越境EC販売におけるVAT:EU・英国向け輸出
質問
EU域内ならびに英国の消費者に、それぞれ100ユーロ、85ポンドの商品をe-commerceによって販売します。その際の付加価値税(VAT)にかかる留意点について教えてください。
回答
I. EUにおけるVATの税制改正とOSS
2021年7月1日以降、22ユーロを超えない商品をEU域内へ輸入する際の付加価値税 (Value Added Tax、以下「VAT」)の免除が廃止されました。
この改正は、EU域内に拠点を持たない事業者がe-commerceによってEU域内の消費者へ商品を販売する際も適用され、22ユーロ以下の商品であっても、原則としてVATの申告・納税が必要になりました。
これによるVAT実務の煩雑さを解消するものがOne stop shop(OSS)です。事業者がEU各国で納付すべきVATは、事業者が当該制度を利用して、EU加盟国の一つの国に登録することで、その登録国の税務当局が代行して各国への配分を行うこととなります。すなわち、当該制度を利用することで、登録国が窓口となり、各国のVATを一元的に申告・納税することができます。
なお、OSS制度の利用は任意であるため、OSS制度を利用しない場合、輸入者は原則どおり、商品またはサービスを供給する消費者が所在する各加盟国において、VATを申告・納税することになります。
II. IOSSの制定された趣旨と概要
OSSの一形態としてIOSS(Import One Stop Shop)が新たに設けられました。EU加盟国の輸入時に発生する税金である輸入関税については、課税価格が150ユーロを超えない商品は原則免税となる一方で、VATについては150ユーロを超えない少額商品であっても発生します。IOSSは、価額が 150 ユーロ以下のEU域外から輸入される商品の販売に課せられる VAT の申告と支払いを簡素化することを目的としています。
IOSSを利用することにより、EU域内に拠点を持たない事業者は、越境ECでのVATの申告、納税の一連の手続きを簡素化できます。また消費者においても、最初から商品金額にVATを含んだ金額で、事業者に対価を支払うことで、商品到着時など事後的にVATを含めた想定外の費用を支払うことがなくなります。事業者がIOSSを利用しない場合は、現地の輸入通関・物流業者が消費者からVAT額を回収して申告納税をすることになるため、事業者と消費者は輸入通関・物流業者から手数料の請求を受ける可能性があります。
III. IOSSが対象とする輸入商品の要件
IOSSは、以下の全ての条件を満たす輸入商品を対象としています。150ユーロを超える価額の商品など、以下の条件を満たさない場合には、IOSSは利用できず、原則どおりの申告・納税となります。
- 販売時にEU域外から発送または輸送される商品
- 委託貨物で発送または輸送される150ユーロを超えない価額の商品
- 物品税 (一般的にはアルコールまたはタバコ製品に適用される) の対象とならない商品
IV. IOSSにおける適用税率
輸入関税の適用税率は、EU加盟国において共通である一方で、VATについては各国で適用税率が異なります。また商品により標準税率に対して軽減税率があります。VAT税率に関する情報は、欧州委員会のウェブサイトおよび各加盟国の税務当局のウェブサイトに掲載されています。
V. IOSSの登録
2021年4月1日以降、事業者は各EU加盟国のIOSSポータルに任意で登録できます。EU域内に事業拠点がない場合、EU域内に設立されている仲介業者 (注1)を任命して、IOSSへの登録・VAT申告・納税をする必要があります。IOSS 登録は、EU 域内の消費者に向けた輸入品のあらゆる販売に利用できます。IOSSを利用しないことも可能で、利用しない場合には、輸入者は原則どおり、商品またはサービスを供給する消費者が所在する各加盟国において、VATを申告・納税することになります。
(注1)仲介業者とは、EU 域内に拠点(事業所または固定施設)を持つ課税事業者で、仲介業者を任命したEU域外の事業者に代わって、仲介業者の名において、VAT を支払う義務があり、IOSSに規定される輸入品に課されるVAT の義務(VAT 申告書の提出、VAT の支払い、記録管理義務など)を果たす者をいいます。仲介業者は、任命された事業者ごとに付与された IOSSの VAT 識別番号を持っています。仲介業を行う現地専門事務所には、WTSやBTUなどがあります。
VI. IOSSを利用する場合の留意事項
IOSSを利用する場合は、以下の業務を、事業者と任命されたEU所在の仲介業者が協力して実施する必要があります。
- 遅くとも発注手続きの完了時点までに、EUに居住する消費者が支払うVAT額を提示・表示する。
- EU加盟国を最終目的地として発送するあらゆる商品について、消費者からVATを徴収することを徹底する。
- 委託貨物で出荷される商品の価額が150ユーロを超えていないことを確認する。
- 消費者がユーロで支払う価格を請求書に明記する。
- IOSSに登録しているEU加盟国のIOSSポータルを通じて、月次VAT還付申告書をオンラインで提出する。
- IOSSに登録しているEU加盟国に対し、VAT還付申告書で申告したVATを月次で支払う。
- すべての法令で定められた方法で、 IOSS により販売し計上した売上高記録を10年間保管する。
- なお、輸入時にVATが課税されないようにするために、EU域内への輸入通関時に必要な情報(IOSSのVAT識別番号など)を、EU国境で商品を申告する者(郵便事業者、速達業者、通関業者など)に提供する。
VII. 英国におけるe-commerce取引にかかるVAT申告・納税ルール
英国はEUからの離脱に伴い、2021年1月1日以降はEUとは異なるVAT課税ルールを施行しています。新制度では、英国に拠点がない事業者が、越境ECによりOnline Market Place (以下「OMP」、注2)経由で英国の消費者に販売する場合、課税価格135ポンド以下であれば、OMPが事業者に代わって、VAT申告・納税を行うこととなりました。
ただし、事業者が英国のVAT番号を既に持っておりOMPに提示できる場合は、OMPに申告・納税させずに、事業者自ら申告・納税を行います。
また、越境ECにより販売する商品の課税価格が135ポンドを超える場合は、OMP制度は利用できず、事業者による申告・納税、あるいは現地の輸入通関・物流業者が英国の消費者からVAT額を回収したうえで申告・納税をすることになります。
(注2)Online Market Place とは、プラットフォームやポータル等で、一定の要件を満たすウェブサイト又は携帯電話アプリケーションを使用して顧客に商品を販売する事業者をいいます。
参考資料・情報
調査時点:2022年8月
最終更新:2024年6月
記事番号: F-220812
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