ロシアの貿易投資年報
マクロ経済
予想を超える大幅な伸び、製造と消費の両輪が回復を牽引
連邦国家統計局によると、2023年の実質GDP成長率は3.6%であった。前年のマイナスからプラス成長へと回復、経済規模は実質基準でウクライナ侵攻開始前の2021年を上回った。
鉱工業生産は3.5%増。うち鉱業は1.3%減であった。EU向けの輸出が減少した天然ガスは7.5%減と、2年連続の大幅減となった。前年はプラスだった液化天然ガス(LNG)も2.4%減となった。ただし、これはヤマルLNGプロジェクトやサハリンの生産施設での定期点検の影響と指摘されている。原油の生産統計は2023年3月以降非公表となったが、アレクサンドル・ノワク副首相によると原油生産量は前年比0.8%減だった。製造業は7.5%増と大きく回復した。コンピュータ・電子・光学機器(32.8%増)、金属製品(27.8%増)、輸送用機器のうち自動車およびトレーラーなど(13.6%増)、その他の輸送用機器(25.5%増)や、家具(20.7%増)、電気機器(19.0%増)の伸びが顕著だった。一部の品目には軍需関連製品が含まれるとみられる。外資撤退の影響で2022年に生産減となった家電は7.7%増、うち冷蔵庫が18.3%増と回復したものの、洗濯機は8.5%減と2年連続でマイナスだった。
固定資本投資は9.8%増。製造業向けが化学、冶金(やきん)を中心に伸び、前年のマイナスから15.8%増と大きく回復した。金属製品、コンピュータおよび電子機器・光学機器向けも、それぞれ1.4倍、1.3倍となった。鉱業向けは9.4%増と前年とほぼ同じ水準を維持し、石油・天然ガス採掘は10.7%増だった。建設は、2022年に比べると鈍化傾向にあったものの、住宅を中心に高い伸びが続いた。IT関連では、政府が国産化を進めるコンピュータソフト開発が前年比24.9%増と、4年連続で2割を超える伸びを示した。
小売売上高は8.0%増。実質賃金の回復のほか、並行輸入などによるサプライチェーンの回復、国内製造業の回復を背景に、第2四半期以降、前年同期比で二桁のプラスが続いた。消費者物価上昇率は前年12月比7.4%だった。失業率は1992年以降の最低水準を更新し続け、第4四半期は2.9%を記録した。
財政収支は3兆2,297億ルーブルと、2年連続の赤字となった。当初予算と比べ約3,000億ルーブル上回ったものの、赤字額のGDP比は1.9%と、当初予算での想定に収めた形だ。単月ベースでは下半期を中心に黒字になる月もみられた。歳入面では非石油ガス収入が増加したことが特徴として挙げられる。輸入や国内消費の回復から、付加価値税収入が大きく増加した。また「その他の収入」(石油ガス以外の輸出関税や国有企業からの配当、リサイクル税など)の伸びも税収増に貢献した。その一方で、石油ガス収入は減少した。エネルギー資源の国際価格の下落、OPECプラスの枠内での減産合意、2018年のエネルギー資源関連税制改正(2018年9月21日付ビジネス短信参照)により段階的に低下する資源関連の輸出税率などが背景にある。
石油天然ガス収入を原資とし、財政赤字補填や政府による投資プロジェクトに活用される国民福祉基金は、12月末時点のドル換算で1,334億ドルと年初に比べ149億ドル減少した。ルーブル建て残高は年初に10兆4,346億ルーブルだったところ、年末には11兆9,651億ルーブルと微増となった。
項目 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | ||||
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年間 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | |||
実質GDP成長率 | 5.9 | △ 1.2 | 3.6 | △ 1.6 | 5.1 | 5.7 | 4.9 |
最終消費支出 | 7.9 | △ 0.1 | 6.6 | 1.5 | 9.1 | 9.0 | 6.9 |
総固定資本形成 | 9.3 | 6.7 | 8.8 | 6.8 | 12.9 | 7.7 | 8.1 |
財貨・サービスの輸出 | 3.2 | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. |
財貨・サービスの輸入 | 19.1 | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. |
鉱工業生産 | 6.3 | 0.7 | 3.5 | △ 1.4 | 5.7 | 5.4 | 4.1 |
農業生産 | △ 0.7 | 11.3 | △ 0.3 | 1.6 | 1.1 | 2.4 | △ 5.7 |
固定資本投資 | 8.6 | 6.7 | 9.8 | 1.0 | 13.3 | 14.5 | 8.6 |
貨物輸送 | 5.8 | △ 2.3 | △ 0.6 | △ 1.8 | △ 2.4 | 0.8 | 1.0 |
小売売上高 | 7.8 | △ 6.5 | 8.0 | △ 5.5 | 11.2 | 14.0 | 11.7 |
実質可処分所得 | 3.3 | 4.5 | 5.8 | 7.3 | 3.3 | 5.5 | 7.0 |
財政収支のGDP比 | 0.4 | △ 2.1 | △ 1.9 | △ 5.8 | △ 0.7 | 2.0 | △ 3.5 |
〔注〕財政収支のGDP比以外は前年(同期)比伸び率。財政収支のGDP比は、連邦政府ベース。
〔出所〕連邦国家統計局。財政収支のGDP比のみ統計局および財務省資料からジェトロ作成。
貿易
アジア向けの輸出が増加するも欧州向けの減少を補うには至らず
連邦税関局によると、2023年のロシアの輸出は前年比1,673億9,900万ドル(28.3%)減の4,250億8,800万ドル、輸入は297億5,200万ドル(11.7%)増の2,850億5,700万ドル、1,400億3,100万ドルの貿易黒字であった。主要輸出品目の鉱物性燃料の輸出額が前年比3割減となったことが影響し、貿易黒字は前年の3,371億8,200万ドルから縮小した。
地域別でみると、輸出はアジアが全体の72.1%を占めた(前年は49.0%)。エネルギー資源の輸出が大幅に減少した欧州向けのシェアは、前年を24.9ポイント下回る20.0%だった。しかし、金額ベースではアジア向けは前年比161億8,900万ドル(5.6%)増と微増にとどまり、欧州向けの減少分1,806億9,600万ドルを補うには至らなかった。輸入はアジアが全体の65.8%を占め、最大の貿易相手地域となった。欧州の構成比は27.5%と、前年より7.5ポイント減少した。欧州から制裁対象外である医薬品、一部の機械設備の輸入が続いている。
品目別でみると、輸出は例年同様、鉱物製品(全体の61.2%)、金属および同製品、食品・農産品が上位を占めた。食品・農産品は品目別で唯一、金額ベースで前年比増となった。輸入は機械・設備・輸送用機器などが51.1%を占めた。輸出入品目構成はこれまでと大きく変わるところはなく、ロシアの貿易構造は基本的に資源を輸出し機械類を輸入する形が2023年もみられた。
連邦税関局は2022年2月分以降停止していたウェブサイトでの貿易統計の公表を、2023年3月に再開した。しかしその項目は、品目はHSコード2桁、国・地域は地理的な地域区分ごとと、大分類にとどまっている。
ロシアの貿易を相手国側から見ると、中国のロシア向け輸出は輸送用機器を含む機械類がけん引し、前年比46.1%増の1,114億4,290万ドルとなった。輸送用機器のうち、乗用車およびトラクターが前年比7倍、貨物自動車が2倍、自動車部品が42.4%増となった。金額は小さいものの、組み立て用の部品とみられる原動機付シャシ、車体が顕著な伸びを見せた。無人航空機は4割減となった一方、航空機用部品は5倍となった。輸入は13.7%増の1,276億2,749万ドルだった。原油、石油製品、ガス、石炭の鉱物性燃料がけん引した。このほか、金属のうちアルミニウム、白金、銅のほか鉄鋼製品の輸入が増加した一方、鉄鋼は減少した。
EUのロシア向け輸出は前年比28.8%減の412億8,312万ドルだった。自動車および同部品や産業用機械を中心に減少が続いた。ヘリコプター・航空機は全減となった。その一方、医療用品や医療機器など制裁非対象品目は、減少はありつつも一定規模の輸出が続いている。水およびアルコール飲料は若干の増加を見せた。輸入は75.5%減の480億4,947万ドルだった。エネルギー資源は前年に引き続き大幅な減少となった。
ロシア政府は機械設備や部品・原材料の国産化(輸入代替)やそれを通じた非資源・非エネルギー製品の輸出を目指している。産業商務省は2023年の非資源・非エネルギー関連輸出は前年比23%減の1,463億ドルだったと発表した。2024年2月にモスクワで開催された産業関連会議の席上、デニス・マントゥロフ副首相兼産業商務相(当時)は、アジア、中東、アフリカ、中南米への輸出を強化することで非資源・非エネルギー製品の輸出増につなげる考えを示した。
品目 | 輸出(FOB) | 輸入(CIF) | ||||||
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2022年 | 2023年 | 2022年 | 2023年 | |||||
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
食料品・農産品(繊維を除く) | 41,279 | 43,058 | 10.1 | 4.3 | 35,767 | 35,149 | 12.3 | △ 1.7 |
鉱物製品 | 391,597 | 260,127 | 61.2 | △ 33.6 | 5,284 | 5,551 | 2.0 | 5.1 |
燃料・エネルギー製品 | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. | n.a. |
化学品・ゴム | 41,988 | 27,205 | 6.4 | △ 35.2 | 57,061 | 55,708 | 19.5 | △ 2.4 |
皮革原料・皮・同製品 | 223 | 140 | 0.0 | △ 37.2 | 981 | 1,199 | 0.4 | 22.2 |
木材・パルプ製品 | 14,031 | 9,860 | 2.3 | △ 29.7 | 3,876 | 3,358 | 1.2 | △ 13.4 |
繊維・同製品・靴 | 1,874 | 1,746 | 0.4 | △ 6.8 | 15,758 | 19,128 | 6.7 | 21.4 |
貴石・金属および同製品 | 70,710 | 60,026 | 14.1 | △ 15.1 | 19,121 | 19,196 | 6.7 | 0.4 |
機械・設備・輸送用機器、その他の物品 | 30,783 | 22,927 | 5.4 | △ 25.5 | 117,456 | 145,766 | 51.1 | 24.1 |
合計 | 592,487 | 425,088 | 100.0 | △ 28.3 | 255,305 | 285,057 | 100.0 | 11.7 |
〔出所〕連邦税関局
地域 | 輸出(FOB) | 輸入(CIF) | ||||||
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2022年 | 2023年 | 2022年 | 2023年 | |||||
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
欧州 | 265,629 | 84,933 | 20.0 | △ 68.0 | 89,509 | 78,468 | 27.5 | △ 12.3 |
アジア | 290,434 | 306,623 | 72.1 | 5.6 | 145,155 | 187,525 | 65.8 | 29.2 |
アフリカ | 14,802 | 21,154 | 5.0 | 42.9 | 3,088 | 3,353 | 1.2 | 8.6 |
米州 | 20,545 | 12,243 | 2.9 | △ 40.4 | 16,844 | 14,995 | 5.3 | △ 11.0 |
オセアニア | 282 | 7 | 0.0 | △ 97.5 | 397 | 166 | 0.1 | △ 58.2 |
合計(その他含む) | 592,487 | 425,088 | 100.0 | △ 28.3 | 255,305 | 285,057 | 100.0 | 11.7 |
〔出所〕連邦税関局
通商政策
外国企業の活動を制限する措置を引き続き導入
ウクライナ侵攻から1年が経過した2023年も、西側諸国からの経済制裁を受けロシア政府による対抗措置が相次いで打ち出された。2022年中に導入された措置の延長や追加・改訂も数多くみられた。西側諸国が打ち出す経済制裁と相まって、日本を含む非友好国(ロシア政府、ロシアの個人および法人に対して非友好的行為を行う国・地域)企業のロシアにおける活動には、引き続き多くの困難が伴った。
為替管理では、取引決済における外貨取引の制限が導入・拡大された。8月、農産物の輸出代金の決済を、特別口座(Z口座)を通じてルーブルで行うことが決定され、11月から施行された。同じく8月、政府保証付き外貨建て債務の返済にあたり、債権者の同意を得たうえでルーブルによる返済を可能とした。2022年2月に導入され同年6月にいったん廃止された輸出獲得外貨のルーブルへの強制交換は、エネルギー資源、金属、穀物など大手輸出企業43社を対象として2023年10月に再開した。
金融関連では8月、在ロ外国企業や駐在員の金融取引制限や資産凍結を可能にする法令改正が行われた。ロシア企業などの国外資産凍結への対抗や、ロシアからの撤退を意図する企業への牽制とみられる。証券取引に関しては11月、ロシアの投資家が保有する海外の有価証券で取引が禁止されたものを、特別口座(C口座)を使い非居住者に対し売却することを可能にした。
貿易関連では、国内向け供給確保のため輸出制限と輸入拡大を目的とした施策が前年に引き続き導入された。9月にガソリンおよびディーゼル燃料(ガソリンについては11月に解除)、10月には貴金属および貴金属を含むくずやスクラップの輸出が一時的に禁止された。11月には、一部の窒素肥料などのユーラシア経済連合(EAEU)域外への輸出に数量制限が設けられた。2022年3月に導入された機械類を中心とする200品目以上の輸出・再輸出禁止措置は2023年7月、期限が2025年末まで延長された。2022年5月に導入された電気設備・機器の輸入手続き簡素化措置の期限は、2024年末まで延長された。
企業活動関連では、4月に企業資産の一時的な政府による管理を可能とした。当初は非友好国を対象としていたが、その後2023年末までに、ロシア企業も含め電力、食品、印刷、自動車販売関連など20社が国の管理に移管された。8月には、歳入不足を補うための一度限りの徴税手段として超過利潤税が導入された。国税基本法上の益金から損金を差し引いた2021~2022年の平均所得が2018~2019年のそれを上回った場合、超えた部分の10%を2024年1月28日までに納付することが定められた。同税の導入にあたっては場当たり的、予見可能性の欠如など、ロシアの実業界からは強い不満の声が挙がった。
外資撤退に対する制限措置では7月、撤退した外国企業が事業を買い戻す場合、事業譲渡時点の市場価格で買い戻すこと、また買い戻しは売却後2年以内に行う必要があることが定められた。9月には、撤退に際して支払う国庫納付金の算定率が引き上げられた。8月、売り上げ規模、従業員数、活動分野など一定の要件を持つ企業を経済的重要機関として定め、それらにおける外国株主の権利の制限を可能にする法律が成立した。8月には、38カ国との間で租税条約の効力の一部停止を大統領令によって一方的に定めた。これにより、ロシアで活動する日本企業に対しては配当、利子、ロイヤルティ、海上・航空輸送などで課税が強化された。
対内・対外直接投資
西側諸国企業の撤退の流れは継続、友好国企業の進出も
ロシア中央銀行の直接投資統計(国際収支ベース、ネット、フロー)によると、2023年の対内直接投資は111億8,000万ドルの引き揚げ超過だった。2022年に引き続いての引き揚げ超過となった。2023年末の対内直接投資残高は前年末比24.5%減の3,336億9,800万ドルだった。2023年の国・地域別、業種別の統計は昨年に引き続き公表されていない。
ロシアがウクライナへの侵攻を開始した2022年2月24日以降、西側諸国の企業は相次いでロシア市場からの撤退、およびロシアにおける事業・資産を整理すると表明しているが、2023年もその傾向は継続した。スウェーデン発祥の住宅開発会社ボナバ(Bonava)は2023年10月、サンクトペテルブルク事業の売却に関する契約をアルメニアのスター・デベロップメント(Star Development)と締結、約5,000万ユーロで売却したと発表した。デンマークに拠点を構える海運コングロマリットであるマースク(Maersk)は2022年3月にロシアでの事業活動の中止を決定していたが、2023年2月にサンクトペテルブルクとノボロシースクの物流施設をキプロスのIGファイナンス・デベロップメント(IG Finance Development) に売却する契約を締結したと発表した。売却額は明らかにしていない。英国のブリティッシュ・アメリカン・タバコ(British American Tobacco)は2023年9月、同社のロシアおよびベラルーシ事業を、同事業を率いてきた現地経営陣コンソーシアムに売却する契約を締結したと発表、同月14日に売却が完了したと発表した。
西側企業は撤退を進める中、ロシアに投資を行う「友好国」企業も存在する。衛生用紙製品を生産するトルコのハヤト・コンシューマー・グッズ(Hayat Consumer Goods)は2023年6月、第26回サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいてカルーガ州政府と意向表明書に署名した。カルーガ州ですでに稼働している同社工場に約6億8,000万ルーブルを投じ、生産能力を30%増強させるとしている。同じくトルコ企業で、自動車部品を生産するジョシュクノズ(Coskunoz)は8月、総額10億ルーブル超を投じ、タタルスタン共和国のアラブガ経済特区において地場自動車メーカー大手のアフトワズ(AvtoVAZ)向けシャシー部品の連続生産を開始している。
2023年の対外直接投資は95億6,700万ドルだった。昨年の引き揚げ超過から転じた。同年末の対外直接投資残高は前年末比17.9%減の3,131億2,700万ドルだった。国・地域別、業種別の統計は発表されていない。
項目 | 2022年 | 2023年 |
2023年末 残高 |
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金額 | 金額 | 伸び率 | ||
対内直接投資 | △ 39,801 | △ 11,180 | — | 333,698 |
対外直接投資 | △ 13,086 | 9,567 | — | 313,127 |
〔出所〕ロシア中央銀行
業種 | 企業名 | 国籍 | 時期 | 金額 | 概要 |
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海運 | マースク(Maersk) | デンマーク | 2023年2月 | 不明 | 2022年3月にロシアでの事業活動の中止を決定していたが、サンクトペテルブルクとノボロシースクの物流施設をキプロスのIGファイナンスデベロップメント(IG Finance Development)に売却する契約を締結した。 |
タイヤ | コンチネンタル(Continental) | ドイツ | 2023年5月 | 不明 | ロシアのカルーガ工場をロシアのS8キャピタル(S8 Capital)に売却、取引自体も関係当局によって承認されていると発表。カルーガの工場で乗用車用タイヤなどを生産していた。売却額は公表されていない。 |
飲料 | ハイネケン(Heineken) | オランダ | 2023年8月 | 1ユーロ | ロシア事業を、金属パッケージを製造するメーカーであるロシアのアーネストグループ(Arnest Group)に売却する取引が完了したと発表。売却額は1ユーロで、3億ユーロの累積損失を見込む。 |
タバコ | ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(British American Tobacco) | 英国 | 2023年9月 | 不明 | ロシアおよびベラルーシ事業を現地事業を率いてきた現地経営陣コンソーシアムに売却する契約を締結し、売却を完了したと発表。 |
紙パルプ | インターナショナル・ペーパー(International Paper) | 米国 | 2023年9月 | 4億8,400万ドル | 2007年以来、ロシア最大の紙パルプ会社であるイリムグループ(Ilim Group)と合弁事業を行ってきたが、合弁会社のイリムSA(Ilim SA)の株式50%を4億8,400万ドルで売却したと発表。イリムグループのグループ会社であるイリム・グローバル・ティンバールス(Iilim Global Timber Rus)が株式を買い取った。 |
住宅 | ボナバ(Bonava) | スウェーデン | 2023年10月 | 約5,000万ユーロ | サンクトペテルブルク事業の売却に関する契約をアルメニアのスター・デベロップメント(Star Development)と締結、約5,000万ユーロで売却したと発表。 |
〔出所〕各社発表、現地政府発表および報道などから作成
業種 | 企業名 | 国籍 | 時期 | 金額 | 概要 |
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エネルギー | ユニパー(Uniper) | ドイツ | 2023年4月 | — | ロシアのウラジミール・プーチン大統領は2023年4月、ロシアに対し非友好的措置をとる国の企業などがロシア国内に持つ資産(ロシア企業の株式などを含む)を一時的にロシア政府が管理することを可能にする大統領令第302号に署名、即日発効したことにより、同社がロシアで所有するユニプロ(Unipro)の株式の83.73%がロシア政府の管理下に置かれた。 |
電力 | フォータム(Fortum) | フィンランド | 2023年4月 | — | 同じく大統領令第302号の発効により、同社のロシア子会社の株式の98.23%がロシア政府の管理下に置かれた。 |
飲料 | カールスバーグ(Carlsberg) | デンマーク | 2023年7月 | — | プーチン大統領は2023年7月、デンマークのビール大手カールスバーグとフランス食品大手ダノンがロシアに保有する資産を一時的に国有化する大統領令第520号に署名。同大統領令により、ダノンが保有する同社子会社のロシア法人の普通株合計約833億株、カールスバーグ関連企業が保有するロシア地場ビールメーカーであるバルチカ(Baltika)の全ての株式が国有化された。 |
食品 | ダノン(Danone) | フランス | 2023年7月 | — |
〔出所〕各社発表、現地政府発表および報道などから作成
業種 | 企業名 | 国籍 | 時期 | 金額 | 概要 |
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投資会社 | バルチュグキャピタル(Balchug Capital) | アルメニア | 2023年2月 | — | フィンランドのEKEファイナンス(EKE Finance)とビーカス(Vicus)が所有していた、サンクトペテルブルク最大のビジネスセンターのひとつであるプルコボ・スカイ(Pulkovo Sky)を買収したと発表。取引額は公表されていない。 |
日用品 | ハヤト・コンシューマー・グッズ(Hayat Consumer Goods) | トルコ | 2023年6月 | 6億8,000万ルーブル | 第26回サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいてカルーガ州と意向表明書に署名した。カルーガ州ですでに稼働している同社工場に約6億8,000万ルーブルを投じ、生産能力を30%増強させるとしている。 |
自動車部品 | ジョシュクノズ(Coskunoz) | トルコ | 2023年8月 | 10億ルーブル超 | タタルスタン共和国のアラブガ経済特区において、アフトワズ向けシャシー部品の連続生産を開始した。投資総額は10億ルーブルを超える。 |
建設 | 豊尚農牧装備(FAMSUN Group) | 中国 | 2024年5月 | — | 2024年5月付の豊尚農牧装備のウェブサイトによると、同社はダゲスタン共和国のマハチカラ港に穀物ターミナルを建設する予定。 |
〔出所〕各社発表、現地政府発表および報道などから作成
対日関係
対ロ貿易は輸出入ともに大幅減、撤退や事業停止も続く
日本の財務省「貿易統計(通関ベース)」をドル換算すると、2023年の日本の対ロシア輸出額は前年比38.9%減の28億5,700万ドル、輸入額は51.6%減の74億4,000万ドルだった。ウクライナ侵攻に端を発した日系各社のロシア向け出荷の停止、政府による輸出禁止措置が影響した。主要輸出品目である自動車の輸出額は28.9%減だった。台数ベースでみると乗用車は3.7%減の21万2,498台で全てが中古乗用車だった。侵攻以降、自動車各社のロシア向け新車出荷停止が続いていることや、2023年8月の日本の対ロ制裁の対象に中古車を含む排気量1,900cc超の自動車が入ったことが影響した。一般機械は64.7%減、うち建設用・鉱山用機械(96.7%減)、荷役機械(89.8%減)が大きく落ちた。輸入では、主要輸入品目である液化天然ガス(LNG)が19.5%減の41億8,800万ドル、石炭が77.7%減の8億2,200万ドルといずれも大幅に減少した。原油および粗油も減少し5,300万ドル(96.4%減)だった。日本を含むG7諸国は2022年12月以降、ロシア産原油の上限価格を設けた。ロシアは2023年2月から上限を設けた国に対して原油の輸出を禁止した。3月以降、日本の輸入は無くなった。LNG、石炭、原油および粗油の輸入量は、それぞれ10.7%減(613万トン)、70.2%減(345万トン)、94.8%減(12万キロリットル)だった。
2024年1~3月の対ロシア輸出額は前年同期比51.7%減の4億3,400万ドル、輸入額は31.2%減の16億9,600万ドルだった。主要品目である乗用車の輸出額は43.9%減、自動車の部分品34.4%減だった。乗用車輸出台数は17.1%減の4万521台となり、全て中古乗用車だった。一般機械は94.0%減、うち建設用・鉱山用機械(96.8%減)、原動機(68.5%減)、荷役機械(99.5%減)、ポンプ・遠心分離機(99.5%減)と軒並み大幅減となった。輸入は石炭の大幅な輸入減が影響した。金額ベースでLNGが10.0%減の11億8,300万ドル、石炭が84.1%減の6,400万ドルだった。数量ベースでみると、それぞれ8.7%増(179万トン)、77.5%減(31万トン)だった。
日本の財務省の国際収支統計をドル換算すると、2023年の日本の対ロシア直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比37.9%減の7億7,400万ドルだった。自動車産業を中心とした日系企業の撤退が影響した。業種別にみると、製造業では主に輸送機械器具が減少し、製造業全体で62.6%減の7,800万ドルとなった。非製造業では金融・保険業が前年比16.2%増の1億4,000万ドルとなったが、2022年には2億2,600万ドルあった農・林業の投資が無くなった。卸売り・小売り業は43.9%減の1億9,600万ドルとなり、非製造業全体で30.6%減の6億9,400万ドルとなった。
2023年末の対ロ直接投資残高は46億6,400万ドル(前年末比2.3%増)となった。内訳をみると収益の再投資が増加した。ロシア国外への送金が困難なため、ロシア現地子会社が利益を本国に送金せず、内部留保したものとみられる。現地企業の株式取得やその他の資本拠出金を計上する株式資本や、親会社から現地子会社への融資などを含む負債性資本は減少した。業種別では主に非製造業の残高が増加した。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、進出日系企業による事業の停止や撤退が続いた。ユニクロは2022年3月からロシア事業の一時停止を続けているが、2023年5月 、今後については引き続き状況を注視しながら判断すると発表した。任天堂は5月 にロシア子会社のオンラインサービス事業を縮小する決定をした。日本板硝子は6月 、ロシア子会社の株式売却が完了し、ロシアから完全に撤退したことを発表した。いすゞ自動車は7月 、ロシアでのトラック生産・販売事業を現地自動車メーカーに譲渡した。IHIは11月 に公表した2023年度第2四半期報告書の中で、ロシア企業と合弁の自動車部品メーカー、アルファ・オートモーティブ・テクノロジーズ(AAT)の株式を譲渡し関係会社ではなくなったことを明らかにした。ブリヂストンは12月 、ロシアでの乗用車タイヤ生産および販売事業をロシアの投資会社へ譲渡したことを発表した。2024年2月にはAGC がロシア事業の譲渡を完了し、完全に撤退した。
ジェトロが2023年9月に実施した「海外進出日系企業実態調査(ロシア編)」によると、ウクライナ情勢の影響を受け、在ロシア日系企業の業績見通しは2013年度の調査開始以降、過去最悪を更新した。2023年の営業利益見込みを「赤字」と回答した企業の比率は54.8%と、前年の50.0%から悪化した。2024年の営業利益見通しは「横ばい」の割合が前年比23.2ポイント増の54.3%と過半数を超えた。 今後1~2年の事業展開については、「第三国(地域)へ移転、撤退」が14.1%と過去最高、「縮小」と回答した企業は28.2%となった。営業利益の悪化、事業の縮小・撤退の主な理由として現地市場での販売体制縮小、現地市場での需要減少が挙がった。経営上の問題点について、販売・営業面では「取引先からの発注量の減少」(21.9%)が最多で、財務・金融・為替面では「対外送金に関わる規制」(69.9%)が最多となった。雇用・労働面では「従業員のモチベーション維持」(57.5%)が最多だった。ロシアで事業を展開する上での問題点について、ウクライナ情勢の先行きの不透明さ、経済制裁による事業への悪影響などが挙げられた。
品目 | 2022年 | 2023年 | ||
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金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
輸送用機器 | 2,746 | 1,853 | 64.8 | △ 32.5 |
自動車 | 2,479 | 1,762 | 61.7 | △ 28.9 |
乗用車 | 2,324 | 1,720 | 60.2 | △ 26.0 |
バス・トラック | 155 | 42 | 1.5 | △ 73.1 |
自動車の部分品 | 233 | 60 | 2.1 | △ 74.1 |
一般機械 | 867 | 306 | 10.7 | △ 64.7 |
建設用・鉱山用機械 | 257 | 8 | 0.3 | △ 96.7 |
原動機 | 178 | 45 | 1.6 | △ 74.8 |
荷役機械 | 107 | 11 | 0.4 | △ 89.8 |
ポンプ・遠心分離機 | 130 | 125 | 4.4 | △ 3.9 |
原料別製品 | 249 | 110 | 3.9 | △ 55.7 |
ゴム製品 | 116 | 35 | 1.2 | △ 70.0 |
金属製品 | 67 | 40 | 1.4 | △ 40.7 |
鉄鋼 | 20 | 2 | 0.1 | △ 88.2 |
電気機器 | 193 | 50 | 1.8 | △ 73.9 |
電気計測機器 | 16 | 2 | 0.1 | △ 89.6 |
合計(その他含む) | 4,679 | 2,857 | 100.0 | △ 38.9 |
〔出所〕財務省「貿易統計」から作成
品目 | 2022年 | 2023年 | ||
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金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
鉱物性燃料 | 10,526 | 5,064 | 68.1 | △ 51.9 |
原油および粗油 | 1,442 | 53 | 0.7 | △ 96.4 |
液化天然ガス(LNG) | 5,200 | 4,188 | 56.3 | △ 19.5 |
石炭 | 3,691 | 822 | 11.0 | △ 77.7 |
石油製品 | 191 | — | — | 全減 |
揮発油 | 191 | — | — | 全減 |
原料別製品 | 2,785 | 1,038 | 14.0 | △ 62.7 |
非鉄金属 | 2,250 | 820 | 11.0 | △ 63.5 |
鉄鋼 | 442 | 189 | 2.5 | △ 57.3 |
食料品 | 1,218 | 963 | 12.9 | △ 21.0 |
魚介類 | 1,195 | 928 | 12.5 | △ 22.4 |
原料品 | 618 | 237 | 3.2 | △ 61.7 |
木材 | 444 | 183 | 2.5 | △ 58.8 |
非鉄金属鉱 | 90 | 37 | 0.5 | △ 58.8 |
化学製品 | 140 | 107 | 1.4 | △ 24.1 |
有機化合品 | 92 | 87 | 1.2 | △ 4.7 |
合計(その他含む) | 15,360 | 7,440 | 100.0 | △ 51.6 |
〔出所〕財務省「貿易統計」から作成
その他(西側諸国の対ロ制裁)
収入源を断つためG7が協調して対ロ制裁を展開
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を受け、G7など西側諸国が中心となり、対ロシア制裁措置を発動している。2023年12月のG7首脳声明に基づき、2024年に入り日本、米国、EUなどが相次いでロシア産ダイヤモンドの輸入禁止措置を発動した。また、2022年12月に協調して導入したロシア産原油取引の上限価格規制順守の監視を強化するため、2024年2月、上限価格を超えていないことを確認できる文書の取得を輸送会社などに義務付けた。いずれもロシアの輸出収入を制限することが狙いだ。西側諸国は対ロ制裁に加え、制裁の迂回やロシア支援に関与する第三国企業を対象にした制裁も打ち出した。これら一連の措置に関連し、G7首脳は侵攻から2年となる2024年2月24日に発表した声明の中で、制裁を通じてロシアの収入源を減らすとともに、制裁の回避・迂回を阻止、第三国の企業などによるロシア支援を抑止していくと表明した。
米国は2023年11月、日本のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、三井物産のほか、フランス、中国が権益を持つロシア北極圏のLNGプロジェクト「アークティックLNG2」の事業会社を特別指定国民(SDN)に指定し、制裁対象とした。2024年4月、ロシア産アルミニウム、銅、ニッケルの輸入を禁止するとともに、英国と協調して、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)およびロンドン金属取引所(LME)でのこれらロシア産品の新規受け入れを禁止した。2023年10月、ロシアの軍需産業へ集積回路(IC)などを輸出したとして中国、欧州、インド、トルコ、UAEに拠点を持つ企業を輸出管理対象下とした。11月、12月にも同じ目的で第三国の企業をSDN指定した。12月にはロシアの軍需産業を支援する金融機関に対して制裁を科せるようにした。第三国の銀行も対象。2024年4月にはロシアにドローンを販売するイラン企業をSDN指定した。
EUは2023年12月に対ロシア制裁第12弾、2024年2月に同第13弾を採択した。第12弾ではダイヤモンドの輸入禁止のほか、リチウム電池、サーモスタット、ドローン用のDCモーターなど二重用途物品の輸出規制を強化した。経営管理や工業デザイン、製造向けソフトウエアの提供も禁止した。第13弾ではドローンの分野において、ロシア企業に加え、電子部品の輸出で対ロ制裁の迂回に関与するインド、中国、セルビア、カザフスタン、トルコなどの企業への輸出規制を導入した。EU理事会は2024年5月、域内で凍結されているロシア中央銀行の資産から得られる収益をウクライナ支援に充てることを決定した。
日本は2023年12月、制裁の迂回・回避への関与が疑われるUAE、アルメニア、シリア、ウズベキスタンの企業への輸出禁止措置を導入した。2024年4月、ロシアの産業基盤強化に資する物品の輸出禁止措置の対象品目に、自動車用エンジンオイル、リチウムイオン蓄電池、グラインダーなど電気式手工具、サーモスタットなど164品目を追加した。
年 | 日本 | 米国 | EU |
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2023年 |
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2024年 |
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〔注1〕カッコ内の日付は実施日。上記以外に、ロシアの特定組織、政府・企業関係者などを対象とした資産凍結、査証発行停止や取引禁止措置などが各国・地域で導入されている。
〔注2〕SDNに指定されると、在米資産の凍結および在米法人や個人などとの資金・物品・サービスの取引が禁止される。
〔出所〕各国政府およびEU発表資料、ジェトロ・ビジネス短信より作成
基礎的経済指標
項目 | 単位 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
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実質GDP成長率 | (%) | 5.9 | △ 1.2 | 3.6 |
1人当たりGDP | (米ドル) | 12,636 | 15,488 | 13,648 |
消費者物価上昇率 | (%、前年12月比) | 8.4 | 11.9 | 7.4 |
失業率 | (%) | 4.8 | 4.0 | 3.2 |
貿易収支 | (100万米ドル) | 193,114 | 315,567 | 120,926 |
経常収支 | (100万米ドル) | 124,953 | 237,678 | 50,224 |
外貨準備高(グロス) | (100万米ドル、期末値、金除く) | 497,554 | 445,784 | 442,537 |
対外債務残高(グロス) | (100万米ドル、期末値) | 488,415 | 385,081 | 316,847 |
為替レート | (1米ドルにつき、ルーブル、期中平均) | 73.65 | 68.48 | 85.16 |
注
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:連邦国家統計局
貿易収支、経常収支、対外債務残高:ロシア中央銀行
1人当たりGDP、外貨準備高、為替レート:IMF