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日本食品の輸入動向

トレンディ、クールで伝統的な日本の飲料 ‐ 緑茶・日本酒

2010年9月
分野:食品・農林水産物

ここ15年の英国の食に対する、消費者やビジネス・パーソンの姿勢の変容ぶりは、目を見張るものがある。特にロンドンは、EU統合や空前の金融・不動産景気により、ニューヨークをしのぐほどの国際都市として、人種・国籍の多様性を見せ、それに対応してさまざまな食文化が溢れるようになった。

英国におけるこの食文化の変化の引き合いにしばしば出されるのは、英国の嗜好品の筆頭に上げられる、紅茶一辺倒の文化の崩壊である。英国では、以前は喫茶店で朝食セットを頼むと必ずと言っていいほど、ミルク入りの紅茶がサービスされていた。コーヒー専門店を見かけるのは極めてまれな国であったが、2001年ごろから、米国やイタリアのバリスタ・スタイルを前面に打ち出した、米国資本のSTARBUCKS、現地系資本のCAFÉ NERO、COSTA、また、同じく現地系の、PRET A MANGERのようなテイクアウトフードを供するカフェ・チェーンなど、数百店舗を擁する大手チェーンが爆発的に店舗展開を推し進めてきた。

2006年あたりから、コーヒー・ブームは落ち着きを見せているが、これらの大手チェーンでは、飽和化した市場での他店との差別化を試みており、ポスト・コーヒー的な商材を模索していることがうかがえる。さらに健康志向の表れで、さまざまな国の喫茶文化が見直され、メニューに取り込まれている傾向にある。

そういった流れを反映してか、日本からの緑茶の輸出統計では2003年から2009年にかけて金額的には730万円から1,850万円と2.5倍に急増している。2010年1~8月の輸出実績でも1,200万円の輸出で、前年同期比で71%増と大幅に伸長している。(輸出量は前年同期比35%増であることから、高付加価値のものが輸出を牽引しているとみられる。)ただし、この中には日系大手メーカーが国外で生産し、輸出している緑茶は含まれていない。また、オランダ、ベルギーなどで陸揚げされて英国に再輸出されている数字も反映されていないため、実際には、上記統計以上の数量が輸入されている。大手メーカーの製品もさることながら、静岡、福岡、佐賀、宇治など、多様な地域の緑茶ブランドも、しばしば見かけるようになってきている。

緑茶と並んで、輸出の増加が期待できる日本酒は、日系も、現地系の店でも、「RICE WINE…」と商品説明をするとすぐに、「Oh, SAKE」という反応があり、「酒」という言葉がすでに英語で定着していることがうかがえる。レストランで日本酒を飲み、食事との調和を重視する酒の文化を知り、その魅力に目覚めた消費者が、小売店で、地酒などを買い求めることが増えている。米国に次ぐ市場としての潜在性の高さを、小売店や流通業者からの声として聞くことが多くなってきており、変化が劇的ではないにせよ、SAKEビジネスを手がける顔ぶれも、多彩になってきている。

英国における緑茶のトレンド

アールグレイ紅茶の元祖であるトワイニング社の本店では、量り売りの日本産のSENCHAやGENMAICHAが売られ、数年前に比べると、品質は格段に向上している。また、5つ星ホテルのアフタヌーンティーに行けば、紅茶とともに、世界のお茶がメニューにのっており、BANCHAなどが選べるところもある。

2010年4月にイギリスの有名デパートである、セルフリッジで2週間にわたって日本食材フェアーが開催され、菓子、食品、飲料など約150アイテムが紹介されて人気を博したが、その中でも静岡県の緑茶メーカー2社が、堂々とメインストリームの売り場に並んだ。点茶イベントを通じ、現地消費者にPRしたことにより、今では緑茶は定番化されているが、今まで純粋な日本メーカーの緑茶の取り扱いがなかったことを考えれば、大きな快挙だといえる。イベント期間中、英国のみならず、近隣諸国からも業界関係者、バイヤーなどが視察に来ており、大きな反響があった。

また、書籍・雑貨ネット通販の最大手アマゾン英国では、同年夏より、食品の取り扱いが始まった。SENCHAと入力すれば、さまざまな種類の商品ラインナップが出てくる。重量も軽く、食品の中では、比較的利幅のある緑茶は、ネット通販という業態になじみやすいアイテムであるので、今後の発展が期待できるトレンドである。ちなみに緑茶の通販は、フランスの Le palais des Thés外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます という高級感を前面に打ち出したお茶の専門店が、通販事業を展開したことを皮切りに、個人ベンチャーとして、ちょっとしたブームになっており、このトレンドは、英国、フランスなどでも今後見られるようになると予測できる。

煎茶を探す英国人

正式な統計として品目別の売り上げはないが、煎茶は、英国で圧倒的な支持を得ているようで、ロンドンのスーパーの緑茶のコーナーで何かを探している人に店員が、「何をお探しですか」と聞くと、「SENCHA」や「GYOKURO」と指定してくることもよくあるようだ。ロンドン中心部のピカデリーサーカスにある、緑茶を取り扱っている日系スーパーAの日本茶の担当者にインタビューした。このスーパーの顧客は80%以上が非日本人消費者である。緑茶の種類別売り上げ比率は、圧倒的に煎茶が多く(約60%)、次に玄米茶(約25%)、ほうじ茶(約10%)と続く。一般英国人消費者の緑茶への知識は浅く、どのようにしてお茶を飲んだらよいかわからないために、簡単に飲めるティーバッグ、さらには初心者向けに50~100グラム入りの容器に人気が集中しているとのことである。英語での表記は当然必須であるが、前面のパッケージは、日本的なデザインが好まれる傾向にあり、英国人が好むデザインや字体を研究すればさらに大きな販売が期待できるとのことだ。

別の日系スーパーJでも、上記順位は変わらないものの、最近人気が高いのが、粉末茶だそうだ。これは簡便性が受けているようだ。すでに数社の粉末茶を取り扱っているが、今後さらに種類を増やす方向である。理想的な温度帯を教えたり、お茶を楽しめる容器を取り揃えたりすることも重要な要素で、売り場には必ずこれらの道具も販売されている。最近では、消費者がお茶と道具を一緒に購入している姿を見かけることが多くなった。

ロンドンのグリーンパーク近くで和菓子を販売している顧客の70%以上が非日本人の店舗でも、3年前から積極的に緑茶の取り扱いを始めている。最近は和菓子との相乗効果が期待できるとのことで、従来の5種類から20種類に拡大した。先に述べた、煎茶、玄米茶、ほうじ茶以外にも、有名人お抱えの日本人プライベートシェフが提唱するマクロビオティック(※1)の食事法で採用される茎茶(※2)も取り扱っている。茎茶はカフェインの量が少ないことから、人気が出始めているとのことである。またクリスマスなど催事向けに贈答用の高価な煎茶(30~50ポンド)も用意しているが、なかなか好評なようだ。この店舗では定期的に緑茶の楽しみ方をプロモーションする茶事イベントを開催することで、英国人(欧州大陸の旅行者も含む)にも緑茶人気が出ているのを実感しているとのことである。最近では、急須、湯冷ましなどの茶道具も販売を始めているが、購入者の大半は非日本人ということだ。

※1, 身体にストレスをかけない素材と調理法を選び、人間が本来もつバランスを取り戻すことを目指す食事法
※2, 煎茶や玉露の仕上げ過程で茎を選別して作られるお茶

高付加価値な緑茶—抹茶のケース

他国産の煎茶や玄米茶など、日本産の緑茶の模造品が氾濫する中でも、抹茶は日本の製法技術の粋を集めた高付加価値なものであるため、日本産である必然性が守られている。

英国で緑茶と言えば、茶道のイメージがかなり強いようである。大英博物館には、裏千家の茶室があった時期もあり、折に触れて裏千家の茶事イベントが開かれてきたことやメディア等の影響により、茶道は格調高いイメージが保たれている。点茶のイベントを開くと、比較的若く、おしゃれな雰囲気の男性が試飲をしたがる、というのも英国ならではの風景で、おそらく武士道のイメージと、クールなカフェのバリスタのイメージがオーバーラップするからではないかと考えられる。

英国の消費者もその他のヨーロッパの消費者もそのような伝統的な緑茶のスタイルを求めるが、英国は大陸よりも、緑茶をより柔軟に取り入れているように見受けられる。そのなかでも、抹茶に対する姿勢は柔軟で、抹茶を購入する消費者の利用目的を尋ねると、飲用以外にアイスクリームを作るという答えが圧倒的に多い。5つ星ホテルや高級レストランにも販路を持つ、プレミアム・アイスクリームのメーカー、 ミンゲラ英国外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、抹茶アイスクリームを日系メーカーに販売するという域にまで達している。さらには欧州の菓子、アイス、食品メーカーも抹茶を使った製品を今後市場に導入することを検討しており、原材料としての抹茶も今後大いに注目を浴びそうである。

本格的なブームを後押しするためにも、日本のメーカーが具体的な消費場面の提案や、メニュー開発に参画できれば、大いにビジネスチャンスが出てくると予想できる。抹茶のイメージは英国だけではなく、欧州で大変良好である。

緑茶をメイン・ストリームに定着させるためのビジネス・アプローチとは?

ロンドンを中心に、100店舗余りを擁する、サンドイッチ、すしなどのテイクアウト兼カフェである EAT.英国外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ではMATCHA LATTEやMATCHA CHILLER(粉砕氷を撹拌した、冷たいドリンク)が定番メニューに列記されている。EAT.に抹茶を納品している日系のサプライヤーによれば、すしをサンドイッチショップに展開する業態のパイオニアで、EAT.に先行するライバル、 PRET A MANGER外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます からも、抹茶ラテをメニューに加えたいというオファーがあったという。しかし、各店のスタッフへのトレーニングやオペレーション技術への不安がPRET A MANGER側にあり、実現には至らなかったとのことである。抹茶のサプライヤーが、既存のコーヒーマシンを使った抹茶ラテの淹れ方を紹介しながら自社商品をプロモートしていれば、PRET A MANGERの抹茶ラテメニュー導入は、実現可能だったと思われる。このようなメーカー側からの用途開発・提案が新たな商機へのポイントとなるのだ。抹茶に限らず言えることであるが、日系サプライヤーが日本食材の知識を求める現地企業と、製品や、そのメーカーとの間を積極的につなぐというビジネス・アプローチは残念ながら発展途上にある。逆に、そのようなアプローチで臨めば、日本食材拡大の伸びしろは、まだまだ大きく、マーケットの掘り起こしは可能であるといえる。

このように、今後大きな可能性がある市場で、日系の緑茶メーカーが、さらに営業、マーケティングにおいて努力して、市場を拡大していくことが期待されるが、他国のメーカーによる模造品が横行し始めていることにも注意を喚起すべきである。一見、日本製品のようにデザイン、パッケージを装っているが実は日本製ではなかったり、日本製品のイメージを損なうような粗悪な品質の製品が出てきたりする危険性が常にある。本来の製品の認知を高めるためには、製品企画の差別化をはじめ、商標登録、意匠登録を確実にすることが重要である。

もう一つ、クリアしなければならないのは輸出制度上の課題である。2009年より欧州でお茶の残留農薬検査が厳しく実施されているとの情報に接するので、輸出に係る残留農薬検査の証明書などを整えておく必要がある。証明書の取得には一定の投資が必要であるが、商談の際に、証明書をバイヤーに見てもらうことで信頼度を増すことにもなるので、決して無駄な投資ではなく、商談の段階からPR材料として活用できる。

英国における日本酒のトレンド

日本酒の伸長も無視できないものがある。単価が高く輸出額増加への貢献が期待される日本酒の英国向け輸出は、2003年の1億3,100万円が2009年には1.4倍の1億8,100万円と大幅に増加している。英国は、欧州の中で最大の日本酒市場となっており、今後一層の拡大が見込まれる。2010年1~8月の輸出額も1億4,200万円で、前年同期比33%増と大幅に増加している。円高の要因があるにしても、この数字は、日本酒が英国人の嗜好に合っていることを示している。2008年に、英国の高名なワイン・コンペティションのひとつに数えられる、 International Wine Challenge外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (以下、IWC)に、全国の若手蔵元で組織する 日本酒造青年協議会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の尽力によって日本酒部門が創設され、日本酒に対する業界の関心は徐々に高まりをみせている。オランダの酒専門輸入業者は、このIWCで受賞した酒を中心に買い付けをしている。

高級日本食レストランで、付加価値として地酒の品揃えの拡大をはかったり、気軽に入れる日本食レストランが増え、日本酒をオーダーする機会が増えたりしていることが、日本酒の輸出が増加している大きな要因である。今までは日系、中華系の問屋のみしか取り扱わなかった日本酒に、ここ2、3年、現地系の流通業者も関心を持ち始め、取り扱いを開始している。日本酒業界も、この動きに呼応して、県単位での地酒のプロモーションや、問屋グループによる営業活動、さらには個別の企業が営業、販促活動を熱心に実践しており、ここ3年ぐらいで、大きく飛躍するではないかとみられている。

ピカデリーサーカスに位置する日系スーパーJでも、今年の春から日本酒を戦略商品として取り扱うことを決定し、さかんに販促活動を実施している。このスーパーは日本に駐在員事務所を開設し、直接仕入れをしており、今まで以上に数多くの銘柄を見ることができるようになった。この店の日本酒担当者によると、英国人は圧倒的に純米酒を好み、熱燗にして飲むのが通の飲み方であると認識しているようだ。最近は米国の影響もあり、大吟醸、吟醸以外にも、発泡酒、にごり酒なども人気が出てきているようで、品揃えも豊富である。

日本酒をメイン・ストリームに定着させるビジネス・アプローチとは?

アルコールは、各国の免許制度により、取引に制限があるため、商流が他の商品と比べ複雑になることが多い。さらに日本酒は温度変化に弱いこともあり、商流が複雑になりやすい。日本からの日本酒の輸出に関して、日本国内の酒販免許によって、輸出に係る手続きや書類作成を自由に行うことを蔵元は許可されており、各県税務署や財務省ウェブサイトで書式がダウンロードできるなどの便宜を図られているにもかかわらず、多くの蔵元は、活用していないケースが多い。パレット単位での直接受注を受けながら、その対応がスムーズにできないことが輸出の障壁になっていることをよく聞く。蔵元自ら輸出に係る所定の書類を揃え、運輸会社の指定倉庫に納品することがスムーズにできれば、現地系の業者やバイヤーに対して、大きなセールスポイントになる。

マーケティング面に関しては、ある日系流通業者の日本酒専門の営業担当者いわく、円高や不況の逆風にもかかわらず、日本食レストラン以外のソムリエやバーテンダーが日本酒に寄せる関心は、5年前と比較にならないほど高まっているとのことである。しかし一方で日本酒に関する解説をできる人材がおらず、それらの関心をきちんとビジネスへとつなげることができていない。今後の日本酒の市場の発展を阻みかねないようなトラブルになっている残念なケースもあるようである。これは、日本酒に対して知識のある人の国際化が十分でないことと、日本酒を世界に対して発信できる人材の育成を国内外、特に海外で組織的に行ってこなかったことが要因に挙げられる。嗜好品、特に日本酒のように高価格帯の商品を売る際には、品質もさることながら、その商品が持つ文化やイメージが大事である。酒器や食事との組み合わせ、温度による味の変化といった、多様な魅力について、十分なアピールをしていくことが大切だろう。

(ロンドン・センター)