統領府付属統計庁

表2-2 ウズベキスタンの主要国別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 6,428 11,260 29.5 75.2
ロシア 6,231 6,576 17.2 5.5
カザフスタン 3,244 3,026 7.9 △ 6.7
韓国 2,300 2,303 6.0 0.1
トルコ 1,739 1,851 4.9 6.5
ドイツ 1,071 978 2.6 △ 8.7
トルクメニスタン 732 923 2.4 26.2
ブラジル 553 652 1.7 17.9
インド 655 649 1.7 △ 1.0
フランス 272 593 1.6 118.1
日本 219 219 0.6 0.2
合計(その他含む) 30,768 38,141 100.0 24.0

〔注〕サービスを含む。
〔出所〕ウズベキスタン大統領府付属統計庁

輸出の主要品目は、金(構成比33.4%)、工業製品(16.6%、繊維製品、非鉄金属など)、食料品・家畜(7.3%、野菜・果実など)、化学品(5.4%、肥料など)、機械・輸送用機器(5.3%)だった。金の輸出額は、前年比ほぼ倍増の81億5,400万ドルに達した。主要輸出相手国は、ロシア、中国、カザフスタン、トルコ、アフガニスタン、タジキスタン、キルギスで、輸出総額に占める割合は43.1%だった。ロシア向け輸出は前年比8.8%増で、2022年の50.9%増に比べると伸びが縮小した。

輸入の主要品目は、機械・輸送用機器(39.2%、特殊機械、一般産業用機械・部品など)、工業製品(16.6%、鋳鉄・鉄鋼など)、化学品(12.8%、医薬品など)、食料品・家畜(9.2%)、鉱物性燃料・潤滑油(6.9%)となっている。主要輸入相手国は、中国、ロシア、カザフスタン、韓国、トルコ、ドイツ、トルクメニスタンで、輸入総額の7割を占めた。中国からの輸入が、前年比75.2%増と大きく伸びた。

表3-1 ウズベキスタンの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
4,110 8,154 33.4 98.4
サービス 4,457 5,180 21.2 16.2
工業製品 4,384 4,059 16.6 △ 7.4
食料品・家畜 1,632 1,778 7.3 9.0
化学品 1,308 1,314 5.4 0.5
機械・輸送用機器 974 1,305 5.3 34.0
鉱物性燃料・潤滑油 1,215 941 3.9 △ 22.6
非食料品原料 394 325 1.3 △ 17.5
その他 1,260 1,371 5.6 8.8
合計 19,733 24,426 100.0 23.8

〔出所〕ウズベキスタン大統領府付属統計庁

表3-2 ウズベキスタンの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送用機器 9,696 14,935 39.2 54.0
工業製品 5,747 6,323 16.6 10.0
化学品 4,372 4,865 12.8 11.3
食料品・家畜 3,393 3,496 9.2 3.0
鉱物性燃料・潤滑油 1,795 2,634 6.9 46.7
サービス 2,548 2,566 6.7 0.7
雑製品 1,331 1,490 3.9 11.9
非食品原材料(燃料を除く) 1,284 1,125 3.0 △ 12.3
その他 603 708 1.9 17.4
合計 30,768 38,141 100.0 24.0

〔出所〕ウズベキスタン大統領府付属統計庁

対内直接投資 
対内直接投資額が減少、中東から再エネ分野の投資が継続

2023年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は21億8,700万ドル(2022年は26億400万ドル)に達した。うち、純資本投資(生産物分与契約事業を除く)が8億7,000万ドル、親会社からの借入金など負債性資本が9億1,300万ドル、外国人投資家による所得の再投資が7億8,600万ドルだった一方で、生産分与契約締結企業による投資は3億8,200万ドルの引き揚げ超だった。

2023年の大規模な対内直接投資の事例として、アラブ首長国連邦のマスダールやサウジアラビアのアクワ・パワーによる複数の太陽光・風力発電事業などがある。

表4 ウズベキスタンの対内直接投資の推移【実行ベース、ネット、フロー】(単位:100万ドル)
2020年 2021年 2022年 2023年
対内直接投資額 1,728 2,280 2,604 2,187

〔出所〕ウズベキスタン中央銀行

対日関係 
貿易額縮小も、エネルギー分野で日系投資案件が着工開始

日本側の貿易統計(通関ベース)によると、2023年の日本の対ウズベキスタン輸出は前年比13.2%減の2億4,100万ドル、輸入は42.7%減の3,000万ドルとなり、両国間の貿易額は縮小している。日本からの輸出は一般機械(原動機、建設機械)、電気機器(重電機械)などの落ち込みが大きい。日本の輸入では原料別製品、一般機械、化学製品などが大きく減少した。

一方、日系企業が参画する投資案件は少しずつ動き始めている。2023年には日系大手商社が参加するシルダリヤ州第2火力発電所建設工事が着工した。2024年1月10日にタシケントで開催された「ウズベキスタン・日本ビジネスフォーラム」では、日系商社による風力発電所建設案件の発表、IT人材育成分野での日系中小企業によるウズベキスタン進出、日系スタートアップによる宇宙分野でのウズベキスタン政府機関への協力などの新しい案件が発表され、協力文書12件が署名された。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、日系企業がロシアに代わる市場として中央アジアにビジネス機会を求める傾向は変わらない。中央アジア市場をモスクワでなく、中東・ドバイの管轄に含める日系企業が増えている。

表5-1 日本の対ウズベキスタン主要品目別輸出(FOB)
[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 71,306 103,710 43.0 45.4
階層レベル2の項目自動車 70,316 102,441 42.5 45.7
階層レベル3の項目乗用車 14,326 68,786 28.5 380.1
階層レベル3の項目バス・トラック 46,522 27,683 11.5 △ 40.5
一般機械 175,760 66,556 27.6 △ 62.1
階層レベル2の項目原動機 131,295 33,747 14.0 △ 74.3
階層レベル2の項目繊維機械 18,380 19,773 8.2 7.6
階層レベル2の項目ポンプ・遠心分離機 2,085 3,234 1.3 55.1
階層レベル2の項目建設用・鉱山用機械 8,059 3,211 1.3 △ 60.2
電気機器 19,805 8,011 3.3 △ 59.6
階層レベル2の項目電気計測機器 287 1,418 0.6 394.1
階層レベル2の項目電気回路等の機械 1,907 1,262 0.5 △ 33.8
合計(その他を含む) 277,766 241,027 100.0 △ 13.2

〔出所〕財務省「貿易統計(通関ベース)」をドル換算

表5-2 日本の対ウズベキスタン主要品目別輸入(CIF)
[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
一般機械 23,699 10,627 35.1 △ 55.2
階層レベル2の項目電算機類(含周辺機器) 23,410 10,627 35.1 △ 54.6
食料品 8,871 6,258 20.7 △ 29.5
階層レベル2の項目野菜 8,454 5,654 18.7 △ 33.1
階層レベル2の項目果実 155 114 0.4 △ 26.5
化学製品 12,359 5,570 18.4 △ 54.9
原料別製品 2,909 1,041 3.4 △ 64.2
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 841 643 2.1 △ 23.5
階層レベル2の項目非鉄金属 2,036 374 1.2 △ 81.6
電気機器 35 48 0.2 37.1
階層レベル2の項目電気計測器 29 35 0.1 20.7
階層レベル2の項目半導体等電子部品 6 13 0.0 116.7
合計(その他を含む) 52,729 30,240 100.0 △ 42.7

〔出所〕財務省「貿易統計(通関ベース)」をドル換算

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 7.4 5.7 6.0
1人当たりGDP (米ドル) 2,014 2,280 2,563
消費者物価上昇率 (%) 10.0 12.3 8.8
失業率 (%) 9.6 8.9 6.8
貿易収支 (100万米ドル) △ 8,767 △ 11,199 △ 15,057
経常収支 (100万米ドル) △ 4,898 △ 618 △ 7,788
外貨準備高(グロス) (100万米ドル、期末値) 14,189 12,703 9,932
対外債務残高(グロス) (100万米ドル、期末値) 43,437 51,937 60,961
為替レート (1米ドルにつき、スム、期中平均、公定レート) 10,609 11,050 11,735

注:
消費者物価上昇率:12月の前年同月比
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、貿易収支:ウズベキスタン大統領府付属統計庁
失業率:ウズベキスタン雇用・貧困削減省
経常収支、対外債務残高(グロス):ウズベキスタン中央銀行
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF