環境規制:EU
質問
EUの環境規制の概要について教えてください。
回答
欧州では1990年代から資源の有効利用や環境保護への取り組みが進められてきました。ELV指令、包装廃棄物指令、RoHS指令、WEEE指令、EuP指令およびREACHなどの規則があり、EU市場に上市する場合にはこれらの規則を遵守しなければなりません。
I. ELV (End-of Life Vehicles)指令(欧州議会・理事会指令 2000/53/EC)
使用済み自動車については各国独自の制度ではなく、EU全体で処理すべきであることが1990年の欧州理事会決議で確認され、ELV指令が2000年10月に発効しました。ELV指令では、使用済み自動車の解体時に取り除く部品の指定、目標リサイクル率、回収処理システムの確立、環境負荷物質の使用禁止、使用済み車両の無償引き取りなどが定められています。自動車および自動車部品には原則として、鉛、水銀、カドミウムおよび六価クロムの使用が禁止されています。ELV指令(2000/53/EC)(88KB)の適用除外リストは、改正委員会指令(2017/2096/EC)付属書IIに掲載されています。
II. 包装廃棄物指令 (Directive on Packaging and Packaging Waste)(欧州議会・理事会指令 94/62/EC)
包装廃棄物による環境汚染の防止と抑制を目指し、EU加盟国に使用済み包装廃棄物の再利用、リカバリー、リサイクルの目標レベルを設定した指令が1994年12月に採択されました。包装廃棄物指令は、EU域内市場に流通するすべての包装物と、使用・廃棄される場所やその素材にかかわらず、すべての包装廃棄物に対して適用されます。リサイクル率などの達成目標値等は順次、設定されています。「包装」の定義の明確化のための具体例は、委員会指令2013/2/EU(714KB)を参照ください。
III. RoHS指令(Directive on the Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical equipment)
RoHS指令は、電気電子機器に関する特定有害物質の使用制限に関する指令で、2003年2月に公布されました。2006年7月1日以降、EU市場に上市(put on the market)される電気電子製品への鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニール(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)の6物質の使用が原則禁止されました。当初の規制対象はAC1000V/DC1500V以下の定格電圧をもつ大型家電、小型家電、情報技術(IT)および電気通信機器、民生用電子機器、照明器具、電気電子工具(据付型大型産業用工具を除く)、玩具・レジャーおよびスポーツ用品、自動販売機の8分類の電気電子機器でしたが、改正RoHS(2011/65/EU)により医療機器、産業用を含む監視および制御機器、その他の電気電子機器が追加され、11分類のすべての電機電子機器が対象になりました(ANNEX I)。
- 禁止物質及び閾値
当初は6物質(群)の使用が禁止されていましたが、改正RoHS指令(2011/65/EU)Annex IIの改正として2015年6月4日に(EU)2015/863が公布され新たに4物質が追加されました。禁止物質は合計10物質(群)となり、それぞれ含有が許される濃度(閾値)が下記のとおり定められています。
鉛、水銀、六価クロム、PBB(ポリブロモビフェニル)、
PBDE(ポリブロモジフェニルエーテル)0.1w% (1,000ppm) カドミウム 0.01w% (100ppm) DEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、 DBP(フタル酸ジ-n-ブチル)、DIBP(フタル酸ジイソブチル) 0.1wt% (1,000ppm) - 適用除外用途
現在の科学技術では、特定有害物質を使用する以外に代替手段がない場合は、申請により適用除外とされます。 - 適合宣言
適合宣言にはCEマーキング制度が適用されます。EUで上市する前にCEマークを貼付します。適合宣言書や技術文書および販売記録は10年保管となります。 - 生産者の義務
生産者の義務は、RoHS指令への適合性評価の実施、技術文書の作成、自己宣言、製品の識別に必要な情報や製造者に関する情報の製品または包装、添付文書の作成、手順書による生産や設計変更の適合性の対応等です。上市後に不適合があればリコールのうえ加盟国の所轄当局への速やかな通知が要求されます。RoHS指令は、単一市場の構築を目的とするEU 運営条約114 条(旧EC 条約95 条)を根拠に策定され、EU各国の国内法としての制定が義務付けられましたが、国内法制化に当たって各国の裁量は認められていません。このため、輸出者はEU各国のRoHS法に対して一律に対応することができます。ただし、罰則規定や税関での検査の有無などは各国で状況が異なります。
IV. WEEE指令(Directive on Waste Electrical and Electronic Equipment)
WEEE指令は、EUにおける電気電子機器廃棄物の回収・リサイクルに関する指令として2005年8月13日に施行されました。同時期に告示された電気電子機器への特定有害物質の使用制限に関する指令であるRoHS指令と密接に関係しています。家電・電子企業は自社製品の適切な廃棄・回収処理と費用負担が義務付けられています。WEEE指令は、EU運営条約175条(旧EC条約第192条)の環境政策による環境保全そのものを目的とし、各国でEU指令より厳しい国内法を制定できるため、加盟国間で規制内容に相違が見られます。改正WEEE指令(欧州議会・理事会指令 2012/19/EU)は、2012年7月4日に官報で告示され、8月13日に発効しました。2018年8月15日以降は、10カテゴリーから6カテゴリーに集約され(付属書III)、適用範囲は全ての電気電子機器に拡大されました。適用除外製品として宇宙用機器など6品目は附属書IVに掲載されています。
V.EuP指令 (Directive on Eco-design of Energy-using Products)(欧州議会・理事会指令 2005/32/EU)およびErP指令(Directive on Energy related Products)(欧州議会・理事会指令 2009/125/EC)
EuP指令は、エネルギー使用製品の環境配慮設計に関する「枠組み」指令で、2005年8月に発効されました。EuP指令は、RoHS指令やWEEE指令等を補完するもので、規制対象は、輸送機器を除くエネルギー使用機器のうち、年間販売台数がEU域内で20万台以上、環境に影響があり、大きなコスト負担なしで環境負荷の改善が可能などの条件があります。地球温暖化防止対策の1つとなっています。また、本指令に適合することは、CEマーキング取得の条件にもなっています。対象製品は個々に基準が定められています。本指令は、その後、エネルギー使用製品(EuP)からエネルギーの消費に間接的に影響を与えるもの(Energy related Products)に対象製品が拡大され、「エネルギー関連製品のエコデザイン指令」(ErP指令)として2009年11月20日に発効しました。規制内容には一般的エコデザイン要求と特定エコデザイン要求があり、EC適合宣言、CEマーキングが必須になります。また、適合製品には、エコラベルの貼付が義務付けられます。
EuP指令に基づき、2016年から2019年の期間に実現すべき措置として7製品グループの策定が発表されました。現時点でのエコデザイン指令対象製品と適用法令についてはEcodesign Working Plan 2016-2019(101KB)および「EU 輸入管理その他 CEマーク 詳細 p.4-5」(449KB)を参照下さい。
VI. REACH規則 (the Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)(欧州議会・理事会規則 (EC) No 1907/2006)
REACH規則は、2007年6月1日に発効した「化学物質の登録・評価・認可・制限に関する規則」で、欧州化学品庁(European Chemicals Agency: ECHA)が運用を管理しています。 2008年6月1日以降、1企業当たり年間1トン以上の化学物質をEU域内で製造または輸入する者は、既存化学物質と新規化学物質の区別なく、ECHAに登録をしなければならなくなりました。欧州既存商業化化学物質リスト(EINECS)などの段階的導入物質については、経過的措置として予備登録(Pre-registration)を行うことによって、登録期限に猶予が与えられましたが、2018年5月31日に年間1~100トン未満の物質の登録猶予期間が終了しました。また、当該物質の製造者および輸入者は、「CLP規則(EC)No1272/2008」(659MB)に沿って化学物質の分類、表示、包装を義務付けられました。
VII. EU ETS (European Union Emission Trading Scheme、欧州連合域内排出量取引制度)
EUETSは、EU域内の二酸化炭素 (CO2)排出量取引制度です。京都議定書の排出削減目標を達成するための取り組みで、気候変動に対する政策の柱として2005年1月から導入されました。EU全域で約1万2,000の施設が対象になっており、主に発電、石油精製、鉄鋼、セメント、化学製品、大型ボイラー等、エネルギー集約部門多消費施設が対象です。
2021年7月14日、欧州委員会は2030年の温室効果ガス削減目標である1990年比で最低55%削減に向けた政策パッケージ「Fit for 55」の一環として、EU排出量取引制度(EU ETS)の改正指令案と、航空業界へのEU ETS適用を改正する指令案を発表しました。
VIII. 炭素国境調整メカニズム(CBAM)
欧州委員会は2021年7月、「欧州グリーン・ディール」の実現に向けた気候変動対策の政策パッケージ「Fit for 55」の一環として、炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則案を発表しました。CBAM規則は2023年5月17日に施行され、2026年からの本格適用を前に2023年10月1日から対象事業者に報告義務を課す移行期間が開始されました。CBAMとは、EU排出量取引制度(EU ETS)に基づいてEU域内で生産される対象製品に課される炭素価格に対応した価格を域外から輸入される対象製品に課す制度です。
関係法令
EVL指令(欧州議会・理事会指令 2000/53/EC)
ELV指令の附属書II(適用除外リスト)改正(欧州委員会指令 2011/37/EU
包装廃棄物指令(欧州議会・理事会指令 94/62/EC)
改正RoHS指令(欧州議会・理事会指令 2011/65/EU)
改正RoHS指令(Annex IIの改正)(欧州議会・理事会指令2015/863)
改正WEEE指令(欧州議会・理事会指令 2012/19/EU)
ErP指令(欧州議会・理事会指令 2009/125/EC)
Ecodesign and Energy Labelling Working Plan 2022-2024
REACH規則(欧州議会・理事会規則(EC)No 1907/2006)
CLP規則(欧州議会・理事会規則(EC)No 1272/2008
参考情報・資料
欧州委員会:
EU ETS (欧州連合域内排出量取引制度)
欧州委員会環境部会
ジェトロ:
EU貿易管理制度(CEマーク詳細)(361KB)
EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)(841KB)
調査時点:2015年2月
最終更新:2024年6月
記事番号: A-081201
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