VAT登録の要否:EUへ輸出する場合
質問
イタリアへ輸出するにあたり、先方より当社のVAT登録番号を要求されました。商品の発送地は日本で、イタリアへ直接出荷します。また当社の拠点は日本国内のみで、EUに支店もありません。この場合、当社はVAT登録が必要ですか。
回答
欧州の事業者が海外のサプライヤーに対して付加価値税(VAT)登録番号を要求することは多くあります。EU域内取引では、輸入VATの仕入税額控除のため、EUの買主はサプライヤーのVAT登録番号を入手し、自国の税務当局へ報告する必要があるためです。VAT登録の要否は、事業者がEU域内でVAT課税対象となる活動を行っているかどうかで判断されます。
VATの課税対象となる活動は、資産の譲渡、役務の提供、EU域内取得、資産の輸入です。本件は資産の譲渡に該当しますが、商品の貿易条件(インコタームズ)の規則によって、対応が異なります。
I. インコタームズ2020の規則ごとのVATへの対応
- DDP(関税込持込渡し)以外の規則を使用した貿易取引の場合
インコタームズ2020の規則で、DDP以外の10規則、つまり、EXW(工場渡し)、FCA(運送人渡し)、CPT(輸送費込み)、CIP(輸送費保険料込み)、DAP(仕向地持込渡し)、DPU(荷卸込持込渡し)、FAS(船側渡し)、FOB(本船渡し)、CFR(運賃込み)、CIF(運賃保険料込み)の場合、日本の売主の活動はEUでのVAT課税対象ではなく、VAT登録番号を取得する必要はありません。 - DDP(関税込持込渡し)を使用した貿易取引の場合
インコタームズ2020のDDP規則A9(費用の分担)の規定に、売主は、「輸出、通過運送および輸入通関に関連した関税、税金その他の費用、および、保険契約、引渡書類/運送書類、輸出通関/輸入通関の規定に従って書類および情報を取得するにあたり、買主が提供する助力に関連した一切の費用および諸掛」を負担する、とあります。この規定に従うと、日本の売主は、EUの買主側の輸入関税のみならず、当地で発生する輸入VATについても負担するということになります。
そこで、日本の売主はイタリアの輸入通関とVAT管理、両方の目的のために現地代理人を任命し、輸入関税および現地輸入VATを支払います。欧州域内の事業者へDDP規則によって物品を販売するには、原則として、商品代金と合わせて現地国内VATを課税・徴収し、イタリア当局に納税する必要があります。ただし、本件のケースでは、イタリアでは外国企業による資産の譲渡に対して「リバースチャージ制度」が適用されるため、貴社はイタリアでのVAT登録および国内VAT納付は必要ありません。「リバースチャージ制度」とは、EU理事会指令が各加盟国に対し、EU域外の事業者が行う資産や役務の提供にかかわる納税義務を受益者に転嫁する制度のことです。同じEU圏内でも、加盟国によってその導入の範囲は異なりますので、国ごとに確認してください。
DDP規則を使用した貿易取引の場合、以下の2点にも注意してください。
- EU加盟国での資産の譲渡に対してリバースチャージ制度が適用される場合、日本の売主がイタリアの買主に対して発行するインボイスには、イタリアの買主のVAT登録番号、リバースチャージが適用される旨、およびイタリアでの根拠条文を明記する必要があります(イタリアVAT法DPR 633/72第17条2項)。
- イタリアは、非居住者が所在する国との間の互恵関係を前提に、非居住企業が納付したVATの還付を認めています。ただし、日本はこの互恵関係が認められていないため、日本の売主がイタリアへの輸出時に支払った現地輸入VATは還付されません。イタリアで輸入VATの還付を受けるためには、日本の売主がイタリアでVAT登録を行い、イタリアでの税務申告をする際に前段階税として控除または還付を申請する必要があります。
II. 留意点
- I.の2.で述べた通り、イタリアでは、今回のケースでどのようなインコタームズ規則を使用した場合であってもVAT登録番号を現地で取得する必要はありません。ただし、I.の2.のB.で述べた通り、イタリアでは、非居住企業に対するVAT還付ができない加盟国の場合、支払い済みの現地輸入VATを還付請求するには現地でのVAT登録およびVAT申告が必要です。
- EU加盟国へのDDP規則での納品の際は、商流・物流、および現地で発生する関税、輸入VATその他の輸入税の額を事前に情報収集・分析し、慎重な対応が求められます。
- 外国のVAT登録番号を取得する手続きは複雑です。外国のVAT法令に精通した法律事務所、会計税務事務所あるいはVAT専門業者に依頼することをお勧めします。
※本資料は、日本貿易振興機構(ジェトロ)の委託を受けたオプティ株式会社が作成し、その後ジェトロが修正を加えました。ジェトロおよびオプティ株式会社による法的な見解・助言でないことをあらかじめ了承ください。また、本件では、イタリアの事例を説明していますが、他の加盟国の場合には全く異なる税務上の取扱いとなる場合があります。実際のビジネスに当たっては、本資料のみに依拠せず、別途専門家から助言を受けてください。
関係法令
Eur-lex:
付加価値税の共通システムに関する欧州理事会指令2006/112/EC(475KB)
EU関税法(第5条、第64条)
COUNCIL REGULATION(EEC) No 2913/92 of 12 October 1992 establishing the Community Customs Code(315KB)
調査時点:2015年12月
最終更新:2024年6月
記事番号: O-110801
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