従業員の解雇における留意点:マレーシア

質問

新規地域への市場拡大のために採用した従業員が、売上目標を達成できておらず、加えて同従業員による軽微な不正行為の存在も確認されました。なお、当該地域への事業拡大を行わないことを、その後本社の経営陣が決定しています。ついては、この従業員を解雇することができるでしょうか?

回答

当該従業員のパフォーマンスの悪さや不正行為の存在を含め、何を理由に解雇するか、背景となる原因を特定することがまず重要です。前者を主たる理由とするなら、特に同従業員を雇用していた期間のパフォーマンスを、企業がどのように評価していたかが鍵となります。一方、後者については、不正行為の説明を求める理由提示命令書(ショーコーズレター)を本人に対して発出します。なお、前者のパフォーマンスの件と不正行為の件を同一のレターにまとめることも可能です。
また、当該企業、は新規地域への事業拡大計画を中止することを決定したため、従業員の役割が余剰になったとして、当該従業員を整理解雇する可能性もあります。

I. 業績不振や不正行為を理由とした解雇

本件の場合、特段の処置を行わずに突然解雇するのは非常に難しい状況です。不正行為についても、軽微である場合、本人がこれを認め反省を示せば、解雇理由として主張するのは難しいです。解雇を強行し、不当解雇を法廷に訴えられれば、企業側が不利になります。
係争を回避するには、パフォーマンスの悪さと不正行為の事実を記載したショーコーズレターを本人に発出し、勤続1年が経過する頃をめどに丁寧なフォローを継続するのが現実的です。法律上具体的な期間の定めはありませんが、判例では、従業員の業績向上を支援すべく雇用主が必要な措置を講じたかどうか、また同措置が適切に行われたどうか、が考慮されます。レターを提示する際には、企業として将来的なリストラの方針があることと、これに伴うパフォーマンスの改善要請を本人に伝えます。この際、レターはメールや郵送等で送付するのみならず、対面で伝達します。
本人が同レターの内容を了承したことを確実に確保し、同人との会話も議事録として記録・保存しておきます。レター発出後のパフォーマンスについては、成果目標や実績を定期的に提出させ、都度の評価を行うことでモニタリングを行います。

II. 整理解雇の手続き

整理解雇を行いたい場合には、例えば日本本社との協議に基づく経営陣による決定事項である等、相応の理由を本人に丁寧に説明することが推奨されます。この際、可能な限り本人と対面で面談を重ねて、現地法人の社長自ら伝えることが望ましいです。
1995年雇用法第63条と第99A条及び2004年雇用(整理解雇)通告(Employment Retrenchment Notice 2004) に基づき、PKフォームは整理解雇の少なくとも30日前までに労働局(State Manpower Department)へ提出する必要があり、違反すれば5万リンギの罰金を科されます。マレーシア雇用法で規定される解雇通知期間は、勤続年数が2年未満の場合は4週間、5年未満の場合は6週間、5年以上の場合は8週間です。企業と従業員の間で、解雇の通知期間に関する書面の合意がない場合は、上記雇用法の規定が適用されますが、もし会社規定により詳細に解雇要件が定められている場合には、こちらを遵守しなくてはいけません。
なお、解雇通知のフォーマットは特段存在せず、企業ごとに作成して構いません。法律事務所からリーガルチェックを受けることは可能です。

III. 賞与の取り扱い

当該従業員への賞与を減額するかどうかは、会社規定に従って判断します。マレーシアにおいては、賞与の支払いは法律上確約されていません。このため通常、支給が必須であるかどうかを含めて、企業側の賞与に対する方針が会社規定には記載されています。賞与は、企業や従業員のパフォーマンス次第とされているケースが多いようです。
賞与に関する規定がないと、逆に「必ず賞与を支払うように」と解することも可能であるため、いずれにしても会社規定に明確に記載するのが肝要です。曖昧な規定は係争の要因ともなるため、この点明示されていない場合には、会社規定の見直しが推奨されます。会社規定の記載内容変更に際しては、なお、規定は経営者判断で自由に書き換えられますが、その都度従業員の合意や理解は必要です。
一般論として、気持ちよく解雇したいのであれば、賞与は全額減ずるのではなく、一定程度支払った方が慣例としては望ましいと考えられます。満額支払わない場合には、本人のパフォーマンスの実態を提示しつつ、減額理由を丁寧に説明するのがよいでしょう。

IV. 解雇手続き中の新規採用

上記II. 整理解雇の手続きを進めている間に、別の拠点や異なる業務内容に基づき、新規の採用を募ること自体には問題はありません。ただし、仮に解雇対象者が現在の勤務先内で別ポストへの異動を希望する可能性がある場合は、雇用手続きがすべて完了してから新たに募集を開始した方が望ましいです。

関係機関

関係法令

参考資料・情報

ジェトロ:
現地人の雇用義務

調査時点:2023年5月

※本記事は、日本貿易振興機構(ジェトロ)クアラルンプール事務所が中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業による調査として、Josephine, LK Chow & Co法律事務所に委託し、2023年5月に入手した情報に基づき作成した物です。
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記事番号: K-230501

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