英国の貿易投資年報
要旨・ポイント
- 2023年の実質GDP成長率は0.1%のほぼ横ばいで、下半期には景気後退に突入。
- 貿易は輸出入ともに減で赤字は縮小。輸入では米国が中国を抜き第2位。
- 対外・対内直接投資はともに大幅減少。対内直接投資は引き揚げ超過。
- 日本からの英国への直接投資は、グリーン・エネルギー関連の投資が目立つ。
公開日:2024年9月30日
マクロ経済
実質GDP成長率は0.1%、下半期には景気後退に突入
2023年の実質GDP成長率は0.1%となった。企業投資の5.5%増が寄与した。内需をけん引する個人消費は0.2%増だった。
四半期別にみると、上半期は前期比でプラス成長であったものの、第3四半期、第4四半期は2四半期連続でマイナス成長を記録し、景気後退に突入した。
上半期は個人消費と企業投資がプラス成長に寄与。特に企業投資は第1四半期に4.4%増と好調だった。2023年3月末に期限を迎えた設備投資向け優遇税制の利用のため、企業が投資を前倒したとみられる。
下半期は、個人消費が第3四半期は0.9%減、第4四半期は0.1%減とそれぞれ縮小したことが寄与した。食料・飲料、アルコール・タバコ、衣類・履物、娯楽・文化などへの支出減が響いた。
項目 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | ||||
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年間 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | |||
実質GDP成長率 | 8.7 | 4.3 | 0.1 | 0.2 | 0.0 | △0.1 | △0.3 |
民間最終消費支出 | 7.4 | 5.0 | 0.3 | 0.9 | 0.4 | △ 0.9 | △ 0.1 |
政府最終消費支出 | 14.9 | 2.3 | 0.5 | △ 0.8 | 2.2 | 1.1 | 0.1 |
国内総固定資本形成 | 7.4 | 8.0 | 2.2 | 2.2 | △ 1.2 | △ 1.4 | 0.9 |
財貨・サービスの輸出 | 4.9 | 9.0 | △ 0.5 | △ 6.5 | △ 0.3 | △ 0.1 | △ 0.8 |
財貨・サービスの輸入 | 6.1 | 14.6 | △ 1.5 | △ 1.1 | 1.7 | △ 1.8 | △ 0.3 |
〔注〕四半期の伸び率は前期比。
〔出所〕英国国民統計局(ONS) 2024年5月10日改定数値
インフレ率は低下の予想に反して2023年上半期は高止まりを見せていたが、7月に2022年2月以来の低水準(前年同月比6.8%)を記録して以降、12月には4.0%まで低下した。
政策金利については、イングランド銀行(BOE、中央銀行)は2021年12月の引き上げ以降、2023年8月まで14会合連続で利上げを継続、5.25%まで引き上げた。9月の会合で予想を下回るインフレ率や金融引き締め策が市場経済に与える影響を踏まえ、据え置きを決定。以降、2024年6月時点まで据え置きが継続されている。
貿易
貿易赤字は減少傾向
2023年の貿易は、輸出が前年比3.4%減の4,193億1,000万ポンド、輸入が4.5%減の6,368億4,200万ポンドとなった。貿易収支は2,175億3,200万ポンドの赤字。赤字幅は、前年より148億1,800万ポンド縮小した。
輸出を品目別にみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比35.1%)は前年比13.8%増だった。道路走行車両(9.3%)は、乗用車(7.1%)が24.6%増と伸び、21.9%増となった。半導体不足やロックダウンなど新型コロナウイルスによる影響が徐々に解消していることや電気自動車(EV)の需要増加などによって、輸出向けの生産台数も増加している。自動車製造販売者協会(SMMT)によれば、輸出向けのうち約6割がEU向けだった。続いて、原動機(9.0%)が前年比21.8%の増加となった。また、非貨幣用金(12.7%)は重量ベースで40.2%減、金額ベースで10.8%減となった。さらに、鉱物性燃料、潤滑油等(8.2%)は、燃料価格低下の影響を受け、31.4%減となった。内訳は、金額ベースで原油・石油製品(7.1%)が21.6%減、ガス(0.9%)が55.7%減、電力(0.2%)が80.1%減となった。
輸出を国・地域別にみると、最大額の米国(構成比13.8%)は医薬品、非貨幣用金、原動機が好調で、前年比10.4%増となった。特に、非貨幣用金は前年比で19.4倍となり輸出増を牽引した。また、2位のドイツ(7.7%)は原動機、道路走行車両、その他輸送機器が増加したものの、医薬品、非鉄金属、非貨幣用金の減少を吸収できず、前年比4.6%減となった。3位のオランダ(7.2%)は、原油・石油製品、天然ガスなどが減少し、17.4%減となった。
輸入を品目別にみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比35.2%)は前年比11.4%増となり、中でも道路走行車両(11.2%)の21.8%増が寄与した。鉱物性燃料、潤滑油等(11.7%)は、燃料価格高騰のピークを迎えた2022年から落ち着きを取り戻し、33.3%減となった。うち天然ガス(3.3%)は57.1%減、石油・原油製品(7.7%)は14.4%減だった。また、重量ベースでは、石炭・コークスの輸入量は42.4%減となり、2023年に2カ所の石炭火力発電所が停止したことが影響しているとみられる。
品目 | 輸出(FOB) | 輸入(CIF) | ||||||
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2022年 | 2023年 | 2022年 | 2023年 | |||||
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
機械類・輸送機器類 | 129,482 | 147,297 | 35.1 | 13.8 | 201,510 | 224,478 | 35.2 | 11.4 |
道路走行車両 | 31,841 | 38,810 | 9.3 | 21.9 | 58,571 | 71,317 | 11.2 | 21.8 |
原動機 | 31,120 | 37,920 | 9.0 | 21.8 | 25,429 | 29,893 | 4.7 | 17.6 |
その他の一般用工業用機械など | 16,372 | 18,211 | 4.3 | 11.2 | 21,811 | 22,607 | 3.5 | 3.7 |
電子・電気機器 | 14,246 | 14,269 | 3.4 | 0.2 | 30,941 | 32,479 | 5.1 | 5.0 |
その他輸送機器 | 12,151 | 13,497 | 3.2 | 11.1 | 8,514 | 14,142 | 2.2 | 66.1 |
産業用機械 | 9,840 | 10,793 | 2.6 | 9.7 | 10,214 | 10,467 | 1.6 | 2.5 |
通信・音響機器 | 7,335 | 7,764 | 1.9 | 5.9 | 27,104 | 26,679 | 4.2 | △ 1.6 |
事務用機器 | 5,525 | 4,979 | 1.2 | △ 9.9 | 17,597 | 15,430 | 2.4 | △ 12.3 |
化学工業製品 | 61,303 | 58,840 | 14.0 | △ 4.0 | 76,124 | 66,173 | 10.4 | △ 13.1 |
医薬品 | 24,031 | 24,029 | 5.7 | △ 0.0 | 27,266 | 22,578 | 3.5 | △ 17.2 |
有機化学品 | 9,688 | 9,883 | 2.4 | 2.0 | 12,615 | 11,147 | 1.8 | △ 11.6 |
その他化学品 | 7,218 | 6,743 | 1.6 | △ 6.6 | 9,413 | 8,229 | 1.3 | △ 12.6 |
未分類のその他製品 | 74,197 | 69,156 | 16.5 | △ 6.8 | 53,472 | 60,382 | 9.5 | 12.9 |
非貨幣用金 | 59,717 | 53,278 | 12.7 | △ 10.8 | 34,567 | 39,071 | 6.1 | 13.0 |
特殊取扱品(種類別に分類されないもの) | 13,814 | 15,193 | 3.6 | 10.0 | 16,532 | 19,475 | 3.1 | 17.8 |
雑製品 | 41,579 | 42,025 | 10.0 | 1.1 | 83,575 | 76,669 | 12.0 | △ 8.3 |
その他雑製品 | 19,020 | 18,683 | 4.5 | △ 1.8 | 26,386 | 24,773 | 3.9 | △ 6.1 |
専門機器・計測機器・制御機器 | 12,444 | 13,166 | 3.1 | 5.8 | 12,640 | 13,339 | 2.1 | 5.5 |
衣類 | 3,802 | 3,601 | 0.9 | △ 5.3 | 20,830 | 17,219 | 2.7 | △ 17.3 |
家具 | 2,028 | 2,342 | 0.6 | 15.5 | 9,264 | 7,961 | 1.3 | △ 14.1 |
鉱物性燃料、潤滑油等 | 50,063 | 34,332 | 8.2 | △ 31.4 | 111,453 | 74,372 | 11.7 | △ 33.3 |
原油・石油製品 | 37,890 | 29,698 | 7.1 | △ 21.6 | 57,615 | 49,318 | 7.7 | △ 14.4 |
ガス | 8,489 | 3,757 | 0.9 | △ 55.7 | 48,435 | 20,786 | 3.3 | △ 57.1 |
電力 | 3,477 | 691 | 0.2 | △ 80.1 | 3,108 | 3,153 | 0.5 | 1.4 |
石炭 | 207 | 186 | 0.0 | △ 10.2 | 2,295 | 1,115 | 0.2 | △ 51.4 |
原料別製品 | 41,771 | 34,099 | 8.1 | △ 18.4 | 67,082 | 60,728 | 9.5 | △ 9.5 |
食料品・動物 | 15,607 | 15,866 | 3.8 | 1.7 | 47,654 | 50,831 | 8.0 | 6.7 |
食用でない原材料(鉱物性燃料除く) | 10,275 | 8,588 | 2.0 | △ 16.4 | 15,361 | 12,900 | 2.0 | △ 16.0 |
飲料・たばこ | 9,226 | 8,493 | 2.0 | △ 7.9 | 7,921 | 8,109 | 1.3 | 2.4 |
動物性および植物性油脂とろう | 778 | 614 | 0.1 | △ 21.1 | 2,478 | 2,200 | 0.3 | △ 11.2 |
合計(その他含む) | 434,282 | 419,310 | 100.0 | △ 3.4 | 666,631 | 636,842 | 100.0 | △ 4.5 |
〔注〕通関ベース。ただし、北アイルランドとEUとの貿易は各企業のインボイス報告に基づく。
〔出所〕英国歳入関税庁
輸入を国・地域別にみると、1位のドイツ(構成比12.0%)は前年比9.4%増と、前年比3割増を記録した2022年には及ばないものの、堅調に伸びた。道路走行車両が16.9%増となったほか、非貨幣用金の4.5倍、その他輸送機器の2.1倍が寄与した。米国(9.9%)は中国を抜き2位となった。原動機が前年比15.7%増と増加したものの、天然ガスの42.2%減、石炭の72.4%減などを吸収できず、全体で3.3%減となった。中国(9.8%)は事務用機器、衣料、その他雑製品などの減少により、全体で9.9%減となった。続くオランダ(8.1%)は医薬品、有機化学品などの減少により、5.0%減となった。
国・地域 | 輸出(FOB) | 輸入(CIF) | ||||||
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2022年 | 2023年 | 2022年 | 2023年 | |||||
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
欧州 | 241,956 | 228,778 | 54.6 | △ 5.4 | 395,836 | 392,442 | 61.6 | △ 0.9 |
EU | 198,355 | 185,953 | 44.3 | △ 6.3 | 313,399 | 326,060 | 51.2 | 4.0 |
ユーロ圏 | 173,346 | 160,117 | 38.2 | △ 7.6 | 267,325 | 275,468 | 43.3 | 3.0 |
ドイツ | 34,027 | 32,445 | 7.7 | △ 4.6 | 69,703 | 76,288 | 12.0 | 9.4 |
オランダ | 36,362 | 30,044 | 7.2 | △ 17.4 | 54,311 | 51,587 | 8.1 | △ 5.0 |
アイルランド | 29,880 | 27,532 | 6.6 | △ 7.9 | 18,716 | 19,058 | 3.0 | 1.8 |
フランス | 25,248 | 23,881 | 5.7 | △ 5.4 | 34,859 | 40,077 | 6.3 | 15.0 |
ベルギー | 17,887 | 17,123 | 4.1 | △ 4.3 | 28,975 | 28,251 | 4.4 | △ 2.5 |
イタリア | 9,293 | 9,848 | 2.3 | 6.0 | 23,235 | 22,131 | 3.5 | △ 4.8 |
スペイン | 9,827 | 9,481 | 2.3 | △ 3.5 | 18,537 | 19,408 | 3.0 | 4.7 |
非ユーロ圏 | 19,571 | 19,185 | 4.6 | △ 2.0 | 36,480 | 39,681 | 6.2 | 8.8 |
ポーランド | 6,093 | 6,668 | 1.6 | 9.4 | 11,921 | 13,062 | 2.1 | 9.6 |
スウェーデン | 5,807 | 4,848 | 1.2 | △ 16.5 | 8,197 | 8,034 | 1.3 | △ 2.0 |
スイス | 28,358 | 28,554 | 6.8 | 0.7 | 12,306 | 12,173 | 1.9 | △ 1.1 |
トルコ | 6,405 | 6,484 | 1.5 | 1.2 | 12,450 | 11,889 | 1.9 | △ 4.5 |
ノルウェー | 3,506 | 3,254 | 0.8 | △ 7.2 | 44,137 | 26,709 | 4.2 | △ 39.5 |
北マケドニア共和国 | 1,624 | 1,236 | 0.3 | △ 23.9 | 113 | 68 | 0.0 | △ 39.9 |
ロシア | 1,016 | 654 | 0.2 | △ 35.7 | 4,372 | 68 | 0.0 | △ 98.4 |
北米 | 59,721 | 65,449 | 15.6 | 9.6 | 81,300 | 76,261 | 12.0 | △ 6.2 |
米国 | 52,269 | 57,702 | 13.8 | 10.4 | 65,481 | 63,309 | 9.9 | △ 3.3 |
カナダ | 6,116 | 6,149 | 1.5 | 0.5 | 13,645 | 10,599 | 1.7 | △ 22.3 |
アジア大洋州 | 85,758 | 80,820 | 19.3 | △ 5.8 | 127,037 | 115,868 | 18.2 | △ 8.8 |
中国 | 28,684 | 27,362 | 6.5 | △ 4.6 | 69,070 | 62,215 | 9.8 | △ 9.9 |
香港 | 19,121 | 12,992 | 3.1 | △ 32.1 | 6,124 | 4,783 | 0.8 | △ 21.9 |
ASEAN | 12,044 | 12,119 | 2.9 | 0.6 | 19,652 | 15,672 | 2.5 | △ 20.3 |
インド | 8,193 | 10,315 | 2.5 | 25.9 | 10,529 | 9,863 | 1.5 | △ 6.3 |
シンガポール | 6,390 | 6,054 | 1.4 | △ 5.3 | 2,869 | 2,779 | 0.4 | △ 3.1 |
日本 | 5,827 | 5,569 | 1.3 | △ 4.4 | 9,117 | 9,964 | 1.6 | 9.3 |
中東および北アフリカ | 24,148 | 22,662 | 5.4 | △ 6.2 | 26,902 | 19,131 | 3.0 | △ 28.9 |
アラブ首長国連邦 | 10,027 | 7,396 | 1.8 | △ 26.2 | 4,091 | 3,142 | 0.5 | △ 23.2 |
中南米 | 7,583 | 7,397 | 1.8 | △ 2.4 | 13,187 | 10,893 | 1.7 | △ 17.4 |
サブサハラアフリカ | 6,070 | 5,822 | 1.4 | △ 4.1 | 11,294 | 10,536 | 1.7 | △ 6.7 |
南アフリカ共和国 | 1,697 | 1,690 | 0.4 | △ 0.4 | 5,550 | 5,836 | 0.9 | 5.2 |
合計(その他含む) | 434,282 | 419,310 | 100.0 | △ 3.4 | 666,631 | 636,842 | 100.0 | △ 4.5 |
〔注1〕 通関ベース。ただし、北アイルランドとEUとの貿易は各企業のインボイス報告に基づく。
〔注2〕アジア大洋州はASEAN+6(ASEAN、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕 英国歳入関税庁
通商政策
EUとEVやバッテリーの原産地規則緩和措置延長に合意
EUからグレートブリテン島への輸入については2022年4月、段階的に実施を予定していた農産食品を中心とする新たな税関手続きの導入を中止し、2023年末から非EU諸国と同様の新たな枠組みを導入すると発表していた。2023年4月にモデル案が発表、8月に更新され、2024年1月より3段階で進めるとしている。EUとの間で問題となっていた北アイルランド議定書の運用については、2023年2月末に新枠組「ウィンザー・フレームワーク」が政治合意に達し、2023年3月に正式採択された。税関手続きに関しては、EUに持ち込まれるリスクのない物品の輸送に限り、認定事業者に対して追加の書類手続き、検査などを不要とした。2023年6月には食品の移送、医薬品の上市に関する措置の概要が公表された。
EUとの通商・協力協定(TCA)に関しては2023年12月に、EVおよびEV用バッテリーに適用される原産地規則の緩和措置の延長で合意した。2023年末までとされていた現行の緩和措置を2026年末まで継続、2027年以降はTCAで定める原産地規則が適用されることになる。
EU以外の国との自由貿易協定(FTA)については引き続きEUから継承した協定の更新に向けた動きがみられた。2023年5月にスイス、11月に韓国との交渉をそれぞれ開始したほか、モルディブとの間では、6月に交渉開始に向けた意見公募が実施された。EU離脱に伴う移行期間終了時点で、EUとのFTA未締結の国では、署名済みであったオーストラリア、ニュージーランドとの間のFTAが2023年5月末に発効した。また、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の加入交渉は2023年3月末に実質妥結、7月に正式署名した。英国政府は2024年後半の発効を見込む。
州レベルでの貿易関係の合意を模索していた米国については、2022年に覚書を締結したインディアナ、ノースカロライナ、サウスカロライナに加え、2023年にはオクラホマ、ユタ、ワシントン、フロリダと、2024年にはテキサスと覚書を締結した。
開発途上国向けの関税制度についても、EUから継承した一般特恵関税制度(GSP)に代わる開発途上国貿易制度(DCTS)が2023年6月19日から適用されている。
対内・対外直接投資
対内直接投資、対外直接投資はともに大幅減少
国家統計局(ONS)の2024月6月28日の発表によると、2023年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は394億4,400万ポンドの引き揚げ超過で、前年の347億9,400万ポンドから大幅に減少した。2023年末の対内直接投資残高は2兆7,690億ポンドとなった。
ONSの2024年6月4日の発表によると、2023年に実行された100万ポンドを超えるクロスボーダーM&A(国境を越える企業の合併・買収)は、英国企業に対する買収案件が682件、買収金額が325億9,200万ポンドとなり、前年の810件、570億5,000万ポンドから件数と金額ともに減少した。国・地域別でみると、金額が最も大きかったのが、米州の189億6,400万ポンド(304件)で、うち米国が115億6,100万ポンド(226件)だった。米国企業による2023年の投資案件としては、5月の通信会社ビアサット(Viasat)による衛星通信サービスのインマルサット(Inmarsat)の買収、医療機器ダナハー(Danaher)による研究用試薬メーカーのアブカム(Abcam)の買収などが挙げられる。次いで欧州が119億8,100万ポンド(314件)で、うちEUが70億5,500万ポンド(180件)だった。アジアは9億3,400万ポンド(35件)だった。
業種 | 企業名 | 国籍 | 時期 | 投資額 | 概要 |
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ICT |
アルファベット (Alphabet) |
米国 | 2023年1月 | 10億ドル | アルファベット傘下のグーグルは、英国西部のハートフォードシャー州ウォルサム・クロスの33エーカーの土地に新たなデータセンターを建設することを発表。 |
自動車 | 日産自動車 | 日本 | 2023年11月 | 約20億ポンド | イングランド北部サンダーランドの同社EV生産ハブへの大規模投資を発表。同工場でのEV新型車種の生産とバッテリーのギガファクトリーを増設する。 |
自動車 |
タタ・グループ (Tata Group) |
インド | 2023年7月 | 約40億ポンド | タタ・グループは、電気自動車(EV)向け超大型バッテリー工場「ギガファクトリー」(生産能力:40ギガワット時(GWh))を英国に設立することを発表。2026年からの生産開始を予定。 |
〔出所〕 各社発表および報道などから作成
被買収企業(事業) | 買収企業 | 時期 | 投資額 | 概要 | ||
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業種 | 企業名 | 企業名 | 国籍 | |||
ソフト ウェア |
マイクロフォーカス・ インターナショナル (Micro Focus International) |
オープンテキスト (OpenText ) |
カナダ |
2023年 1月 |
約58億ドル | カナダの顧客情報管理ソフトのオープンテキストは、英国の法人向けソフトのマイクロフォーカス・インターナショナルの買収完了を発表。企業のデジタルトランスフォーメーションの加速を支援する。 |
通信 |
インマルサット (Inmarsat) |
ビアサット (Viasat) |
米国 |
2023年 5月 |
非公開 | 米通信会社ビアサットは英衛星通信サービスのインマルサットの買収完了を発表。 |
医療 機器 |
アブカム (Abcam) |
ダナハー (Danaher) |
米国 |
2023年 12月 |
非公開 | 米医療機器ダナハーは英研究用試薬メーカーのアブカムの買収完了を発表、ライフサイエンス部門で独立したブランドとして運営を続ける。買収額は1株当たり24米ドル。 |
〔出所〕 各社発表および報道などから作成
2023年の対外直接投資額は339億7,400万ポンドとなり、前年の1,000億5,500万ポンドから大幅に減少した。2023年末時点の対外直接投資残高は2兆428億ポンドとなった。
2023年の英国企業による100万ポンドを超えるクロスボーダーM&A案件は295件、買収金額は125億100万ポンドとなり、前年の310件、262億1,200万ポンドから件数は微減、金額は半減した。国・地域別にみると、金額ベースでは、米州を抜き欧州が66億4,700万ポンド(163件)で最大となった。主な案件としては、シェルが、デンマークの再生可能天然ガス(RNG)を生産するネイチャー・エナジー(Nature Energy)の買収を完了し、同社の既存プラントやプロジェクトなどを引き継ぎ、RNGに関する知見獲得を目指している。なお、RNGに関する投資としては、bpが1月に米国のRNG生産大手アーキア・エナジー(Archaea Energy)の買収を完了、10月にインディアナ州メドラのRNGプラントを正式に稼動させた。次いで米州の39億7,200万ポンド(85件)で、うち米国が36億3,600万ポンド(64件)と、昨年の167億6,600ポンド(105件)から大幅に減少した。英国企業による米国企業の買収としては5月、bpが米国の高速道路においてドライバー向けに各種サービスを提供するトラベルセンター・オブ・アメリカ(TravelCenters of America)の買収を完了し、米国内でのネットワーク拡大を図っている。アジアは 15億6,300万ポンド(14件)だった。
業種 | 企業名 | 投資先国 | 時期 | 投資額 | 概要 |
---|---|---|---|---|---|
エネルギー |
ハイブ・エナジー (Hive Energy) |
トルコ | 2023年1月 | 約40億ドル | トルコ国内30カ所において、太陽光と蓄電池を併設するプロジェクトの計画を発表した。プロジェクトの規模はそれぞれ11MW~230MWで、合計で4GW以上となる。 |
鉱業 |
アントファガスタ (Antofagasta) |
チリ | 2023年12月 | 約44億ドル | 丸紅と共同出資するセンチネラ銅鉱山における拡張プロジェクトについて投資意思決定を行ったことを発表。2024年より建設開始、2027年より生産開始を目指す。 |
エネルギー | bp | ドイツ | 2023年7月 | 約68億ユーロ | ドイツの洋上風力入札ラウンドで、2つの洋上風力プロジェクトの開発権を獲得したことを発表。北海の2つのサイトで合計4GWの発電容量を見込む。同社にとってドイツでの初の洋上風力プロジェクトとなる。 |
〔出所〕 各社発表および報道などから作成
買収企業 | 被買収企業(事業) | 時期 | 投資額 | 概要 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
企業名 | 業種 | 企業名 | 国籍 | |||
bp | 旅行 |
トラベルセンター・ オブ・アメリカ (TravelCenters of America) |
米国 |
2023年 5月 |
13億ドル | BPは米旅行業のトラベルセンター・オブ・アメリカの買収を完了したことを発表。米国内280ヵ所のトラベルセンターのネットワークを活用し、コンビニエンス事業、モビリティ事業を補完する。 |
シェル (Shell) |
エネルギー |
ネイチャー・エナジー (Nature Energy) |
デンマーク |
2023年 2月 |
非公開 | シェルは、デンマークの再生可能天然ガス(RNG)を生産するネイチャー・エナジーの買収を完了したことを発表した。ネイチャー・エナジーの既存プラントやプロジェクトなどを引き継ぐとともに、RNGに関する知見獲得を目指す。 |
インチケープ(Inchcape) | 自動車販売 | デルコ(Derco) | チリ |
2023年 1月 |
非公開 | 独立系自動車販売大手インチケープは、チリ自動車販売大手デルコの買収を完了したことを発表した。この買収により、ラテンアメリカでの自動車流通事業の拡大を図る。 |
〔出所〕 各社発表および報道などから作成
対日関係
対日貿易赤字は拡大、日本からの直接投資は大幅増加
2023年の対日貿易は、輸出が前年比4.4%減の55億6,900万ポンド、輸入が9.3%増の99億6,400万ポンドで、対日貿易赤字は43億9,500万ポンドと前年より11億400万ポンド増加した。日本は英国にとって輸出では18位、輸入では17位の相手国となっている。
主な対日輸出品目をみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比49.5%)が前年比21.2%増となった。主要品目の原動機(16.7%)が、ターボジェット・ターボプロペラ用部品(5.5%)の43.4%増により、13.1%の増加となった。また、道路走行車両(16.6%)は乗用車(15.2%)の43.6%増により、38.5%増となり輸出に寄与した。一方、原料別製品(13.0%)は40.0%減となり、中でも非鉄金属(9.0%)の48.8%減が影響した。化学工業製品(15.2%)は、医薬品(9.1%)の19.3%減により、15.7%減となった。
品目 | 輸出(FOB) | 輸入(CIF) | ||||||
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2022年 | 2023年 | 2022年 | 2023年 | |||||
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
機械類・輸送機器類 | 2,274 | 2,756 | 49.5 | 21.2 | 5,415 | 6,515 | 65.4 | 20.3 |
原動機 | 822 | 929 | 16.7 | 13.1 | 1,070 | 1,206 | 12.1 | 12.7 |
道路走行車両 | 668 | 925 | 16.6 | 38.5 | 2,125 | 2,976 | 29.9 | 40.1 |
電子・電気機器 | 224 | 250 | 4.5 | 12.0 | 805 | 820 | 8.2 | 1.9 |
その他の一般用工業用機械など | 204 | 196 | 3.5 | △ 3.9 | 547 | 541 | 5.4 | △ 1.2 |
産業用機械 | 139 | 176 | 3.2 | 27.4 | 479 | 435 | 4.4 | △ 9.3 |
通信・音響機器 | 64 | 67 | 1.2 | 3.8 | 191 | 294 | 2.9 | 53.6 |
化学工業製品 | 1,005 | 848 | 15.2 | △ 15.7 | 623 | 564 | 5.7 | △ 9.4 |
医薬品 | 626 | 505 | 9.1 | △ 19.3 | 147 | 184 | 1.9 | 25.2 |
その他化学品 | 175 | 147 | 2.6 | △ 16.0 | 87 | 48 | 0.5 | △ 45.2 |
有機化学品 | 54 | 50 | 0.9 | △ 6.2 | 149 | 118 | 1.2 | △ 20.9 |
原料別製品 | 1,210 | 727 | 13.0 | △ 40.0 | 787 | 936 | 9.4 | 18.9 |
非鉄金属 | 978 | 501 | 9.0 | △ 48.8 | 507 | 489 | 4.9 | △ 3.4 |
その他金属製品 | 90 | 95 | 1.7 | 5.8 | 99 | 132 | 1.3 | 33.6 |
雑製品 | 747 | 701 | 12.6 | △ 6.2 | 777 | 763 | 7.7 | △ 1.8 |
専門機器・計測機器・制御機器 | 369 | 312 | 5.6 | △ 15.6 | 347 | 328 | 3.3 | △ 5.4 |
その他雑製品 | 188 | 164 | 2.9 | △ 12.7 | 158 | 181 | 1.8 | 14.7 |
飲料・たばこ | 234 | 228 | 4.1 | △ 2.3 | 19 | 21 | 0.2 | 13.3 |
食料品・動物 | 167 | 177 | 3.2 | 6.2 | 49 | 45 | 0.5 | △ 8.5 |
食用でない原材料(鉱物性燃料除く) | 111 | 116 | 2.1 | 4.6 | 374 | 376 | 3.8 | 0.6 |
鉱物性燃料、潤滑油等 | 5 | 7 | 0.1 | 50.1 | 395 | 204 | 2.0 | △ 48.5 |
石炭 | 0 | 0 | 0.0 | 15.2 | 299 | 201 | 2.0 | △ 32.6 |
原油・石油製品 | 4 | 7 | 0.1 | 51.4 | 96 | 2 | 0.0 | △ 97.6 |
未分類のその他製品 | 71 | 6 | 0.1 | △ 90.9 | 678 | 538 | 5.4 | △ 20.7 |
非貨幣用金 | 3 | 0 | 0.0 | △ 88.4 | 591 | 441 | 4.4 | △ 25.3 |
合計(その他含む) | 5,827 | 5,569 | 100.0 | △ 4.4 | 9,117 | 9,964 | 100.0 | 9.3 |
〔出所〕英国歳入税関庁
日本からの輸入では、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比65.4%)が前年比20.3%増となった。乗用車(24.4%)が56.6%増と大きく伸びた道路走行車両(29.9%)は40.1%増となり、輸入の増加に寄与した。次いで、原動機(12.1%)が12.7%増となった。また、原料別製品(9.4%)は、鉄鋼製品(1.2%)が5倍となったことが寄与し、18.9%増となった。
日本銀行の「業種別・地域別直接投資」によれば、2023年の日本から英国への直接投資(ネット、 フロー)は1兆8,516億円となり前年の139億円の引き揚げ超過から大幅なプラスとなった。
業種別では、非製造業は1兆6,492億円となり、うちサービス業が4,418億円で最大となった。次いで金融・保険業が2,997億円となった。製造業は2,024億円、うち電気機械器具1,142億円で最大となった。
2023年の日本企業の投資事例については、エネルギー・グリーン関連の案件が目立つ。住友電工は4月に、スコットランド・ハイランド地方に電力ケーブルの製造・販売会社の設立を決定した。2億ポンド超を投資し、150人のグリーン人材の雇用創出を見込む。芙蓉総合リースは10月、英国現地法人を設立した。欧州で再エネビジネスに取り組む現地企業や日系企業との連携推進、情報収集の強化を目指す。さらに日産自動車が11月に、イングランド北東部サンダーランドの同社EV生産ハブへの大規模投資を発表した。同工場でのEV新型車種の生産とバッテリーのギガファクトリー増設に約20億ポンドを追加投資する。
スタートアップへの投資では2023年11月、SBI ホールディングスが、英国に拠点を置くアフリカ最大手のベンチャーキャピタルであるノバスター・ベンチャーズと戦略的資本提携契約を締結した。SBIホールディングスは4,000万ドルをノバスター・ベンチャーズのファンドに投資する。この提携を通じ共同投資の機会を推進するほか、ノバスター・ベンチャーズからアフリカ市場に対する知見の提供を受ける。
2023年の日本の英国からの直接投資受入額は3,791億円となり、前年の1,278億円から大幅に増加した。非製造業は165億円、製造業は3,626億円であった。投資額が最大だったのは電気機械器具で3,236億円、次いで金融・保険業が651億円となった。一方、サービス業は778億円、通信業は170億円の引き揚げとなった。
主な事例では、2023年2月に、スタンダードチャータード銀行傘下のゾディアカストディ(ZodiaCustody)とSBIデジタルアセットホールディングスが、合弁会社の設立に最終合意したことを発表した。日本を拠点に機関投資家向けにデジタルアセットのカストディサービスを提供する。また5月にはオクトパス・エナジーがアジア・太平洋地域の太陽光・風力発電事業に12億ポンド、その半分を日本に投資する計画を発表。あわせて東京の技術開発および小売り拠点の拡大に3億ポンドを追加投資する。
基礎的経済指標
項目 | 単位 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
---|---|---|---|---|
実質GDP成長率 | (%) | 8.7 | 4.3 | 0.1 |
1人当たりGDP | (米ドル) | 46,704 | 45,730 | 49,099 |
消費者物価上昇率 | (%) | 2.6 | 9.1 | 7.3 |
失業率 | (%) | 4.6 | 3.9 | 4.0 |
貿易収支 | (100万ポンド) | △ 163,426 | △ 217,045 | △ 186,719 |
経常収支 | (100万ポンド) | △ 10,805 | △ 77,208 | △ 88,542 |
外貨準備高(グロス) | (100万米ドル) | 176,024 | 158,330 | 157,341 |
対外債務残高(グロス) | (100万ポンド、期末値) | 7,257,805 | 7,285,903 | 7,572,360 |
為替レート | (1米ドルにつき、ポンド、期中平均) | 0.7271 | 0.8113 | 0.805 |
注:
1人当たりGDP:2021年、2022年、2023年ともに推定値
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):英国国家統計局(ONS)
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF