CBPによる物流セキュリティ規制
米国向け海上貨物に関するセキュリティ規制は、2001年9月のテロ事件以降、強化されており、これらの規制は主に税関国境保護局(CBP)によって実施されている。具体的には2002年以降、「コンテナ・セキュリティ・イニシアチブ(CSI)」、「24時間ルール」、「C-TPAT(テロ行為防止 のための税関・産業界パートナーシップ)」が相次いで導入され、現在これらのセキュリティ規制が多層的に実施されている。2010年1月からは、米国向け海運貨物について輸入者に10項目、船社に2項目の情報提出を要求する「10+2ルール」が実施されている(図1)。
各規制の主な内容と現在の状況
1. コンテナ・セキュリティ・イニシアチブ(CSI)
- 内容
2002年3月から実施されたCSIは、米国向け海上コンテナに大量破壊兵器を隠匿し米国内で爆発させる等のテロを未然に防止するため、CBPの職員を海外へ派遣し、外国税関の協力を得て、ハイリスク・コンテナを識別し、検査するプログラムである。 - 現在の状況
現在58の港で実施中であり、米国に向けて出荷されるコンテナ量の86%をカバーしている。日本は2003年3月から相互主義に基づき実施。
2. 24時間ルール
- 内容
2002年12月から実施されている24時間ルールは、外国港での船積み24時間前までに、船社などに積荷目録(マニフェスト)情報の提出義務を課す制度。 - 現在の状況
事前情報の提出が求められる対象は海上貨物に限定されず、航空・陸上貨物にまで範囲が広げられており、2004年以降段階的に実施されている。10+2ルールの導入により、24時間ルールの積荷目録(マニフェスト)情報と輸入者が提出する10項目の貨物情報がCBPで船荷証券番号により結び付けられ、照合されることとなった。
3. C-TPAT(テロ行為防止のための税関・産業界パートナーシップ)
- 内容
2002年4月から実施されているC-TPATは、セキュリティ面のコンプライアンスに優れた輸入者等に対し、検査率の減少等の優遇措置を施す制度。C- TPAT参加企業にとっての利益は、検査率の減少、検査が必要になった場合の優先的実施等が含まれる。 - 現在の状況
C-TPATは、約10, 000社のメンバーが参加する2001年9月のテロ事件以降で最も大規模かつ成功した官民のパートナーシップである。C-TPAT参加メンバーが扱うコンテナ貨物の総数は、米国に入ってくる貨物数の半分に達している。
国際的に活動する企業の負担軽減を図る観点から、米国のC-TPATとこれに相当する諸外国のAEO(認定事業者)制度の相互承認が進んでいる。日本のAEO制度とも、2009年6月に相互承認が実現し、日本のAEO企業からの輸入貨物の検査率の軽減、日本の関連事業者がAEO企業の場合のC-TPAT参加者に対する実地調査(バリデーション)の簡素化等の優遇措置が与えられることとなった
[参考] 輸入者自己評価(ISA: Importer Self Assessment)
C-TPATはセキュリティに関するパートナーシップ・プログラムであるが、貿易面のコンプライアンスに関するCBPと輸入者のパートナーシップ・プログラムとして輸入者自己評価(ISA)が導入されている。参加者はC-TPATメンバーであり2年以上の輸入経験があることが要件で、税関法律・規制の遵守を約束したコンプライアンスに特に優れた輸入者(米国の居住者)である。
参加にあたっては、まずCBPの監査官による十分な統制が実施されているかのレビューが実施され、その後も自身のコンプライアンスを適切に管理するとともに、エラーをCBPに報告することが求められる。ISA参加のメリットには、一定の税関監査の免除、貨物検査の減少、CBPよりエラーを通告された場合に30日以内に罰則なしで修正できること等が含まれる。
4. 10+2ルール(2010年1月26日より完全実施予定)
- 内容
危険度の高いコンテナの特定を円滑に行うため、1.輸入者に米国向け貨物に関する10項目の情報、2.船社に2項目の情報を事前にCBPに提出することを義務付ける。
[輸入者に求められる情報(10項目)]
- 船積み24時間前までに申告必須
- 売り主
- 買い主
- 記録上の輸入者登録番号/外国貿易地帯(FTZ)申請者識別番号
- 荷受人番号
- 船積み24時間前までに申告必須、ただし米国到着24時間前までは修正可
- 製造業者(またはサプライヤー)
- 配送先
- 原産国
- 商品のHTSUS番号(6桁)
- 米国到着の24時間前までにできるだけ早く申告
- コンテナ積み込み場所
- 混載業者(詰め込み業者)
(注)このほか、船積み24時間前までに船荷証券(B/L)番号の申告必須
[船社に求められる情報(2項目)]
- 船積み計画書
- コンテナ状況メッセージ
[経由貨物に関し提出が求められる情報(5項目)]
- 船腹予約者
- 外国の荷降ろし港
- 納入場所
- 配送先
- 商品のHTSUS番号(6桁)
- 船積み24時間前までに申告必須
- 現在の状況
2010年1月26日から完全実施されている。暫定最終規則では、輸入者の違反1件当たり5,000ドルの罰金とされているが、2009年7月にCBPは罰則適用に際しての軽減・加重要因を示した「罰則ガイドライン」を公表した。
[罰則の軽減]
- 試行期間中に進歩があった場合
- 申告が要求される積荷に対して違反数が少ない場合
- C-TPAT認定企業(Tier2、Tier3企業に最大50%の軽減の可能性)
- 将来の違反を防ぐための改善措置がとられた場合
- 輸入者がコントロールできない要因(天候など)による船舶の進路変更で申告が遅れた場合
[罰則の加重]
- CBPやCBPの活動に協力的でない場合
- 密輸や違法商品の輸入の場合
- 1件の申告に複数のエラーがある場合
- 企業対応の悪化を示すエラー率の上昇がみられる場合
5. 100%検査
- 内容
2007年に成立した「9.11委員会勧告実施法」により、2012年7月までに外国港において船積みされる全ての米国向けコンテナを非接触型透過装置(X線、γ線)及び放射線検知装置によりスキャンすることが義務付けられた。ただし、国土安全保障省(DHS)長官が、一定の要件が満たされない(システム購入の予算が充当されないなど)と判断した場合は、2年ごとの適用延期が認められている。 - 現在の状況
関係省庁は100%検査の実施には否定的であり、2009年1月の議会に対する報告では、危険度の高いコンテナ出発地または経由地に集中すべきと述べている。ナポリターノDHS長官は2012年7月に、2年間の適用延期を発表し、2014年7月の達成を目指している。
6. 産業別専門センター(CEE)
- 内容
ワンストップのバーチャル組織であり、2011年10月に開始した。輸入者や輸入品の情報を1カ所に集める。産業ごとの知識や情報を集結させ、場所に拘わらず一貫した通関を提供するプログラム。当該品目が特定地域でしか輸入できないということではない。C-TPAT(Tier2と3)、ISAのメンバーが対象。 - 現在の状況
当初設けられた分野は、「医薬品(ニューヨーク)」、「エレクトロニクス(ロサンゼルス)」、「自動車・航空宇宙(デトロイト)」、「石油ガス・鉱物(ヒューストン)」である。2013年は、「農産物(マイアミ)」、「繊維アパレル(サンフランシスコ)」、「卑金属(シカゴ)」、「消費財(アトランタ)」、「素材(バッファロー[ニューヨーク州])」、「機械(ラレド[テキサス州])」に開設予定。
サプライチェーンにおける各規制の適用
米国の多層的な物流セキュリティ規制が、全体のサプライチェーンのどの段階で適用されているのかを整理する(図2)。外国港での船積み24時間前に24時間ルールおよび10+2ルールによる事前情報が求められ、それに基づき特定されたハイリスク貨物を船積み前に検査し、必要に応じて通関時に検査を実施する流れが基本となる。また、事前に書類、実地調査(バリデーション)で認定されたC-TPAT参加者については、通関時の検査率減少や検査貨物引取の迅速化などの優遇措置が受けられることとなる。
CBP以外による物流・通関規制
税関国境保護局(CBP)以外の米国の関係当局も、物流セキュリティや消費者保護の観点から様々な物流・通関規制を実施しており、2001年9月のテロ事件以降、航空貨物、食品等に対する規制も強化されてきている。
航空関係
- 航空貨物100%検査 [米国運輸保安局(TSA)]
9.11委員会勧告実施法は、TSAに対し、米国発の旅客機(国内線を含む)に積載される航空貨物を2010年8月までに開被検査または非接触型装置(X線または放射線検知装置)により100%検査することを求めている。TSAは認定貨物検査プログラム(CCSP: Certified Cargo Screening Program)を導入し、製造業者、倉庫、配送センター等の検査施設を認定することにより航空会社やフォワーダーに引き渡す前の検査を認めることで、100%検査の目標を実現することとしている。
TSAは、CCSPを活用することにより、2009年2月までに旅客機に積載される航空貨物を50%検査する中間目標を達成した 。
食品関係
- バイオテロ法 [食品医薬品局(FDA)]
2003年12月のバイオテロ法施行により、米国で人または動物に供給する食品を製造、加工、包装、保管する国内外の施設は、FDAに施設登録を行うことが義務付けられた。また、食品輸入業者は、輸入食品が米国の国境に到着する前に、輸出する食品に関する情報を提出することにより、FDAに食品輸入の事前通告をすることが義務付けられた。 - 食品安全強化法 [食品医薬品局(FDA)]
2011年1月に食品安全強化法が成立し、そのもとで規則の策定が進んでいる。食品関連施設の所有者に対し「危害分析」および「予防的管理措置」の実施を義務付けることを柱としている。 - 畜肉含有食品の輸入規制 [米国農務省食品検査安全局(FSIS)]
FSISは、2009年6月22日以降、全ての畜肉(牛肉、豚肉、鶏肉等)製品(畜肉エキス含有量2%未満の製品含む)についてFSISの検査を経なければならないとするノーティスを発表した。これによると、FSISは、当該畜肉製品の輸出国が、米国への輸出可能なリストに含まれているかどうか、当該畜肉が「適格施設」で生産されたものかどうかを確認した上で、承認の可否を決めることとされている。これまで、畜肉を含む輸入品の取扱いは税関国境保護局(CBP)や米国農務省動植物検疫局(APHIS)が一義的に担当しており、FSISの基準を満たさず輸入される少量の畜肉を含む製品が多かったが、今後はAPHISと協力してFSISが輸入品を直接チェックするようになった。
その他
- レイシー法 [米国農務省動植物検疫局(APHIS)]
2008年にレイシー法が修正され、不法に伐採された植物やそれにより作られた製品の取引を防止する観点から、2008年12月から段階的に、木材や木材を使った製品の輸入の際のCBPへの申告を義務付けている。申告では植物の学術名(属・種)、価額、数量、植物の原産国の提出を要求している。
2008年12月15日から2009年3月末までをフェーズ1とし、申告フォームをホームページ上に公開し、試行期間として国内外での申告義務の広報活動を行なった。その後フェーズ2~4を経て2010年4月からHS44類、6602、8201、9201、9202、9504.20などの品目を対象とするに至っている。