通関検査厳格化は短期で解除−ウクライナのEU接近にクギ、関税同盟への参加促す−

(ロシア、ウクライナ)

欧州ロシアCIS課

2013年09月04日

ロシア連邦税関局(FTS)は8月14日にウクライナ製品の全品目に対する通関検査を開始したが、1週間後の8月20日にはこの措置を解除した。EUに接近するウクライナへの圧力とみられる。

<突然の輸入検査強化>
FTSは8月14日、関税法違反の疑いがあるとして全てのウクライナ製品に対する検査を開始した。特にST−1証明書を取得している製品(ウクライナ製品でCIS地域への輸出が免税となっているもの)の検査が厳格化された。このため、国境付近では通関の順番を待つ貨車やトラックの長蛇の列ができた。

ウクライナ側ではこうしたロシアの措置に関し、WTOへ提訴する準備をしていると述べた。その一方、ロシアのアンドレイ・ベリヤニノフFTS長官は「ロシア側にはWTO加盟国としての違法行為はない」と主張、「ウクライナ側が関税法違反を正せば、輸入制限は緩和される」(8月17日RBCウクライナ)と述べた。結局、この実質的な禁輸措置は1週間で終結し、8月20日に解除された。

今回の措置について、グラジエフ大統領補佐官は「今回は1回の検査だったが、ウクライナが(関税同盟への参加を放棄し)EUとの連合協定を結ぶことになれば、こうした状態が恒常的になるかもしれない」と話している(8月21日イタルタス通信)。

ウクライナがEUとの間で連合協定に調印すれば、貿易自由化によって、ウクライナにEU製品が非課税で流入することになる。それがウクライナ経由でロシアに流入すれば、ロシアの製造業にとって厳しい状況となる。それ故、ウクライナからロシアに向かう商品について、本当にウクライナ製か、ロシアに輸出するための必要な承認を受けているのか、を税関で細かく検査する必要があるということだ。

これまで、ウクライナはEUへの接近を図りつつも、ロシアを中心とする関税同盟のオブザーバーとなったり、関税同盟のオブザーバーとなることはEUとの連合協定の締結には抵触しないと主張したりするなど、ロシアとEUに対し、どっちつかずの立場をとっていた。しかし、ロシアの今回の措置は、ウクライナに対し、EUに接近した場合のロシアへの輸出の取り扱いを明確に示すとともに、ロシアを中心とした関税同盟への参加を強く求めたものといえよう。

<関税同盟の発展に不可欠なウクライナ>
ロシアが今回のようにウクライナに圧力をかけているのはなぜか。それはロシアの主導する関税同盟にウクライナは不可欠の国だからだ。プーチン大統領は、2010年にロシアを中心としてカザフスタン、ベラルーシの3ヵ国で関税同盟を成立させた。そしてこの関税同盟にウクライナを加え、2015年をめどに物品、サービス、労働力移動の自由化、経済政策・競争政策の共通化を軸とした旧ソ連諸国によるユーラシア連合の結成を図ろうとしている。4,500万の人口を有し、鉄鋼業など産業の発達したウクライナは関税同盟に欠かすことはできない。

ウクライナの貿易においても、ロシアの存在感は大きい。ウクライナの最大の輸出先はロシアで、輸出の3割を占める。一方、輸入の4割もロシアとの取引だ。特にその4割近くが鉱物性燃料だ。こうしたことを背景に、ロシアはウクライナに対し、2つの面で圧力をかけている。1つは今回のようなウクライナからロシアへ輸出する際の貿易手続きだ。今回の事件が起こる前、7月にプーチン大統領がウクライナを公式訪問したが、ウクライナから関税同盟への参加について約束を取り付けることなく「手ぶら」で帰国した。その直後に、ロシア連邦消費者権利保護・福利監督局(ロスポトレブナドゾル)が、ウクライナの製菓大手ロシェンのチョコレートから発がん物質のベンゾピレンが検出されたとして突如輸入禁止にするなど、既に今回の事件を予見させるようなことが起こっていた。

<EUとロシアの間で難しい選択>
ロシアがウクライナに圧力をかけるもう1つの手段は天然ガスだ。ウクライナはエネルギー資源の5割を国内で自給しているが、あとの半分の大半はロシア産天然ガスに依存している。ガス価格は1,000立方メートル当たり400ドルで、ロシアのベラルーシへの販売価格170ドルと比べると格段に高い。価格引き下げを要求するウクライナに対し、ロシアは関税同盟への参加をその条件として要求している。

ウクライナは、ロシアへの依存度を軽減するため、欧州の安価なスポット市場からの調達を増やしたり(2013年8月5日記事参照)、2013年1月にはウクライナ東部のユゾフスク・ガス田でのシェールガス開発で英国・オランダメジャーのロイヤル・ダッチ・シェルとの100億ドルの契約を締結したりするなどの対策を進めている(2013年2月18日記事参照)。ウクライナは2006年と2009年にロシアとの間でガス紛争が起き、ガスの供給を止められたという苦い経験を持っており、できるだけロシアへの依存度を低くするというのは安全保障上の大方針となっている。

しかし、ウクライナにとってロシアが最大の貿易パートナーであることは揺るぎのない事実だ。関税同盟の強化とユーラシア連合の発足は第3次プーチン政権の外交上の最重要課題のひとつ。EUとロシアのはざまにあって、ウクライナは今後どのような進路を選択し交渉を展開していくか、難しい選択を迫られている。

(今津恵保)

(ロシア・ウクライナ)

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