労働者を雇用する場合の注意点:オーストラリア

オーストラリアで労働者を雇用する場合の注意点について教えてください。

オーストラリアの労働関連制度は公正労働システム(Fair Work System)と呼ばれ、公正労働法(Fair Work Act 2009)が基本法となっています。労働者には基本的な労働条件として、全国雇用基準(National Employment Standards: NES)が保障されています。NESにおける最低賃金制度では、企業と労働者が個別に合意しない限り、モダンアウォード(Modern Awards: 労働裁定)として分類される122業種にそれぞれ定められた最低賃金が支払われなければなりません。モダンアウォードの業種は4年ごと、最低賃金額は毎年見直されます。

I. 全国雇用基準(NES)

2010年1月から施行されている賃金および労働条件は以下のとおりです。

  1. 労働時間
    最大週38時間ですが、適正な範囲で変更が可能です。

    勤続12カ月以上の従業員は、次の場合に勤務時間、就労形態、就労場所など柔軟な労働条件を要求できます。雇用者は従業員から労働条件の変更を求められた場合、21日以内に回答する必要があります。個人の労働条件の変更が職場や提供しているサービスに大きな負荷となる場合、労使間で再交渉します。

    1. 就学前児童・小学生の保護者である場合
    2. 病人や障害者の世話を必要とする場合(Carer: Care Recognition Act 2010)
    3. 何らかの障害を持つ場合 (Social Security Act 1991)
    4. 55歳以上である場合
    5. 家庭内暴力の問題が生じている場合
  2. 育児(産児)休暇
    勤続12カ月以上の従業員は、男女問わず、12カ月までの無給育児休暇を取得できます。両親またはパートナー2人の申請期間は合計12カ月までで、このうち、両者が同時に休暇を取れる期間は8週間です。従業員はさらに12カ月の無給育児休暇の延長を要求できますが、妥当な理由があれば雇用主は拒否できます。

    産前休暇は出産予定日の6週間前から取得が可能です。妊娠中の女性従業員は、より安全性の高い役務(safe job)に異動できる権利があります。
    NESの定める無給育児休暇以外に、従業員はオーストラリア政府の補助による有給(最低賃金)育児休暇18週間を申請できます。詳しくは文末のPaid Parental Leave scheme for Employersを参照ください。

  3. 年次有給休暇
    従業員は、毎年4週間(交替勤務の従業員は5週間)の有給休暇を取得できます。休暇申請可能日数は従業員の就労時間に比例して計算されます。労働裁定(アウォード)や労使間の合意に基づき、休暇継続日数の制限や休暇申請可能なタイミングの制限があります。
  4. 個人休暇、介護休暇、忌引休暇
    従業員は、個人休暇・介護休暇として年間10日間の有給休暇を取得できます。休暇申請可能日数は、年間を通じて蓄積されます。また、年2日の忌引休暇が設けられていますが、臨時従業員が申請する場合は無給です。
  5. 無給地域活動休暇
    従業員は、陪審義務、山火事・洪水などの自然災害に対応する緊急ボランティア活動、治安・消火・救護活動など自治体活動、動物保護活動に参加するための休暇を取得できます。陪審義務休暇として10日間は有給休暇ですが、それ以降は無給です。臨時従業員の陪審義務休暇は無給ですが、州法により有給陪審義務休暇を認めている場合もあります。
  6. 長期勤続休暇
    従業員は、州法で規定される長期勤続休暇を利用できます。準拠する規定州法によって勤続年数に7年、10年、12年と開きがあり、申請可能な休暇日数も6週間から8週間と異なります。また、長期勤続休暇の権利があるにもかかわらず取得しなかった場合、雇用者は、取得しなかった休暇日数分を賃金に換算し、退職時に払うケースが一般的です。
  7. 公休日
    従業員は、連邦政府および州政府が定める公休日を取ることができます(有給)。ただし、状況によって、雇用主は従業員にこれらの公休日に勤務することを要請できます。
  8. 解雇予告および解雇手当

    従業員の解雇に際し、雇用主は従業員の勤務期間に応じ、解雇前の所定の期間までに書面により通知しなければなりません。また従業員から退職を伝える場合も、雇用主への通知から離職までの期間が定められていることが一般的です。詳しくはNotice and Redundancy Calculatorで確認して下さい。

    また、勤続2年以上で45歳以上の従業員には、上記より1週間早く解雇を通知する義務があります。これらの通知期間を守れない場合、雇用者は不足日数分を補填して支払う義務があります。ただし、この条項は、期間従業員、臨時従業員、重大な過失によって解雇された従業員などには適用されません。

    雇用者の都合や倒産などによって解雇する場合、従業員には解雇手当を受ける権利があります。雇用者は、勤続年数に応じて4〜16週間分の給与に相当する手当を支払います。ただし、状況によって定められた金額を支払えない雇用者は、公正労働委員会(Fair Work Commission)に解雇手当の減額を申し入れることができます。なお、従業員15人未満の小規模企業は、解雇手当支払いが免除されています。詳しくは小規模企業に対して設けられている公正労働委員会のウェブサイトにある解雇規範(Small Business Fair Dismissal Code)を参照して下さい。

  9. 公正労働情報文書(Fair Work Information Statement)
    雇用主は、NESや労働裁定、集会の自由、労働者保護、解雇に関する規定、個人情報保護、公正労働委員会および公正労働オンブズマン(Fair Work Ombudsman)の役割など雇用労働関係法令上の従業員の権利に関する情報(Statement)を新規雇用時(その他の従業員には1年に1回)に通知しなければなりません。

II. その他の関連法および留意事項

性差別禁止法、労働安全衛生法、労働争議関連法令などの連邦法または州法および労働保険・社会保険関係法令などを遵守する必要があります。

  1. 雇用方法
    新聞広告での一般公募、人材派遣会社への依頼などがあります。要求する能力、体力以外は選考対象にできません。すなわち、性別、年齢、人種、ハンディキャップの有無、学歴などは一切問えません。
  2. 雇用に際して発生する労働関係費用
    健康保険、退職年金積立基金、労働者災害補償保険金、付加給付、ペイロール・タックス、超過労働、夜勤、休日出勤手当てなどがあります。
  3. 就業規則・労働契約
    新たに就業規則・労働契約を作成する場合、既存の就業規則・労働協約を見直す場合は、公正労働オンブズマンのアドバイスを受けるか、弁護士、会計士などに相談してください。

関係機関

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Fair Work Ombudsman外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
Australian Government, Department of Human Services外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

関係法令

Fair Work Commission:
労働関連法規一覧外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

参考資料・情報

Australian Government:
Paid Parental Leave scheme for Employers (Department of Human Services)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

調査時点:2016/08

記事番号: J-010418

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