外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用
最終更新日:2024年01月12日
外国人就業規制
外国人がロシアで働く場合、労働許可の取得を必要とする。2002年11月に施行された2002年7月25日付連邦法第115-FZ号「ロシア連邦における外国人の法的地位について」により、労働許可の取得に関する規制が強化された。
概要
ロシア憲法第62条第3項では、外国国籍および無国籍者は、ロシア国内において、連邦法または国際条約に特段の定めがある場合を除き、ロシア国籍者と平等の権利を享受し、義務を負うとしている。特段の定めにおける制限の一例として、外国人の労働許可制度が挙げられる。ロシアにおける労働許可の法制度は、2002年11月1日に発効した2002年7月25日付連邦法第115-FZ号「ロシア連邦における外国人の法的地位について」により規定されている。
また、2020年8月1日付内務省規程第541号「ロシア連邦内務省による、外国人労働者の採用および雇用に関する許可証、外国人および無国籍者の就労許可証の交付に関する国家業務の提供についての行政規則の承認について」では、外国人に対する労働許可の取得手続きについて、必要書類をはじめとする変更を加えている。
2002年7月25日付連邦法第115-FZ号「ロシア連邦における外国人の法的地位について」によると、ロシアにおける外国人の滞在には、一時的滞在、一時的居住、長期的居住という3種類があり、労働を目的とする滞在の種類は、一時的滞在(通常は1年以内の滞在、ただし3年以内の滞在の場合もある)および一時的居住(3年以内の滞在)である。
労働許可申請の手続き
労働許可の通常の手続きの流れは、次のとおりである。
外国人を雇用するには、招待状(事業主の申請で内務省移民総局が発行)、外国人雇用許可(一定の人数の範囲内において外国人を雇うことを認める書類)、外国人雇用契約に基づく個別の労働者の雇用許可の3つの書類が要求される。雇用許可を取得するためには、内務省移民総局に申請書を提出し、外国人を使用する予定の連邦構成体における雇用当局の意見書および雇用予定の企業の税務登記証明書などを提出しなければならない。
雇用許可書の交付を受けた場合、被雇用者ごとに個別の許可証を受領する必要がある。すなわち「労働許可証」は2種類あり、外国人を雇用する予定の法人名義の外国人使用許可、および被雇用者自身の外国人名義の労働許可をともに取得しなければならない。
ロシア入国ビザを必要としない国の国籍を有する人については、簡易手続きが適用される。
2015年1月1日より、外国人は、居住証明、一時的居住許可、労働許可、労働パテント(CIS諸国からの労働者について適用される労働許可の一種)の取得を申請する際、ロシア語、ロシアの歴史、ロシア法基礎の試験合格証明書を提出する必要がある(旧ソ連・ロシアの教育機関を卒業した外国人はこれらの試験が免除され、当該卒業証明書などを提出する)。
ジェトロ調査レポート:ロシア2015年1月以降の労働許可取得手続きの変更点(2015年2月)
招待状の割当枠(クオータ)
ロシア政府は、連邦法「ロシア連邦における外国人の法的地位について」の第18条および第18.1条第3項に従い、毎年、前記の招待状について最大限の割当枠(クオータ)を設定(2023年11月23日付連邦政府決定第1980号に基づき、2024年の招待状のクオータは15万5,929件、CIS諸国からの外国労働者はロシア入国ビザが不要なため、前記制限の対象外)するとともに、労働許可についても、必要に応じてロシア全国または特定の地方を対象として、最大限のクオータを設定することができる。しかし、クオータが適用されない職業もあり、それは主に企業のトップの役職および特定のエンジニアである(当該職業のリストは労働・社会保護省規程により規定)。また、ロシア政府は2023年9月16日付連邦政府決定第1511号に基づき、野菜栽培、たばこ・アルコール・医薬品小売り販売などの一定業種について2024年における外国労働者の最大割合を決定した。
雇用許可取得要件の免除
- 高度熟練専門家
外国からの高度熟練専門家(High Qualified Specialist:HQS)の採用を簡素化するため、2010年7月1日より、高度熟練専門家を対象とする労働許可制度が採用された(2010年5月19日付連邦法第86-FZ号)。
高度熟練専門家とは、月々の所得が16万7,000ルーブル(2024年3月1日より25万ルーブル)を超える外国専門家である。また、特別経済区の入居企業により雇用されるHQSについては、月額8万3,500ルーブルの所得基準(研究開発型特区の場合、月額5万8,500ルーブル)が適用され、その他奨励措置として限定された基準が適用される。雇用者としては、過去2年間に外国労働者の不法使用の罰則歴のない、ロシアの営利企業、科学・教育・保健組織、外国法人の駐在員事務所・支店が認められている。当該の高度熟練専門家の雇用に際しては、雇用許可が不要であり、クオータの適用がなく、前述のロシア語、ロシアの歴史、ロシア法基礎の試験を受ける必要もない。 - イノベーションセンター・スコルコボおよびウラジオストク自由港
研究開発の促進策であるイノベーションセンター・スコルコボ(モスクワ郊外)を中心とする奨励体制の一環として、2010年9月28日付連邦法第244-FZ号「イノベーションセンター・スコルコボについて」と2010年9月28日付連邦法第243-FZ号「『イノベーションセンター・スコルコボについて』の採択に関するロシア連邦法令の改正について」に従い、イノベーションセンター・スコルコボの入居企業による外国人の雇用については、雇用許可の取得要件およびクオータ適用が免除され、高度熟練専門家に関する前記の最低給与額の要件の適用から除外される。また、ウラジオストク自由港の入居企業による外国人の雇用についても雇用許可の取得要件およびクオータ適用が免除される。 - WTO加盟国における営利企業のロシア子会社など
ロシアにおける労働許可の取得ルールが、2014年より、WTO加盟国における営利企業のロシア子会社(サービスを提供する会社のみ)、駐在員事務所、支店の外国人従業員については簡素化された。1.のHQS制度と同様、雇用許可が不要となり、クオータも適用されず、ビザの最長期間が3年となった(通常は1年)。ただし、対象となる外国人従業員については、役職や給与額、その他の要件がある。
不法就労取り締まりの厳格化
近年ロシアでは、不法労働者に対する取り締まりが強化され、当該法律違反に対する処分の厳格化傾向にある。改正後の2001年12月30日付第195-FZ号「行政違反に関する基本法」では、雇用許可を取得せずに外国人を雇用する法人に対しては、100万ルーブル以下の罰金または90日以内の業務停止が命じられ、労働許可なしでロシア国内において労働を行う外国人に対しては、7,000ルーブル以下の罰金または国外追放が命じられることがある。
在留許可
査証の種類や発給手続きなどについては、連邦法第114-FZ号「ロシア連邦からの出入国手続きについて」が規定する。外国人がロシアで働く場合、「普通労働ビザ」の取得が必要である。
概要
ビザの発給、入国、その他の在留手続きについては、1996年8月15日付連邦法第114-FZ号「ロシア連邦からの出入国手続きについて」で規定される。
ビザの取得には、ロシアの個人・法人などの申請によって関係機関(通常、外務省または連邦内務省移民総局)が交付する招待状が必要である(2002年7月25日付連邦法第115-FZ号「ロシア連邦における外国人の法的地位について」第16条、2020年9月29日付内務省規程第677号「外国人および無国籍者のロシア連邦への入国に際する招待状の作成および発給に関するロシア連邦内務省行政規則の承認について」)。
また、2003年1月10日付連邦法第7-FZ号「ロシア連邦からの出入国手続きの修正について」第26条によると、外国人で就労を目的としてロシアに入国する場合は、「普通労働ビザ」が必要となる。
普通労働ビザ申請手続き
具体的な交付手続きは、2003年6月9日付連邦政府決定第335号「査証様式、および査証の作成、その交付有効期間の延長、紛失の場合の再交付、査証の取消手続きならびに要件の制定の承認について」によって規定されている。
同決定第35項では、「普通労働ビザ」は、ロシアの外交機関または領事機関が、外国国籍の人に対して有効期間を3カ月とするビザを交付し、当該ビザを受け取った本人がロシア国内での滞在登録を行った地域を管轄する連邦内務省移民総局の地方局が、雇用契約などの期間(ただし、1年以下、なお、高度熟練専門家(High Qualified Specialist:HQS)およびWTO加盟国における営利企業のロシア子会社(サービスを提供する会社のみ)、駐在員事務所、支店の一定の外国人従業員については3年以下)を有効期間とする数次ビザを交付することができる。
また、外国人は、その滞在地を管轄する連邦内務省移民総局の地方局に登録しなければならない(第109-FZ号「ロシア連邦における外国人および無国籍者の在留登録について」)。
2012年1月28日に署名された日露査証簡素化協定(日本国およびロシア連邦の国民に対する査証の発給手続の簡素化に関する日本国政府とロシア連邦政府との間の協定)は、2013年10月30日に発効し、特に、経済・商業活動を行うための入国手続きが簡素化された。
具体的には、新規則に基づき両国民は、最長3年有効な商用数次ビザを受領することができる。90日間有効な一次入国ビザの取得手続きも簡素化された。加えて、ロシアに所在する法人・団体は、ロシア関係機関に招待状申請をすることなく、直接要請書を発行できるようになった。また、2016年12月の日ロ首脳会談を受けて、2017年より、日本人に発給される入国ビザの有効期間延長などの緩和措置が講じられた。
現地人の雇用義務
現地人の最低雇用人数については、特に定めはなく、現地法人の社長にも外国人が就任できる。ただし、禁止・制限業種に関しては、その限りではない。
現地人の最低雇用人数は特に定められておらず、現地法人の社長に外国人も就任できる。
ただし、企業の最高責任者やその他の経営陣に関し、ロシア人の雇用義務が規定されている業種もある。なお、企業の会計担当者(会計部長など)は、ロシア国内の滞在資格として、一時滞在または一時居住の資格を持つ必要がある。
生産物分与協定制度に関しては、1995年12月30日付連邦法第225-FZ号「生産物分与協定について」第7条において、生産物分与の条件下で実施されるプロジェクトに従事する従業員総数の80%以上はロシア国籍でなければならず、外国の労働者および専門家の雇用は、プロジェクトの実施にかかる作業が初期段階にある場合または当該技能を有するロシア国籍の労働者および専門家がいない場合に限る、とされている。
ジェトロ調査レポート:欧州・ロシア雇用制度一覧(2016年10月)※ロシアは47ページ以降に掲載。
その他
2006年7月18日付連邦法第109-FZ号「ロシア連邦における外国人および無国籍者の在留登録について」に従い、外国人のロシア入国後の到着通知の提出および在留登録の手続きを行う必要がある。在留登録の手続きは、当該外国人の身元を引き受ける側が行わなければならない。ただし、外国人本人は、ロシア国外にロシア定住しているロシア国籍者、ロシア国外にある外国人、外国法人・組織より住居の提供を受ける場合、在留登録の手続きを行うことができる。その際前記のカテゴリーに該当する住居の所有者が作成した公証人により証明済みの在住同意書も提出する必要がある。
以前は勤務先による在留登録が認められていたが、2018年7月8日に発効した同法の改定で、勤務先が住居を借り上げた場合を除き、勤務先による在留登録ができなくなり、当該外国人への住居の提供者による在留登録しか認められなくなった。
ウラジオストク自由港、極東連邦管区、カリーニングラード州、サンクトペテルブルク市およびレニングラード州の空港への入国の場合、日本、中国を含む52カ国の国籍を持つ外国人を対象にインターネット経由の申請を可能とする電子ビザの制度が適用される。
新型コロナウイルス関連の対策措置
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で外国人のロシアへの入国禁止措置が発動されていたが、段階的に緩和され、2020年10月14日付政府指示第2649-r号により、日本国籍者のロシア入国が再開することとなった。
労働査証について2020年4月18日付大統領令第274号「新型コロナウイルスの感染拡大のリスクに伴う外国人および無国籍者の法的地位の調整にかかる一時的措置について」に従い、6月15日まで、滞在期間の期限が適用されないと規定されたため、労働査証の有効期限が過ぎたとしても失効が発生せず、責任も発生しないこととなる。当該期間は、重ねて延長されていたが、2021年12月31日をもって延長が終了したため通常のルールが適用されている。
なお、前記の2002年7月25日付連邦法第115-FZ号「ロシア連邦における外国人の法的地位について」および1998年7月25日付連邦法第128-FZ号「ロシア連邦における指紋登録について」のそれぞれの改正に従い、2021年12月29日より、ロシアに入国する外国人について指定医療機関での医療検査(麻薬、結核、HIV、新型コロナウイルスなど)を受けるとともに、写真撮影および指紋登録が義務付けられることとなった。就労目的の外国人とそれ以外の目的の外国人について、入国日から30日以内と90日以内に前記医療検査を受ける必要がある。また、1年が経過した後、30日以内(HQSについて労働許可更新の30日以内)に前記の医療検査を再度受けることが義務付けられる。