ブラジル企業と技術提携契約を締結する際の留意点
質問
ブラジル企業に技術供与を行うことになり、技術提携契約を結ぶべく交渉中です。契約の際の留意点について教えてください。
回答
産業財産法に基づき、特許(発明特許、実用新案)、工業意匠、商標、地理的表示、技術移転およびフランチャイズ等にかかる契約書は、国立産業財産権院(Instituto Nacional da Propriedade Industrial:INPI)へ登録する必要があります。また、ロイヤルティーの国外送金には中央銀行への登録も必要です。
I. 契約書の国立産業財産権院(INPI)への登録
- 概要
産業財産権は開発商工省傘下の国立産業財産権院(INPI)が管轄しており、産業財産法(1996年5月14日付法律第9,279号、2001年2月14日付け法律第10,196号にて一部改正)が特許(発明特許、実用新案)、工業意匠、商標、地理的表示、技術移転およびフランチャイズ等について規制しています。これらにかかる契約書は、以下の効果を発生させるためにINPIへの登録が必要です。
- 第三者に対する取引の対抗力(法律第9,279号第211条)
- ロイヤルティーの国外送金(外国資本および国外送金に関する1962年9月3日付法律第4,131号第11条ならびに2010年3月23日付ブラジル中央銀行決議第3,844号)
- 支払ロイヤルティーの税額控除損金算入(法律第4,131号、1991年9月30日付所得税法第8,383号、1999年3月26日付所得税細則行政令第3,000号、1958年12月30日付財務省令MF436号)
ロイヤルティーの国外送金にはINPIへの登録後、中央銀行(BACEN)への事前登録も必要です(法律第4,131号、中央銀行決議第3,844号)。
また、ソフトウェアライセンス契約は、ソースコードやノウハウの移転を伴う場合のみ、技術移転契約とみなされ、INPIへの登録が必要です。
なお、特許化されていない技術(ノウハウ)のライセンス契約は認められません。ノウハウ提供契約と産業財産権ライセンス契約とは、異なる種類の契約として取扱われ、前者は、「売却」により移転されるもので、「ライセンス」されるものではないとの解釈がとられています。よって、ブラジル側の契約当事者(技術受領者)は、契約期間満了後(契約対価支払後)、技術を自由に使用でき、秘密保持義務も負わないとされています。従って、契約書には「本契約は、契約書がINPIおよび中央銀行に対し登録された時点で発効するものとする。ブラジル側契約当事者は登録完了後、○日以内に登録書の写しを添えて登録完了の事実を電子メールにて日本側契約当事者に通知しなければならない。」といった趣旨の規定をいれるのをお勧めします。
- INPIによる審査
INPIへの登録手続きは、形式審査のみならず契約条件が厳格に審査されます。とりわけ、経済力の濫用、不公正な取引、競争制限的な条項等、いわゆるハードコア制限条項が契約条件に含まれていないかどうかが重点的に審査されます。以下のような条件が含まれる契約書の登録は拒否される可能性があります。
- ノウハウ移転契約における生産の中断
- 輸出の制限
- ライセンス供与者/サプライヤーからの原材料購入義務(タイイン・クローズ)
- 独占的グラントバック条項(ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンシーが開発した改良技術についてライセンサーに独占的ライセンスをする義務を課すこと)などTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定でWTO協定の一部)第40条第2項に例示された条件
- INPIへの登録における留意点(形式および契約諸条件)
- 契約書の使用言語
契約書がポルトガル語以外の言語で作成された場合には、ブラジルの公認翻訳者によるポルトガル語への翻訳の添付が要求され(民法第224条、民事訴訟法第157条)、かつ、最低2人の証人による契約書への署名が要求されます(民法第585条)。ブラジル国外で契約に署名するには、公証人の面前で行い、ブラジル領事館の認証が必要です。 - 所要時間
INPIは登録申請受理後30日以内に回答、判断すると規定されています(産業財産法第211条)。しかし、契約条件についての質疑応答、追加情報の提出などにより極端な場合は登録完了までに1年程度を要する例もあるようです。
- 契約書の使用言語
II. ロイヤルティー
- 技術ライセンス(使用許諾契約)、技術(ノウハウ)提供契約に関するロイヤルティー
契約が関係会社間(例えば、日本の親会社とブラジルの関連会社あるいは子会社)で行われる場合、ロイヤルティーは、事業活動の分野に応じて、技術により保護される商品およびサービスの純売上高の1%~5%に限定されています。
契約が資本関係のない独立企業間の場合には、ロイヤルティーの上限についての法規制はありませんが、関連会社間と同様の運用がなされており、INPIの介入を不当とする訴訟が外国企業により提起される例もあるようです。
- 商標ライセンスに関するロイヤルティー
商標が登録されていることを条件にライセンス登録が認められ、当該商標によって識別される商品およびサービスの純売上高の1%が上限となります。 - ロイヤルティーに関する備考
ロイヤルティーは移転価格税制の対象外となります。
また、INPIは、商標、特許、特許を受けていないノウハウ・営業秘密とサービスを組み合わせたセット契約をみとめていますが、対価の支払いはこれら対象のうちの1つに対してのみ認めています。
なお、上限を超えるロイヤルティーを送金する場合、超えた分は利益の配分とみなされます。(所得税細則行政令第3,000号第355条)
III. 契約期間
技術(ノウハウ)提供契約の契約期間については、関係会社間の契約は5年が上限とされており、正当な理由があればさらに5年間延長の申請が可能ですが、許可される保証はありません。ブラジル進出にあたり本社が負担した初期投資コスト、新商品開発時の本社負担の開発費(図面、人件費など)が、ロイヤルティー認定されたとしても、年率のロイヤルティーと別枠で一括送金ができないため対価の回収に支障をきたす可能性があります。
特許発明、実用新案および工業意匠の保護期間はINPIへの出願日よりそれぞれ20年、15年および10年(5年を単位として3回の延長が可能)ですが、当事者間のライセンス契約の期間はこの保護期間を超えることはできません。
商標ライセンスについてはINPIの保護期間である10年(更新により10年間の延長可能)を超えることはできません。
IV. 税金関連
- ロイヤルティーおよび役務対価の国外送金
源泉所得税:12.5%(日本・ブラジル二重課税防止条約適用後)
特定財源負担金(CIDE):10%
金融取引税(IOF):0%あるいは0.38% - ブラジルの個人および法人であって、輸入に従事する者
社会統合基金(PIS)および社会保険融資納付金(COFINS):合計税率9.25%
サービス税(ISS-市町村税):2~5% - 日伯租税条約に基づく手続き
ブラジルでは、ロイヤルティー等の送金時に日伯租税条約に基づく12.5%の所得税が供与者の所得から源泉徴収されますので、その支払い(納税)証明書と、租税条約上の届け出書(Application Form for Income Tax)に証明を得たものを日本に送付させます。
関係機関
-
駐日ブラジル大使館
国立産業財産権院 - ブラジル知的財産協会
- 経済防衛管理理事会(CADE)
関係法令
- 産業財産法(1996年5月14日付法律第9,279号)
- 産業財産法改正法(2001年2月14日付法律第10,196号)
- 2013年INPI規範指示第16/2013号(INPIへの登録手続規範と添付書類)(22KB)
- 1958年12月30日付財務省令MF第436号(21KB)
- 外国資本および国外送金に関する法律(1962年9月3日付法律第4,131号)
- 2010年3月23日付中央銀行決議第3844号(139KB)
- 1999年3月26日付所得税細則行政令第3000号
- TRIPS協定
調査時点:2014年12月
最終更新:2020年3月
記事番号: A-010117
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