多様化する米国の食事情 ‐ 各メディアが趣向を凝らした食情報を発信
2010年10月
分野:食品・農林水産物
近年、米国の食のグローバル化が急速に進んでいる。日本食ほかアジア系レストランの浸透度、多様化する販売形態等を、メディアがどのように取り上げているかを報告する。
2011年版「Zagat Los Angles」 が発行される
ロサンゼルスを含む南カリフォルニアに点在する2,016店のレストラン調査結果が2011年版「Zagat Los Angeles」として「Zagat」社より2010年9月に発表された。今回の調査に参加した一般調査員の数は約1万人に上る。Zagatは1979年に一般市民によるレストランの調査、格付け会社として米国でスタートした。現在では、37万5,000人以上の一般市民がレストランのみならず、ホテル、ナイトスポット、その他レジャー関係の調査を世界100カ国以上で行っている。レストラン調査に関しては、「料理」、「内装」、「サ−ビス」の項目に分けて結果を集計し、まとめたものが毎年秋に翌年版「Zagat」として出版される。
2011年のロサンゼルス版の料理部門で30点満点中29点という高ポイントで第1位に選ばれたレストランは、「Sushi Zo」というすし店である。カリフォルニアロールといったアメリカで生まれた巻物は一切なく、旬の魚を「ねた」に、伝統的な日本のすしを「おまかせ」のみで提供しており、かなり高価である。不況下で客単価の高い高級レストランの客足が減っているにもかかわらず、本物志向の日本食が多くの顧客の支持を得、第1位に輝いた。
今回の調査に参加した約1万人の一般調査員の報告からみる消費者動向は、以下のように報告されている。
- 依然外食を控えている・・・・40%
- 値段を重視している・・・・44%
- 割安な店で食事を取っている・・・・41%
- 前菜あるいはデザートをオーダーしない・・・・23%
- アルコールのオーダーを減らしている・・・・16%
- 新しい店に出かけることをしない・・・・12%
- サービスを重視している・・・・63%(前年より11%減少)
景気後退が落ち着きをみせたとはいえ、消費者の財布のひもは固く、2011年版の調査結果もほぼ前年同様で飲食業界の景気は冷え込んだままだといえる。
1987年のロサンゼルスでの調査開始以降初めて1回当たりの外食にかける費用が34.95ドルから34.85ドルに減少した点も見逃せない。成長を続けてきた外食産業に、2008年の経済危機は未曾有の打撃を与えた。人員削減、仕入れ価格の見直し、原価率をいかに抑えるかといった経費削減、また顧客のニーズを満たすための新しいメニューの開発、キッズフリー(子供は無料で食べられる)、ハッピーアワーの導入(一般的に顧客が少ない時間に、手頃な価格の特別なサービスメニューおよびドリンクを提供する)など、さまざまな工夫にも関わらず、いまだに厳しい状況が続いているようだ。
ストリートフード人気の定着化
「Zagat」調査でも、フードトラック(※1)の人気に触れているが、2008年にKogi Korean BBQがオープンして以来、ヒスパニック系労働者を主な顧客としていたフードトラックのイメージが一新された。それまでは、移動式屋台の料理といったイメージだったものが、おしゃれでポップなストリートフードとしてロサンゼルスではすっかり定番となっている。最近では、フードトラックは集客目的で各種イベントにも借り出され、ケータリングをすることも多い。
フードトラックの増加は、既存のレストランにとっては手ごわい競争相手になっている一方、最近ではTex Mex(※2)で有名なBorder Grillといったレストランもフードトラックの運営に乗り出すなど、新しい店を開く代わりにフードトラックビジネスに参入している。
また人気テレビ番組「BravoTV」が放送する料理ショーで紹介されたセレブシェフの一人Ludo Lefebvreが運営するフードトラック、また雑誌「Los Angeles」でも取り挙げられたベトナム料理のフードトラック「Phamish」など、話題性の高いフードトラックもあり、消費者にとっては目の離せないグルメフードトラックが数多く存在する。すし、たこ焼きなどを提供しているフードトラックもある。「Yatta−! Truck」では、日本人シェフが牛肉とピクルスをご飯と海藻で巻いて揚げたすしロールを販売している。
またカップケーキ、フローズンヨーグルトといったデザートを提供するものもあり、フードトラックが提供する食は若者をはじめ多くの顧客に支えられ、大きな食文化を形成し始めているようである。
「Zagat」は、人気の約60フードトラックの情報を、ツイッターを通じても提供している。ロサンゼルスから始まったフードトラックビジネスは、今ではニューヨーク、サンフランシスコをはじめ全米に広がる勢いをみせ話題を集めている。しかしながら、今後競争はますます激化すると思われ、ゆくゆく淘汰が始まる可能性があると予想される。
※1, フードトラックとは、大型のバンにキッチンを併設し、料理を売る、移動式屋台、レストラン。
※2, Tex Mex料理とは、メキシコの国境にあるテキサス州で発展したメキシコ風のアメリカ料理。
(フードトラックの例)
携帯電話による食情報検索の増加
「Zagat」の調査参加者のうち24%が食の情報を発信するサイトをスマートフォンにダウンロードしていると回答している。
レストラン検索サイトとしては Yelp 、 OpenTable
、フードトラックの所在地を確認するサイトとしては、Twitter,、Facebook、 Trucxmap
、 Mobile Cravings
などがポピュラーである。
また、 Groupon といったサイトでは、販売時間限定、あるいは人数限定といった形で特別価格ギフトカードのようなものを販売しており、ニーズに合えばレストランで使用できる非常に安価なギフトカードを購入することも可能である。
このようなソーシャルネットワークは、スマートフォンの使用者が増えるにつけますます身近なツールとなり、移動中でも簡単に情報を得られることから多くの人々が外食をする際に利用しているようだ。
レストランの最近の傾向
「Zagat」の調査によれば、2009年から引き続き、多くの人々が「地元産」、「オーガニック」、「持続可能性」といったことがメニューにあることが重要と考えていると報告されている。
また、調査に参加した70%の人々は低炭水化物、低脂肪、心臓病予防に良いとされるものを望んでおり、57%の人々はベジタリアン志向を示している。
2010年、新規にオープンしたレストランの中には、今まであまり提供されることがなかった、珍しい肉の部位(例えばタンなど)を提供したり、「Nose to Tail 鼻から尻尾まで」といったコンセプトで肉を1頭分買い、あらゆる部位を無駄なく使いこなすという新手の手法を取り入れたレストランもある。
また中間業者を通すことなく、農家から直接材料を仕入れることにより、作り手の顔がみえる新鮮な食材を調達するレストランも出てきている。
ロサンゼルス界隈で定期的に開催されるファーマーズマーケットでは、新鮮かつ有機農法で栽培された農作物を求めてレストランのシェフ自ら買出しに来る光景もよく目にする。メニューにもファーマーズマーケットで仕入れた野菜であることを記載するなどし、地元産の食材を使用することによるフードマイレージ(食料の輸送に伴い排出される二酸化炭素)の減少、環境への配慮、鮮度の良さなどについて、メニューを通して顧客に伝えているようだ。
セレブリティーシェフの活躍
ケーブルテレビで放送されているフード専門番組の影響により、シェフ達が料理の世界の表舞台に登場する機会が増え、彼らの経営するレストラン、あるいはプロデュースするキッチン用品などが人気を集めている。特にロサンゼルス界隈では、テレビ、雑誌で露出度の高いセレブリティーシェフと呼ばれる料理人達が2010年も新しい店をオープンさせており、このような店にはセレブと呼ばれる映画関係者やテレビ俳優も訪れる可能性が高い。今回「Zagat」の調査参加者の39%も、好んでセレブリティーシェフの店で食事をしたいと回答している。セレブリティーシェフの活躍は、低迷するレストラン業界にとっては、話題作りといった意味でも貢献度が高いのではないだろうか。
世界の食が交錯するロサンゼルス
アジア系移民が多く住むロサンゼルス界隈には、いくつもの民族がコミュニティーを形成しており、どのコミュニティーにもそれぞれの国や民族独自の食べ物を提供するレストランが軒を連ねている。
最近はこういった民族色の強いレストランがテレビの料理番組で紹介されるケースが増えている。先ごろもケーブルテレビの「Food Channel」で「Asian Inspired Foods」と称し、韓国料理のビビンバ、ベトナム料理のフォー、タイ料理のグリーンカレー、日本にも店を構える点心料理「ディンタイフォン」の小龍包が紹介され、アメリカ人シェフ2名がこれらの作り方を各レストランのシェフから習い、その後彼らが作った料理の優劣を各レストランの店主が審判するという番組が放送されていた。
ロサンゼルス近郊では、韓国料理、ベトナム料理、タイ料理、飲茶などは既に良く知られた料理となっているが、「Food Channel」は全米で放送されるため、今後アジア系料理になじみの薄い地域の人々にも大きな影響を及ぼすと考えられる。
米国においては、食のグローバル化が非常に早く進んでいるようだ。特に多くのアメリカ人シェフは食材の扱い方法、盛り付け法、料理に季節感を取り入れるといったことを既に日本料理から学んでおり、日本料理が米国の料理界に及ぼした影響は多大であろう。アメリカ人シェフは常に新しい食材やアイデアを求めており、その目が今、日本以外のアジアにも向き始めていると考えられる。
特にアジア系の食品はそれぞれ特徴のあるスパイスを多く使用し、複雑で変化に富んだ味を生み出すことが可能であるため、今後ますます多用されていくに違いない。
底堅いスペシャリティーフード需要
調査会社「Packaged Facts」によれば、景気後退以前(2007年)は二ケタ台の成長をしていたスペシャリティーフード(※3)の売り上げがスローダウンはしたものの、2009年は前年比で4%上昇し、670億ドルを計上したと報告している。消費者の財布のひもは固いが、ほかの消費を抑えてでも多少のスペシャリティーフードを購入していると述べている。
また、2010年5月に行った米国在住の成人1,881人を対象とした調査の結果、アメリカ人の5人に1人が買い物の際にスペシャリティーフードを探しているとしており、30%の人々はスペシャリティーフードに対し、より多くの金額を支払うことはいとわないとしている。
2007年には、3,454品目のスペシャリティーフードの新商品が市場に登場。2008年の景気後退による落ち込みがあったものの、2009年は2,211品目が新たに登場した。2010年上半期は942品目だが、2010年末までにはおそらく1,800品目が市場に紹介され、今後もこのマーケットは年率5%の伸びを示すであろうと予想している。
※3, スペシャリティーフードとは、海外から輸入された熟成チーズや、自家農園で生産されたオーガニックオリーブオイルなどの、付加価値の高い商品を指す。
スペシャリティーフードとしての「お茶」
隔月発行の雑誌「Organic Products Retailer」2010年10、11月版の記事の中では、オーガニックあるいは特別な商品として発売されている「お茶」(緑茶のみならず、発酵茶、フレーバーティーなどを含む)が、健康志向の強いベビーブーマー世代(※4)に支えられ大きく市場を伸ばしてきたが、最近では、Millennialと呼ばれる18歳から34歳の若い世代にも受け入れられるようになってきたと報じている。
この世代は、収入の多くを消費に回すことが可能であるため、割高な食品の購入にも積極的なのであろう。この世代をターゲットとした商品開発がすでに始まっており、コカ・コーラ社から販売されているRed Tea Pomegranate Passion Fruitはその代表的なものである。こういったスペシャル・ティーを飲用する世代は低年齢化しているといわれており、15、16歳の世代でもChai Teaといったスパイスをブレンドしたお茶をオーダーする傾向があるそうだ。
コーヒーの価格上昇、お茶の健康効果の認知度の向上、フルーツフレーバーのお茶、スパイスを加えたお茶など、バラエティーに富んだ商品ラインナップなどが、スペシャリティーフードとしてのお茶の需要を上昇させていると考えられる。
一昔前までは、飲料といえば甘い炭酸飲料が主流であった米国だが、「Beverage Marketing」 社が2010年初頭に発表したレポートによれば、缶やペットボトル入りの飲料では、お茶、エナジードリンクの2種類だけが市場において伸びを示しているとしている。
マーケットには、新しい商品が毎年投入される。サンフランシスコで毎年開催されるFancy Food Show ではお茶関係の出展が非常に多く、またラスベガスではお茶だけをテーマにWorld Tea Expoが毎年開催されている。
景気回復にはまだ時間がかかり、国民の消費行動もまだ経済危機以前のような回復基調にはなっていないが、ターゲットを定めて付加価値のある商品を開発し、市場に投入していくことが重要ではないかと考えられる。
※4, ベビーブーマー世代とは、第二次世界大戦終了後誕生した、1946年から1959年生まれの現在52歳から65歳くらいの人々を指す。
(ロサンゼルス・センター)