米国の貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の米国の実質GDP成長率は2.5%で前年を上回った。
  • 財の輸出が前年比2.1%減の2兆452億ドル、輸入が4.9%減の3兆1,085億ドルといずれも減少。貿易赤字も約1割減の1兆633億ドルに。
  • 対内直接投資は前年比2割減の2,712億ドルとなった一方、対外は2割増の3,631億ドルに。

公開日:2024年9月6日

マクロ経済 
2023年も個人消費が好調な景気を下支え

2023年の米国の実質GDP成長率は2.5%と、前年の1.9%を上回った。各種経済予測機関の相場では、2022年から顕著となった高インフレと、それを抑え込むための金融引き締めを受けて、2023年前半には小幅なリセッションに陥るとみられていた。しかし、実際には、高金利下でも底堅さをみせた個人消費が年間を通じて好調を維持したことに加えて、年前半には設備投資の勢いも相まって、潜在成長率である1.8%も大きく上回る高成長を記録した。四半期ごとの前期比年率の成長率をみると、第1四半期から2.2%、2.1%、4.9%、3.4%と、いずれも2.0%を超える安定した成長をみせた。大方の予測に反して消費が堅調だった要因としては、新型コロナウイルス禍での政府による各種給付金などの財政支出の効果が残っていたことが挙げられる。この財政支出によりピーク時の2021年第3四半期には、家計に約2兆3,000億ドルの余剰貯蓄が積み上がっていたとされる。それ以降、余剰貯蓄は切り崩されていき、2023年半ばにはその効果も尽きるとみられていたが、小売業者による大規模な値引きセールや消費者が低価格帯商品の購買にシフトしたこと、好調な景気を受けた資産価値の上昇などを受けて、良好な家計状況が想定されたよりも長続きした。設備投資が好調だった要因としては、バイデン政権が推進している産業政策が影響している。政権と連邦議会は2021~2022年にかけてインフラ投資や特定の産業における国内サプライチェーンの強靭化のための大規模な予算を伴うインフラ投資雇用法(IIJA)、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)、インフレ削減法(IRA)を立て続けに成立させた。それらが実装段階に入ったことで工場建設などが進展し、数字に表れてきたといえる。

表1 米国の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 1.9 2.5 2.2 2.1 4.9 3.4
階層レベル2の項目個人消費支出 2.5 2.2 3.8 0.8 3.1 3.3
階層レベル3の項目 0.3 2.0 5.1 0.5 4.9 3.0
階層レベル4の項目耐久消費財 △ 0.3 4.2 14.0 △ 0.3 6.7 3.2
階層レベル4の項目非耐久消費財 0.6 0.8 0.5 0.9 3.9 2.9
階層レベル3の項目サービス 3.7 2.3 3.1 1.0 2.2 3.4
階層レベル2の項目民間投資 4.8 △ 1.2 △ 9.0 5.2 10.0 0.7
階層レベル3の項目設備投資 5.2 4.5 5.7 7.4 1.4 3.7
階層レベル3の項目住宅投資 △ 9.0 △ 10.6 △ 5.3 △ 2.2 6.7 2.8
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 7.0 2.6 6.8 △ 9.3 5.4 5.1
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 8.6 △ 1.7 1.3 △ 7.6 4.2 2.2
階層レベル2の項目政府最終消費支出・粗投資 △ 0.9 4.1 4.8 3.3 5.8 4.6

〔注〕季節調整済み、四半期の伸び率は前期比年率。
〔出所〕米国商務省経済分析局

雇用の需給逼迫が続くも年終盤には軟化の兆し

労働需給が逼迫して、賃金上昇率が高止まりしたことも好調な景気を支えた要因の一つだ。失業率は2023年を通じて自然失業率の4.0%を切る3%台で推移し、賃金上昇率も新型コロナウイルス禍前のトレンドである2~3%台を超える4%台を維持した。労働需給逼迫の背景には、新型コロナウイルス禍の収束で経済活動が正常化したことで労働需要が高まった一方で、新型コロナウイルス禍に早期リタイアした高齢者層がいまだ労働市場に戻っていないことや、新型コロナウイルス禍に抑制されていた移民労働力の受け入れの回復に時間がかかり供給が追い付かなかったという構図がある。しかし、第4四半期の3カ月における新規雇用者数の前月比増は平均で約16万人と逼迫状況の緩和がみられ始めた。失業率についても、労働参加率の低下が大きく影響し、12月に3.7%と低水準で締めくくった。

金融当局はインフレの抑え込みに腐心

好調な景気に伴いインフレ率は高止まりを続けた。2023年の消費者物価指数(CPI)は1月に前年同月比で6.4%増と高水準で幕を開けた。連邦準備制度理事会(FRB)が2022年3月から2023年5月にかけて、政策金利の誘導目標を0.00~0.25%から5.00~5.25%まで異例のペースで引き上げたこともあり、CPIは6月には前年同月比3.0%まで落ち着いた。FRBは6月にいったん据え置いた政策金利誘導目標を、7月にはさらに0.25ポイント引き上げて5.25~5.50%とした。そうした金融当局の舵取りもあり、年後半のCPIは前年同月比3%台を維持し、変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数も徐々に伸びが減速していった。しかし、年平均でみると前年比4.1%増とFRBが目指す物価安定目標である2.0%からは依然、大きく離れる結果となった。

貿易 
輸出入ともに減少、貿易赤字は減少

米国商務省が2024年6月に発表した、2023年の貿易統計(国際収支ベース)によると、2023年の米国の財貿易は輸出入ともに減少した。輸出は前年比2.1%減の2兆452億ドル、輸入は4.9%減の3兆1,085億ドル、貿易赤字額は9.9%減の1兆633億ドルとなった。

通関ベースで2023年の財輸出をみると、前年比2.3%減の2兆181億ドルとなった。財別では、天然ガス、燃料油が押し下げ、工業用原材料(構成比36.2%、7,297億ドル)が12.0%減となった。半導体が押し下げる一方、民間航空機エンジンが伸び、資本財(29.8%、6,022億ドル)は5.1%増だった。医薬品が大きく押し上げ、消費財(12.9%、2,595億ドル)は5.9%伸びた。

表2 米国の主要品目別輸出入〈通関ベース〉(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Customs Value:課税価格)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
食料品 179,866 161,887 8.0 △ 10.0 208,273 200,200 6.5 △ 3.9
工業用原材料 829,409 729,664 36.2 △ 12.0 809,684 675,374 21.9 △ 16.6
階層レベル2の項目原油 117,071 117,443 5.8 0.3 197,921 164,922 5.4 △ 16.7
階層レベル2の項目燃料油 59,521 48,053 2.4 △ 19.3 35,905 26,192 0.9 △ 27.1
階層レベル2の項目プラスチック 50,206 44,892 2.2 △ 10.6 26,561 20,103 0.7 △ 24.3
階層レベル2の項目天然ガス 62,952 41,139 2.0 △ 34.7 17,694 9,601 0.3 △ 45.7
資本財 572,871 602,173 29.8 5.1 864,450 859,101 27.9 △ 0.6
階層レベル2の項目コンピュータおよびアクセサリー 49,925 48,954 2.4 △ 1.9 179,719 155,618 5.1 △ 13.4
階層レベル2の項目半導体 66,596 57,009 2.8 △ 14.4 77,629 72,513 2.4 △ 6.6
階層レベル2の項目民間航空機エンジン 44,933 54,036 2.7 20.3 21,157 25,736 0.8 21.6
階層レベル2の項目電気機器 49,230 53,306 2.6 8.3 91,483 97,002 3.1 6.0
階層レベル2の項目医療機器 42,823 46,400 2.3 8.4 56,704 57,690 1.9 1.7
階層レベル2の項目通信機器 34,632 39,204 1.9 13.2 79,651 78,654 2.6 △ 1.3
自動車・同部品等 162,978 180,039 8.9 10.5 397,948 458,187 14.9 15.1
階層レベル2の項目乗用車 58,174 62,197 3.1 6.9 162,694 203,600 6.6 25.1
階層レベル2の項目トラック・バス・特殊車両 26,211 29,930 1.5 14.2 52,343 63,142 2.0 20.6
消費財 245,112 259,539 12.9 5.9 838,200 757,705 24.6 △ 9.6
階層レベル2の項目医薬品 89,364 100,903 5.0 12.9 189,749 203,208 6.6 7.1
階層レベル2の項目携帯電話・その他日用品 31,734 33,225 1.6 4.7 129,410 117,138 3.8 △ 9.5
階層レベル2の項目繊維衣料品・日用品 8,354 8,198 0.4 △ 1.9 63,469 51,654 1.7 △ 18.6
階層レベル2の項目玩具・ゲーム・スポーツ用品 11,821 10,873 0.5 △ 8.0 59,911 47,948 1.6 △ 20.0
階層レベル2の項目家具・家庭用品等 5,475 5,312 0.3 △ 3.0 50,525 39,487 1.3 △ 21.8
その他 76,218 84,757 4.2 11.2 121,318 129,603 4.2 6.8
合計 2,066,454 2,018,059 100.0 △ 2.3 3,239,873 3,080,170 100.0 △ 4.9

[注] 季節調整済み、伸び率は前年比。
[出所] 米国商務省統計から作成

財輸出を国・地域別でみると、上位の3カ国ともに減少した。1位のカナダ(構成比17.6%、3,544億ドル)は1.4%減で、鉱物性燃料(HSコード27類、300億ドル、15.2%減)やプラスチック製品(39類、155億ドル、12.2%減)が押し下げた。2位のメキシコ(16.0%、3,227億ドル)は0.5%減で、鉱物性燃料(451億ドル、19.6%減)が押し下げる一方、自動車・同部品等(87類、283億ドル、23.1%増)が大きく伸びた。3位の中国(7.3%、1,478億ドル)は4.1%減で、電気機器(85類、116億ドル、27.2%減)、穀物(10類、32億ドル、56.6%減)、種子類(12類、157億ドル、16.9%減)が押し下げる一方、鉱物性燃料(199億ドル、46.4%増)が1.5倍近く伸びた。4、5位のオランダ(4.0%、813億ドル)、ドイツ(3.8%、767億ドル)はいずれも増加した(11.8%増、5.3%増)。日本(3.8%、757億ドル)は6位で5.7%減だった。

その他、ブラジル(構成比2.2%、446億ドル)、韓国(3.2%、651億ドル)、インド(2.0%、404億ドル)が全体を押し下げた。鉱物性燃料のブラジル(86億ドル)への輸出が約半分まで落ち込み、韓国(176億ドル、13.9%減)、インド(112億ドル、31.0%減)も減少した。インドへの貴金属(71類、55億ドル、27.1%減)の輸出も減少した。一方、韓国への航空機・同部分品(88類、37億ドル、76.3%増)の輸出が大きく伸びた。

EUは、オランダ、ドイツ、ベルギーが押し上げ5.0%増だった。品目別では、医薬品(30類、411億ドル、23.4%増)、航空機・同部品(345億ドル、24.7%増)が押し上げた。特にオランダへの鉱物性燃料(297億ドル、22.4%増)、ドイツへの自動車・同部品等(104億ドル、17.9%増)、航空機・同部品(95億ドル、13.5%増)の輸出増が目立った。ベルギーへの医薬品(80億ドル)の輸出も約2.5倍に伸びた。EU以外の欧州諸国では、スイスは押し下げ要因となり、貴金属(145億ドル、40.9%減)が大幅に減少した。

2023年の財輸入(通関ベース)は、前年比4.9%減の3兆802億ドルとなった。財別では、原油が押し下げ、工業用原材料(構成比21.9%、6,754億ドル)は16.6%減だった。コンピュータおよびアクセサリーが押し下げる一方、電気機器、民間航空機エンジンが伸び、資本財(27.9%、8,591億ドル)は0.6%減にとどまった。乗用車、トラック・バス・特殊車両ともに伸び、自動車・同部品等(14.9%、4,582億ドル)は15.1%増だった。携帯電話・その他日用品、玩具・ゲーム・スポーツ用品、繊維衣料品・日用品が振るわず、消費財(24.6%、7,577億ドル)は9.6%減だった。

財輸入を国・地域別にみると、最大の輸入相手国のメキシコ(構成比15.4%、4,752億ドル)は5.1%増で、自動車・同部品等(1,293億ドル、16.7%増)や電気機器(850億ドル、8.4%増)が押し上げた。2022年の1位から2位になった中国(13.9%、4,269億ドル)は20.4%減と大きく落ち込み、一般機械(831億ドル、22.8%減)や電気機器(1,237億ドル、12.4%減)が押し下げた。3位のカナダ(13.6%、4,186億ドル)は4.3%減で、鉱物性燃料(1,229億ドル、21.8%減)が押し下げの大きな要因となった。4位のドイツ(5.2%、1,593億ドル)は8.6%増で自動車・同部品等(3,415億ドル、21.9%増)や一般機械(3,370億ドル、15.6%増)が押し上げた。5位は日本(4.8%、1,472億ドル)で0.5%減だった。

ベトナム(構成比3.7%、1,144億ドル)も全体を押し下げ、電気機器(411億ドル、9.7%減)、履物・同部分品(64類、77億ドル、29.6%減)、衣類・同付属品(61類、76億ドル、26.9%減)が落ち込む一方、一般機械(172億ドル、33.6%増)の輸入は大きく伸びた。

EUをみると、ドイツのほか、イタリア、オランダが全体を押し上げ、前年比4.2%増となった。品目別では、医薬品(1,080億ドル、12.0%増)、自動車・同部品等(638億ドル、21.8%増)が伸びた。イタリアからは、医薬品(81億ドル、25.5%増)や自動車・同部品等(66億ドル、29.3%増)の輸入が増加し、オランダからは、医薬品(106億ドル、99.8%増)が2倍近く伸びた。

表3 米国の国・地域別輸出入〈通関ベース〉(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Customs Value:課税価格)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
北米
階層レベル2の項目USMCA 683,444 677,099 33.6 △ 0.9 889,461 893,835 29.0 0.5
階層レベル3の項目カナダ 359,237 354,356 17.6 △ 1.4 437,429 418,619 13.6 △ 4.3
階層レベル3の項目メキシコ 324,207 322,743 16.0 △ 0.5 452,032 475,216 15.4 5.1
欧州
階層レベル2の項目EU 350,264 367,626 18.2 5.0 553,098 576,314 18.7 4.2
階層レベル3の項目ドイツ 72,871 76,698 3.8 5.3 146,612 159,272 5.2 8.6
階層レベル3の項目オランダ 72,724 81,310 4.0 11.8 34,521 38,526 1.3 11.6
階層レベル3の項目フランス 45,878 43,878 2.2 △ 4.4 57,231 57,624 1.9 0.7
階層レベル3の項目アイルランド 15,947 16,781 0.8 5.2 82,595 82,334 2.7 △ 0.3
階層レベル3の項目イタリア 27,491 28,860 1.4 5.0 69,040 72,921 2.4 5.6
階層レベル3の項目ベルギー 35,773 38,818 1.9 8.5 26,607 22,826 0.7 △ 14.2
階層レベル2の項目英国 76,248 74,315 3.7 △ 2.5 63,921 64,217 2.1 0.5
階層レベル2の項目スイス 36,720 27,780 1.4 △ 24.3 59,466 52,296 1.7 △ 12.1
階層レベル2の項目ロシア 1,656 600 0.0 △ 63.8 14,437 4,571 0.1 △ 68.3
アジア
階層レベル2の項目中国 154,125 147,778 7.3 △ 4.1 536,259 426,885 13.9 △ 20.4
階層レベル2の項目日本 80,222 75,683 3.8 △ 5.7 147,999 147,238 4.8 △ 0.5
階層レベル2の項目韓国 72,089 65,056 3.2 △ 9.8 115,315 116,155 3.8 0.7
階層レベル2の項目ベトナム 11,344 9,843 0.5 △ 13.2 127,512 114,426 3.7 △ 10.3
階層レベル2の項目台湾 43,960 39,957 2.0 △ 9.1 91,719 87,767 2.8 △ 4.3
階層レベル2の項目インド 46,948 40,375 2.0 △ 14.0 85,525 83,686 2.7 △ 2.2
階層レベル2の項目タイ 15,733 15,557 0.8 △ 1.1 58,626 56,282 1.8 △ 4.0
階層レベル2の項目マレーシア 18,224 19,358 1.0 6.2 54,078 46,191 1.5 △ 14.6
階層レベル2の項目シンガポール 45,620 42,447 2.1 △ 7.0 31,600 40,924 1.3 29.5
階層レベル2の項目インドネシア 9,836 9,838 0.5 0.0 34,543 26,798 0.9 △ 22.4
階層レベル2の項目フィリピン 9,259 9,259 0.5 △ 0.0 16,155 13,266 0.4 △ 17.9
階層レベル2の項目オーストラリア 30,517 33,568 1.7 10.0 16,148 15,940 0.5 △ 1.3
中南米
階層レベル2の項目ブラジル 54,245 44,639 2.2 △ 17.7 38,909 39,066 1.3 0.4
階層レベル2の項目コロンビア 20,917 17,680 0.9 △ 15.5 18,479 16,115 0.5 △ 12.8
階層レベル2の項目チリ 22,332 18,774 0.9 △ 15.9 15,567 15,589 0.5 0.1
アフリカ 30,615 28,722 1.4 △ 6.2 41,800 38,760 1.3 △ 7.3
合計(その他含む) 2,066,454 2,018,059 100.0 △ 2.3 3,239,873 3,080,170 100.0 △ 4.9

[出所] 米国商務省統計から作成

対内・対外直接投資 
対内は前年から2割減、不動産投資信託で大型投資

2023年の米国の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー。対外投資も同様)は、前年から約2割減の2,712億ドルだった。多くの主要国・地域で減少し、欧州は3割強減少し1,542億ドル(寄与度マイナス21.8ポイント)と全体を押し下げた。英国が78億ドルの引き揚げ超過、オランダが44.0%減の248億ドル、フランスが52.4%減の114億ドルと押し下げたが、ドイツは2022年の2倍以上の517億ドルに増加した。アジア大洋州は28.4%増の465億ドル(3.1ポイント)となり、日本は40.3%増の337億ドルだった。2020年から引き揚げ超過が続く中国は、24億ドルの引き揚げ超過だった。カナダは9割増の688億ドルだった一方、中南米は91.3%減の26億ドルと全体を押し下げた(マイナス8.2ポイント)。

表4 米国の国・地域別対内直接投資 (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年 2023年末 2023年末
(UBOベース)
フロー フロー 前年比 残高 前年比 残高 前年比
欧州 227,402 154,164 △ 32.2 3,462,655 2.5 3,035,467 2.7
階層レベル2の項目英国 63,400 △ 7,824 630,551 △ 7.7 635,630 △ 4.9
階層レベル2の項目オランダ 44,314 24,827 △ 44.0 717,467 2.4 235,507 1.4
階層レベル2の項目ドイツ 23,537 51,664 119.5 472,851 14.2 657,842 7.6
階層レベル2の項目フランス 23,830 11,353 △ 52.4 243,470 △ 1.0 370,490 1.0
階層レベル2の項目スイス 17,679 12,690 △ 28.2 351,539 4.6 261,770 4.8
階層レベル2の項目スウェーデン 14,702 14,219 △ 3.3 104,853 12.3 105,645 9.3
階層レベル2の項目ルクセンブルク 14,846 12,595 △ 15.2 246,908 8.2 44,147 △ 1.3
階層レベル2の項目アイルランド △ 326 15,783 322,614 2.8 350,926 2.8
階層レベル2の項目ノルウェー 5,600 5,832 4.1 42,436 15.8 43,285 15.5
階層レベル2の項目デンマーク 5,602 5,143 △ 8.2 44,990 13.7 45,903 14.2
階層レベル2の項目ベルギー 4,117 1,986 △ 51.8 73,485 3.1 67,489 1.0
アジア大洋州 36,229 46,531 28.4 988,749 4.2 1,143,646 3.8
階層レベル2の項目日本 24,041 33,729 40.3 688,054 3.7 783,261 2.9
階層レベル2の項目オーストラリア 5,629 4,019 △ 28.6 110,908 3.9 116,820 4.0
階層レベル2の項目シンガポール 5,379 1,266 △ 76.5 37,468 0.0 58,356 3.4
階層レベル2の項目韓国 △ 791 6,667 76,689 18.0 78,202 20.0
階層レベル2の項目中国 △ 1,050 △ 2,369 28,043 △ 6.2 43,900 1.9
カナダ 36,112 68,834 90.6 671,671 16.7 749,607 12.5
中南米 29,995 2,596 △ 91.3 210,923 1.9 222,184 7.6
階層レベル2の項目メキシコ 5,010 4,910 △ 2.0 38,385 14.7 57,686 6.8
階層レベル2の項目英領カリブ海諸島 7,768 2,722 △ 65.0 99,204 0.3 30,514 6.7
階層レベル2の項目英領バミューダ諸島 12,734 2,269 △ 82.2 41,578 18.9 45,189 6.3
アフリカ △ 394 △ 552 10,053 △ 2.9 7,525 12.4
中東 6,442 △ 359 50,043 2.0 72,938 △ 5.5
合計(その他含む) 335,786 271,214 △ 19.2 5,394,095 4.4 5,394,095 4.4

〔注1〕 フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
〔注2〕英領カリブ海諸島は、英領バージン諸島、ケイマン諸島、モントセラトおよびタークス・カイコス諸島の合計値。
〔注3〕UBOベースは、投資主体を最終的に所有またはコントロールしている事業体〔最終的な実質所有者(UBO)〕が所在する国を基準とした集計値。
〔出所〕米国商務省統計から作成

業種別では、製造業が19.9%減の1,169億ドル(寄与度マイナス8.7ポイント)だった。化学(23.3%増、446億ドル)が押し上げたものの、その他製造業(66.5%減、220億ドル、注)、コンピュータ・電子機器(90.1%減、13億ドル)が押し下げた。非製造業では、不動産業が前年の落ち込みから大きく回復し207億ドルだったが、預金取扱機関を除く金融・保険業(71.3%減、83億ドル)が落ち込み、押し下げ要因となった。

M&Aでは、不動産投資信託(REIT)の大型案件があった。シンガポールの政府系ファンドであるGICと米プライベートエクイティー投資会社ブルー・アウル・キャピタル(Blue Owl Capital)傘下のオーク・ストリート(Oak Street)は2022年9月、約138億ドルでREITのストア・キャピタル(STORE Capital)を買収すると発表した(2023年2月完了)。ストアの運用専門知識を会社の成長に役立てるとしている。英国の特別買収目的会社(SPAC)のオーロラ・アクイジション(Aurora Acquisition)と米国で住宅ローンの組成および関連サービスのためのオンラインプラットフォームを運営しているベター・ホールドコ(Better HoldCo)は2021年5月に合併を発表し(約66億ドル)、2023年8月にベターホーム・アンド・ファイナンスホールディング(Better Home & Finance Holding)を設立した。住宅ローン・不動産に関連する総合サービス企業として進化するとしている。

(注)製造業から「食品」「化学」「金属原料・加工品」「一般機械」「コンピュータ・電子機器」「電気機器・電化製品・部品」「輸送機械」を除いた業種。

表5‐1 米国企業が関わるクロスボーダーM&A取引額上位5社(2023年に取引成立した案件)
対内
買収企業 国・地域 被買収企業 国・地域 被買収企業の業種 取引額 完了日
GIC、オーク・ストリート(Oak Street) シンガポール、米国 ストア・キャピタル(STORE Capital) 米国 不動産投資信託 約138億ドル 2023年2月
リッチーブラザーズ・オークショニアズ(Ritchie Bros. Auctioneers) カナダ アイ・エー・エー 米国 自動車販売 約70億ドル 2023年3月
オーロラ・アクイジション(Aurora Acquisition) 英国 ベター・ホールドコ(Better HoldCo) 米国 ソフトウエア 約66億ドル 2023年8月
武田薬品工業 日本 ニンバス・ラクシュミ(Nimbus Lakshmi) 米国 バイオテクノロジー 約60億ドル 2023年2月
アステラス製薬 日本 アイベリック・バイオ(Iveric Bio) 米国 バイオテクノロジー 約59億ドル 2023年7月
表5‐2 米国企業が関わるクロスボーダーM&A取引額上位5社(2023年に取引成立した案件)
対外
買収企業 国・地域 被買収企業 国・地域 被買収企業の業種 取引額 完了日
ニューモント(Newmont) 米国 ニュークレスト・マイニング(Newcrest Mining) オーストラリア 金属、採鉱 約197億ドル 2023年11月
デジタルブリッジグループ(DigitalBridge Group)、ブルックフィールド・アセット・マネジメント(Brookfield Asset Management) 米国、カナダ GDタワーズ(GD Towers) ドイツ 通信サービス 約175億ドル 2023年2月
ビアサット(Viasat) 米国 インマルサット(Inmarsat) 英国 通信サービス 約73億ドル 2023年5月
KKR 米国 日立物流(現ロジスティード) 日本 交通、運送、インフラ 約60億ドル 2023年3月
ダナハー(Danaher) 米国 アブカム(Abcam) 英国 医薬品 約57億ドル 2023年12月

〔注〕 ワークスペース(2024年7月3日時点)データ、各発表・報道から作成

グリーンフィールドの対米投資では、韓国企業の電気自動車(EV)関連投資が目立ち、韓国の現代自動車グループとLGエナジーソリューション(LG Energy Solution)が2023年5月、43億ドル以上投資し、ジョージア州でEV用バッテリーセルを製造する合弁会社を設立すると発表した。50%ずつ出資し、年間生産能力は30ギガワット時(GWh)、年間30万台のEV生産に対応できるとしている。また、ステランティス(Stellantis)と韓国のサムスンSDIは同年10月、32億ドルを投じ、米国で2カ所目となるEV用バッテリー工場をインディアナ州ココモに建設することを発表した。最初の工場は2025年第1四半期に生産開始を予定しており、第2工場は2027年の生産開始を見込む。

LGエナジーソリューションは2023年10月、ミシガン州で約30億ドルを投じ、トヨタ自動車専用のバッテリーセルとモジュールの生産ラインを設立する計画を発表した。2025年からの生産を見込み、北米におけるトヨタのEV成長計画を支える。

対外直接投資は2割増、通信、鉱業で大型案件

米国の2023年の対外直接投資は、前年から2割増の3,631億ドルだった。国・地域別にみると、欧州は、前年比44.0%増の1,678億ドルだった(寄与度17.0ポイント)。アイルランド(305億ドル)が2022年の引き揚げ超過から大きく回復したほか、スイス(230億ドル)が前年の3倍以上に増加し、全体を押し上げた。アジア大洋州はオーストラリア(167億ドル)が2.5倍に伸び、全体で6.3%増の835億ドルだった(1.6ポイント)。日本は17.7%増の69億ドルとなった。カナダ(188億ドル)は62.3%減と大きく落ち込んだ。中南米はバミューダ諸島(325億ドル)が前年の2倍以上に伸び、全体で43.6%増の821億ドルだった(8.3ポイント)。

業種別では、製造業が50.5%減の420億ドルと大きく落ち込み、なかでも、その他製造業、金属原料・加工品が引き揚げ超過となり、コンピュータ・電子機器(40.7%減、166億ドル)も押し下げた。非製造業では、ノンバンクの持ち株会社(1,800億ドル)、預金取扱機関を除く金融・保険業(391億ドル)が2倍以上、卸売業(270億ドル)が4倍近く伸び、全体を押し上げた。

M&Aでは、通信、鉱業での大型案件が目立った。電気通信のビアサット(Viasat)は2021年11月、衛星通信を手掛ける英国のインマルサット(Inmarsat)を約73億ドルで買収すると発表した(2023年5月完了)。これにより、世界の通信をより安価に、より安全に、より確実につなぐためのグローバル・パートナーシップを結集することができるとしている。デジタルインフラ投資大手のデジタルブリッジグループ(Digital Bridge Group)は2022年7月、カナダの資産運用大手ブルックフィールド・アセット・マネジメント(Brookfield Asset Management)と共に、ドイツテレコムの子会社GDタワーズ(GD Towers)の株式51%(175億ドル)を取得すると発表した(2023年2月完了)。欧州全域の企業や消費者の進化するネットワーク需要に対応して成長するGDタワーズをサポートする。金生産大手ニューモント(Newmont)は、2023年2月に約197億ドルでオーストラリアの同業ニュークレスト・マイ二ング(Newcrest Mining)を買収すると発表し(同年11月完了)、堅調な銅生産を確保する。計測機器・医療関連機器メーカーのダナハー(Danaher)は同年8月、英国アブカム(Abcam)を約57億ドルで買収すると発表した(同年12月完了)。ライフサイエンス業界向けのサプライヤーであるアブカムを迎えることで、創薬プロセスの加速化などを推進する。

グリーンフィールド投資では、石油大手エクソンモービル(Exxon Mobil)は2024年4月、南米のガイアナ政府の承認を得て127億ドルを投じ、同国沖のウィップテイル油田開発の最終決定を発表した。2023年1月に同国政府に開発許可を申請していたスタブローク鉱区の6番目のプロジェクトで、2027年末までに1日あたり約25万バレルの生産能力を追加するとしている。アマゾンは2023年3月、マレーシアにおけるアマゾン・ウェブ・サービスのインフラ整備のため、2037年までに60億ドルを投資する計画を発表した。インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は2023年11月、同国でエクソンモービルが最大150億ドルを投じ、石油化学プロジェクトや二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)設備建設などを手掛ける計画を発表した。同CCS設備は東南アジアで最大規模となる見通し。

表6 米国の国・地域別対外直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年 2023年末
フロー フロー 前年比 残高 前年比
欧州 116,533 167,772 44.0 3,950,153 3.9
階層レベル2の項目英国 75,287 20,573 △ 72.7 1,057,592 △ 1.1
階層レベル2の項目オランダ 60,995 37,499 △ 38.5 980,403 3.8
階層レベル2の項目ドイツ 12,500 16,157 29.3 193,179 8.2
階層レベル2の項目フランス 7,117 5,880 △ 17.4 100,909 7.5
階層レベル2の項目スイス 7,234 23,022 218.2 238,228 18.2
階層レベル2の項目スウェーデン 1,983 4,374 120.6 56,197 1.5
階層レベル2の項目ルクセンブルク △ 25,041 13,046 532,465 1.1
階層レベル2の項目ベルギー △ 822 5,185 66,529 8.4
階層レベル2の項目アイルランド △ 40,222 30,509 491,246 9.6
階層レベル2の項目ノルウェー 3,161 170 △ 94.6 15,358 0.5
階層レベル2の項目デンマーク 12 1,611 13,325.0 12,845 22.7
階層レベル2の項目イタリア 1,112 3,225 190.0 29,025 13.7
アジア大洋州 78,578 83,497 6.3 1,072,188 9.5
階層レベル2の項目日本 5,846 6,880 17.7 63,369 17.0
階層レベル2の項目オーストラリア 6,615 16,686 152.2 193,340 9.8
階層レベル2の項目シンガポール 47,690 43,602 △ 8.6 424,214 13.3
階層レベル2の項目韓国 1,891 2,589 36.9 35,642 7.7
階層レベル2の項目中国 8,207 5,131 △ 37.5 126,908 3.8
階層レベル2の項目インド 6,273 5,998 △ 4.4 49,563 7.6
カナダ 49,798 18,779 △ 62.3 451,555 4.4
中南米 57,124 82,056 43.6 1,065,761 9.6
階層レベル2の項目ブラジル 6,574 7,574 15.2 87,909 13.6
階層レベル2の項目メキシコ 15,739 10,197 △ 35.2 144,507 10.5
階層レベル2の項目英領カリブ海諸島 17,253 16,274 △ 5.7 398,939 4.9
階層レベル2の項目英領バミューダ諸島 15,227 32,485 113.3 219,608 20.4
アフリカ 1,859 7,788 318.9 56,291 15.1
中東 △ 1,731 3,251 80,530 5.8
合計(その他含む) 302,162 363,144 20.2 6,676,478 5.8

〔注1〕フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
〔注2〕英領カリブ海諸島は、英領バージン諸島、ケイマン諸島、モントセラトおよびタークス・カイコス諸島の合計値。
〔出所〕米国商務省統計から作成

通商政策 
労働者保護とサプライチェーン強靭化に重点

バイデン政権は「労働者中心の通商政策」を掲げ、自由貿易を重視する従来の通商政策からの転換を図っている。ジョー・バイデン大統領は自らを「史上最も労働組合寄りの大統領」と自負し、通商政策によって労働者の権利保護やサプライチェーンの強靭化に取り組む方針を掲げる。ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)も2023年4月に国際経済政策に関して講演し、国内産業基盤の空洞化やクリーンエネルギーへの移行といった今日の課題に対処する「現代の通商協定」を追求すると力説した。

米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表が成果として誇示するのが、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」の積極活用だ。RRMは事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。2020年7月のUSMCA発効以降、米国からメキシコに対するRRMの発動は自動車産業を中心に20件以上に上る。対象分野は2023年に入って拡大しており、衣服分野やサービス産業での発動がみられた。USTRは2023年8月、メキシコの鉱山での労働権侵害の疑いを巡って、RRMに基づく紛争解決パネルの設置を初めて要請した。パネルは2024年5月に米国側の訴えを事実上退ける裁定を下したが、USTRは裁定結果にかかわらず、今後も労働者の権利向上に取り組む意向を示している。

新規の通商協定でも労働者保護と供給網強化を重視

新規の通商協定でも、労働者保護やサプライチェーンの再構築が重点分野となっている。米国が主導し2022年5月に立ち上げたインド太平洋経済枠組み(IPEF)は、4つの柱のうちサプライチェーン協定が2023年5月に実質妥結し、同年11月の参加国による署名を経て、同年2月に日米を含む5カ国の間でまず発効した。同協定はサプライチェーンの途絶時における具体的な連携手続きを規定する初の多数国間協定だ。他国の事業所での労働権侵害事案に関する申し立て制度も設けた。IPEFのその他の柱であるクリーン経済と公正な経済は、それぞれ2023年11月の閣僚会合で実質妥結、2024年6月の閣僚会合で署名に至った一方、貿易の柱では交渉を継続する見込みだ。貿易の柱を巡っては、米国連邦議会で与党・民主党を中心にデジタル貿易分野の交渉に懐疑的な見方がある。USTRは2023年10月、電子商取引に関する貿易関連ルールを交渉するWTOの共同声明イニシアチブ(JSI)会合で、越境データフローなどの提案への支持を取り下げた。これを受け、IPEF交渉でもデジタル経済の協議を先送りすると伝えた模様だ。

2023年1月に米州11カ国と発足させた経済繁栄のための米州パートナーシップ(APEP)は、同年11月に首脳級会合を初開催し、外交、金融、貿易の3分野で協力を具体化させると決めた。貿易分野では、地域の持続可能な開発と強靭なサプライチェーン構築支援や、予測可能で透明性のある規制環境の向上、経済統合に対する障壁の撤廃を目指す。

2国・地域間では、台湾やケニアとの通商協定の交渉を進めている。21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブは、第1段階の協定が2023年6月に署名された。同協定は、税関手続きと貿易円滑化、良き規制慣行、サービスの国内規制、反腐敗、中小企業の5分野を扱う。米台は第2段階の協定に向け、農業、環境、労働の3分野を議論している。2022年7月に立ち上げた米国ケニア戦略的貿易・投資パートナーシップ(STIP)では、農業や反腐敗、零細・中小企業などの分野で2024年内の合意に向け交渉している。また、ケニアとは2024年5月の首脳会談時、商業機会の拡大を目指す新しい商業・投資パートナーシップの覚書を結ぶと発表した。

多国間・2国間連携を継続

通商協定以外の枠組みでも、多国間・2国間連携を継続・拡大している。欧州とは2024年4月に行われた米国EU貿易技術評議会(TTC)の第6回閣僚会議で、人工知能(AI)のリスク管理や半導体の安定供給に関する協力強化で一致した。米欧間では貿易紛争の回避に向けた動きもみられる。米国は2023年12月、1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税の適用除外措置として、EUからの輸入に導入している関税割当(TRQ)を2025年12月31日まで延長した。また、オーストリア、フランス、イタリア、スペイン、英国とのデジタル課税問題に関する合意を2024年6月30日まで延長した。この期間、米国はこれら5カ国のデジタル課税に対し、1974年通商法301条に基づく追加関税などの対抗措置を控える。一方、米国とEUが世界の鉄鋼・アルミニウムを巡る炭素排出と過剰生産問題に対処するため、2021年10月から交渉を続けてきた「鉄鋼・アルミニウム・グローバルアレンジメント」はいまだ合意に至っていない。米国のIRAに基づくクリーンビークル税額控除の適用を念頭に、2023年3月に交渉入りを決めた重要鉱物協定も議論が難航している模様だ。

バイデン大統領は2023年8月、米国大統領別荘キャンプ・デービッドで、岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談した。3カ国は重要・新興技術協力やサプライチェーンの強靭化を含む経済安全保障分野などでの連携強化についても意見交換した。共同声明では、グローバルサプライチェーンの混乱や他国による経済的威圧に対処するため、早期警戒システムの試験運用開始に向けて緊密に連携すると言及した。2024年4月には、日本、フィリピンとの3カ国首脳会談を初開催し、情報通信基盤の整備や半導体分野の労働力開発を含む重要・新興技術分野の連携などを盛り込んだ共同ビジョン声明を発表した。

日本との間では、2023年11月に日米経済政策協議委員会(経済版2プラス2)の第2回閣僚会合を実施し、半導体、AI、量子、クリーンエネルギーなどの技術分野の協力を加速させることで一致した。2024年4月に開いた日米首脳会談の共同声明でも、日米が相互に最大の対内直接投資国と指摘した上で、両国によるスタートアップ分野での投資加速や、重要・新興技術分野での両国のグローバルリーダーとしての役割強化などを盛り込んだ。日米は同年2月、「サプライチェーンにおける人権及び国際労働基準の促進に関するタスクフォース」の第1回会合を開催し、人権分野での議論も深めている。

半導体など重要産業で国内投資に注力

バイデン政権は同盟・パートナー国間でサプライチェーンを構築する「フレンドショアリング」を推進する一方、重要産業での国内投資にも注力している。サリバン大統領補佐官は、米国の産業戦略について「経済成長の基盤であり、国家安全保障の観点から戦略的で、民間企業だけでは国家目標を果たすのに必要な投資を行う体制が整っていない分野」に的を絞った公共投資を行う必要があると説く。投資計画を支えるのが、バイデン政権下で成立したIIJA、CHIPSプラス法、IRAの3法だ。政権は、IIJAと IRAが米国で太陽光発電、風力発電、蓄電池などへの投資ブームを引き起したとし、再生可能エネルギーの導入拡大や電気自動車(EV)へのアクセス改善などの成果を強調している。

半導体の製造や研究開発などへの資金援助を行うCHIPSプラス法に関しては、2024年8月までに18社に対する助成を発表した。これまでにインテルに最大85億ドル、半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)に最大66億ドルの助成などを決定している。ジーナ・レモンド商務長官は2030年までに稼働を開始するプロジェクトを優先させ、同年までに世界の先端ロジック半導体の約20%を米国内で生産するとの目標を掲げる。

米国にとってサプライチェーンの中国への依存軽減は重要課題となっている。そのため、IRA やCHIPSプラス法に基づく企業支援には、中国からの調達や同国への投資に関する制限を設けた。CHIPSプラス法は助成対象企業に対し、中国を含む懸念国での半導体製造関連の実質的な拡張投資を10年間制限する条項などを含み、米国商務省が2023年9月に最終規則を公示した。IRAでは、EVなどの購入者に対する税額控除で中国などの「懸念される外国の事業体(FEOC)」が関与するバッテリー材や部品を含む車両を段階的に対象外とする。米国財務省とエネルギー省は2024年5月、税額控除とFEOCに関する最終規則とガイダンスをそれぞれ発表した。

対中輸出規制の厳格化続く

中国との技術競争を念頭に置いた経済安全保障分野の措置は厳格化の一途をたどっている。バイデン政権は「小さな庭と高いフェンス(a small yard and high fence)」の方針に基づいて、対象を絞って厳しい措置を講じると明確にしている。それが顕著に表れているのが、中国に対する半導体の輸出規制だ。米国商務省産業安全保障局(BIS)は2023年10月、1年前に導入した輸出管理規則(EAR)の改定を発表し、管理対象とする半導体製造装置の種類拡大や中国以外の特定国への輸出許可申請の義務化など、規則の内容を強化した。米国商務省高官は、輸出管理で「半導体ほど優先順位の高い技術はない」と指摘し、米国の先端半導体が中国の軍事力の現代化などに使われないよう厳しく管理する姿勢を示す。

輸出管理では「エンティティ・リスト(EL)」の活用も続いている。ELには米国政府が「米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する行為に携わっている、またはその恐れがある」と判断した企業が掲載される。BISは2024年5月、軍事活動につながる量子技術向上のために米国製品を調達したなどとして、中国に拠点を置く37の事業体をELに追加した。米国商務省によると、バイデン政権下でELに追加された中国の事業体は355以上に上り、過去のどの政権よりも多いという。

輸出管理違反の取り締まりにも力を入れている。BISと米国司法省は2023年2月、省庁横断の専門組織として「破壊的技術ストライクフォース」を設立し、輸出管理の執行体制を強化した。同組織は全米15都市圏で活動し、輸出管理違反の捜査・訴追やインテリジェンスの共有などに取り組む。実際、同年5月には米国企業の機微技術を不正に入手した疑いなどで5件の刑事訴追を行った。また、BISは同年4月、EARに違反して中国の華為技術(Huawei)向けに製品を輸出したとして、米国企業のシーゲイト・テクノロジー(Seagate Technology)に3億ドルの罰金を科すと発表した。競合企業が規則を順守する中で違反を続けたことを重く受け止め、個別案件としては過去最高の罰金額を科した。

輸出管理を巡って、バイデン政権は懸念国への規制を強める一方、同盟・パートナー国との連携を深めている。2023年6月には、機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」に加盟するオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国との間で、輸出管理の執行に関する正式な協力関係を結んだ。2024年4月には、ベストプラクティスの共有などを行う「破壊的技術保護ネットワーク」を日本と韓国で立ち上げた。他方、中国とはレモンド商務長官が2023年8月に訪中した際、輸出管理の執行に関する情報交換を行う枠組みの設置で合意したが、同長官は「国家安全保障の問題では交渉しない」との立場を強調している。

対中投資の規制へ大統領令発令

投資規制の面では、バイデン大統領が2023年8月、米国から懸念国への対外投資を制限する大統領令を発令し、米国財務省が具体的な規則案を策定中だ。新たな規制は、米国企業などによる中国の個人・事業体との取引のうち、国家安全保障に特に深刻な脅威をもたらすものを禁止する。そのほかの取引には届け出を義務付ける。対象分野は、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、AIで、対象取引としてはM&Aやベンチャーキャピタル(VC)投資のほか、グリーンフィールド投資や合弁事業が含まれる見通しだ。これまでオープンな投資の流れを重視し、企業による国外での活動をほとんど制限してこなかった米国政府にとって、新規制は政策の大きな転換となる。

対内投資規制に関しては、米国財務省が2024年4月、外国企業の対米投資に伴う国家安全保障リスクを審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の執行権限を強化する規則案を発表した。CFIUSに通知されていない取引について取引当事者に提出を求めることができる情報の種類を拡大したり、命令などに違反した場合に科され得る民事罰の最高額を大幅に引き上げたりする内容だ。また、バイデン大統領は同年5月、CFIUSの勧告を受け、マインワン・クラウド・コンピューティング・インベストメント(MineOne Cloud Computing Investment)による米軍施設近隣の不動産購入を禁止する行政命令を発表した。同社が2022年6月に暗号通貨のマイニング作業用に購入した施設にある特殊な設備が、国家安全保障上の深刻な懸念を引き起こしたと説明している。同社は英領バージン諸島などに複数の拠点を有しているが、実際には中国人が過半を所有する企業とされる。CFIUSの勧告に基づく大統領による取引禁止措置命令は、バイデン政権では初となる。

対中追加関税の見直しが完了

バイデン政権は、中国の非市場経済的な慣行は縮小するどころか拡大しているとの認識を示し、さまざまな対抗措置を講じてきた。その一環として、トランプ前政権が発動した1974年通商法301条に基づく対中追加関税(301条関税)を維持し、2024年5月に1年半以上にわたる見直し作業の結果、半導体やEV、太陽電池などの戦略分野で関税率を引き上げると発表した。中国が市場で支配的な地位を狙うとともに米国が大規模に投資を行う産業分野で関税率の引き上げが必要と判断した。2024~2026年にかけて品目ごとに順次引き上げる予定だ。既存の301条関税の見直しとは別に、USTRは2024年4月、国内労働組合からの請願を受け、中国の海事・物流・造船分野での政策などに対して、301条に基づく調査を開始している。

UFLPAに基づく執行を強化

輸入規制では、中国の新疆ウイグル自治区が関与する製品の米国への輸入を原則禁止するウイグル強制労働防止法(UFLPA)は2022年6月の施行から2年が経過した。米国税関・国境警備局(CBP)による輸入差し止めは、当初の優先分野以外にも広がっている。CBP公開の統計によると、エレクトロニクス、アパレル・履物・繊維、工業・製造材料、農産物・調製品、卑金属、消費財・汎用品、医薬品・健康・化学製品、機械、自動車・航空宇宙の順に、差し止め事例が多い。米国国土安全保障省は2024年7月、優先執行分野にアルミニウム、ポリ塩化ビニル、水産品の3分野を追加した。UFLPAに基づいて輸入禁止対象となる事業者は同年8月時点で73社・団体と、施行時の20社・団体から3倍以上に増えた。バイデン政権は今後も対象事業者のリストを拡大すると表明している。

対日関係 
輸出入とも減少、輸出は鉱物性燃料が押し下げ

2023年の対日貿易は、輸出が前年比5.7%減の757億ドル、輸入が0.5%減の1,472億ドルと、いずれも減少した。対日貿易赤字額は5.6%増の716億ドルだった。輸出では、最大の輸出品目である鉱物性燃料(構成比15.6%、118億ドル)が9.6%減少したほか、穀物(4.3%、32億ドル)が24.4%減、宝石・貴金属(2.8%、22億ドル)が31.8%減と押し下げ要因となった。一方、航空機・同部品(6.6%、50億ドル)では民間航空機・エンジン・部品が伸び、36.4%増加した。輸入では、一般機械(23.8%、351億ドル)が半導体製造装置などの減少により6.6%減り、電気機器(12.9%、190億ドル)も4.6%減と押し下げに寄与した。最大の輸入品目である自動車・同部品等(33.6%、495億ドル)は乗用車が牽引し13.4%増となった。

表7 米国の対日主要品目別輸出入〈通関ベース〉(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 HSコード 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Custom value:課税価格)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
食肉 02 3,597 3,113 4.1 △ 13.5 71 73 0.0 3.2
穀物 10 4,265 3,225 4.3 △ 24.4 9 13 0.0 49.6
鉱物性燃料 27 13,050 11,798 15.6 △ 9.6 1,230 698 0.5 △ 43.2
有機化学品 29 3,383 3,204 4.2 △ 5.3 1,943 1,425 1.0 △ 26.6
医薬品 30 6,533 6,302 8.3 △ 3.5 6,977 6,587 4.5 △ 5.6
各種の化学工業製品 38 2,128 2,035 2.7 △ 4.4 3,645 3,608 2.5 △ 1.0
プラスチック製品 39 1,975 1,784 2.4 △ 9.7 2,709 2,316 1.6 △ 14.5
ゴム・その製品 40 298 231 0.3 △ 22.6 2,681 2,597 1.8 △ 3.1
宝石・貴金属 71 3,152 2,150 2.8 △ 31.8 766 505 0.3 △ 34.1
鉄鋼製品 73 420 409 0.5 △ 2.7 1,769 1,894 1.3 7.1
一般機械 84 6,432 6,341 8.4 △ 1.4 37,595 35,111 23.8 △ 6.6
電気機器 85 4,668 4,399 5.8 △ 5.8 19,900 18,993 12.9 △ 4.6
自動車・同部品等 87 1,410 1,719 2.3 21.9 43,693 49,545 33.6 13.4
航空機・同部品 88 3,640 4,966 6.6 36.4 1,133 1,548 1.1 36.6
光学機器・医療機器 90 7,158 7,328 9.7 2.4 7,326 6,839 4.6 △ 6.6
合計(その他含む) 80,222 75,683 100.0 △ 5.7 147,999 147,238 100.0 △ 0.5

〔出所〕 米国商務省統計から作成

米国南部で日本企業の投資目立つ

2023年の日本の対米直接投資は、前年比40.3%増の337億ドルだった。M&A案件では、医薬品関連の大型案件があった。武田薬品工業は同年2月、自己免疫疾患の治療薬を開発するため、創薬企業のニンバス・セラピューティクス(Nimbus Therapeutics)子会社のニンバス・ラクシュミ(Nimbus Lakshmi)を約40億ドルで買収し、完全子会社化した。開発された製品の売上高に応じて、最大20億ドルを追加で支払うとしている。アステラス製薬は同年7月、在米子会社を通じてバイオ医薬品企業のアイベリック・バイオ(Iveric Bio)を約59億ドルで買収した。同社が開発する眼科領域の新規治療薬を製品ポートフォリオに加え、将来の収益源とすることを狙う。

グリーンフィールド投資では、南部での投資が目立った。トヨタ自動車の北米統括会社トヨタ・モーター・ノース・アメリカ(Toyota Motor North America)は2023年10月、ノースカロライナ州の電気自動車(EV)用バッテリー工場に80億ドルを追加投資し、新たに8本の生産ラインを順次立ち上げると発表した。東レは同年7月、米国子会社の東レ・コンポジット・マテリアルズ・アメリカ(Toray Composite Materials America)のサウスカロライナ州の生産設備を増強すると発表した。燃料電池車などへの採用が拡大している圧縮天然ガスタンクや、水素タンク向けのレギュラートウ炭素繊維の安定供給を図る。ヤクルト本社は同月、米国子会社のアメリカヤクルトの2カ所目の工場用地取得に向けた覚書をジョージア州バートウ郡などと締結した。

なお、日本の対米直接投資残高は2023年末に前年比2.9%増の7,833億ドルと、5年連続で国・地域別首位となっている。

ジェトロが在米日系企業を対象に2023年9月に実施したアンケート調査(回答企業数:724社)では、2023年の景況感を示すDI(改善-悪化)は10.5と、前年(17.5)から低下した。自動車販売台数増加などにより自動車等部品で大幅に改善した一方、物流費の落ち着きなどの影響を受けた運輸業や、在庫圧縮などで需要が落ち込んだ電気・電子機器部品などで悪化した。今後1~2年に事業を拡大する企業の割合は49.9%と、3年連続で増加した。事業拡大の理由は「現地市場ニーズの拡大」が最多だった。

米国の対日直接投資は前年比17.7%増の69億ドルだった。M&A案件では、投資会社KKRによる日立物流(現ロジスティード)の買収(2023年3月)などがあった。グリーンフィールド投資では、メモリー半導体大手のマイクロン・テクノロジー(Micron Technology)が同年5月、広島県の生産拠点に極端紫外線(EUV)技術を導入し、次世代DRAMを製造すると発表した。今後数年で最大5,000億円を投資するとしている。経済産業省は同年10月、同社の広島工場での開発・生産計画に対し、最大1,920億円を助成すると公表した。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 5.8 1.9 2.5
1人当たりGDP (米ドル) 7万996 7万7,192 8万1,632
消費者物価上昇率 (%) 4.7 8.0 4.1
失業率 (%) 5.3 3.6 3.6
貿易収支 (100万米ドル) △ 1,083,190 △ 1,179,941 △ 1,063,288
経常収支 (100万米ドル) △ 867,980 △ 1,012,098 △ 905,376
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 240,197 232,717 234,111
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 53,775,458 47,704,194 54,252,801
為替レート (1米ドルにつき、対円、期中平均) 109.75 131.50 140.49


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):米国商務省
消費者物価上昇率、失業率:米国労働省
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF