外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用
最終更新日:2024年12月11日
- 最近の制度変更
-
-
2025年2月4日
-
2025年1月17日
-
2024年8月13日
-
2024年5月27日
-
外国人就業規制
新労働法(2005年9月閣議承認)では、一部の業種・職種への就職については、サウジアラビア人に限定されている。
民間警備事業、不動産事務所、物資輸送、野菜・果物小売業などでは、外国人労働者の就労が禁止されている。また、業種によって規制内容は異なるが、主に採用担当者、受付係、政府担当職員、出納係、警備職、ホテル産業の特定の役職(2019年8月1日付ジェトロの記事「2019年12月からホテル業界にサウダイゼーションを義務化」を参照)などについては、サウジアラビア人以外を雇用することはできない。
本規定に違反する企業には、次のような罰則が適用される。
- 雇用申請が受理されない。
- 政府への入札資格のはく奪。
- 融資など、政府による優遇措置の対象から外される。
なお、サウジアラビア人に限定される職種の幅が順次拡大されている。
在留許可
外国人は、就労ビザを取得する必要がある。人材・社会開発省が、就労ビザの審査およびビザの種類の決定を管轄する。
ただし、2019年5月、議会に相当する諮問評議会は、科学的、専門的な高度知識・技術を有する、あるいはファンドオーナー等、一定の条件を満たした外国人に対しては、サウジアラビア人のスポンサーが不要となるいわゆる「グリーンカード」の発行を承認した。
外国人がサウジアラビアに赴任する場合、渡航前に就労ビザを取得し、赴任後に現地で滞在許可証(イカーマ)を取得する。
外国人のサウジアラビアへの就業に際しては、「スポンサー制度」に留意する必要がある。
政府内では駐在員(外国人)に対する「スポンサー制度」の改革が進められている。人材・社会開発省によると、2021年3月14日以降、民間部門の外国人は、雇用契約終了時にスポンサー(雇用主)の許可なしの転職が可能になると共に、スポンサー(雇用主)の許可なしに出国・再入国ビザの取得が可能となった(2020年11月4日付人材・社会発展省 "Ministry of Human Resources and Social Development Launches Labor Reforms for Private Sector Workers"の発表内容を参照)。
また、2022年9月2日より、外国人労働者は未払いのイカーマ手数料を支払うことなくスポンサーシップを変更することが可能となり、新雇用主は未払いのイカーマ手数料やイカーマ更新の遅れに対する罰金などの手数料を負担する必要がなくなった。
サウジアラビア版の「グリーンカード」は、2016年の「ビジョン2030」発表時に言及され、2019年5月に諮問評議会で承認され同年6月から導入された。グリーンカードはSAPRCの公式ウェブサイトを通じてオンラインでの申請が可能となっている。対象者は、科学分野等で高度な知識や技術を有する者や研究者、文化・芸術・スポーツの分野国際的に優れた業績を残した者、投資活動を行う者、不動産所有者等、一定の条件を満たした外国人となっている。
グリーンカードを取得することでサウジアラビア国籍が与えられるわけではないが、土地の所有、外国人の雇用、家族帯同などが認められている。グリーンカードは無期限と有期限(1年以上5年以下)の2種あり、無期限は80万リヤルを一括払いで永住権を取得することができる。有期限は10万リヤルを毎年(更新時)に支払うことで居住権を取得することができる。
詳細はSAPRCの公式ウェブサイトを参照。
現地人の雇用義務
サウジアラビア政府は、増加する若年層の雇用対策として、「サウダイゼーション」と呼ばれる、一連のサウジアラビア人雇用義務の強化政策を実施している。
2011年6月には、人材・社会開発省が、サウジアラビア人雇用比率の低い企業にペナルティーを科すルール「ニタカート・プログラム」を発表した。
すべての企業(地場・外資、企業規模を問わず)は、サウジアラビア人雇用義務基準「ニタカート・プログラム」に従う必要がある。
同プログラムでは、各企業が業種と企業規模に応じたサウジアラビア人の雇用割合(%)によって5段階で評価され、その評価に基づいて、企業にインセンティブやペナルティーが付与されるというもの。新規査証の発給不可、既存の外国人労働者の労働許可更新不可などのペナルティーは企業活動に影響を与えるため、サウジアラビア国内の企業は、ニタカート・プログラムを順守し、可能な限りペナルティーのない高位に評価される必要がある。
なお、サウジアラビア人の雇用促進を目的として設立された人材開発基金(HRDF)は、職業訓練や訓練済みの新入社員の給与・諸手当などを一定期間補助している。
新労働法(2024年8月改正発表)
労働法ではかつて、外国企業における全従業員の75%以上をサウジアラビア人とするよう義務付けていたが、現在、企業が順守すべき雇用基準は「ニタカート・プログラム」で、業種ごとに5段階で示されている。
また、次の業種については、サウジアラビア人しか雇用できないとされている。
軍服の縫製、警備員、女性向け写真店、女性教育および学生の送迎、小規模青果店、羊市場、陸上輸送、カギ複製店、中古家具店、衛星放送機器設置、コピー店、携帯電話販売店等。
サウダイゼーションは医療、通信・情報技術、観光、弁護・法律コンサルタント、教育、保険、歯科・製薬専門職など、サービス部門を主な対象として進められている。
2018年11月以降、特定の小売り分野12業種でも、サウジアラビア人の雇用70%が義務付けられ、2019年12月には、ホテル産業の特定のポストがサウジアラビア人に限定された(※新労働法ではなく、2019年7月26日付人材・社会開発省省令による改正)。その後、2020年8月以降、特定の小売り分野でのサウジアラビア人雇用率を70%に引き上げることが新たに9業種にて始まった。
参考
ジェトロの記事:2018年9月13日付「小売り12業種で段階的にサウジ人雇用政策導入」
ジェトロの記事:2019年8月1日付「2019年12月からホテル業界にサウダイゼーションを義務化」
ジェトロの記事:2020年8月19日付「小売り9業種でサウジ人の雇用義務比率を7割に引き上げ」
従来、限定されていた女性の職業についても「女性に適切だと思われる業種であれば自由」(149条)とされ、産休や忌引も認められるようになった。ただし、女性を雇う場合には、原則として男女が同じスペースで働くことがないような配慮が必要な場合もある。
また、2011年6月の国王命令(女性の就業機会促進)により、下着売場(2012年1月より)および化粧品売場(2012年7月より)においては、女性販売員の雇用が義務化された。ショッピングモール内のアバヤ(サウジ人女性が着用する民族衣装)および衣料販売店では、女性販売員の雇用が義務化されている。
また、人材・社会開発省(MHRSD)は2022年11月、第1段階として2023年4月6日より、サウジアラビア国内のコンサルタント業務に従事するコンサルタントやスペシャリストなどの専門職にサウジアラビア人比率を35%とすることを発表した。第2段階は2024年3月24日から40%で実施予定となっている。
ジェトロ:調査レポート「サウジアラビアの主な労働法制度(2022年3月)」
2024年8月に発表された改正内容には、有給休暇制度の拡大や雇用主に対する労働者の技能・熟練度向上のための研修・資格取得支援の提供方針策定義務などが含まれている。
主な改正ポイントについては、ジェトロの記事2024年8月13日付「労働法を改正、雇用機会拡大のため労働環境を改善」を参照。
ニタカート・プログラム(2011年6月発表、2021年5月改正発表)
2011年6月、人材・社会開発省は「ニタカート・プログラム」と称する新たなサウジアラビア人雇用基準を発表した。若年層の雇用対策が喫緊の課題であることを踏まえ、サウジアラビア国内のすべての企業は、地場企業、外国企業を問わず、この雇用基準を順守する必要がある。
2021年5月、同プログラムへの改正が発表された。主な改正点は、[1]業種の区分の簡素化、[2]今後3年間(2024年まで)のサウダイゼーション計画の発表による規制の安定化、[3]固定された従業員数による分類を廃止し、業種区分の経済活動による固定値を採用した従業員数に基づく計算方法の導入の3点である。
雇用状況の評価
- ニタカート・プログラムにおいて、各企業は人材・社会開発省の定めた業種区分に従い、サウジアラビア人の雇用割合(%)により評価される。
企業は割合別に、[1]プラチナ、[2]緑(高)、[3]緑(中)、[4]緑(低)、[5]赤の5段階に分類される。カラーのステータスは、業種・規模・サウジアラビア人従業員の割合で割り当てられる。割り当て分類は、サウジアラビア人従業員の割合と、会社の従業員の総数に基づく。
「Procedural Guideline Nitaqat Mutawar Program(376KB)」に記載されている計算式を利用し、業種区分の経済活動による固定値と各企業の従業員数により、各段階のサウダイゼーション値を確認することが出来る。算出された値と各企業のサウダイゼーション値(サウジアラビア人の雇用割合(%))を比較することにより、各企業のステータスが確認出来る。
対象となる企業は、従業員数6名以上であるが、従業員数5人以下の事務所に対しても、「最低1人」サウジアラビア人雇用という条件が付与されている。 - プラチナおよび緑であれば、次のようなインセンティブを得られるが、[5]赤の企業については、厳しいペナルティーが科されることになる。
- インセンティブの例
- 外国人ビザの申請が容易
- ビザの職種の変更が可能
- 労働許可証更新のための有効期間の制限なし
- 低段階に位置する企業からの従業員のリクルートが容易
- ペナルティーの例
- 外国人のビザの新規発給の停止
- スポンサー(身元保証人)の変更の禁止
- ビザの職種の変更不可
- 労働許可証の更新の禁止
- [5]赤企業に所属している従業員が、企業の同意なしに[1]プラチナ・[2][3][4]緑の優良企業に転職可能
自社に求められる最新の雇用割合は、人材・社会開発省のプラットフォーム「Qiwa
」にて計算することが可能。
各企業の評価段階はウェブサイトを通じてオンラインでの確認も可能。業種区分、従業員数、サウダイゼーション値を入力すると、自動的に判定に内容が表示される仕組みになっている。詳細は「Nitaqat Calculator Motawar
」(アラビア語のみ)を参照。
人材・社会開発省のウェブサイト上で、各企業が人材・社会開発省に開設している投資識別番号(File700)または従業員の滞在許可証(イカーマ)の番号を入力すると、業種や従業員数などの各種データも確認出来る。
- インセンティブの例
若年層や女性の雇用機会の増進
人材・社会開発省は、ニタカート・プログラムによるルールの厳格化に加え、各種施策を通じて、サウジアラビア人、特に若年層や女性の雇用機会の増進を図っている。
具体的には次のとおり。
- Hafiz(ハフィズ):月額2,000リヤルの失業手当(最長申請後1年間だが、更新可能)に加え、キャリアカウンセリング、スキルアップワークショップなどが組み込まれている。
- Liqaat(リカート):企業とサウジアラビア人労働者との就職マッチングイベント
- 女性の雇用促進強化(2011年6月の国王命令「女性の就業機会促進」)
- サウジアラビア人を1人雇用したとみなす最低給与水準を設定:4,000リヤル/月(注1)
- 外国人従業員に対しての課徴金(Expat Levy)の支払い義務(注2)
- フレックスタイム制(注3)
(注1)2012年10月1日より、人材・社会発展省(旧労働・社会発展省)によって適用。すべての民間企業(外資・地場を問わない)に適用され、最低賃金が4,000リヤルの公務員との不平等感を解消し、民間企業への就職促進を図る狙いがある。
(注2)2012年11月21日、人材・社会開発省がすべての民間企業に対して、従業員の数が全体の従業員の半数を上回る場合には、その上回った人数分に対し、1人当たり年間2,400リヤルの課徴金を徴収すると定めた。その後、2018年からは、外国人への課税制度として、外国人従業員の割合に関係なく、外国人従業員がサウジ従業員よりも多い企業には月額800リヤル(SAR9,600/年)、少ない企業にも月額700リヤル(SAR8,400/年)が課税されている。
(注3)2024年5月、人材・社会開発省は1つの企業で雇用されているフレックスタイム対象の労働者に対し、労働可能時間を月間95時間から月間160時間まで引き上げる決定を発表。合計160時間の労働が完了した場合、雇用した事業所に対して、ニタカート・プログラムのステータス設定に必要となるポイントを満点として算出されることになった。詳細は、ジェトロの記事2024年5月27日付「フレックスタイム制の改正、月間労働時間160時間に引き上げ」を参照。
各規制については、人材・社会開発省ウェブサイト(Ministry of Human Resources and Social Development)を参照。
違法就労の外国人労働者の取締り強化
サウジアラビア人雇用推進策の一環として、政府は違法就労している外国人労働者の取締りを強化しており、雇用主が労働許可証またはAjeer Notificationを取得せずに外国人労働者を雇用した場合、最低1万サウジ・リアルの罰金が発生する。
※企業規模、雇用従業員数により罰金額は異なる。
自国民の職業訓練と教育
人材開発基金(Human Resources Development Fund:HRDF)
- 基金設立の背景
人口急増による、サウジアラビア人若年層の民間部門での雇用拡大の必要性に対応すべく、2000年7月31日付の閣僚会議決定および8月5日付の勅令M/18により、「人材開発基金」設立が承認され、2001年に実際の活動が開始された。 - 基金の目的と機能
- 民間部門において、サウジアラビア人の資格、職業訓練、教育を実施するための助成金を支給すること
- 民間部門におけるサウジアラビア人の資格、職業訓練、教育を実施するための費用に対してサポートを行うこと
- 資格取得や職業訓練の後、民間部門において新しく社員となるサウジアラビア人の給与に対し、一定の割合の金額を支給すること
- 外国人労働者からサウジアラビア人に置き換えるためのプログラム、プロジェクトならびに調査に対し、資金的支援をすること
- 関係する調査分析を実施すること
- 基金の組織
本基金は独立した財源と行政機能を有する。本部はリヤドにあり、地方の主要都市に支部を持つ。 - 具体的な助成金制度について
新規雇用や女性雇用など、それぞれに助成金制度がある。ただし、助成を受けるためには、ニタカート・プログラムにおいて緑またはプラチナ企業であることや、小規模企業であることなどの条件がある。人材開発基金(HRDF
) "Programs and Services"を参照。
参照:2024年8月15日付ジェトロの記事「人材・社会開発省、2024年上半期に約15万人の民間セクターへの就職を支援」
その他
外国人への課徴金は、扶養家族にも適用。
Wage Protection System(給与支払い監視システム)が、従業員規模11~14人の小規模企業にも適用。
外国人への課徴金
サウジアラビアで就労する外国人に対する税金(1人当たり月間700リヤルまたは800リヤル)が課されている。
2017年7月からは、従業員の扶養家族に対しても課税されている。1人当たり月間100リヤルだった課税金額は段階的に引き上げられており、現在は、1人当たり月間300リヤルもしくは400リヤルとなった。
Wage Protection System
2013年に導入され、銀行と人材・社会開発省をシステムで繋ぎ、従業員への給与が雇用契約に基づき、社会保険庁(GOSI)への登録どおりに支払われているかを監視するための制度。2013年は従業員3,000人以上の大企業のみに適用開始され、2020年11月1日からすべての企業に対し「Mudadプラットフォーム」への登録が適用されている。給与の支給が3カ月遅延した場合、労働許可証の発行と更新を除くサービスが停止される。また、人材・社会開発省が3カ月間の未払いを検出した場合、省はすべてのサービスを一時停止し、雇用主の同意を求めることなく、その企業の従業員が別の企業に転勤することを許可している。