サレンダードB/Lと海上運送状(Sea Waybill)の違い
質問最近、「サレンダードB/L」という言葉をよく聞きますが、海上運送状(Sea Waybill)とどう違うのでしょうか。法的な意味と、両者の違いについて教えてください。
回答
コンテナ船の登場による船舶輸送の高速化で、貨物の荷揚港到着に船荷証券(Bill of Lading: B/L)の到着が間に合わず貨物が引き取れないといういわゆる「船荷証券の危機(B/L Crisis)」という事態が発生するようになりました。このようなトラブルを回避し、貨物をスムーズに引き取るために登場したのが、サレンダードB/L(Surrendered B/L)です。一方欧州や北米では海上運送状(Sea Waybill)が早くから使われ、サレンダードB/Lは現在、日本、韓国、中国など主にアジアの近距離航路で多く利用されています。
両者の特徴・違いは以下のとおりです。
I. サレンダードB/L(Surrendered B/L)
B/Lはわが国の「商法」に基づく有価証券(商法第757条〜第769条)で、貨物の引き取りの際にはB/L原本の提示が必要となります。しかし、主にアジア域内の近距離航路では、本船の仕向港への入港までにB/L原本の到着が間に合わない場合があります。このような場合に利用されるのがサレンダードB/Lです。「船荷証券の元地回収」とも称されます。
通常のB/LをサレンダードB/Lにする場合は、本船が出港しB/Lが発行された後、荷送人の依頼により、船積地の運送人(船会社やNVOCC)が荷送人の白地裏書のあるB/L原本の全通を回収します。運送人は回収したB/L原本にその旨を証明する“Surrendered”のスタンプと日付を記載します(Telex Releaseと記載されている場合もあります)。このように一度発行されたB/L原本に荷送人が裏書して運送人に返却することを「B/Lの元地回収」といい、荷送人に返却されたB/Lのことを「サレンダードB/L」と呼んでおり、特別に「サレンダードB/L」という書式が存在して元地回収するわけではありません。運送人はサレンダードB/Lであることを、仕向地の支店または代理店に連絡をします。B/L原本は元地で回収されるため、荷送人はSurrenderedと記載されたB/L原本のコピーを荷受人にEメール添付のPDFまたはファックスで送るだけでよく、荷受人もB/L原本を提示することなく輸入貨物を引き取ることができます。また簡略化されたSurrendered B/Lでは、B/L原本が荷受人に発行されず、「Surrendered」とスタンプされたB/L原本のイメージのみが運送人から荷送人にEメール添付のPDFまたはファックス等で送られ、更に荷受人に送付されるケースもあります。このような簡略型では、荷送人及び荷受人はB/Lの約款を見る機会がないため、裏面約款の拘束力が認められないという判例が中国や韓国であります。
サレンダード B/Lは、あくまで便宜的な方法で、法律、条約等で規定されたものではありません。このためサレンダードB/Lの処理方法は、運送人により多少異なることにも注意が必要です。さらに事故が発生した場合、紛争解決に向けての基準がないため解決が難しく長期化しがちといえます。そのため商取引上の支障がない限り、Surrendered B/Lでなく、海上運送状をご利用されることをお勧めします。
II. 海上運送状(Sea Waybill)
海上運送状はコンテナ船の普及により登場したもので、現在のスピードを重視した海上輸送取引で広く使われている運送書類です。
海上運送状は、貨物の受領書と運送引受条件記載書を兼ね備えたものです。ただし、B/Lと違って有価証券ではないので裏書譲渡はできませんが、貨物引き取り時の提示は必要なく、海上運送状に記載された荷受人(Consignee)であることが確認できれば貨物の引き取りができます。これにより、荷受人は到着後すぐに貨物を引き取ることができ、B/Lと違って、未着や紛失の際の保証渡しのために、銀行保証状を手配する必要がありません。具体的な貨物の引取方法としては、本船入港前に海上運送状記載の着荷通知先(Notify Party)宛に貨物到着通知書(Arrival Notice)が送付されるので、Arrival Noticeに荷受人の署名をして提出すれば、荷物指図書(Delivery Order: D/O)が発行されます(海貨業者など、荷受人以外が代理でD/Oを受け取る場合には、その代理人の名前も併記)。また、海上運送状は、「海上運送状に関するCMI統一規則」(万国海法会:本部ベルギー・アントワープ)を採用しており、貨物を本船から荷揚げするまでは、荷送人(Shipper)が荷揚地、荷受人などの変更を指示することができます。また、信用状取引に使用される運送書類として、国際商業会議所(ICC)の信用状統一規則(現行は、UCP600)でも「流通性のない海上運送状(第21条)」として、船荷証券や航空運送状とともに、規定があります。これらの利便性により、近年では十分に信用ある取引先との継続的・長期的な取引で使用が急増しています。さらに平成31年4月1日施行された「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」により、海上運送状の交付及び記載事項が商法770条第1項及び第2項で規定されました。海上運送状の利用が急拡大し広く利用されていることを改正商法で追認したものです。
III. サレンダードB/Lと海上運送状との違い
サレンダードB/Lと海上運送状との違いは、海上運送状は信用状統一規則(UCP600)や商法での規定があるのに対して、サレンダードB/Lは一切規定がないことです。
サレンダードB/Lは、本来B/Lが持つ荷為替手形の担保としての機能がなく、このため、L/C取引や荷為替手形による決済では、原則使用できません。サレンダードB/Lを信用状条件とする場合もありますが、この場合サレンダードB/Lに担保としての機能がないため、信用状開設銀行は別途担保提供を要求することがあります。取引銀行と事前に十分な確認が必要です。サレンダードB/Lは、主にトランジットタイムの短いアジア域内の航路での取引で使用されます。
他方、海上運送状は商法で規定されている他、CMI統一規則の摂取により輸出入国間での標準的な運用が明確化できるため、国連はその利用を推奨しています(UNECE勧告12号)。また、海上運送状は、B/Lの本来的機能を失ったサレンダードB/Lを使用している多くのケースで利用できることから、多くの運送人で近年取り扱いが急増しています。
サレンダードB/Lはある程度利用が続けられていますが、適用される国際条約、国内法、国際ルールが一切ない便宜的な方法であり、事故や紛争が発生するとその解決に困難を伴いますので、できる限り避けるのが賢明です。国連や一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会(JASTPRO)は、リスクを低減させ、電子化を促進するためにも海上運送状の利用を推奨しています。
サレンダードB/Lについては、貿易・投資相談Q&A「サレンダードB/Lの仕組みと留意点」も併せてご参照ください。
関係機関
関係法令
- 法令データ提供システム(e-Gov):
- 改正商法770条及び商法全文
- 万国海法会 CMI (Comite Maritime International):
- 海上運送状に関するCMI統一規則(CMI Uniform Rules for Sea Waybills)
参考資料・情報
- ジェトロ:
- 貿易・投資相談Q&A「サレンダードB/Lの仕組みと留意点」
調査時点:2012年9月
最終更新:2021年8月
記事番号: C-070301
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